空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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荒潮来島

 翌朝。深夜の哨戒も無事に終わり、施設近海に何者かが近付いているようなことは無いことが確認出来た、コマンダン・テストの目により本来より遠方、ミシェルの潜水により海中まで視野を拡げているため、信頼度は高め。勿論、例の眼鏡も使っている。

 

「また何かあったらどうしようかと思ったわよ」

「いやぁホントにね……あたしとしてもなんか哨戒にいい思い出が無くなりつつあるよ」

 

 ジェーナス白露組が哨戒の当番の時に限っていろいろあった。1回目は荒潮との邂逅、2回目は深夜の襲撃。そのどちらもこの2人が絡んでいる。

 二度あることは三度あるとも言うように、今回も何かあるのでは無いかとビクビクしていたようだが、幸いなことに本当に何も無かった。その経験からじっくりと周囲を確認しているというのもある。

 

「お疲れ様、みんな」

「深夜の哨戒お疲れ様です。春雨姉さんが飲み物を用意しています。その慈悲に海風も感動してしまいますね」

「あはは……まぁ、慈悲とかそういうのは関係なしに、疲れてるだろうからまず休んでほしいかな」

 

 今日出迎えたのは春雨と海風。悪寒ではなく、たまたま目を覚ましたということで、どうせなら出迎えようと外に出てきていた。そこでお茶までしっかり用意しているところが春雨の優しさ。

 

「ミシェルちゃん、大分おねむだね」

「そうね。前回のBattleの時と違って、今回はのんびりだったから、どうしてもこうなっちゃうわ。私達だって眠いもの。初めてでよく保った方よね」

 

 いつも元気なミシェルも、今回ばかりは静か。コマンダン・テストの尻尾にもたれかかるようにしながらうつらうつらとしていた。

 

 駆逐イ級の時とは勝手が違うようであり、しかも前回の夜の戦いは初めて今の姿になったことで興奮状態だったというのもあった。何事もない深夜をのんびりと行ったり来たりというのは、どうしても眠気を誘うものである。

 ジェーナスや白露のように、2人揃っての哨戒で何かと事件が起きているという緊張感があれば、日が昇るまでは当たり前のように保つのだが、ミシェルはそういった危機感は若干薄い。それ故に、ただただ疲れて眠気に襲われ、そしてほぼ敗北を喫する。

 

「ね、寝てない、寝てないぴょん」

「大丈夫よMichelle。もう施設に着いたから」

「うゆぅ……」

 

 ばっと目を開くミシェルだったが、すぐにまたうつらうつらと船を漕ぎ始める。ジェーナスも苦笑しつつもミシェルはよく頑張ってると頭を撫でて、そのまま寝かせてもいいやとコマンダン・テストに任せる。

 実際戦闘や危険な何かが見つかった時は、眠気なんて一気に吹き飛んで臨戦態勢に移れるのだろうが、今回はこれでも何も問題はない。それに、ミシェルは潜水という違うこともやっているのだから、疲れて当然。

 

「お風呂は起きてからの方がいいかしらね。飲み物を貰ったら、私もMichelleと一緒に寝ちゃうわ」

「そうしといて。あたしが午前の哨戒部隊に引き継ぎしておくからさ。次は叢雲と薄雲だったよね」

「はい。保護者枠は古鷹さんです」

「あいよー。じゃあ朝ご飯の時くらいに話しておこう。あたしはその後に寝ればいいかな。眠気より食い気だから」

 

 引き継ぎと言っても、何処をどれだけ回って結果的に何も無かったというのを伝えるだけ。午前の哨戒では、その続きから見て回れるようにするくらいなので、別に全員揃っている必要すら無いのだ。

 そういう時は白露が引き受ける。深海棲艦化する前の練度で言えば、白露は誰よりも高かったりするため、なんだかんだリーダーシップをしっかりと発揮していたりするのである。自分でもいっちばーんと言い続けるだけあった。

 

「それじゃあTeste、Michelleを運ぶの手伝ってもらっていいかしら」

「Oui. 勿論です。Janusの部屋でよかったですよね?」

「Yes. ハルサメ、飲み物は後から取りに行かせてもらうわ」

 

 その足で3人は施設の中へ。

 

「……ジェーナスさ、これからのこと、割と緊張してるっぽい」

 

 ボソッと白露が呟く。春雨もやっぱりと返す。

 

