中間棲姫の指示の下、畑の修復作業が始まる。全員が鍬やら鋤やらを持ち、グチャグチャになってしまった畑を耕そうとする中、コロラドは自らの艤装、ロブスターのハサミを農耕具のように扱い、いきなり大規模にガリガリと引っ掻き回す。
それだけでも引きずった場所は割と耕されており、そこを綺麗に均すだけでもそれらしい形になるため、ここでのコロラドの力は非常に有用だった。
「戦う以外にも使えるってのは、自分でもちょっと意外だったわ」
「兵器も使いようなのよぉ。私のは壊すことしか出来ないけれど、コロちゃんのはこうやって何かを生み出すためにも使えるの。便利でとってもいいことよねぇ」
爆撃によって空いてしまった穴も、これならばすぐに埋めることも出来るだろう。今は耕すことに使っているが、土を固めたり、それこそ雑草を根こそぎ穿り返すことも出来るだろう。
ある意味、コロラドは施設の整備に関しては即戦力かつ必要な人材であった。
「ふぅん……まぁ頼られるのは嫌いじゃないわ。なんてったって、私は世界のBIG SEVENの1人なんだから。むしろこれくらいならいくらでもやってあげるわよ」
中間棲姫に頼られてご満悦のコロラド。最初はなんでこんなことをという態度だったが、叢雲に焚き付けられて渋々始めたらこれである。褒められたらノリノリで次から次へと土を掘り返していくため、作業がどんどん進んだ。
実際はコロラドが粗めに掘り、それを残りの者が改めて耕しながら均すという流れになっているのだが、最初から個人で耕すよりは充分に効率が良かった。何せ範囲が違う。
「
「ムラクモ、聞こえてるわよ。これだけやってやればアンタみたいな
「うっさいチョロ助」
「殆ど原形残ってないじゃないの!」
叢雲とコロラドの言い合いは今に始まったことではない。作業中も事あるごとに小競り合いのようなことは起きていた。しかし、流石に中間棲姫が見ている中で殴り合いの喧嘩みたいなことは起きず、むしろお互いにこれくらいの距離感が心地いいと感じるまである。
だからだろうか、周りの者達もこの小競り合いは穏やかな温かい視線で眺めていた。叢雲が本気で気に入らないなら確実に手が出ているだろうし、コロラドだってもっと強く出ているだろう。これで済んでいるならば、このままでいればいいとさえ思う。
「ふふふ、叢雲ちゃんもコロちゃんも仲が良くて嬉しいわぁ」
「節穴ぁ!」
中間棲姫の言葉に即座に反応したのはコロラド。叢雲も無言でふざけるなと訴えているような視線を送る。しかし、そんな態度も周りの空気を弛緩させるのには十分だった。
一方、漁のグループ。こちらはいつも通りのメンバー、飛行場姫、ジェーナス、薄雲、伊47に加え、新人である潜水艦姉妹と、新人ではないが今の姿になって初めてのミシェルが参加。
大鳳の方にはリシュリューとコマンダン・テストがついているため、まずは今の人数分の食糧を確保することを優先している。
「ミシェルは経験者だから大丈夫っぴょん!」
いつもの岸に来たところで、自信満々に胸を張るミシェル。駆逐イ級だった頃に伊47と一緒に追い込み漁をしていた記憶はしっかりと残っており、駆逐艦の身でありながら海中に潜れるという特殊な力を持つため、今までと同じように手伝いが出来る。
そんなミシェルは、ジェーナスに教え込まれたためにちゃんと水着姿になっていた。ヒトのカタチになった今は、全裸で泳ぐよりちゃんと着て泳いだ方がいいとどうにか丸め込んでいた。
結果的に、ミシェルは伊47が身につけているようなスクール水着に落ち着いた。ミシェル自身が艦娘卯月を素体とした身体であり、伊47以上に幼い見た目をしているため、その姿もよく似合っているとジェーナスが誉めたことで、ミシェルもノリノリで着るようになった。
「アンタ達は今から魚を獲ってきてもらうわ。自分の食べる分は自分で手に入れる。それくらいは出来るようになってもらわないといけないから」
