施設の午前の作業は終了。農作業の方はコロラドのおかげで大分捗ったが、漁の方はいつもよりも若干少なめという釣果。
やはり先日の深夜の戦いで海中に向けて魚雷や爆雷を相当量ぶち撒けているのが問題で、その辺りの生態系を壊してしまいかけていた。潜水艦組が海底まで調べたところ、爆雷に巻き込まれた魚の死骸なども見つけてしまっているため、それが判明している。
そのため、しばらくはいつも使っている海域では漁をすることを禁じることとした。どれくらいの期間をやめておくかは不明ではあるが、今は少なくとも漁場を回復させるという意味でも触れない方がいいと判断した。
「明日以降は、逆側を漁場にするわ。まさかそういうところまでしっかり被害が出てるとは思わなかったわ」
他の者達に風呂などに行かせつつ、飛行場姫は中間棲姫に報告。これからの施設の運営に関わることであるため、すぐにでも情報共有は必要。
「それは仕方ないわねぇ。漁は妹ちゃんに一任するから、好きなようにしてくれればいいわぁ」
「ええ、そうさせてもらう。そっちは?」
「コロちゃんのおかげで作業が大分捗ったわぁ。もう考えていた分の半分以上は終わったんだもの」
農作業組は順調も順調。コロラドの艤装が農作業に非常に有効であり、コロラド1人で3人分くらいの仕事を一気に出来てしまうため、今ではもう爆撃した痕跡が大分消えてしまったくらいだ。
とはいえ畑にするにはそこからさらに畝を作ったり種を蒔いたりとやらねばならないことは沢山あるため、作業は明日も続く。予定よりは早く終わるかもしれないが、ここからが本番。
「なら、いつもの生活に戻るのはそんなに遠くないわね。でも、また攻め込んでくる可能性があるのか」
「そうねぇ……。哨戒は再開した方がいいかもしれないわねぇ」
あの深夜の襲撃も、雨のため外に出ることは控えたとはいえ、哨戒前提で徹夜をしていたおかげでまだ気付けたことが多い。ならば、やはり哨戒は続けるべきだろう。
今日から再開するかはまだ何とも言えないところだが、人員も増えたためにローテーションも変化するだろう。むしろ潜水艦が増えたのはとても大きい。伊47に全て任せ切るのには無理がある。
「なら、明日くらいから始める?」
「お昼には誰かにやってもらってもいいかもしれないけれど、夜は……いや、むしろ夜の方が危険なのよねぇ。申し訳ないけれど、今日からの方がいいかもしれないわぁ」
「まぁね。仕方ないことかもしれないけど、一度夜に襲撃を受けたってことは、またやってくるかもしれないってことだものね。なら、後からまた当番を決めましょ」
施設の平和のためにも、そういうところはすぐに決める必要がある。ここを維持するためなのだから、仲間達も納得してくれることだろう。
午後、いつも通り午前中にガッツリ作業をしたために、午後は休息となる。昼食時に哨戒の再開を提案したために、一部の者はそちらに従事することに。
当番もリセットされ、誰からやるかというのをジャンケンで決めたりした結果、本日昼の当番はジェーナスと白露に古鷹。ミシェルも哨戒を覚えるために便乗。深夜は叢雲と薄雲にコロラドという流れとなる。
コロラドは早速施設の防衛に参加するということで胸を張っていたものの、共に向かう者が叢雲であるということで複雑な表情をしていた。それは叢雲も同じであり、何でコイツとみたいなあからさまな態度を見せていたくらいであるが、中間棲姫からしてみればそれは
「それでは、よろしくお願いしますね」
「はい、任せてください」
残りの者は自由に過ごすことになるのだが、春雨と海風はコマンダン・テストに代わって大鳳の介護にあたることにした。元々手伝うことにはなっていたのだが、コマンダン・テストが席を外すことになったため、春雨がメインを担うことに。
哨戒が決まったため、艦載機が扱える者は一度全員で島の周辺に哨戒機を飛ばすことになっている。コマンダン・テストもその1人であるため、参加してほしいと依頼されたのである。
コマンダン・テストはまだまだ大鳳のことが心配であったが、哨戒機を飛ばせる者はどうしても数が限られてくるため、今回はこういうカタチで解決した。むしろ、春雨が自分達に任せてほしいと言ったくらいである。
「大鳳さん、調子はどうですか」
その時は容赦なく戦ったものの、仲間になってからはどうしても
「話せるようにはなりました……痛みはまだどうしても残っているし、今以前のように動けと言われたら、無理ですね」
苦笑しながら、首だけを春雨の方に向ける。身体の方は動かすとどうしても痛みが走るため、早く治すためにもなるべく動かないようにしているらしい。
「コマさんが周辺警戒のために哨戒に向かいましたから、私と海風で身体を拭かせてもらいますね。手荒なことをするつもりはありませんから」
「はい、お願いします」
丸一日経過したことで、溢れ続けた血はもう止まっている。深海棲艦特有の自然治癒能力は大鳳にも遺憾無く発揮されており、最初は酷い激痛に苛まれていたものの、今ではその痛みも大分緩和されたようだ。
布団を退けた後、ゆっくりと身体を起こす。血が出なくなったということで、布団にはもう血が付着しているようなことはない。午前中にコマンダン・テストがシーツを替えていたおかげで、綺麗なもの。しかし、身体中に巻かれた包帯には少しだけ滲んでいるようにも見えた。強く押さえると滲み出てくるくらいくらいになっているのが正しいようである。
