空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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結束

 大塚提督と古鷹の再会の対話の後は、今後の黒幕対策を話し合う。ここからは姉妹姫の言動を見て茫然としていた鹿島も加わることに。

 今すぐでなくともと大塚提督は念を押したが、鹿島が今やらせてほしいとやる気を見せたので、ならばとそのまま対談に参加させた。

 

 ちなみに古鷹は少し顔を洗ってくると退室。泣き腫らした目は痛々しかったが、歓喜の涙なのだから恥ずかしくもない。施設の仲間達も祝福してくれることだろう。

 

『貴女にも私の中身がとんでもない迷惑をかけてしまったみたいねぇ。えぇと、鹿島ちゃん、だったかしらぁ』

「はい、練習巡洋艦、鹿島です。先程大将が話していた通り、貴女は何も悪くありませんので、謝罪の言葉は無しでお願いします。その、謝られると私も辛いので……」

 

 鹿島は鎮守府の方針に則り、多種多様な負の感情を必死に抑えつけていた。言動に無理があるわけでも無く、自然と落ち着けるのは、この鎮守府ならでは。

 あれだけやらかしてしまっても、大塚提督は自分を見捨てないでくれたことが後押しとなっている。未知の手段による支配だなんて回避不能なことであっても、鹿島はここから汚名を返上していきたいと考えていた。

 

 本人に謝らないでくれと言われてしまうと、中間棲姫も黙るしかない。大将からも、自分のことのように思うのをやめろと念を押される。

 

「鹿島、お前が侵蝕されたのはどの辺りか覚えているか」

「……はい、その瞬間はハッキリ覚えています」

 

 鹿島は今一番必要な情報を苦しみながらも引き出していく。悪意の塊に侵蝕され、鎮守府を陥れるために潜伏していた経験は、今後のために確実に役に立つ。その時の悪意そのものを思い出してしまうのは辛いが、それでもスカートの裾を握り締めることで表に出さないようにしていた。

 確実にストレスは溜まる。だが、今はそれを無視する。発散する方法は、後から考えればいい。

 

「今から5日前です。長期の遠征の帰路で、私は侵蝕されました」

「海路のどの辺りかはわかるか」

「はい、私は周辺警戒をしながら航行していたので、遠征部隊の中では特に周りを見ていました。それに、部隊の最後尾にいたので、侵蝕された瞬間は誰にも見られていません」

 

 鹿島が説明するには、その長期の遠征というのは、定期的に行われる遠洋練習航海。新人のみならず、ベテランでも勘を鈍らせないために実施され、戦闘以外の作戦もスムーズに行なうことが出来るようにしておく。いつ何が起きるかわからないのが今の海戦であるため、出来ることを多くしておくに越したことはない。

 そういう場合は、鹿島が必ず旗艦に任命され、随伴艦の後ろからその様子を監査するというのが基本。

 

 その時に、鹿島は泥の侵蝕を受けた。誰も見ていない一番後ろにいる時に、海中からズルリと浮上してきた泥が脚に絡みついたかと思うと、そこから声を上げることも抵抗することもする暇も与えられず口の中に飛び込み、一瞬にして侵蝕されてしまったと。

 この状況は、奇しくも古鷹の時と全く同じ。違うところは、後ろからその部隊を殺害するようなことをしなかったこと。

 

「海図で言うと……この辺りです」

 

 施設との通信をするタブレットとは別に、海図を表示するための端末を取り出し、簡単にだが説明する鹿島。

 その場所は、この鎮守府からはそれなりに離れた場所であり、本来の管轄外の海の真ん中。見回しても島は無く、水平線の向こう側にも陸が見えないような場所である。

 

「領海外……だな」

「うちの鎮守府と姉姫達の施設の距離と比べれば、まだ近い方という感じか。だが、それでも充分に離れた場所だ」

「当然ですけど、陸は見えませんでした。陸上施設型がいるのなら、何処かに陣地があってもおかしくないと思いますが、それらしいものは何処にも。本当に突然、私は侵蝕を受けたので」

 