潜水艦姉妹は飛行場姫から今からやることを教えられていた。当然ながら、潜水艦姉妹は生活のために働くなんてことをしたことが無く、漁なんて考えたこともない。教えられても簡単には理解出来ない。
だが、それが依頼なのだから達成しなくてはいけないことである。そういう考えで真剣に話を聞いていた。既に艤装も展開してシュノーケルによって顔の半分が隠されていたため、その表情を窺うことは出来ないが、おそらくこの2人は今、自分のために何かやろうとは考えていない。言われるがままに、決められたことをただ実行するのみ。
「ヨナ、ミシェル、この子達にお手本を見せてやってちょうだい。アタシ達はいつものように上で釣り糸垂らしておくから」
「ん、了解ヨナ」
「行くっぴょん! 2人も一緒に、ぴょーん!」
ミシェルが姉妹の手を取ったかと思いきや、有無を言わさずそのまま海中にダイブ。それを追うように伊47も海中へと潜っていった。
引っ張られたことで姉妹は少しだけ驚いたような表情を見せたものの、なすがままにしていた。飛行場姫の依頼が漁であるため、それを行おうとしているミシェルの行動は依頼達成に一番近い行動だと考えたからである。
「大丈夫かしらね……ミシェルの強引さがあれば、あの子達も何かしら変わるきっかけがあるかと思ったけど」
そんな様子を見ながら飛行場姫は若干心配そうに呟く。自分で考えたこととはいえ、それが上手く行く保証は何処にもない。
この漁は、潜水艦姉妹の自我の育成に役立つかもしれないと考えて始めたことだ。勿論、そのきっかけは依頼からではあるが、戦闘から離れた平和的な作業を通じて、秘められている感性に触れられる機会が与えられるのではないかという作戦。
現状、姉妹は依頼という名目があるからここにいるのであって、自分の意思は何処にもない。対するミシェルは、ジェーナスがいるからという理由で呼ばずとも自分の意思でここにいる。いわば正反対の在り方である。それがいい影響を与えないかということを考えた。
「Michelleならきっとあの子達のFriendになってくれるわ! だって、あんなにPositiveに2人と仲良くしようとしてるんだもの」
そんな飛行場姫に、ジェーナスが自信満々に言い放つ。
「昨日ね、みんながMichelleのためにいろいろ教えてくれたのよ。特にシマカゼがね、Friendは絶対多い方がいいよって教えてあげてたの。だから、Michelleもちゃんとそれを理解したの」
理解していないことには無頓着であり、自身に一切の影響を及ぼさないが、一度理解出来てしまえばスポンジに水が染み込むように吸収していく。その特性をジェーナスは正しく理解しており、悪いことは教えず、良いことばかりを教えようと努力した。
昨日はそれに江風、涼風、島風も加わってくれていた。服の大切さもそうだが、それ以上に大切な
「ここにいるみんなは友達なんだって教えてあげたの。そしたら、全員とお友達なんだーって、すっごく楽しそうにしてね。多分相手がどんな存在でも、Michelleは何も気負わずに攻め込んでいくわ」
「叢雲姉さんにも突撃してたもんね。すごくアワアワしてた。島風ちゃんと初めて会ったときみたいだったよ」
「それが今のMichelleだもの。ここでじっとしてるしか無かった分、自由に動ける今は好き勝手に動き回っても良いと思うのよね」
今までは誰かがここに来ない限り交流と言えることが出来なかったが、今は自分から会いに行くことが出来る。そのおかげか、ミシェルは寝ているとき以外は何処かしらに出向いて誰かしらと接していた。食事時もジェーナスと一緒にいつつもそこにいる仲間達との交流を心の底から楽しんでいる。
そんなミシェルの様子は、仲間達にとっても癒しになる。ここ最近は殺伐とした空気がずっと流れていたようなものだったが、それを払拭するかのように明るい。見ているだけでも空気が明るくなるようだった。
