空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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涙の再会

 鹿島の件が一時的に終了したところで、雷が呼びに行った電も執務室に戻ってきた。鎮守府中の仲間達の様子を見て回ったようで、電は少し息を切らしていた。

 

「ご、ごめんなさい、遅くなったのです」

「問題無いわ。みんなの様子を見てきてくれたのよね。ありがとう電」

 

 大将の労いに少し顔を赤らめながら一礼して、そそくさと大塚大将の隣に立つ。これで提督とその秘書艦という組み合わせが全て揃ったため、改めて本題に入る。

 この場に鹿島がいることは誰も気にしていない。むしろ、ここで姉妹姫がどういう存在かを知ることが精神的にもいい方向に向かわせるかもしれないため、あえて出ていけとは言わなかった。

 

「それじゃあ、本題に入るわね。先日にも話した通り、私と、この堀内提督は、いわゆる穏健派、こちらに対して侵略の意志が一切ない深海棲艦と関係を持っています。それは良かったわね?」

 

 大塚提督と電は事前に聞いているため問題なく頷く。鹿島は当然その話は初耳であるため、小さく驚いていた。

 

「その深海棲艦達のおかげで、今回の侵蝕による被害はここで食い止めることが出来ました。事前に情報を手に入れておけたことで、堀内提督の鎮守府が対策を開発し、今に至ります。これも良かったわね?」

 

 対策の結果は見ての通りだ。鎮守府は散々なことになってしまっているものの、侵蝕を受けて内乱を起こそうとしていた艦娘達の思惑をほぼ未然に防ぐことが出来ている。

 施設で使用して効果が出ていることはわかっていたが、鎮守府でも完璧な効果を発揮出来たことで、全ての状況に対応出来ることが実証された。この装置各種を全ての鎮守府に展開することで、余計な被害者が出ないようにしていけば、黒幕を追い詰めることも出来るだろう。

 

「ここがこうで無かったら、この開発された装備の使用法などを伝えることで終わっていたでしょう。他の鎮守府ならここで終わることになっています。でも、この鎮守府は、その穏健派の深海棲艦とも深い繋がりが出来ます」

「はい、古鷹のことですね」

「ええ、そう。実はここに来る前、穏健派の深海棲艦と話しています。貴方達との対話を快く引き受けてくれました。特に古鷹は、貴方とまた話をしたいとも」

 

 その言葉を聞いて、大塚提督は少なからず反応をした。

 古鷹は生きていたが、もうこの鎮守府に戻ってくることは出来ない。だが、古鷹自身が最後に別れの言葉を告げたいと、自分の意思で決めた。

 

「俺としても、ケジメとして古鷹と話をした方がいいでしょう。少なくとも、もう画面越しでなく直接会うことは出来なくなってしまったなら、尚のこと言葉を交わす必要があると思います」

 

 これが今生の別れになるかもしれないのだから、誠意を見せるべきだと大塚提督も古鷹との対話を望む。勿論、施設との対話によって、穏健派の深海棲艦がいるということを知るのも重要だが、この鎮守府にとって最も重要なのは古鷹のことだ。

 

「わかったわ。それじゃあ、あちら側との通信を始めるわ」

 

 吹雪に合図をして、タブレットを取り出させる。ここまで来たらもう後戻りは出来ない。

 もう何度も何度も話をしている堀内提督は、緊張のきの字も無い平然とした表情。相手が深海棲艦であるとしても、ここまで普通にしていられることに、若干恐ろしさも感じた。

 

「……堀内提督」

「何かな」

「貴方はその深海棲艦と初めて話をした時、どう感じた」

 

 大将が準備をしている間に、大塚提督が素朴な疑問を投げかける。堀内提督はむっと考える仕草をしたものの、とても穏やかな表情でその問いに答える。

 

「勿論、驚きはしたさ。最初は部下の話を聞いて声を荒らげてしまったくらいだよ。しかし、実際に見て、顔を合わせたら、別の意味で驚く。あまりにも我々の知っていた深海棲艦とはかけ離れた存在すぎてね」

 

 艦娘だって、何処からどう見ても人間のようなものだ。ドックを使えば千切れた四肢が再生したりする以外は、人間と全く同じような行動を取る。考え方だって人間とほぼ同じだろう。

 だが、あの姉妹姫はそれに輪をかけて()()()()()があった。ただ平和に暮らしたいという思いだけで生きており、そのためには本来やらない農作業という労働すら楽しみながら行う。そして、悪意を全く感じない聖人君子。

 

