空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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再来

 今回の哨戒は一度施設に戻るルートを選択。行って帰ってきたところで、鎮守府の面々が帰投準備をしているところとなるからである。

 帰路が安全であることをある程度確認出来ていることで、少しは気分が楽になることだろう。ついでに哨戒を再開するためにギリギリまで見送るため、より安全に帰ることが出来る。

 

「それじゃあ……今日はこの辺りで」

 

 春雨達が岸に到着したタイミングを見計らって、山風が中間棲姫にお辞儀。今回は施設側も少し忙しめだったため、海風と話をする時間があまり取れなかったのだが、この帰路を半分まで行かないまでも一緒に航行出来るため、少しだけ嬉しそうにしていた。無論、他の仲間達にはその感情はほぼ筒抜けである。

 

「ええ、ありがとうねぇ。またみんなで来てちょうだいねぇ」

「……うん、また来る。荒潮ちゃんも来たがってるし」

 

 その荒潮は、ギリギリまでジェーナスと話が出来ていたために、終始惚けたような笑みを浮かべていた。

 今までのギスギス感が何処かに行ってしまったように仲が良くなり、そこにミシェルも加わったことでより明るい関係となっている。荒潮の中では、もっと強く近い関係になりたいという下心が悶々と溜まっているのだが、この関係を崩さないためにキッチリ抑え込んでいた。

 

「次からの調査隊にも、必ず参加させてもらうわ〜。またジェーナスちゃん達と話がしたいもの〜」

 

 それまではまた訓練に勤しむとのこと。ジェーナスの平和を守るため、今以上に強くなり、さらに安全にここまで来れるようにしておきたいと。

 それを聞いて意気込むのは、荒潮ではなく武蔵だったりする。のみ込みが早い荒潮を鍛えるのは、武蔵からしても楽しいらしい。

 

「私達はみんなを送ってきますね。そのまま哨戒を続行するカタチで」

「ええ、よろしくお願いねぇ。今は安全かもしれないけれど、もう何が起きてもおかしくないんだもの。みんなで力を合わせていかなくちゃねぇ」

 

 次々と帰路に就く鎮守府の面々と共に、春雨達もまた施設から離れた。

 

 潜水艦姉妹も海中から追ってきているため、万が一海中から何者かの襲撃があったとしてもすぐにわかる。海上は言わずもがなだ。千歳と千代田が哨戒機を飛ばしながら周辺警戒をしているし、春雨達だけではなく山風も泥を感知する眼鏡を持参してここまで向かってきているのだから、万全な態勢である。

 コロラドは最後尾から、武蔵や北上、大井と仲間達の安全を確認しながら、春雨と海風は最前列で山風筆頭の妹達と進路に何も無いことを確認しながらの航行となる。全員揃って進める場所はそこまで遠くではないのだが、そこそこの時間はある。山風にとって、その時間が一番の至福の時。

 

「海風姉……あたし、頑張れてるかな」

「ええ、勿論。本当に目を見張る程よ。山風、本当によく出来てる」

 

 海風に褒められて、しかも頭まで撫でられたことでご満悦な山風。今までの努力が報われ、より一層頑張ろうと気合が入る。

 そんな様子を見て、江風と涼風も嬉しそうである。山風の努力を一番近くで見届けていたのは、紛れもなくこの妹2人だ。

 

 どちらも自分の訓練を優先にしつつも、なんだかんだ山風には目を向けている。山風も、海風と同様に何かしらがキッカケとなって感情が溢れ出してしまう可能性があったからだ。

 それも今では大分落ち着き、むしろ海風がこうなってしまう前よりも強く芯のある性格に成長しているまである。荒潮ほど顕著ではないが、山風も海風のためにと努力するタイプになっていた。

 

「マジですげぇンだよ山風の姉貴。北上さンも大井さンも、江風達のことガッツリ鍛えてくれてンだけどさ」

「ゼエゼエ言いながらでもしっかりついてけてるんだよね。その代わり、夜グッスリなんだけどな」

「疲れ果てるくらいまで訓練してるんだ。私がまだ鎮守府にいた時はそこまでじゃなかった気がする」

 

 春雨も驚く山風の成長。隊長としてはこれ以上ない程の存在となりつつある。そうなった理由が海風の深海棲艦化というのは複雑ではあるのだが、成長していることは素直に喜んだ。

 