 哨戒中、この後起きることについて愚痴というか相談を白露にしていたらしい。ミシェルが潜水して海中を確認しに行っているタイミングを狙って話しかけてきたようなので、ミシェルに余計な心配をさせないようにしているのもわかる。

 やはり、開き直ったと主張しているものの、荒潮と画面越しでなく実際に顔を合わせるというのは、今からの段階でも緊張しているらしい。自己申告するほどだから相当である。

 

「荒潮のことを傷付けたくないって言ってた。ジェーナスだって被害者だけどさ、荒潮だって酷い目に遭ってるんだから、おあいこ……っていうか、お互いに気にしちゃいけないんだって。でも、笑って顔を合わせることが出来るかわからないってさ」

「そう……ですね。荒潮ちゃんの前では、難しいかもしれません」

 

 そして、もし荒潮が傷付くようなことがあれば、ジェーナスの自己嫌悪が刺激され、間違いなく発作を起こす。そうならないためにも、荒潮の前では平然を演じなくてはならない。傷付くのは自分だけで充分だと。

 

「でも、それをサポートするのが仲間である私達の役目ですから。それに、今はミシェルちゃんもいますし、悪い方向には行きませんよ」

 

 自信満々とはいかないが、春雨は少しだけ強く言った。これは直感が働いているのかどうかはわからないが、春雨が確信をもって言うなら信用度が高い。

 海風も隣でうんうんと強く頷く。春雨がこう言うのだから、荒潮が訪ねてきても大丈夫だと春雨以上に確信をもっている。盲信ではあるのだが、こういう時のポジティブは空気を良くするため、春雨もいつもの買い被らないでほしい的なツッコミは入れなかった。

 

「まぁそうだね。流石に誰もいないところで1対1で(サシ)で話すようなことはしないだろうし、むしろあたし達がそんなことさせないね」

「はい。ジェーナスちゃんのことを知っているからこそ、私達が見守る場所で顔を合わせてみましょう。それに、ミシェルちゃんはジェーナスちゃんから離れないでしょうから」

 

 誰の目も届かないということは無いだろう。ミシェルが2人の間に立つことまで考えられるのだから。

 

 朝食後、白露も就寝。ジェーナスは宣言通り、眠る前に春雨の用意した飲み物だけので眠りについた様子。昼食時前後でお腹を空かせて目を覚ますことになるだろう。

 

 

 

 

 午前中も折り返しというところで、鎮守府の面々が来島する。哨戒中の叢雲が先んじてその存在に気付いていたが、事前に話を聞いていたためスルー。勿論、哨戒部隊は泥を感知する眼鏡も使っているため、鎮守府からの部隊に危険性が無いことも確認済み。

 お出迎えはいつものように姉妹姫と春雨海風ペア。いつもなら白露も加わるところだが、現在爆睡中であるため欠席。

 

「確かに荒潮が入っているわね。前に見た時とは随分と様変わりしているわ」

 

 飛行場姫の哨戒機も鎮守府の面々を捉える。メンバーは今までと比べると若干少なめ。状況が状況だからか、鎮守府の防衛にも割いていることから、必要最低限のメンバーとされていた。

 調査隊としての山風を筆頭とした白露型3人、航空戦力としての千歳と千代田、海上の戦力として特に強い武蔵、島風、北上、大井の大将の艦隊。ここに荒潮が加わったカタチ。金剛、比叡、サラトガは、鎮守府の防衛として残っている。宗谷も今回は輸送する物がない上に調査することもないため、鎮守府で待機。

 

 そこに加わった荒潮は、以前に画面越しに顔を合わせた時とは大きく成長していた。見た目からして若干育っており、以前が高学年の小学生程だとしたら、今は中学生といったところ。

 改二改装で見た目から変わる者というのは少なからずおり、春雨のよく知る白露型の姉達は、時雨を除いてそのタイプである。荒潮もその類。制服まで変わっているため、何処ぞでは小学校を卒業して中学校に入学したなどと喩えられることも。

 

「山風、あの中でもちゃんと隊長出来てるね」

「はい、もう本当に一人前ですね」

 