 その場所に関しては後から考えるとして、その時の鹿島のことについて続ける。

 

「その時の私の使命は、()()()()()()()()()()()()でした。何故そうしなければならないかは……その、さっきまで覚えていたんですが、今はまるで思い出せなくて……」

「それは泥の性質だ。侵蝕を治療した時点で、あちら側に最も重要であろう情報を全て奪われる。今までも、黒幕の顔を見たことがある者でも、その居場所すら思い出せなくなっているんだ。それだけ、この鎮守府を得ることが重要だったということだろう」

 

 堀内提督からの説明に、大塚提督は苦い顔をする。自分の鎮守府を何に使いたいのかは知らないが、艦娘達を侵蝕し、全員支配下に置こうとしていたのは間違いない。育て上げた艦娘を全て奪われるなど、許せるわけがなかった。

 

『おそらくなのだけど、私の中身が考えてることは……()()()()じゃないかしらぁ』

 

 ここでタブレットの向こう側から中間棲姫が意見を出す。

 

「そう思う理由は?」

『だって、ここ最近であちら側の子達を6人も救っているんだものぉ。提督くんのところの荒潮ちゃんを含めれば7人……ジェーナスちゃんまで含めれば8人になるわぁ。そちらの鹿島ちゃんを侵蝕した時はまだ2人だけだったけれど、減った分を増やそうとするのは、誰だって考えることじゃないかしらぁ』

 

 その補充の仕方が卑怯この上ない。ドロップ艦をチマチマ掬っていくだけでは足りないと、既に艦娘としての経験を長く積んでいる上に、戦術まで確立している鎮守府の艦娘を根刮ぎ奪うという酷い手段を使ってきた。

 敵を減らして味方を増やすという最高効率の方法。鎮守府から見ればいい迷惑すぎる。

 

「白羽の矢が立ったのが、俺の鎮守府だったということか。なら何故ここかということになるが……」

()()()()()()()()()が有力だろう。次点で、偶然にもそれを思った時に鹿島率いる遠征部隊が目の前を通ったからというのもあるが」

 

 大塚提督の言葉に即座に返す堀内提督。ただ戦力だけを増やすために泥をばら撒くのなら、まず手近な海域から拡げていくだろう。

 だが、あちらは自分の居場所がバレることを極端に恐れているようにすら思えるため、わざわざ遠方に来てまで撹乱しようとする可能性は否定出来ないが。

 

「どちらにしろ、この鎮守府から確認出来るであろう場所に潜伏している可能性が高いということになるだろうさ。せっかく配備された例の装備で、早速使って近海を調査するべきだ」

「ええ、今すぐやれとは言わないけれど、近日中にお願いするわね。ここの調査が、最終決戦に繋がると言ってもいいでしょう」

 

 この鎮守府近海に敵の拠点があるということさえわかれば、後はそこに立ち向かうだけ。強大な敵であることは変わりないため、入念に準備する必要はあるが。

 

『その最終決戦、何か手伝えることがあったら言ってちょうだいねぇ』

「ええ、その時はよろしくお願いね、姉姫。貴女達の手は極力煩わせないように努めるけども」

『もう私達も他人事じゃ無くなっているもの。戦力を……というのは難しいかもしれないけれど、この施設の中にも、私の中身に対してひどく恨みを持っている子が多いから……』

 

 悲しい笑みを浮かべながら、中間棲姫も出来ることなら全力で支援したいと話す。食糧まで用意してもらったのだから、恩を返したいと。

 

 今の施設の一員には、黒幕のせいで運命を捻じ曲げられた者が多すぎるくらいだ。先程まで話していた古鷹もそうだし、春雨から始まったここ最近所属した者は全員が何か関係してくる。その全員が、悪い言い方ではあるが()()()()()()()()

 当然、平和が一番であり、戦わないなら戦わないに越したことはない。姉妹姫はこういう状況下に置かれても、なるべくなら戦闘を避けたいと思っている。せっかく救われた者達をまた戦場に立たせたいなんて思っていない。あちらから来た場合は平和を維持するために迎撃くらいはするが。

 

