姉妹とは何かという疑問を持った潜水艦姉妹は、その答えにまだ辿り着けていなかった。
姉妹姫からは、互いに助け合うモノ、一番初めに顔が思い浮かぶモノと、春雨からは大切なヒト、近くにいることで心が安らぐヒトと聞いた。この姉妹も、泥の侵蝕が失われてからは常に一緒に行動しており、自然と互いを大切なモノとして認識するようにはなっているが、まだよくわかっていない。
そのため、他の姉妹にも話を聞きに行くことにした。今すぐに話が聞けそうなのは、叢雲薄雲姉妹。深夜の哨戒を終えて朝食の後にすぐ眠りについていたが、そろそろ目を覚ましてくる頃である。
「叢雲はダイニング」
「甘いものを食べてる可能性が高い」
どのような行動をするかは大概予想出来るようで、叢雲は昼食代わりの甘味を摂っているだろうと予測。薄雲は寂しさを溢れさせないためにほぼ確実に叢雲の側にいるため、ダイニングなら2人ともいるだろうと考えてそのまま向かった。
そこには予想通り、寝起きの叢雲と薄雲が昨日のうちに作っておいたというクッキーを摘みながら、薄雲と一緒にお茶を嗜んでいた。代わりに姉妹姫はいなくなっている。あちらはあちらで他にもやることがあるようである。
「いた」
「予想通り」
潜水艦姉妹の視線に気付いたか、叢雲が睨むように目を向ける。知らない者ならばその態度は喧嘩を売っているように感じるだろうが、この施設に所属するにあたって、初日に全員の特性は聞いている。
叢雲のコレは、あくまでも平常運転。常に怒りを持っているのだから仕方なく、こういう態度でも別に仲間に対して嫌だという気持ちは無い。
「2人に質問がある」
「は? アンタ達が私達に何の用よ」
「姉妹とは何か知りたい」
叢雲の文句は殆ど無視して質問。叢雲が若干ムッとした表情を見せるが、薄雲はまぁまぁと宥めて、一緒にその質問に対する回答を考える。
漠然と姉妹とは何かと言われても、叢雲としてはそういうものだとしか言えない。この施設の仲間の中でも、特に親密な者。怒りに身を焦がし続けている自分に対して親身になってくれる存在。薄雲のお陰で、怒りは今までよりも随分と緩和しているようにも思える。
薄雲からしてみれば、深海棲艦化する前から叢雲は憧れかつ目標。この叢雲が
「アンタ達は、他の連中に何か聞いてきたわけ?」
「姉姫と妹姫、春雨と海風に話を聞いた」
「姉妹とは、お互いを助け合い、近くにいるだけで心が安らぐ者と聞いた」
なら私達も似たようなものだと、叢雲は説明を放棄。単純に今の感覚をこれ以上言語化出来なかったというのもある。
怒りを抑えてくれる薄雲は、思っている以上に叢雲にとっては重要な存在なのだが、それは既に潜水艦姉妹が聞いている、『助け合い心が安らぐ』の中に含まれている。安らいでいるつもりは無くとも、実質的に怒りが抑えられているのだから、それは安らいでいるとしていい。
「私も姉さんと同じ……かな。大切なヒトですし、いなくなられたら困りますし。それに、姉さんが傷付く姿を見たくないというのが大きいですね」
大切だからこそ、傷付いてもらいたくない。これも中間棲姫に言われたこと。相方が倒れるところを想像したら、表情が強張ったことを思い出す。
潜水艦姉妹はどちらも、その時に自分がそういう表情をした理由がピンと来なかった。何となく、本当に何となく、
「傷付く姿を」
「見たくない」
「はい。姉さんはここに来るまでにとても傷付いていましたから。もうこれ以上辛い思いをしてもらいたくないので、ここでのんべんだらりと生活してもらいたいなって」
後半部分はさておき、今までが酷かったからこれからを気楽に生きてもらいたいという考え方は、自然と納得が出来た。悪いことばかりだったのなら、良いことばかりにしてバランスを取らなければ割に合わない。そこは感情云々でなく、合理的に考えて。