 そんな面々の先頭を駆ける山風の姿を見て、姉として大いに喜ぶ春雨と海風。いつも姉の後ろを歩いてきた山風が、今やあの大部隊の隊長。誇らしくすら感じた。

 水平線の向こう側に姿が見えたところで手を振ると、江風と涼風は大袈裟に手を振り、山風もかなり遠くではあるが小さく手を振っているのがわかる。自信満々とは言い難いが、それでもかなり前向きになっていた。

 

 そこから少しして、全員が島に到着。山風がちょいちょいと手招きをして、荒潮を一番前に置く。

 

「お疲れ様ぁ。画面越しではなく実際に会うのは初めてねぇ。改めて、私はこの施設を預かっている姉姫よぉ」

「知ってると思うけど、アタシが妹姫よ。よろしく」

「ご丁寧にどうも〜。ご存じ荒潮です〜」

 

 2人してのんびりと間延びした話し方であるため、ここだけ時間の流れが遅くなっているかのようだった。

 

「あぁ、やっぱり深海棲艦の方々は綺麗ね〜。画面越しでも良かったけれど、直接会うことが出来て本当に嬉しいわ〜。握手してもらってもいいかしら〜」

「どうぞぉ、それくらいなら喜んで」

「うふふふふ、直接触れられるなんて夢のようだわ〜」

 

 中間棲姫と握手しながら微笑む荒潮からは、警戒するほどではないが分け隔てない愛を感じる。ジェーナスのために抑え込んでいるとはいえ、やはり抑え切れないくらいの愛情を持っている様子。許容範囲内ではあるため、姉妹姫は共に笑って済ますことが出来るレベル。

 ジェーナスは特別中の特別だが、深海棲艦そのものを愛しているのが荒潮だ。この施設は楽園と言っても過言ではなく、()()()()()()()()()()()()という認識。その視線は当然、春雨や海風にも及ぶため、さりげなく海風が春雨の盾になるような位置に移動した。

 

「ジェーナスちゃんはまだ眠っているのよね〜」

「部屋に行きたいなんて言わないでしょうね」

「まさか、そんなことしたらジェーナスちゃんが嫌な思いをするもの。私はジェーナスちゃんにそんな思いをさせたくないもの。夜這いしてもいいと言われたら行くわ〜」

 

 そこはしっかり弁えているようである。行きたいという気持ちは一切隠すつもりはないようだが。

 

「……それまでは、いつも通り鎮守府であったことの情報共有で」

 

 あまりそのままにしておくと荒潮が止まらなくなりそうなので、山風が割り入って話を進めていく。

 

 荒潮とジェーナスの直接の対話は、今回の遠征の一大イベントではあるのだが、本筋はあくまで情報共有。通信でも出来ることかもしれないが、救われた者達の動向は直に見ないとわからない部分もあるため、今回はそこがメイン。

 治療の現場を見ているため、事後観察というのもある。大鳳は未だに療養中だが、コロラドと潜水艦姉妹は既に活動中だ。その様子なども見れるものなら見ておきたい。

 

「山風……本当に立派になって」

 

 海風は何処か感動すらしてしまっている。心の中では一番は当然春雨なのだが、二番は山風と言ってもいいだろう。深海棲艦化の影響で鎮守府を空けてしまっていることがどうしても心残りであるため、山風の成長は自分のことのように嬉しい。

 

「山風の姉貴、マジで頑張ってっからさ、機会があったら褒めてやってくれよな」

「そうそう。訓練とかもめっちゃくちゃ頑張ってんだぜ。北上さんと大井さんがすげぇ手伝ってくれっから」

「おいそこの駆逐艦(ガキ)共、余計なことを言うんじゃないよ」

 

 あくまでも駆逐艦ウザいキャラで行きたいような北上であるが、もう誰もが北上の子供好きには気付いているため、生温かい視線を向けるのみである。

 

「北上さん、大井さん、山風のことをありがとうございます。心身共に強くなってるのが見てとれて、姉として嬉しいです」

「あーもう、あたしゃそういうキャラじゃないってのに……」

「北上さん、もう諦めましょう」

「一部大井っちのせいでもあるからね?」

 

 

 

 

 終始和やかな雰囲気で続く。しかし、荒潮にとってはその時が刻一刻と近付いてきているので、表には出さないものの緊張は尋常では無かった。

 ここで顔を合わせて、面と向かって拒絶されたら。そう思うと、怖くて仕方なかった。

 




次回、ついに顔を合わせる荒潮とジェーナス。酷いことにならなければいいですが、何かあるかもしれませんね。
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