空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

243 / 506
風となる者

 雷に続き、夕雲の治療も完了したのだが、それと同時に鎮守府内の侵蝕された艦娘が次々と増え始めた。6人中2人を仲間に戻すことは出来ても、それ以上の速さで増殖を繰り返されたら意味がない。敵は減るどころか増える一方である。

 

「まずいね。これ際限ないパターンじゃない? 増殖にどれくらいの時間がかかるかわからないけど、このまま増え続けられたらあたし達じゃ対処出来なくなるよ」

「とりあえず、見つけた奴らは片っ端から薬ぶっかけてやれば!」

「江風、薬にも限界あんだよ。バカスカ撃ってたら弾切れ起こすぜい」

 

 増殖の速度は、とんでもなく速いわけではない。実際に確認されている限り、ジェーナスが侵蝕された時に戦闘中に少ししたらという感覚。とはいえ、数時間必要というわけでもなく、少し時間を置いたらもうと感じるほどではある。

 しかし、現在考えるだけでも当初の6人を超えてしまっている、それがまた1人に注いだら倍。そこから同じようにやればさらに倍と、鎮守府にいる艦娘が一気に敵に回る可能性が高い。人数が多ければ多いほど手が付けられなくなるのがこのタイプである。

 

 そしてもう一つ問題なのは、人数が増えれば増えるほど、対処が出来なくなるほどにバラバラに行動されることだ。ただでさえ推定ではあるが侵蝕されているという艦娘の中に隠密活動が得意な川内が紛れているのだ。おそらく拡散力がトップクラス。

 そんな状況で手当たり次第治療するとなると、最終的には弾切れを起こして治療不能になる。すぐさま切れるわけではないが、もしそうなった場合、この鎮守府はおしまいだ。逃がせるだけ艦娘を逃がす以外に道が無くなる。

 

「これ、二手に分かれた方がいいよ。片方は工廠に行った方がいいと思う」

 

 この提案は島風。島風も眼鏡によって泥の動きを見ているが、その内の1つ、いや1()()が、明らかに工廠を目指していた。

 狙いはほぼ確実に明石。最初に狙わなかったのは潜伏がなるべくバレないようにするためだろうが、あちらももう手段を選ばなくなっているため、バレようが関係なくなった。

 

「急ぐなら島風に行ってもらった方がいいな。で、江風もそこに便乗する」

「だね。私と江風がこの中では速いから、速攻で工廠に行こう! 電、いいかな!」

「なのです。工廠の方はよろしくお願いするのです」

 

 ここで別行動へ。広範囲に散らばる侵蝕された艦娘を各個撃破するため、まずは島風と江風が工廠へ。

 

「あたい達はそのまま4人で行動でいいかい。夕雲はまだ足腰立たないんじゃないか?」

 

 そして残りの4人は組んだままとする。一緒に向かうと宣言したものの、夕雲はついさっきまで侵蝕されており、薬によって痴態を晒す羽目にもなり、まだその効果によって身体が震えているような状態。1人で行動させるのは以ての外であり、誰かと2人組というのも厳しい。ある意味、夕雲を守るためにも残り3人と共に行動するべきであろう。ここには特に実力の高い望月がいるため、守られるのなら丁度いい。

 

「いえ、大丈夫です。震えはまだありますが、時間の問題ですので。こちらとしても、一応この鎮守府でエース駆逐艦と呼ばれているのですから、ここで意地を見せねば」

 

 震える脚をパンと叩き、踏ん張ってしっかりと立ち上がる。羞恥心はさておき、今まで潜伏させられてきたことへの怒りや悲しみ、全ての感情を抑え込んで、戦う兵器としての自分を表に出した。

 今回の敵は、今まで仲間だった者。そうだとしても、この鎮守府を危機に陥れる者には正しく制裁を与えるために動く。無論、実弾を使ったり鎮守府を破壊するようなことはせず、電と同じように模擬弾による牽制をするだろう。

 

「じゃあ、あたしらはさっさと行こう。電、よろしく頼むよ。前衛が揃って工廠行ったから」

「なのです。電が前に出るので、行きましょう」

 

 ここからは電が先陣を切り、侵蝕された者を見つけ次第治療をしていく。そしてその間は涼風が電探で鎮守府内に意識を張り巡らせた状態で、鎮守府内の艦娘の動きを逐一報告する。