「2人はどうですか? 姉妹が辛い思いをしている時、何をしたらいいと思いますか? 私なら寄り添います。それに、姉さんは甘い物が大好きなので、それを振る舞って辛い気持ちを無くしてもらいますね」
「私は……まぁ近くにいてくれって言うならいてやるくらいはするわよ」
「はい、私は姉さんにそうしてもらえるだけでも充分癒されるので。甘いものをモフモフ食べている姿とかも」
「アンタ、私をリスか何かと思ってない?」
潜水艦姉妹はその質問について回答が出来なかった。しかし、考えるという行動をするようになる。
流されるままに依頼をこなすことしか出来ていなかった2人は、そもそも考えるという力が足りていなかった。それが今ではどうだ。自分達の意思で仲間達に質問をし、その答えから自分達のことに置き換えて考えることが出来ている。これは充分すぎる成長である。
「妹が辛そうにしていたら、
「姉が辛そうにしていたら、
最終的には同じ答えに辿り着いたのは、全く同じように混ぜ込まれているからだろう。
答え自体は、今まで聞いてきたことから踏まえて、最善と判断したものに過ぎない。しかし、そこに辿り着くまでに何をしたらいいかをちゃんと考えて、
「なら、やっぱりお互いに大切なヒトだって感じてるってことですね。辛くなくても一緒にいたら、きっともっと楽しく生きることが出来ますよ」
薄雲がにこやかに終わらせた。こうやって、自分の力で何かの答えに辿り着くことが出来たことが一番の進歩だった。
残す姉妹は松竹姉妹だが、哨戒から戻ってくるのはもう少し先。あと話を聞けそうなのは、ここで姉妹としては成立していないがコロラドと、今は療養中でさっきの話を聞いていた大鳳、あとは戦艦棲姫や古鷹、伊47、コマンダン・テスト。
姉妹でなくても、どう思うかを聞けることはいいことかもしれないと、適当に誰が何処にいるかを探していると、コロラドの後ろ姿を発見した。向かっている先は、おそらく療養中の大鳳の部屋。
「行ってみる」
「了解」
その後ろ姿を追ってみたら、案の定大鳳の部屋へと入っていった。同じタイミングで治療されたからか、余裕があればコロラドも大鳳と話をしているらしい。
先程来て、すぐに出ていったのにまた蜻蛉返りしたことになるのだが、潜水艦姉妹は何も気にせず大鳳の部屋に入った。
「あら、また来たんですね。春雨と海風は今は出て行ってますよ」
大鳳に言われ、しかし臆さず、今度は大鳳とコロラドに用があると告げる。大鳳は先に話をしているところをみているため、何が聞きたいのかは知っているが、コロラドはちんぷんかんぷん。
「コロラドには、姉妹がいるんですよね?」
「ええ、艦娘としてはまだ見つかっていないんだけれど、MaryやWee Veeがね」
「この子達の質問は、姉妹とは何ぞやですって。コロラドとしてはどう思います?」
突拍子もない質問だと思いつつも、コロラドは即答する。
「そんなもの、背中を預けて戦う同志って感じよ。一番信用出来る存在ね。お互いのことをよくわかってるんだから」
「それは仲間でも同じなのでは?」
「安心感が違うわね。キゴコロが知れているって言うのかしら。100%の信頼があるもの」
コロラドの姉妹に対する考え方はそれ。戦いの中に身を置くことから、仲間の中でも特に組んでて信頼出来る存在というところに重きを置いている。ある意味姉妹艦の愛情というのは薄いのかもしれない。
潜水艦姉妹には少々参考にならない意見と言えよう。施設では戦いというのはあまり考えない方向で行きたい。
「アンタの中にも確か姉妹が入ってるのよね」
「はい、私とは無関係でも、伊勢と日向は姉妹なので、互いをどう思っていたのかはわかりますよ。でも、あまり参考にはなりませんよ?」