「Michelleは良い子だから、あの2人にも絶対いい影響を与えるわ。駆逐艦だけど潜水艦みたいなこと出来るしね」
「そうね、あの子なら何か変えてくれるかもしれないわね」
今はもう見えない海中を見つめつつ、今はミシェルとヨナに託そうと、ひとまずやらなくてはいけないことをやるため、そこに釣り糸を垂らした。
海中。潜水艦の3人はさておき、本来駆逐艦であるミシェルも潜水艦と同様に自由気ままに泳ぐことが出来ていた。先日の戦闘でもそうだが、もう駆逐艦という枠は取り払っており、ミシェルという何か違う艦種とすら思えるほどである。
「追い込み漁のやり方、教えるヨナ」
この中で一番先輩なのは伊47。ミシェルもどちらかといえば教える側ではあるが、そもそもやってきた時間が違うため、念のためミシェルにもしっかり教えることに。
とはいえ、やることと言ったら魚群を見つけたらそれをうまく誘導して、海上から釣り糸を垂らす仲間達のところへと運ぶだけ。ただそれだけ。
「上を見ながら、うまいこと連れて行くだけ。簡単だヨナ」
言うだけなら簡単なのだが、これが実は意外と難しかったりする。魚の特性をしっかり理解した上で、向かう方向などを予測しつつ行動しなくてはならない。
これは、しっかりと自分の意思を持っていないと上手く行かないタイプ。潜水艦姉妹には、若干荷が重い可能性がある。
「追い込み漁。了解」
「あちらに誘い込む。了解」
淡々と感情のない声色で反応する姉妹だが、ここから苦戦することになる。そもそも先日の戦闘のせいで魚群そのものがあまり見当たらず、それを探すところからになるのだが、いざ見つけたとしても潜水艦姉妹ではうまく追い込むことが出来ない。機械的な動きではするりと抜けられてしまう。
「……」
なかなか上手くいかないことに、姉妹はどうしても無言になる。受けている依頼が達成出来ない現状に対して首を傾げていた。言うのとやるのとではまるで違うことを嫌というほど実感させられる。
ここで苛立ちでもいいから感情的な行動が出れば良しと伊47は考えていた。嬉しい楽しいだけが感情ではない。
「こうっぴょん、こう!」
そんな2人に見本を見せるかのようにフラッと泳いでは、器用に見つけた魚を海上の仲間達の方へと誘導していくミシェル。
やっていることは同じように見えるのに、魚の動きがまるで違うことに、姉妹は2人とも首を傾げるのみ。
「ミシェルちゃんは、こういうの本当に上手。見習えとは言えないけど、もうちょっと、お魚の気持ちとかを考えるといいかもしれないヨナ」
「魚の気持ち」
「魚の気持ち」
言われてもわかっていないような仕草。自分の意思すらなく、気持ちとかそういうものがわからない2人にとって、他のモノの気持ちはさらにわからない。
「なんかこっち行きそうだなーって思ったら、そこを止めてやるだけでいいぴょん、通せんぼを何回もやってあげれば、あっち行くしかないーって、お魚も考えるぴょん!」
ミシェルの割とわかりやすい説明にも、疑問は尽きないようだった。苛立ちまでは起きずとも、その疑問で何かしらの感情が揺さぶられる可能性はあるので、伊47は2人のためにも懇切丁寧に教えていく。
それに対して、幸せアレルギーが発症することは今のところ無かった。2人のために働くというところに幸せを感じそうではあるが、2人のために倒れていられないという気持ちもそこに影響を与えているのかもしれない。
結果的に、この漁はあまり大漁というところまでは行けず。潜水艦姉妹の作業は、そこまで上手く行くことは無かった。
しかし、何故上手く行かないかというのを考え、こうしたら上手く行くかもしれないと行動してみるようになったのは大きな進歩かもしれない。
ミシェルは何をやらせても楽しそうにやり、潜水艦姉妹は何をやらせても機械的にこなそうとする。見た目は本当に正反対。