 こうしている間にも別行動で侵蝕を続けているだろう。その状況は常に知っておくべきだ。弾切れを回避するなら、纏まっているのなら纏めて撃った方が手っ取り早いため、やりやすいところを優先的に狙う。

 

「では、電が先頭行かせてもらうのです!」

 

 ここからはスピード勝負。増殖する前に全員を治療するため、電達も鎮守府を駆け回ることになった。

 

 

 

 

 島風と江風は工廠に到着。幸いにも明石はまだ侵蝕されていないが、明らかに泥に侵蝕されている艦娘がそこにいた。

 

「あの2人、だね」

「ああ、真っ直ぐ明石さんの方に行こうとしてやがる。アレだけは食い止めねぇとな!」

「おうっ! そういうことなら任せて!」

 

 言いながらも島風が艤装を展開。その瞬間、たった1歩踏み込んだだけで、跳ぶように距離を詰めた。そのリボンが表すように、今の島風はウサギのような跳躍を見せたようにすら見えた。

 

「そこの2人、ストップ!」

 

 そして、着地したのは2人の眼前。陸上なのに殆ど海上と同じように動いている島風に、少なからず驚いていた。

 着地と同時にいつも従えている連装砲ちゃんの1体の頭が島風の腕に現れ、即座に砲撃。眼前の敵に対して薬入り模擬弾をぶちまける。

 

「っ!」

 

 しかし、ほとんど不意打ちに近いその攻撃も、瞬発力のみで完全回避。その模擬弾は床にぶち撒けられるのみとなった。

 砲撃が当たっても床が破壊されなかったことに疑問を持ちつつも、次の攻撃に備えて2人も艤装を展開。跡を追っていた江風からの砲撃も即座に対応して掠りもせず、その砲撃は壁に直撃して水浸しに。

 

 お返しと言わんばかりに島風に主砲を向けるが、その時には島風はその場におらず、別の方向から砲撃を放っていた。

 

「すばしっこい……!」

 

 直感的にその砲撃に当たってはダメだと感じ取ったか、大きく回避するためにバックステップ。そのまま間合いを取った。島風も深追いはやめて一旦間合いを取らせて息を吐く。

 あまり近付きすぎると、泥を吐かれて自分が侵蝕されるというリスクがある。それは絶対にダメであると理解しているため、今はこの間合いを維持する。

 

「川内と、長波。電の言ってた通りだね。反応もすごく強い。真っ赤だよ」

 

 眼鏡をクイッと上げて2人を確認する島風。間近で見るまでも無かったが、その2人は全身から泥の反応がしていた。

 

 電の予想通り、侵蝕されていたのは川内と長波。もうその本性を隠していないくらいに表情は()()()()()()()()になっていた。川内はまさに隠密活動をしますと言わんばかりに眼光鋭く島風を見据え、その隣の長波も小さく舌打ちしながら後ろからやってくる江風に視線を送る。

 

「その眼鏡で私達の行動が見えていたの?」

「そうだよ。すごいよねコレ。アンタ達の行動と居場所、全部わかるの。2人してここに向かってきてるのは丸わかりだった」

 

 こちら側にそこまでの技術力があることまでは予想出来ていなかったようで、再度驚きを見せた。そもそも既に2人が治療されていることも気がかりのようだったが、今の砲撃数発でおおよその仕掛けがわかったようで、川内も小さく溜息を吐く。

 

「長波、コイツらを先に始末するよ。どうせもう私達の動きは筒抜けだ」

「了解。もうコソコソするのはやめてんだし、大っぴらにやってもいいんだね」

「だね。別にここで殺しちゃっても、他の連中を仲間にして提督全員始末すれば何も問題無いから」

 

 とんでもない発言だが、冷静、冷酷な表情は変えない。むしろ鎮守府の方針を忠実に再現しているかのように感情を押し殺しているとすら思える。

 

 泥に侵蝕されて目的は変わっていても根幹は変わっていないため、戦い方も考え方も侵蝕前から据え置き。そういう意味では、この鎮守府の方針はあちらのやり方とも噛み合ってしまっている。

 しかし、泥によるブーストがあるために、侵蝕されている方が格段に強くなっていた。これは殆どリミッターが外されているようなものであり、陸上での戦いでも海上と殆ど同じ動きが出来るほど。