大鳳も例に漏れず、混ぜられた者の記憶を全て内包してしまっているため、伊勢と日向が姉妹としてどう考えていたかは知っていた。
「特段仲が悪かったというわけではないですが、互いを姉だ妹だと思っていなかったみたいです。友人感覚というか、日向に至っては
「それはSistersとは言いづらいわね。Classmateみたいなものかしら」
「かもしれないですね。思い返してみれば、日向は伊勢のことを姉と呼んだことは一度もありませんでした」
ただ、こういう姉妹の関係もあるのだと知ることは悪いことではないと考える。この2人にとって、姉妹という関係は完全な後付け。呼び名が無いためにそうなっているだけで、何かしらの記憶があれば、同じ境遇の同志という感覚になっていたかもしれない。
「私の考え方も、コロラドの考え方も、貴女達にはあまり参考にならなかったかもしれませんが、これでよかったですか?」
「参考になった。それぞれいろいろと考え方があることがよくわかった」
「姉妹と一括りにしても、関係はいろいろある」
学びにはなったため、潜水艦姉妹はまた新たな知識を得たと言える。
「私からしてみれば」
ここで最後にコロラドが2人を見ながら言葉を紡ぐ。
「そこまでどうこう考えるまでもなく、アンタ達はSistersとして成立してるわよ。見た目とかはさておき」
そんなことを言われて、顔を見合わせる姉妹。コロラドはそういうところだと即座に指摘。
「言われてもまず相方の表情を窺うなんて、姉妹以外の何者でも無いでしょ。そうじゃなかったとしても、相当
「確かに。姉妹とは何ぞやと聞いて回るのもいいかも知れませんけど、貴女達は充分姉妹をしていますよ。というか、意識してやることじゃないです」
「Sistersなんて
つまり、聞いて回っていたものの、そこまで拘らずにお互いを大切に思ってるならそれでいいだろと言っている。身も蓋もない言葉かもしれないが、この2人の姉妹に対する感情はそういうものなのである。
姉妹姫や春雨と海風とは違う、姉妹という関係に全く重きを置いていない。ある意味、潜水艦姉妹と同じように名目上の姉妹なのだ。だが、そういう括りにされているために互いのことを理解し、信頼出来る仲間としての認識に落ち着いているのみ。
「そういえば、コロラドの中に混じっている姫でしたか。同じような感じの2人だったと思いますけど、姉妹だったり」
「しないわよ。というか、この子達は
「仲が悪い者同士を入れられるとは……貴女もなかなかに不運ですね」
「別に私の中で反発しあってるわけじゃないから痛くも痒くもないわ。その力だけ使わせてもらってるから」
大鳳とコロラドが話している間も、潜水艦姉妹は2人で考え、小さな答えに辿り着く。
「姉妹とは何か、理解した」
「深く考えることが、意味がない」
「自由にお互いを大切に思えばいい」
「姉とか妹とか関係ない」
姉妹間の考え方はあまりにも人それぞれ。親密な者達もいれば、そこまででもない者もいる。だから、潜水艦姉妹は潜水艦姉妹で好きなような関係になればいい。無理に姉妹を取り繕うとかする必要なんて全くないのだ。それで姉妹として見られるくらいに親密ならば、それはそれでいい。
「ま、それでいいんじゃない? 変なことで悩むより、自由に生きればいいわよ。アンタ達も解放されたんだから」
「そうですね。せっかく得られた機会ですし、好き勝手に生きればいいと思いますよ。ここはそういう場所なのだと教えられましたから」
コロラドも大鳳も、潜水艦姉妹の辿り着いた答えを否定することは無かった。
潜水艦姉妹の悩みはこれで一段落。とはいえ、2人で一緒にこうやって仲間に聞いて回った経験は、互いの関係をより親密にしたと言える。
この後、松竹姉妹に聞くことは無かった。聞いてたら確実にいろいろ歪んでいた。それまでに答えが出て良かった。