翌朝、施設の休息は本格的に終了。最も疲れていたであろう中間棲姫も、なんだかんだで半日まるっと睡眠に使ったことで完全回復。フラついていた昨日の昼とは打って変わって、全く疲れを感じさせない明るい表情。
「ありがとうみんな。お陰様でスッキリしたわぁ」
帰投の準備を終えた調査隊を見送りに来て、面々に御礼を言う中間棲姫。野営しながらも交互に深夜哨戒もこなしてくれており、全員の休息が終わるまでの安全を完璧に守ってくれていた。
少し眠そうにしている者もいたが、あとはもう鎮守府に戻るのみなので、戻ったらまた休めばいいともう一踏ん張りする方向。ちなみに大欠伸をしたのは江風である。
「ううん……こっちもココに来れて良かったから」
久しぶりに施設に来れたことで、山風を筆頭に鎮守府の面々も心休まる時間を過ごすことが出来ている。ここ最近は施設も鎮守府もストレスが溜まるようなことばかりだったが、ここでお互いに気を休めることが出来たのは大きい。
まだまだ黒幕の居場所がわかっていない以上、緊張感は高いまま。こういう時にでも気持ちよく休める時間というのは大切にしていきたいところである。
「あ、そうそう、昨日使った眼鏡と泥を刈り飛ばす装置は、施設側で保管しておいてもらえれば。複製品はすぐに作れますし、泥の脅威に一番晒されているのはココですしね」
「助かるわぁ。使い方も昨日教えてもらっているし、貴女達がいない時にでも使えるのはありがたいわねぇ」
泥を駆除する装備は、ひとまず施設に寄贈というカタチとなった。また同じようなことが起きぬとも限らないし、眼鏡に反応が見えないくらいにまで駆除はしたものの、まだ増殖をしている可能性も僅かながら存在している。
もしそれを見つけたのなら、この装備で全て消してしまえばいい。無かったらまた爆撃とかをしなくてはいけなくなる。
「海風姉、春雨姉、白露姉……また来る」
「うん、待ってる。これからも頑張ってね。もう私の後を継いでもらったとか言えないくらいに強くなってくれて、すごく嬉しい。また山風の成長した姿を見せてね」
「わかった……次はもっと、もっと強くなってくる」
海風の声援を受けたことで、小さく微笑んだ山風。これがヒト前じゃ無かったらガッツポーズをしていたかもしれない。
春雨と白露も、山風の成長を大いに喜んでいた。今こうしている時も、その立ち振る舞いは少し自信を感じるほど。自分達が鎮守府にいた時よりも格段に精神的な成長が感じられた。
「それじゃあ……帰投する」
「ええ、また来てちょうだいねぇ」
小さく一礼して仲間達に合図し、ゆっくり島から離れていった。
「本当に助かったわぁ。あの子達がいなかったら、私は本格的に倒れていたかも」
「充分酷いことになっていましたよ。半日眠り続けるなんて初めてってジェーナスちゃんも言ってました」
調査隊の背を見送りながら小さく手を振っていた中間棲姫が呟くと、春雨が容赦なくツッコむ。
毎日を施設のため、仲間のために行動している中間棲姫とはいえ、ここまでグッスリ眠ることは今までに無かったと最古参のジェーナスが言う程なのだから、今回のことは余程のことだった。
「そうねぇ。しかも、一度も目を覚ますことが無かったのよぉ。こんなにグッスリ眠ったのは初めてだわぁ」
「もう大丈夫なんですか?」
「ええ、完璧よぉ。これだけ眠らせてもらったんだもの。今日からの作業も元気いっぱいに出来るわぁ」
今日は施設もやらなければならない仕事が多い。特に、泥のことを考えて破壊した畑の修復には時間をかけることになるだろう。それに、新たに加わった者達にもこの施設のことを知ってもらわなくてはならない。
コロラドは昨晩のうちに仲間達とある程度は話す機会を与えられていたため、まだ多少ぎこちなさはあるものの打ち解けそうなところにまでは来ている。同じ外国人である艦種も同じであるリシュリューとは、特に仲良くなれそうな雰囲気だった。
潜水艦姉妹は基本的に飛行場姫の側から離れない。今回は依頼主という立ち位置になっており、依頼そのものが『楽しく生きろ』という若干曖昧なものであるため、それを理解するために依頼主の側からあまり離れない。
