空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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取り戻した休息

 施設でやるべきことが終わったため、調査隊は一度全員が合流することに。宗谷のクルーザーに積み込まれていた荷物の運び込みも完了しているため、ここから数日は余裕があるくらいにはなった。

 

「食糧もありがとうねぇ。畑がダメになっちゃったから、本当に助かるわぁ」

「いえいえ、こういう時は助け合いですので」

 

 荷物を待ってきた宗谷がペコペコと頭を下げながら中間棲姫と話している中、ミシェルといろいろやっていた島風、江風、涼風の3人も何処か楽しんでいる様子で山風のところにやってきた。

 

「いやぁ、ミシェルの教育っつーの? 結構大変だったけど、何とかなったよ」

「服の重要性ってのを教え込むのは大変だったぜぇ」

 

 流石にシーツを身体に巻いているだけみたいな格好はまずいということで、ジェーナスと共にそれなりにまともな姿になれるようにどうにかしたようである。

 

「あ……そうだ。明石さん……泥って全部駆除した……んだよね」

「勿論。眼鏡で見てくれればわかりますが、この島にある全ての反応は消し飛ばしました。侵蝕されていた3人も、薬のおかげで正気を取り戻していますからね。違う問題が出てきているみたいですが」

 

 その問題までは解決出来そうにないと、施設側に投げっぱなしにした明石ではあるが、やるべきことである泥の駆除が全て完了していることは自信を持って伝えた。

 

 実際、大淀のみならず姉妹姫と春雨が施設内を全て確認し、一切の反応を感知しないところまで持っていけていることは確認済み。この施設に泥の要素がカケラも無いことは確定している。

 島の地中に染み込んでしまっている可能性もあるため、それに関しては対策を作りつつ、島の持ち主である中間棲姫に影響が出ないことを逐一確認していく方針。中間棲姫と飛行場姫が崩れたらこの施設は終わりなのだから、ほんの少しでもおかしなことがあったらすぐにでも連絡するようにと念を押してある。

 

「じゃあ……鎮守府に通信は出来る……?」

「あ、そうですね。もう出来ると思いますよ」

 

 すっとタブレットを取り出し、すぐさま鎮守府に連絡する山風。そこから数コールもしない内に、待ってましたと言わんばかりの速さで提督が出た。

 

『通信が出来るようになったみたいだね。山風、首尾の方はどうだい』

「今……全部終わった。詳細は戻ってから話すけど……予定通り、このまま少しここに残る」

『ああ、そうしてくれ。施設の者達は寝ていないだろうから、全員に休んでもらっている間、施設の警備を頼む』

 

 ここは中間棲姫に話せていないことではあるのだが、この時間まで結局寝ずに施設のことをやってきたのだから、全員が消耗しているのはわかっていることだ。早朝に連絡してきた春雨も、画面越しに疲労している姿を見せているのだから察している。

 連絡から調査隊到着までに休む時間があったとしても、春雨の視界が多少元に戻る程度。時間にして数時間であり、普通の睡眠時間には全く及ばない。眼鏡による反応の確認や、自分の力で歩くことが出来るようにはなっていたが、疲労が溜まっているのは間違いない。

 

 そこで提督は、今回の調査隊を一時的に護衛として配置し、施設の者全員にゆっくりと休んでもらおうと考えていた。山風達もそういうことなら問題ないと承諾。

 戻るのは夜か、もしかしたら1泊ということになってしまいそうではあるが、施設のためなのだからと尽力する。山風は当然、海風に休んでもらいたいというのもある。

 

『山風、それは僕が直接姉姫に伝えよう。いいかい』

「うん……ちょっと待ってて……」

 

 提督に言われ、山風が中間棲姫にタブレットを見せに行く。通信が可能になったことを喜び、施設の護衛を買って出てくれたことに更に顔を綻ばせた。

 正直なところ、中間棲姫も割と限界に近く、すぐにでも眠ることが出来たら眠りたかった。深夜からずっと起きており、雨の中施設の泥の確認をしていたり、他の仲間達の心配をしつつも施設の運営を変わらず行なったりしていたため、肉体的にも精神的にも疲労していた。泥を吹き飛ばす程の爆撃を行なったのも今に効いてきている。

