空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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いざ出向

 翌朝、早々に大将が堀内鎮守府に到着。予定通り、五月雨、江風、涼風の3人を護衛として、大塚鎮守府へと向かう準備を整えていた。

 

「出発の前に、少しだけ。今日は私の方からコレを持ってきたの」

 

 そう言って大将が吹雪に取り出させたのは、いつも施設と話をする時に使うタブレット。全く同じものを大将も持っており、施設との対話に使っている。ここ最近は要所要所でしか話はしていなかったが、今回の件はおそらく施設側にも関係してくることのため、大将が先に持参した。

 

「今から向かう大塚鎮守府は、貴方も知っての通り、施設に住まう古鷹が元々所属していた鎮守府よ。なら、彼に古鷹と話をしてもらうのもいいと思ったの。それで、事前に姉姫にも伝えていてね」

 

 タブレットを操作して、その場で施設に連絡。こうするということも昨日のうちに伝えていたようで、発信したらすぐに施設側がそれを受ける。

 

『はぁい、聞いていた通りの時間で少し驚いているわぁ』

 

 画面の向こうには姉妹姫。それと今回重要な立ち位置になりそうな古鷹。いつもならここに春雨達もいるのだが、今回は古鷹をメインとするため、部屋にもいない。

 

『今日は私が元々いた鎮守府に行くということで……』

「ああ、今から向かう。古鷹としては、彼と話をするとなった場合、大丈夫かい?」

 

 その話を振られると、どうしても古鷹は考えてしまう。昨日からずっと考えてきて、仲間達とも相談して、そんな中でも自分の意思でこの場に座っているのだが、いざその時が近付いてくると抵抗も出てくる。

 しかし、話が出来るのなら話をしておきたい。いくら提督が艦娘(自分)のことを人間ではなく兵器として扱っているとしても、せめて今生の別れの言葉くらいは言っておきたかった。

 

 感情を出さないようにするのが鎮守府の方針なのは古鷹だって知っているし覚えている。だが、古鷹はもうその鎮守府から原籍が消されている、言ってしまえばもう()()()()()()となってしまっているのだ。施設の方針に準ずる理由はもう無く、それこそ好き勝手生きてもいいようにはなっている。

 だが、古鷹としては、そう生きていくにしても、()()()をつけたかった。大塚提督が古鷹のことを今どう思っているかは聞いてみなくてはわからない。

 

『大丈夫です。話すと決めましたので』

 

 ここまで来たらもう引き下がれない。古鷹は決意する。

 

『提督と話をして、お別れをしたいと思います』

「……そうか、わかった。ならば、現場に到着して頃合いを見てまた連絡をしよう。こんな聞き方はズルいかもしれないが、もしも彼が君との対話を拒んだ場合は……連絡をしないということにしたい。構わないかな」

『はい、それで問題ありません。事が済んだ後に、そのように判断されたと教えていただければ』

 

 古鷹は表情を変えずに言い放った。大塚提督ならば、感情を押し殺してその選択をする可能性があると思っている。兵器であっても大切に扱ってくれる提督ではあるが、その兵器を失ったところを見たことがないのだから、どのような反応をするかも知らないのだ。古鷹達が第一号となってしまっているのだから、知っているわけがない。

 

「私はそんなことは無いと思うから、安心して待っていてちょうだい。彼は必ず、古鷹と話したいと言うわ」

 

 大将がそう断言した。何を思ってそう言ったかは、この場にいる者には誰1人として理解は出来なかった。

 

「再確認になるけれど、姉姫も新しい人間と話すことになるのは良かったかしら。少なくとも、貴女達のことを憎くは思っていないわ」

『昨日も話した通り、私と妹ちゃんの意思は、問題無しから変わっていないわぁ。私達のことを知って、共存してくれるという人間さんなら、私達は仲良くしたいんだもの』

 

 姉妹姫も、大塚提督との対話は良しとしている。大将が認めているのだから、堀内提督と近しい者であるはずだと確信していた。

 堀内提督が姉妹姫にとってあまりにも相性が良かったというのもあるのだが、そこからの経緯で紹介される人間に悪い者はいない。施設のことを知ったからと言って、優先的に滅ぼそうと考える輩を紹介してくることなんて無いのだ。

 

「ありがとう姉姫。では、現場に到着して、頃合いになったらまた連絡させてもらうわ。時間としては、昨日話した通りで、多少は前後するかもしれないけれど」

『ええ、大丈夫よぉ』

 