最初からのようだが、大鳳は布団の中でも身体を拭きやすいようにと全裸。春雨が蹴り抜いた胸には痛々しい痣が出来てしまっているものの、これも昨日と比べれば小さくなっているそうだ。
「包帯、取りますね」
「はい、お願いします」
そして問題の腕。春雨の刃は普通ではない鋭さを誇っているため、その切り口はやたらと綺麗。今では治癒能力もあり皮膚が出来始めており、あと数日もすれば、今の海風の右腕のように
その傷口を見て、春雨は少しだけ俯く。自分が引き起こしたこの傷痕は、白露に与えた傷とは違って永遠に消えないモノ。義腕が作り出せる深海棲艦であるが故に生活には全く支障が無くなるのだが、それでも痛々しさが見た目にあるのはどうしても気になってしまう。
「……ごめんなさい、大鳳さん。何度だって謝らせてください。私があの時ここまでしなければ……」
腕を拭きながら、少し涙声で呟く春雨。海風もそんな表情の姉を見ていたたまれない気持ちになる。
「大丈夫、大丈夫ですよ春雨」
対する大鳳は、そんな春雨に対して何も気にしていないと話す。救ったその時の夜も、春雨は海風と共に大鳳の介護をしていたのだが、その時の大鳳は話すことが出来ず、ただ謝罪を聞くことしか出来なかった。だが今は違う。ちゃんと話せる。思いが伝えられる。
「貴女のやったことは間違っていない。あの時の私は、本気で貴女を殺そうとしていた。私は今、死なずにここにいられること自体に感謝しています」
やんわりと失われた腕の付け根に触れた。本来あるものが無いというのはやはり違和感はある。だが、その違和感が、今の大鳳には必要なものだった。
「この痛みは、私の罪の証。いくらそれが操られていたからと言っても、私がやったことには変わりありません。私が沈めた艦娘達は、さぞかし私に恨みを持っているでしょう。それを忘れることなくいられるのは、この失われた腕のおかげです」
義腕を使ったところで、その
「この痛みすらありがたいくらいです。私は今、償っているのだと実感出来るので。だから、気にしないでください。貴女が何度でも謝ると言うのなら、私は何度でも言いましょう。貴女は間違っていなかった。あの時はこうするのが正解でした」
「大鳳さん……」
「だから、私が貴女に言いたい言葉は、『ありがとう』です」
あの戦いで自分を止めてくれたことに感謝しか無かった。あのままもし春雨すらも殺してしまっていたとしたら、本当に取り返しのつかないことになっていただろう。黒幕が危険視する春雨が失われた時点で、もう止められない。
それを自分の命を残したまま回避してくれたのは、感謝以外無かった。罪悪感が付き纏うのはもう仕方ない。自分の不運は痛いほどわかっている。それ故に、ここで春雨と出会えたのは数少ない幸運だったとハッキリ言えた。
「ありがとう、春雨。私を止めてくれて。貴女は私を救ってくれた。こんな痛みなんてその喜びと比べれば些細なモノ。これ以上悪虐非道な行いをせずに済むのは、貴女のおかげです」
これがやっと伝えられたと大鳳もスッキリしたようで、そこからは春雨と海風に身を委ねて身体を拭いてもらっていた。
春雨もここまで言ってもらったのだから、いつまでもウジウジするのは違うと考え、大鳳の前で俯くのはやめる。大鳳が開き直ろうとしているのを、自分が折ってしまうのは違う。
「大鳳さんは春雨姉さんの偉大さに気付いてしまったようですね。ならば私の同志と言えるでしょう。春雨姉さんの慈悲深さにより救われ、その女神とも言える愛に包まれたのならば、そう考えてしまうのは必然。そう、春雨姉さんは間違っていませんでした。命を奪おうとする相手の命を奪うことなく救ってしまうその技量、海風は感服してしまいます。私なら確実に命を奪ってしまっていましたから」
「え、えーっと……」
「春雨姉さんは讃えられるに相応しいモノを持っていますね。その妹であることを誇りに思います。ですが、春雨姉さんは私だけのモノではなく、全ての者にその愛を向けるヒト。その在り方がまた素晴らしい。私は春雨姉さんのことを心の底から愛していますし、それを独り占めしたいという気持ちは嘘では無いですけど、春雨姉さんの素晴らしさ、偉大さはもっといろいろなヒトに知ってもらいたいですから。大鳳さんがその先駆けとなってくれるのは嬉しいですね」
怒濤の如く吐き出される海風の春雨愛に、大鳳が押され続けていたのを、春雨がやめようねとストップさせる。春雨に言われたら流石の海風もピタリと止まり、でも思いの丈がまた言葉に出来たとテンションは高め。それはそれでいつも通りではあるのだが。
「でも、海風の言いたいことはわかりますよ。春雨のおかげで私は今ここでこうやって生きていますから。それは春雨の優しさのおかげと言えるでしょう」
「大鳳さんまで……」
「このことに関してだけ言えば、春雨は私の救いの女神ですよ。それは否定しません。それくらい、感謝していると知ってもらえれば」
大鳳は痛みに耐えつつもニッコリと笑顔を見せた。
大鳳の復帰はまだ先のことになるだろうが、心持ちはもう心配はいらない。傷が治れば、施設の一員としてその力を存分に振るってくれるだろう。
海風は同担拒否なんて野暮なことはしません。春雨のことを好いてくれる者がいるのなら、その気持ちを尊重し、一緒に崇め奉ろうと握手しに行きます。まぁ海風が春雨に抱いている感情は、崇拝とか以上に確実な愛なわけですが。