空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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顔を合わせるため

 午後の哨戒でも施設近海には何も無く、明石が置いていってくれた眼鏡を使って完全に泥が無いことも確認している。

 大塚鎮守府で内乱を引き起こそうとしている間に、施設側にも何かしらの攻撃をしてくる可能性はあったのだが、そういったことは今のところ無いようだ。あちらも次の手段を考えているのかもしれない。

 

「ミシェルちゃんは初めての深夜哨戒になるけど、大丈夫かしらぁ?」

 

 夕食の時、夜の哨戒のことをきちんと打ち合わせしておく。他の者はさておき、ミシェルはヒトの身になって初めての徹夜だ。何か不都合があったりするかもしれない。

 

「大丈夫っぴょん! ジェーナスちゃんにいろいろ聞いたし、白露ちゃんにも前にやった時にどうすればいいのか教えてもらってるぴょん!」

「見て回るだけならミシェルにも出来るわ。夜だからちょっと大変かも知れないけど、前にやった時もすっごく頑張ってくれたんだもの」

「実際、ミシェルは優秀だったよ。いざって時に潜れるってのは便利だなーって思った。いろいろ出来るようになったあたしでも、潜ることは出来ないからなぁ」

 

 一緒に哨戒をしている白露とジェーナスがミシェルでも大丈夫だと言うため、中間棲姫もそれなら大丈夫とした。特に白露が優秀だと称しているため、心配する必要もないと考えたようである。

 実際、ミシェルは昼夜問わず哨戒活動で非常に優秀な能力を持っている。目がいいとかそういうことでは無いのだが、やはり潜れるというのはかなり強く、そのおかげか海中に対する反応もかなり強め。夜の暗闇の中でも当たり前のように活動していたのは、前回の潜水艦姉妹との戦いでもよくわかっているため、ミシェルは何も知らないだけで万能戦力と言える。

 

 とはいえ、ジェーナス的にはミシェルが戦闘に出ることはあまり嬉しいことではない。だからか、主砲や魚雷の使い方も教えることはしてなかった。本能的に使ってしまう可能性はあり得るが。

 

「今日の夜は、私が参加します」

「オッケー。コマさんなら視野も広いし、もっと安心だよ」

 

 今回の哨戒の保護者は前回は古鷹だったが今回はコマンダン・テスト。今までと違って保護者としてついていける者が増えているため、この辺りは固定ではなくなる。大鳳が増えれば尚更。

 

「タイホー、夜は私がついていられなくなりますが、大丈夫、でしたか」

「はい、大丈夫です。ご覧の通り、大分動けるようにはなってきましたから。まだ痛みはありますが、皆さんと一緒にご飯が食べられるようになったのは大きいですね」

 

 大鳳は未だ療養中ではあるものの、筋トレを始めているくらいであるため、復帰は近日中であると言える。ずっと部屋に篭っていたのも、今では自分の足でダイニングまで歩いてくることが出来るようにまでなっていた。

 痛みが全て無くなるまではまだ時間はかかりそうではあるが、やろうと思えば戦闘に参加することも可能。しかし、未だ失われた腕を生やすようなことはしていないため、そちらの練習から始まりそうではある。

 

 古鷹よりも回復が早かったのは、()()()()()()というのもあるだろう。白露のような超回復能力ではないが、最前線で戦うための能力として、傷が治りやすくなっているというのはある。

 

「寂しかったら私達の部屋に来てくれても構わないわよ」

「ありがとうございますコロラド。その時は是非」

 

 やはり治療された者は身を寄せ合う方向に向かっている。最終的には各々の部屋に戻るかもしれないが、まだ治療されて間もない今はそういう心の支えも必要になるだろう。開き直れても、夜にどうなるかわからないのが不安定な心である。

 

「それじゃあ、今日はこれでおしま」

 

 夕食も終わり、片付けたら今日は終了となったところで、非常に珍しいこのタイミングでタブレットが鳴った。むしろそれは、夕食時を狙ってのコールかも知れない。

 