 

「それじゃあ……お願いしてもいいかしらぁ」

『ああ、是非とも休んでほしい。安全圏にいる僕が言えたことでは無いのだが、その子達も君達のことを心配しているんだ。酷い目に遭ったのなら、助け合わなくてはね』

 

 こういう時こそ助け合いだと話す提督に、本当にこの人間と知り合えて良かったと中間棲姫は思った。

 

 もしここで調査隊を派遣してもらえなかったら、泥の駆除も出来ず、休息すら出来ず、そのまま消耗していって最終的には考えられないような最悪な目に遭っていた可能性は高い。姉妹姫共々倒れ、仲間は消耗しきり、コロラドや潜水艦姉妹も治療出来なかったかもしれないのだ。

 そういう意味でも、鎮守府と関係が持てたのは非常に大きかった。こうなることを予測していたわけでは当然無いのだが、結果的にはこの判断が功を奏したと言える。

 

『山風、状況をなるべく教えてほしい。1泊することになりそうなら、事前に用意した野営の準備を』

「うん……わかった。そうするなら……またその時に」

『ああ、頼んだよ』

 

 これにて通信は終了。施設側の者達は、ようやく心身ともに休める時間を手に入れることとなった。

 

「本当は……もう少しお話しとかしたかったけど、海風姉も、みんなも、すごく疲れてると思うから、あたしが提督に話をしておいたの。あたし達が護衛にいれば、みんな休めるかなって」

 

 この案を出したのは山風だったらしい。そして、それを提督に伝えたところ、快くその案を良しとし、仲間達も賛成した。

 

「そっか。山風、私達のことを考えてくれたんだね。ありがとう」

 

 自分の名前が聞こえたからか、海風が山風に感謝の言葉を述べる。

 

 海風としても、まだまるで本調子ではない春雨には早く休んでもらいたいけど、一斉に休んだら施設が無防備になってしまうのが困ると考えてはいた。自分は春雨のことを全力で守りたいし、でも春雨と一緒に寝たいという気持ちもある。他の仲間達に春雨と眠る時間を寄越せというのも少し気が引けた。

 そんな中、山風がこの案を出してくれたのだ。全ての問題点を解決してくれたのは、春雨のみならず、仲間達のためにもありがたい。

 

 そして、それを山風が提案してくれたというのが嬉しかった。自分の後をしっかりと継いで、それ以上に活躍してくれていることを実感する。

 

「……うん、海風姉は、ゆっくり休んで。その間の施設の平和は……あたし達が守るから」

 

 褒められたことで少し恥ずかしがりながらも小さく微笑む山風。海風に認められたことは、山風にとっても非常に大きなこと。これによりまた成長していく。

 

 

 

 

 施設の外は調査隊に任せて、一度全員が施設の中に入り、元々施設内に留まっていた者達と合流。外に守ってくれるものがいるというのは非常に心強く、これによってようやく緊張の糸が切れた。

 

「……はぁ……ちょっと……疲れちゃったわぁ」

「お姉!?」

 

 ここで力が抜けたか、中間棲姫が倒れるようにその場で座り込んでしまった。そんな姿を見せたことなんて無かったため、飛行場姫がすぐに駆け寄った。

 

 この施設を開設してから今まで、ここまで酷いことになったことは無く、自分が戦闘に参加するというのも無かった。強いて言えば今は亡き天龍の暴走の時に力を使ったが、そういう時は基本的に飛行場姫がメイン。中間棲姫がここまで動くことはない。

 いくら農作業をしていることで体力がついていようと、精神的な疲労も重なればこうなってしまうのは無理もない。

 

「こんなに長い時間起きていたことも無かったし、いっぱい戦っちゃったものねぇ……なんだかいつに無く疲れているわぁ」

「すぐに休みましょ。せっかく艦娘の子達が守ってくれるって言ってくれているんだもの。厚意に甘えるのがいいわ」

「そうねぇ……みんな、ごめんなさいねぇ。私はすぐに眠らせてもらうわぁ」

 