「戦いたくないものを戦いに参加させるのは、正直心苦しい。なるべく君達の力は借りずに終わらせたいと思っているよ」

『そう思ってくれるのはとっても嬉しいわぁ』

 

 欲を言えば、艦娘よりも強大な力を持つ施設の者達と共に黒幕の居場所へ赴き、総力戦を仕掛けたいとだって思う。その方が勝てる確率は大幅に上がるだろうし、人数が増えればその分、やれることも拡がる。

 だが、平和を求めて人類の邪魔にならないように隠棲しているような者達を、わざわざ表舞台に押し上げるのは何か間違っている。平和を求める者のために戦うのが、提督と艦娘達であり、その中には施設の者達も含まれるのだ。

 

「少なくとも、こちらでは貴女達の力が借りられるような土台を作っていこうと思っているわ。深海棲艦かもしれないけど、貴女達は良き協力者であり、同じ明日を望む者だもの。せめて画面越しではなく直接会えるようにしたいわね」

『ふふ、それは楽しみねぇ。私達は施設から出ることは出来ないけれど、他の子達が鎮守府に行けるようになることを願ってるわぁ』

 

 ここからは、若干世間話を交えつつも、施設側との交流というカタチで対談が進む。

 初めて施設の者達と対話する大塚提督も、この対談で穏健派の深海棲艦がどういうものかというのをしっかりと理解することが出来た。特に電は、こんな深海棲艦がいるということを実感出来たことで驚きながらも終始楽しんでいるような雰囲気だった。

 

 

 

 

 小一時間ほどの対談を終えて、施設との通信は終了。あるかどうかはわからないが、大塚鎮守府から施設に連絡が出来るようにと連絡先の交換もしてある。

 大塚鎮守府の調査によって大きく進展するようならば、直接連絡をすることもあるかもしれない。深海棲艦について最も詳しいのは、やはり深海棲艦なのだから。

 

「ということで、貴方はもうこの秘密の共有者となったわ」

「秘密と言っても、公開するように仕向けていくのでしょう?」

「ええ、そのつもり。協力者となり得る深海棲艦は、それこそ艦娘として受け入れるくらいでなければいけないもの。すんなり行くかはわからないけれど、うまくやっていくつもりよ」

 

 やることはやったと、帰投の準備を始める。まだ鎮守府の清掃の途中ではあるが、それが終わるまで居続けたら、今日中の帰投が出来なくなるからだ。

 堀内提督は五月雨に指示を出して、鎮守府に散っている他の者達に帰投するように伝えるように向かってもらった。これで全員が集まれば、本当に帰投となる。

 

「今日のところはこれで終わりとしましょうか。これからは忙しくなると思うけれど」

「問題ありません。これを早く終わらせなければ、脅威は増える一方です。早急に調査を進めたいと思います」

「よろしくお願いね。何も無ければ何も無いという結果でも大歓迎だもの」

 

 何か見つかれば御の字。何も見つからないにしても、別の場所にいるということがわかるので問題無し。調査さえしてくれれば、事態は確実に進展する。

 

「堀内提督、次はまたゆっくりと話をしよう。お互い、得られるものは多かったと思う」

「ああ、そうしよう。直で無くとも話す機会は増えるはずだ。今回の件、協力して確実に終わらせていきたいからね」

 

 堀内提督と大塚提督がガッシリと握手をした。方針は真逆であっても、目指している場所は同じ。互いに互いを尊重し合い、むしろ学んで次へと繋ぐ。

 タイプが違っても良き友人となりそうな2人である。おそらく戦いが終わった後でも、何かしらの交流は続けていくことになるだろう。

 

 

 

 

 人間と艦娘も、これを機にさらに結束していく。対策を考案し、それを共有し、黒幕の思惑を尽く打破していくのだ。

 




より強く結束力を高めていく鎮守府側。次回からは久しぶりに施設側の話になります。



あと私情なんですが、現在展開中の艦これ2022冬イベ、全海域攻略完了しました。今回は幸いにもALL甲、全艦娘+アイオワ(2人目)+アトランタ(2人目)までゲット完了です。
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