「あら珍しい。また提督くん、残業してるのかしらぁ」

「時間的には業務時間外よね。相変わらずといえば相変わらずか」

 

 飛行場姫が小さく溜息を吐きつつ、タブレットを操作する。

 

「珍しい時間じゃない。こっちはギリギリ夕食が終わったところだけれど」

『すまない。そのタイミングを狙わせてもらった。そこに全員いるのはこの時間だろうと思ってね』

 

 そんな提督の表情は、非常に複雑な表情をしていた。

 

「緊急の連絡なのかしらぁ。何かまずいことでも?」

『いや、まずいことは何もない。ただ、伝えておきたいことがいくつかあってね』

 

 その1つは喜ばしいニュース。大塚鎮守府からの帰投は無事終了し、大将の帰投も先程完了したとのこと。帰り際に狙われるなんてことも考えられたが、その辺りは何事も無かった模様。

 この連絡が鎮守府のタブレットで出来ている時点で、大塚鎮守府への出向は全て無事完了したということになる。当然ながら、鎮守府内に泥を持ち込む羽目になるようなこともなく、現状を正しく維持出来ていると言えよう。

 

『それはいいんだが、明日、またそちらに遠征に向かわせる。定期的な状況把握が必要だからね。そちらに救われた4人のことも詳細に知っておきたい』

「そうなのねぇ。問題ないわぁ。みんなも別に構わないわよねぇ?」

 

 ダイニングに揃っている面々は、別に断る理由が無いため、事前に許可を取ろうとしたことが律儀だと思いつつも丸を出す。

 

『それで、だね。初顔合わせになる子もそちらに向かう』

「あら珍しい。どちら様かしらぁ。この前の大淀ちゃんと明石ちゃんでも無い子なのよねぇ」

『ああ……()()()

 

 その名前が聞こえた瞬間、ジェーナスが固まった。

 

「まだ新人なのに、ここに来れちゃうの?」

『実はだね、荒潮はもう改二改装まで達成した。文句無しに我が鎮守府では最速記録を叩き出したよ』

 

 なんでも、提督が鎮守府に戻ったタイミングで練度がその域に達していたらしく、改装を断る理由が無かったためにそのまま改二へ。そして、ある意味生まれ変わった艤装の慣らし運転までも、今日中に終わらせたらしい。

 

 その理由は実に簡単で、1つは武蔵を筆頭とした大将の艦娘達が荒潮を徹底的に鍛え上げたからである。荒潮がそれを望み、無茶をしない程度に毎日みっちり詰め込んだことによってここまで早く練度が上がった。

 2つ目として、荒潮自身の才能がある。その訓練の内容を余すところなく吸収し、全て自分の力へと取り込んでいった。結果、この超短期間であるというのに、砲撃も雷撃も並以上に成長しているという。

 

『軽率だったかもしれないが、僕は彼女に、施設へ遠征に行くのならせめてある程度成長してからだと言い聞かせていたんだ。改二改装はそのある程度になる』

「なるほどねぇ。それは確かに、充分すぎる成長ねぇ」

 

 努力が実ったと言っても過言では無い成長である。改二改装はいわば、前線に出てもいい程の練度の証明ともなり得るからだ。

 荒潮がここまで努力したのも、ひとえにジェーナスに対する想いの力である。

 すぐにでもジェーナスに会いたいという気持ちを逸らせることもなく、地道にかつ確実にここまで来た。大分駆け足ではあったが。

 

『明日いきなり行くと言ってもまずいと思って連絡させてもらったんだ。荒潮は、そちらのジェーナスといろいろあるだろう?』

 

 ここまで言葉も無かったジェーナスも、流石に気を取り直していた。荒潮と顔を合わせる時がついに来てしまったと身体を強張らせたものの、それだけ荒潮が自分と会いたがっているというのがわかり、無下には出来ないと思い直す。

 とはいえ、トラウマを作った張本人でもあるのだ。本人はそのことを忘れているものの、それでも説明を受けたことで、ジェーナスにとってどう思われているかも理解している。

 それに、画面越しの対話で過去のことは水に流すとしたのに、いざ面と向かって話すのは拒否するというのは良いことではない。

 