 これで施設側の準備も整ったようなもの。大塚鎮守府への出向は改めて可能となった。

 

「っと、明石、ちょうどいいタイミングだ。手筈通りに出来たか」

「問題ありませんよー。人数も事前に聞いていたので、昨日のうちに装備も人数分揃えておきました。なので、もう換装済みですよ」

 

 そう言いながらやってきた明石と、大将の護衛。今回は吹雪だけでなく、追加で2人連れて行く。

 そのうちの1人は、やはりいろいろな意味で手慣れている島風。鎮守府との仲が良いため、江風や涼風の緊張感を取り除くことも出来て、かつ大塚鎮守府が()()()だった時には、その社交性によって空気を弛緩してくれるだろう。

 

 そしてもう1人。やはり小回りが利く方がいいということで、新たな駆逐艦が連れてこられている。

 

「この子は初めての子だから、ちゃんと紹介しておくわね。今からすることを考慮して、この子が一番適切だと思ったから護衛をお願いしたの」

「買い被りすぎだよ婆ちゃん……まぁ頼られるのは嫌な気分じゃないけどさー」

 

 頭を掻きながら大欠伸するその艦娘は、明石が用意していた泥の見える眼鏡を着用済み。施設のときの大淀のように、なんの違和感もなく眼鏡が着けられる者がいることに意味があると考えたらしい。

 

「望月でーす。今回はよろしくお願いしまーす」

 

 その艦娘、望月は、吹雪に次いで大将の鎮守府では古参という歴戦の勇士である。態度だけで言うのならそんな感じはまるでない怠け者なのだが、実力だけで言えば()()()()()()()()

 

「危険かもしれないけれど、大塚鎮守府までは海路を使うわ。私と貴方は宗谷のクルーザーで移動。残りの子達はいつも通り航行してもらうわね」

 

 宗谷のクルーザーが最も安全なのはわかっているし、専用装備の輸送などのことを考えると、宗谷自身の存在も重要。

 今の面々ならば、江風も大発動艇を扱うことは出来るのだが、なるべく余計なところに装備のスロットを割きたくないというのもある。そのためにも、出向の7人目の艦娘として、非戦闘員ではあるものの宗谷も同行することになっていた。

 

 実際は、その豪運も頼りにしているところはあるのだが、それは口に出していない。

 

「貴女達、それでよかったかしら」

「う、うっす。案内さえしてもらえれば、江風達でも行けるンで」

「江風、ガッチガチじゃねぇかい」

「そう言う涼風もだろ。緊張すンだよ、こういう大役は」

 

 昨日は何の気なしにやりがいがあるなんて言っていたものの、実際この場に立ったら凄まじい緊張感となってしまっていた。そもそもここにいるのは大本営の大将。立場がさらに上の者の護衛みたいなものだ。堀内提督だけでは無い。

 こういう場に出向くことがあるのは、鎮守府所属の艦娘の中では五月雨と大淀くらいしかいない。山風はこの緊張感も嫌だったから、自分が選ばれなかったことを喜んでいたのかもしれない。

 

「まあまあ緊張しなさんなって。いつも通りやりゃあいいんだよ。最後の海域に行くのと同じなんだからさー」

 

 そんな2人を見て、望月が面倒臭そうに笑いながら話す。

 

「もっちーは力入ってなさすぎだもんね」

「それくらいがちょうど良いんだって。力んでまともに動けないより、力抜いて8割くらいでやりゃあさー」

「それでもそつなくこなすんだもんなー。もっちーズルーい」

「はっはっは、それはあたしのやり方が上手いだけだー」

 

 島風との関係も非常に良好。

 

「江風、涼風、リラックスリラックス。私もやっぱりちょっとは緊張してるけど、ほら、すごく強い姫級の敵と戦う時よりはまだ気が楽だよ。何も無い可能性だってあるんだからね」

「五月雨の姉貴は肝が据わってンなぁ……」

「ふふ、これでも初期艦ですから」

 

 妹2人を落ち着かせる五月雨だが、内心はドキドキしている。何が起きるかわからない他鎮守府への出向なんて、生まれて初めてである。正直なところ、姫級との最終決戦よりも緊張感は高い。

 しかし、そんな気持ちは全く表に出していなかった。ここで自分もガタガタ震えていたら、妹達がさらに緊張してしまう。そんな状態で十全の力を発揮出来るわけがない。

 