「まずは畑を作り直すわねぇ。種や苗に関しては、山風ちゃんや提督くんにお願いさせてもらったの。だから、次来るまでに片付けて畑らしいモノにしておかなくちゃねぇ」
「ですね。私も手伝いますよ。私もまた種から育てていきたいですし」
こうして、また施設の束の間の平和は戻ってきた。真の平和のために、まずはあの戦いよりも前の状態に戻す必要はあるものの、ゆっくりと休んだことですぐにでも作業に取り掛かれそうなくらいの活力が溢れていた。
今日の大きな作業は、やはり畑の復旧。春雨と海風もその作業班に属することになる。
「……どういうことなの」
そして、同じようにその班に属しているのがコロラド。0からでは無いにしろ、広い面積の畑を作り直すとなれば、戦艦の膂力も欲しいかもということで、コロラドにはココに入ってもらった。
艦娘としても深海棲艦としても確実にやらないような作業をすることとなり、若干混乱しているのが見て取れた。コロラド以外は既に農作業スタイル──ジャージに軍手と、おおよそ深海棲艦がしないような格好をしているのも、その混乱に拍車をかけている。
ちなみにコロラドは、今までの深海棲艦スタイルが気に入らないということで、服の作り方を白露や古鷹に教えてもらって艦娘の時の制服にしている。パッと見なら、このコロラドを深海棲艦とは思わないだろう。
「どういうことって、見ての通り畑を作るのよぉ、この施設は自給自足がモットーだもの」
その筆頭、中間棲姫は、特に印象が違って見える。コロラドからしてみれば、この中間棲姫は黒幕が欲している最強の器。それが何処からどう見ても
何処をどうすればこんな性格になるのかがさっぱりわからない。しかし、現実として今目の前にいる中間棲姫はコレである。
「理解が出来ないわ……確かに
自給自足と言われても、コロラドにはすぐに理解が出来なかった。鎮守府で生活しているなら、何も言わずとも食事は提供されていたし、秘書艦業務の時には自分で作って提督に提供するなんてこともあるが、そもそもの原材料から自分の手で作るなんて聞いていない。
「四の五の言わずに、さっさと着替えて手を貸しなさいよ。今回はヒト手がいるの。アンタもこの施設の一員だっていうなら、自分の食い扶持くらい自分でどうにかしなさい」
そこに突っかかるのは、やはり叢雲。戦闘から一晩経ったからか、溢れる怒りがまた充填されてしまったようで、相変わらずプリプリしている。コロラドと決着をつけたのは叢雲のようなものなので。
そんな叢雲も今は農作業要員としてしっかりジャージ姿。いつものスタイルで作業なんて出来やしないし、思った以上に危ないことがわかっているため叢雲はこの辺りは割り切っている。何より、美味しいご飯のためならば多少の苦労は許容範囲内という考え方。食い意地がいい方向に作用している稀な例。
「ああ? アンタ喧嘩売ってるわけ?」
「ええ、喧嘩売ってるの。ヒト様の庭をさんざ荒らしておいて、元に戻ったら無関係なんて思ってんじゃないでしょうね。まさか、この畑を壊したのは姉姫の独断だとか考えてるわけ? その原因を作ったのはアンタ達でしょうが」
ジャージ姿で詰め寄られても迫力が若干落ちるが、叢雲の言うことはあながち間違ってはいないため、コロラドは文句を言い淀む。
「私だってアンタが被害者だってことくらい理解してるわよ。私を殺した張本人である白露や古鷹と同じだったことも。なら、アイツらと同じようにアンタもここで働くのが筋なんじゃないの? 白露は今漁に出てるし、古鷹もここにいるわよ」
叢雲の言う通り、古鷹も今回は農作業に参加。ミシェルはジェーナスがいる漁の方に向かっているものの、何があるかわからないということで鈴谷の変装はそのまま。しかし着込んでいるものは他の者と同様にジャージである。
この作業が施設のためになるというのならと喜んで力を貸すと、古鷹は何も文句を言うことなくここに立っている。むしろ率先してやらせてほしいと言ったくらいだ。