「大丈夫、大丈夫よ。私は開き直ったんだもの。アラシオとだって、顔を合わせて話すことくらい出来るわ。むしろ、そうしないとダメ。私よりも、アラシオが辛い思いをしちゃう」

 

 荒潮だって被害者。これ以上辛い思いをするのは間違っている。そう考えて、明日の対面は一切拒否することなく進める。

 

「でもジェーナス、あたし達今から深夜の哨戒だよ。時間的に、あっちが来た時は寝てる時間じゃない?」

「あ、た、確かに……お昼までいてくれるなら話は出来るわ」

 

 せっかく努力して施設への遠征が可能となったのに、来てみたらジェーナスは眠っているなんてことがあったら、荒潮はショックを受けるだろう。いや、表には出さないだろうが、内心では落ち込んでしまうか。

 ジェーナスとしても、それは避けたい。努力を無下にするような行為はしたくない。

 

『明日1日を使わせてもらえればと思っていたが、どうだろうか。朝早くからそちらに向かわせるなんてことはしないし、勿論昼食はこちらで用意する。君達には一切負担はかけない』

 

 それならば問題ないと、満場一致で日程が決まった。

 

「ジェーナスちゃんのお友達ぴょん?」

 

 荒潮の名前を初めて聞くミシェルは、荒潮という存在にも興味津々。ジェーナスの表情からその複雑な感情を読み取るようなことはしなかったものの、かなり強めの反応をしていたため、あまり会えない友達か何かかと思っていた。

 

「なんというか、ね、ちょっといろいろあって、顔を合わせづらい子なの。でも大丈夫、どっちが悪いとか、そういうのじゃないのよ」

「ぴょん? ミシェルにはよくわかんないぴょん。あっちのヒトってことは、ミシェル達の仲間ってことだよね。だったらお友達ぴょん!」

 

 仲違いなどの意味がわかっていないため、鎮守府の艦娘達はみんな仲間であるとして、その裏側にある感情は全て度外視。むしろ理解しようとしていないため、疑問すら浮かんでいない。顔を合わせづらいと言われても、何故そうなっているのかという疑問が浮かび、そして理解しないために結局友達という位置に落ち着く。

 こういう時にミシェルの性格は非常にいい方向に向かう。荒潮は友達。それでいい。開き直ると決意したのだから、当然関係性は友達というカタチで間違っていないのだ。第一印象が酷すぎただけで、荒潮自身も強く後悔し、どうあってもジェーナスを悲しませないといい意味でも悪い意味でも自分を抑え続ける。

 

「そう、ね。アラシオはFriendよ。とっても大切な」

「だったらミシェルともお友達ぴょん! みんなが友達なんだから、いっぱい遊べるぴょーん!」

 

 短絡的ではあるものの、今はそれが助かる。この考え方は、決して悪くはないはずだ。

 

『それでは、明日また部隊が出発したら連絡させてもらうよ』

「ええ、よろしくお願いねぇ。待ってるわぁ」

 

 通信終了。明日の日程はこれで決まった。来島はそこまで時間は経っていないが、荒潮の来島という大きなイベントが決定した。

 

 

 

 

「聞いての通りだ、荒潮」

 

 この対談の向こう側。画面に映っていないところには、荒潮が待機していた。ちょくちょく聞こえたジェーナスの声に一喜一憂したものの、向かえることが決まったときには思わず小さくガッツポーズをしてしまったくらいである。

 

「ええ、明日の遠征、楽しみにしているわぁ」

 

 スキップしながら執務室を出て行く。その背中を追いながら、本当に大丈夫かと思いつつ、自制心があることもここ数日間で理解しているため、今はまずやらせてみるところからにする。

 きっと上手く行く。荒潮なら、ジェーナスを悲しませることはない。

 




ついに荒潮も改二。実際、練度67で改装なので、成長は他の艦娘よりも早いのは当然なんですよね。
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