「では、最後の確認を。私、吹雪と五月雨ちゃんは、あくまでも司令官の護衛ということで、装備はそのまま。残りの4人は念のため()()()()()()()()()に換装済み。宗谷さんは輸送装備。これで問題ありませんね」

 

 吹雪を中心に最終確認。秘書艦2人は自分の提督を守るための防衛ラインとしての意味合いを持つため、泥排除の装備ではなく実弾装備。緊急時には破壊工作も辞さないという強い意志を持って事にあたる。

 逆に、残りの戦闘要員、江風、涼風、島風、望月は、泥に侵蝕された艦娘がいた場合はそれを治療するために、事前に明石が用意した多種多様な装備を身につけている。万が一鎮守府内で戦闘が起きた場合でも、問題なく動ける。

 

 そしてコレに関しては、大塚提督には()()()()()()()()()()というおまけ付き。宗谷の大発動艇によって、泥を対策する何かを持っていくとしか伝えていない。

 もしも侵蝕された艦娘が()()()として動いているなら、詳細を伝えるのはよろしくないためである。

 

「江風、準備は出来てるよ」

「涼風、問題無しだぜ」

「島風、いつでも出撃出来まーす」

「んぁー、望月オッケー」

 

 これで準備も万端。宗谷も工廠にクルーザーと大発動艇を横付けして、輸送物資の搭載も完了。

 いつ頃に到着するかは事前に伝えておいたらしく、もうこのまま出発でもいいとのこと。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「はい。大淀、後は頼んだ」

「了解です。ご武運を」

 

 鎮守府は大淀に任せて、提督は大将と共にクルーザーに乗り込む。

 

 ここからは今までにない対話の時間だ。提督も少なからず緊張はしていた。

 

 

 

 

 鎮守府を出発してからしばらくして、航路としては7割は進んだところ。周辺警戒をしながら、小休憩を挟む。その時に泥の感知も欠かさず行なっているが、航路上からはその反応を見ることは無かった。

 望月は常時装備状態ではあるが、五月雨達は休憩中に眼鏡を取り出して周囲を見回す程度。とはいえ、使ったところで風景が変わらない。

 

「今のところは順調。泥の反応も無し。この辺りに黒幕の本拠地があるわけではないみたいですね」

「了解だ。引き続き警戒を頼む」

「はい」

 

 五月雨がクルーザーの中の提督に報告。

 黒幕は中間棲姫の中身、つまりは陸上施設型である可能性は高い。泥という謎の物質を扱う以上、ただの深海棲艦では無くなっている可能性は非常に高いため、島にいるという固定観念は持たないようにしている。

 それで反応が見えないということは、今のところ本当にこの近くにはいないということになる。安全が保証されているというだけでも気が休まるというもの。

 

「状況として、古鷹が一番最初に近いくらいのはずなのよ。今のところ全員分の被害報告について調べたつもりだけれど、古鷹の事件が一番古いわ」

「そうなると、そう考えるのが妥当ですね。とはいえ、他の敵元艦娘がドロップ艦だった場合はその限りでは無いでしょう」

「ええ、その可能性も勿論考慮しているわ。特に……貴方達が戦ったという龍驤は、ドロップ艦だった可能性はかなり高いわね」

 

 なんでも、古鷹や白露のような艦娘失踪事件を洗いざらい調べたらしい。今のところわかっている大鳳やコロラドに関しても、一応は海軍史には小さくではあるものの残っているらしい。

 しかし、龍驤に関しては何処にも無いという。そうなると、龍驤はドロップ艦でまだ鎮守府に所属していなかった時に泥に侵蝕されたと考えるのが妥当。

 

「ここまで来てもまだ謎が多すぎる……お手上げというわけでは無いにしても、なかなか厄介ですね」

「ええ。でも、少しずつ近付けているわ。それに、近付くための手段も着実に増えてきているんだもの。地道に行きましょう」

「ですね」

 

 

 

 

 まだまだ黒幕の居場所もわからない状況にあるが、真実には確実に近付いている。このままの足取りで行けば、決着をつけられる時も必ず来るだろう。

 




このタイミングで現れた新たな大将の部下、望月。どうせなら眼鏡を常時使える子を選択したかったため、駆逐艦の眼鏡っ子から選出しました。古参とするのなら望月が一番良さげ。
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