「それとも何? アンタもしかしてこういうことやるのはプライドが許さないとか言うつもり?」
やたらと突っかかる叢雲に、周囲は少しハラハラしてきた。あからさまに喧嘩腰なのは叢雲の特性上仕方ないことではあるのだが、ここまで他人に口出しするのは久しぶり。
やはりコロラドが敵側だったというところが引っかかっているのだろう。白露や古鷹は償うためにも誠実に生きると叢雲に宣言しているが、コロラドの開き直り方は叢雲のお気に召さなかったか。
「……艦娘も深海棲艦も戦うばっかりじゃないって学んだわ。腹が立つけど、ここにいる連中の言ってることは思った以上に間違っちゃいなかったもの。怒りが溢れた私がここまで落ち着けるようになったのは、紛れもなくここの生活のおかげだから。そこにプライドもクソも無いわ」
叢雲がコロラドに突っかかるのは、どちらかといえば
プライドが高いが故に、今まで操られていたことや罪を全て押し付けるように記憶を残されていることに対して怒りを覚えているコロラドは、叢雲に若干近いところがある。活動の理由も復讐に近い。それ故に、叢雲は自分のダメだった部分を浮き彫りにされているような感覚に陥っている。
「それに、私も言われた。働かざる者食うべからずよ。何もせずに美味しいものが食べられるとかあるわけないの。私だって農作業だったり周辺警戒だったりしてるわ。施設のために働いてるからこそ、生活の基盤を提供してもらえるの。ここは鎮守府じゃないんだもの」
言いながら、コロラドに鍬を押し付ける叢雲。さっさとやれと言わんばかりに。
「言いたい放題言ってくれたけれど」
ようやくここでコロラドが口を開く。
「私はやらないなんて一言も言ってないわよ」
しかし、突きつけられた鍬を拒む。そんなものを使わなくても作業が出来ると、突然ロブスターのハサミの艤装を展開した。
それを使えば、鍬で耕すよりも大きな範囲をガリガリと耕すことが出来るだろう。多少繊細な操作は必要になるだろうが。
「理解が出来ないとは言った。正直なところ、なんでこんなことしなくちゃいけないんだって気持ちもある。それがPrideなんだと言うなら、アンタの言う通りよ。でもね、私はBIG SEVENの1人、コロラドなの。そんなちっぽけなPrideで自分の
指をパチンと鳴らすと、コロラドの姿が作業着に変化した。ジャージは若干抵抗があったようだが、これならばいいかという妥協のようである。
どんな格好でも、怪我をしなければ構わない。中間棲姫も制服姿よりはマシだと少し安心する。
「
中間棲姫に向き直り、これでも大丈夫かと尋ねる。使い方次第では鍬や鋤以上に農作業が捗ることは見てわかるため、問題ないとGOサインを出した。
「コレで良かったかしら?」
当てつけるように叢雲に言うコロラド。対する叢雲は、舌打ちしつつも口角が少し上がっていた。
なんだかんだ言っても、この2人は相性が良さそうではあった。同族嫌悪も乗り越えてしまえば仲良くなれるきっかけになる。思想が同じなのだから、話が確実に合う。それに、叢雲とコロラドは性格も近しい。今でこそ喧嘩腰だが、確実に仲良くなれるタイプ。時間はかかりそうではあるが。
「はい、それじゃあ作業を始めるわよぉ。今日中に出来るかはわからないけれど、コロちゃんの艤装があれば早く終われるかもしれないからねぇ」
「コロちゃん言うな!」
「うっさいコロ助」
「そっちはもっと許さないわよ!」
この農作業のおかげで、コロラドは施設に馴染んでいくことになるだろう。叢雲との関係も、農作業によって改善されていく。
でもコロラドは秘書艦にすると朝昼晩の食事全てを用意してくれるという甲斐甲斐しさも持っているという。しかもセリフを見る限り手作り。夕食にステーキ振舞ってくれるコロちゃん。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/96764740
MMDアイキャッチ風大井。北上さんを見守る大井っちは、妄想に飛ばない荒潮というイメージ。北上さんとイチャイチャ出来ればいいなぁくらいか。