「陸上施設型の深海棲艦を見たことはあるかい?」

「勿論。何度か戦闘経験もある。中部での離島棲姫だったか」

「なら話が早い。彼女達は、自分達が生きていくために、そこに畑を作って野菜を育てている。あとは釣りで魚を獲ってもいる。自給自足で生活しているんだ」

 

 流石にこればっかりは驚きが隠せなかったようだ。いくら陸上施設型とて、自分の陣地で農作業をする深海棲艦なんて聞いたことが無い。

 

「だが、それだからこそ、大きな安心が得られたよ。彼女達も、僕らと何も変わらないのだとね。生きるために、しかし、他人に迷惑をかけないように、自分で出来る限りのことを自分達でやっていく。その選択を笑顔でしている彼女らを、信用出来ない理由がないのさ」

 

 これは、艦娘を人間と同じとして見ている堀内提督だからこその考え方なのだろう。艦娘を人間として見るのなら、深海棲艦だって人間として見られる。そして、艦娘が深海棲艦になってしまうこともわかっているため、全てがイコールで繋がった。それ故に簡単に受け入れられる。

 

 種族的には異常性かもしれないが、人類や艦娘と共存出来る特異性である。

 

「……なるほど、それに関しては、俺も考え方を変えなければならないのかもしれない。その深海棲艦に対してだけは、兵器ではなく()()()()()()とな」

「ああ、それでいいと思う。特殊であることは変わらない。だが、あまり異物を見るような目で見てあげないでほしい。彼女達は、ただ平和に、共存を願っているだけだからね」

 

 それこそ、姉妹姫の考え方は提督達と同じなのだ。それを深海棲艦だからというだけで違うものと見るのは間違っていると、堀内提督は熱弁した。

 大塚提督もそこは納得した。余計な敵を増やすことは合理的ではなく、仲間は多いに越したことはない。例えそれが深海棲艦であろうとも、牙を剥かない者に対して偏見から攻撃をするだなんて、あまりにも馬鹿馬鹿しい。

 

「姉姫、待たせてしまってごめんなさいね」

『少し遅かったから心配しちゃったわぁ』

 

 2人の提督が話している間に準備が出来たために通信を開始していた大将。タブレットの向こう側から聞こえた声は、とても深海棲艦とは思えない程におっとりとした声色。それでいて、予定の時間より遅くなっていたことを怒るわけでもなく、ただただ何かあったのかもと心配している。

 堀内提督にはもう聞き慣れた声なのだが、大塚提督には驚くべきものだった。声だけ聞いていたら、それはもう深海棲艦ではない。人間と同じと言っても過言では無かった。

 

「予期していた異常事態が起きていたの。対処は全て終わったわ」

『そう、それなら安心ねぇ。また私の中身が迷惑をかけてしまったみたいで……』

「前々から言っているけど、中身の()()()()を貴女が謝る必要は無いわ。貴女は貴女、アレはアレなの。むしろ貴女は腹を立ててもいいのよ」

 

 などと話しながら、タブレットを大塚提督側に向ける。今回の本題はこちら。大塚提督と深海棲艦の対談。

 

 画面を見て大塚提督は目を見開いた。本当に深海棲艦が画面の向こう側にいる。そしてその表情は、侵略者の1人とは到底思えないもの。それが悪名轟く中間棲姫だから尚更である。

 隣に立つ電も、その表情に驚きを隠せなかった。電だって深海棲艦とは戦ってきたが、ここまで穏やかな表情の深海棲艦は今まで見たことが無かった。

 さらにはその深海棲艦の向こう側の風景も、あまりにも普通な一部屋、ダイニングであるため、本当に深海棲艦かと疑うまでしてしまった。何処かのスタジオか何かから、()()()()()()()()()をしている何者かと話しているという錯覚すらあった。

 

『貴方が大将さんが話していた提督くんねぇ。でも、2人目の提督くんだから、呼び方を変えなくちゃねぇ』

『こっちはわかりやすいわ。眼鏡の提督だもの』

 

 中間棲姫の隣から顔を出してきたのは飛行場姫。こちらは少し気が強そうではあるが、やはり敵意を感じさせない。

 

『それじゃあ、眼鏡くんとでも呼ばせてもらおうかしらねぇ』

「なっ、そ、そうか。呼びやすい呼び名で構わない」

『私のことは姉姫と呼んでちょうだい。こちらは私の妹、妹姫とでも呼んであげてねぇ』

 

 あまりにも軽い会話から始まり、拍子抜け。人間と深海棲艦の対談なんて、緊張感が高まるものであると考えていたが、その不安は一切不要であった。

 