 これに関しては誰も否定しない。むしろ、早く寝てほしいという気持ちの方が大きかった。

 

「えーっと、潜水艦の子、アンタ達も今日はアタシ達のところに来なさい。まだ不便だと思うけど、まずはアタシ達がいろいろ教えるから」

「それも依頼と受け取る」

「了解。楽しく生きるため、貴女達の側にいる」

 

 潜水艦姉妹も今は姉妹姫の近くにいることで施設での生活に慣れていくことになる。

 

 名前が無いことが非常に厄介であるが、本人が思い出せないためにどうにもならない。だからと言って、ミシェルの時のように名前を決めるのもなかなか難しく、ひとまずはどちらが姉でどちらが妹かというので決めておこうとしたものの、生まれた時のことも忘れてしまっているためその順序も答えられない。

 見た目も近しいために双子と言っても過言では無く、髪型と体型がほんの少し違うくらいなので、便宜上で片方を姉、もう片方を妹としておいた。

 

「……姉」

「……妹」

 

 よくわかっていないようだが、お互いにお互いをそういうものだと認識出来るようにして、ひとまずは乗り切る。

 

「Michelleは私と同じ部屋で寝ましょうね」

「オッケーぴょん! ジェーナスちゃんと一緒に寝られるなんて夢みたいぴょん!」

 

 ミシェルはミシェルでジェーナスの管轄下に。先程江風と涼風が話していた通り、シーツを巻いているだけのような姿からは一変し、今はジェーナスとお揃いの制服姿になっている。どうやら、ジェーナスとお揃いになることが嬉しいと教えた様子。

 無論、このミシェルの姿と態度から、松竹姉妹が大きく反応していたのは言うまでもない。

 

「コロラドさんは私達とで良かったですか?」

 

 そしてコロラド。施設の中に入れられたものの、その苛立ちはあまり変化はなく、この施設に所属したばかりの叢雲のようになっているのだが、しかし、そこはやはり高いプライドのおかげで醜態を晒したくないという気持ちが大きく、ストレスは溜まりそうなものの社交的ではあった。

 声をかけたのは古鷹。やはりそこは同じ境遇の者で集まるべきと考えたようで、今まではジェーナスを慰めるために同じ部屋で眠っていたが、ミシェルが施設内に来ることが出来るようになったため、今度はコロラドに同じ立ち位置になってもらおうと考えた。

 

 ちなみに、ミシェルの前ではあるため、古鷹の姿は鈴谷に変装中。白露ほど言い訳が出来ないために、今は苦肉の策を続行中。

 だが、そのうち正しい姿で対面出来るようにしたいとは願っている。白露が大丈夫なら古鷹も大丈夫かもとは考えていた。

 

「Ah.そうね。頼んだわ。アンタも私と同じだものね、フルタカ」

「はい。お互いに、その、慰め合いましょう。愚痴だっていっぱい聞きますよ。ね、白露ちゃん」

「おうともさ。傷の舐め合い最高!」

 

 そのうちここに大鳳も含まれることになるだろう。今回救われた4人の中では、大鳳が最も後を引きそうであるため、コマンダン・テストの介護が必要無くなった後は、そういうカタチでメンタルケアが必要になるはず。

 

「それじゃあ解散。お姉、肩貸すわ」

「ごめんなさいねぇ妹ちゃん、助かるわぁ」

 

 飛行場姫も大分疲れているはずなのだが、それを見せないように中間棲姫を連れて奥の私室へと向かった。潜水艦姉妹もそれについていき、ある程度は手を貸す様子。

 

 

 

 

 これによってようやく施設は休息へと向かえた。次に目を覚ました時は、グチャグチャになってしまった施設の外を修復するところからになるだろう。畑の作り直しからとなると骨が折れる作業ではあるが、力を合わせればすぐに終わることだろう。

 




今だけは大所帯の施設の島。外では調査隊が見張り、中では深海棲艦達がお休みの時間。ここでガッツリ寝て、次に活かしたいところ。
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