 

「私達が殺されるって? 無い無い」

 

 しかし、そんな2人に対して島風は鼻で笑うような態度で返した。そんな表情をされたら、感情を抑えている川内と長波でも苛立ちを覚える。

 

「何のために私達がここにいると思ってんのさ。全員救うために戦ってんの。ただぶっ壊すためだけに利用されているお人形さんよりも、背負ってる物が違うんだよね」

「背負ってる物が重すぎて身動き取れなくなってるんじゃない? そんな奴らに私達が負けるとでも?」

「負けるね。断言するよ。アンタ達はここで負ける。重い物背負っててもさ、それが後押しになってくれたら物凄く進めるんだ。私に取って背負ってるモノは、向かい風じゃなくて追い風なんだから」

 

 何を思ったか、島風はクラウチングスタートの構えに。海上ではなく陸上、ただ駆け抜けるにしても、そこまでの準備をしたということは、余程のことをやるということ。そして、島風の目は川内ではなく長波を捉えた。

 

 瞬間、川内は強烈な悪寒を感じた。これは絶対にまずいと感じる程に。

 

「長波、避けっ──」

 

 指示を出そうとした瞬間、()()()()()()()

 

 本気の島風のスピードは、海上ならば飛沫を上げ、陸上ならば地を抉り、その姿を目に映すことなく駆け抜ける。

 当然島風にもダメージは入るが、そこは大将の艦隊。足腰は武蔵にしっかりと鍛え上げられ、一度や二度では折れることはない程に強靭な下半身を手に入れている。

 

「はっ……!?」

 

 気付いた時には、長波は宙を舞っていた。島風の突撃をモロに受けたことで、地に足がついていなかった。しかも、それだけやられているのにダメージらしいダメージも無い。ここまでして島風は手加減をしていたのだ。速さのみに特化し、それでも相手を思い、あくまでも治療を目的としたその攻撃は、長波を優しく包み込んだ挙句に身動きを取れなくしていた。

 

 そしてその隙を見逃すはずもないのが江風だ。島風はこの一撃を繰り出すことに集中しているため、その後の長波に関してはノータッチ。むしろ、江風に後はよろしくとアイコンタクトまでしていたくらいである。

 

「身動き取れねぇなら、江風でも狙い撃てるンだよなぁ!」

 

 長波がどうなるかわかっていた江風は、即座に宙を舞う長波に向けて砲撃を放った。1発では当たるかわからないため、2発3発と連射し、確実に長波を治療する。

 

「うぁっ!?」

 

 その1発が長波に直撃し、薬の成分が服を貫いて一気に肌に染み込み、体内に蔓延る泥を駆逐していき、それが猛烈な快楽へと繋がる。宙に舞った長波が地面に落ちた後、その快楽の波に襲われて嬌声を上げながら悶絶することに。

 そんな姿を見慣れてしまったか、島風も江風も羞恥心などなく、すぐに川内の方へと向き直る。

 

「……何をしたの」

「何って、治療だよ治療。泥注がれた時、気持ちよくなっちゃうんだよね? じゃあ、治す時にもそうなるのは当然じゃない?」

 

 一度風となった島風は、少しだけチャージの時間が必要。敵の前であるというのに、脚を慣らすようにストレッチをして第二波の準備をする。

 

 川内にも覚えがあった。鹿島に夜戦に誘われたかと思ったら口移しで泥を注がれ、その結果一瞬で侵蝕されたときのこと、確かにその感覚は痛いとか苦しいとかではなく()()()()()だった。

 しかし、その時とは比べ物にならないような反応を見せつけられて、むしろ嫌悪感すら覚えた。島風の言葉は、次はお前がこうなるんだぞと言っているようなモノ。痴態を晒せと突きつけられている。

 

「次も何もさせない。さっさと治ってもらうよ。覚悟はいい?」

「……一度見たなら、簡単には当たらない。逆にアンタをこちらに引き込んでやるよ」

 

 

 

 

 長波はまた不意打ち気味に終わらせることが出来たが、川内は一筋縄では行かないだろう。

 




支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/96963363
MMDアイキャッチ風白露。今でこそ姉4人分という特殊な存在となっていますが、一発目の全裸仁王立ちはあまりにも酷い、もとい、印象的な場面に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。