『貴方も提督くんや大将さんと同じように平和を守る人間であり、私達とも共存を望んでくれると考えていいのよねぇ? そうでなければ、大将さんが紹介してくれるわけがないもの』

「……ああ、そのつもりだ。海の平和を守るため、俺は艦娘と共に戦っている」

『なら、私達ともお友達になれるわぁ。実際に会うことは出来ないかもしれないけれど、こういうカタチでも仲良くしてくれると嬉しいわぁ』

 

 口には出さないが、大塚提督としては余計な争いを回避するためにも、ここは仲良くしていきたいとは思っている。友情などは考えていない。

 こういう感情は画面越しでも姉妹姫にはわかるもので、しかし顔を合わせたばかりでいきなり友達になれるとは思ってもいないため、時間をかけて関係を良くしていこうと考える。

 

『さて、じゃあ本当に貴方と話をしたがっている子に来てもらいましょうか。こうやってここにいるということは、そうするためと思っていいのよねぇ?』

 

 これは勿論古鷹のこと。大塚提督は無言で頷く。

 

『さ、古鷹ちゃん、どうぞ』

 

 タブレットの向こう側の景色がグルリと変わる。その向こう側には、確かに古鷹がいた。しかし、最後に見た古鷹とは全く違う、古鷹をそのまま深海棲艦にしたと思える姿。

 今はミシェルを部屋に近付けないようにジェーナスが配慮してくれているため、古鷹も変装する必要がないため、ありのままの姿を見せている。そのため、インナーに上着を羽織るのみという施設内でのいつものスタイル。胸元に走る大きな傷口もしっかりと見せ、自分がどういう存在であるかを表していた。

 

『……お、お久しぶりです、提督。古鷹、このような姿ですが、生きていました。いや、本当は死んでいたらしいんですが……黒幕の未知の力によって蘇生させられました』

「蘇生、だと……?」

『はい……その際に、随伴の榛名、最上、鈴谷を取り込むカタチで、私という個体が出来ています。全員分の力も、全員分の記憶も、全て私が持っている状態です』

 

 本当ならいろいろと話したいこともあるだろう。だが、鎮守府の方針が染み付いているのか、提督の前ではまず端的に現状の報告から入った。そうすることで、この古鷹が大塚鎮守府の古鷹であるということを如実に表していた。

 

『今の私は、戦艦の力を扱える重巡洋艦……とでも言えるモノになっています。艤装も、見た目は重巡ネ級に近いのですが、性能は戦艦レ級とほぼ同じモノとなってしまいました』

「そうか……」

 

 その分、やはりショックは大きいようで、大塚提督もなかなか言葉が紡げないでいた。艦娘を兵器として考えていても、ここまで変貌しているとなると驚きを隠すことはもう出来ない。

 とはいえ、生きていたことには少なからず喜びを感じていた。蘇生というカタチであったとしても、自分の知る部下がそこにいることがわかり、不思議と安堵している。

 

『古鷹ちゃん、報告もいいけれど、他にも話したいことがあるでしょう? 時間は有限なんだもの。言いたいことは言ってしまった方がスッキリするわぁ』

 

 画面外から中間棲姫の声。それに頷き、古鷹はより決意したような表情に。

 

『……提督、古鷹はもう鎮守府には戻れません。戻りたくないとは考えていませんし、むしろ戻りたいとすら思っています。ですが、私の身体は見ての通りです。艦娘古鷹は沈んだことにもなっていると思います』

 

 何日にも渡る捜索の末に戦死として処理されているため、古鷹の籍は大塚鎮守府からは失われている。そういう意味では、戻ることの出来る場所はもう無い。

 

『それでも、私はこの施設で、深海棲艦として、鎮守府の繁栄と勝利を願っています。場所は違えど、心の向く先は同じ場所です。海の平和を、別々の道で守っていければと思います』

 

 少し泣きそうではあったが、それを堪えて、思いを告げた。

 

「ああ、わかった。古鷹、お前はどのようなカタチとなっても俺の部下であることは変わらない。今でこそ戦死として籍を消してしまったが、お前がまたここに戻ってこれるようにしておこう。いつか必ず、深海棲艦であろうが鎮守府で過ごせるように出来るはずだ」

 

 確証が無いことを告げるのは、大塚提督としては本当に珍しいこと。だが、古鷹のために、その言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 今生の別れと思いながら話すも、大塚提督が配慮してくれると知り、古鷹はもう耐えられなかった。溢れ出る涙は堪えきれず、拭いながらも深く頭を下げた。

 




これで古鷹は心も救われたことでしょう。施設の戦力としても、大きく前に進むことが出来ました。
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