「海風の姉貴にああやって褒められるためにさ、慣れないことも頑張ってやってンだよね」

「あたいら結構一緒にいること多いんだけど、終わった後とかすごい愚痴とかも言うんだぜ。でも、それだけでやめるって言わねぇの。すげぇよホント」

 

 妹達のそんな言葉が聞こえてきたか、恥ずかしげに顔を赤らめて抗議の視線を向ける山風。だが、海風はそれすらも褒めるため、抗議は出来ずにそのままニヘラと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 しばらく行って、哨戒範囲ギリギリの場所。ここまで来たら鎮守府の面々とはお別れ。何度も何度も確認して、泥の感知もせず、違和感を覚えるようなものも存在しないため、あとは任せたとここで同行を終了した。

 見えなくなるまで手を振って、水平線の向こう側に消えたことで哨戒が再開される。

 

「それじゃあ、ここからいつも通りグルッと回りましょう。潜水艦の子達も大丈夫かな」

 

 呼び出しの合図として、海面をトントンと2回叩く。春雨は今脚を消しての航行であるため、手でノックした。すると、すぐに姉妹が浮上してくる。

 

「定期連絡。こちらには何もない。何かの痕跡も無い。視界にも何も入らない」

「鎮守府の艦娘達が向かう先にも、見える範囲では何も無い。この海域は安全と保証する」

 

 仲良く頭だけを海上に出した姉妹が、淡々と状況説明。何の感情も含まれていないのなら、それはそれで信用度は高い。この2人もその性質上、嘘をつくことが出来ないようなものであるため、思ったことをそのまま話している。

 

「ここからはいつもの哨戒に戻ります。ひとまず時計回りに一周かな?」

「了解。そちらの動きに合わせてこちらも動く」

 

 それだけ言って、また仲良く潜っていった。

 

「あの子達、本当に変わったわね」

 

 ただそれだけでも、コロラドとしては充分な成長を感じたようである。全く同じタイミングで治療を施され、その時からちょくちょくと様子を見ていたのだが、最初と比べると大きな変化を感じる程だった。

 治療された当初は本当に機械的。依頼を受けなければ行動すらせず、依頼主となった飛行場姫についていくだけの存在だったが、今では2人で独自の行動をし、感情は無くとも()()()()()が何かを理解しているように手を繋いだり息を合わせたりしている。もう哀れな操り人形ではない。

 

「姉妹とは何かとか聞いて回っていた時は何事かと思ったけど、あの子達はあの子達でちゃんと答えを見つけてるようで何よりだわ」

「ですね。私達も聞かれましたし、それが参考になったかはわかりませんけど、ああいうカタチに落とし込まれたのなら何も悪いことはないですね。仲のいい2人って、私もわかりますから」

 

 それこそ、松竹姉妹のように共依存となっている可能性もあるが、だとしても人形から脱却しているのなら、今までよりもマシと言えるだろう。このまま大切なモノと共に過ごすことで、感情も少しずつ芽生えていき、最後には笑顔を取り戻すかもしれない。

 

「コロラドさんって……意外と見ているんですね」

 

 海風の若干辛辣な言葉に、コロラドは顔を顰めながらも小さく溜息を吐く。

 

「悪かったわね。これでも戦艦、BIG SEVENの1人なんだもの。艦隊旗艦が出来るくらいに周りは見えてるの」

「何というか、叢雲さんと小競り合いしているヒトというイメージが強くて」

「それはアイツが勝手に絡んでくるだけでしょ。私は適当にあしらってるのよ。なんだかんだアイツは駆逐艦(ガキ)なんだから、大人の余裕で付き合ってやってるだけ」

 

 その割にはムキになってると言いかけたが、春雨にアイコンタクトを受けたことで口を噤んだ。変に刺激して面倒臭いことになったら、哨戒が滞るかもしれない。

 それに、こんなことを言いながらも、コロラドは叢雲のことも気にかけているのだから、口が悪いだけで優しい性格をしているのは確かだ。叢雲のように怒りが溢れているわけではないので理性もしっかりある。理性的なまま子供のような言い合いをするところが少々幼い感じはするが。

 

「さっさと行きましょ。ただでさえ今回はいつもよりも遠回りしてるようなモノなんだから」

「ですね。行きましょう」

 

 世間話を切り上げ、予定通り時計回りに哨戒を再開しようと思った瞬間、春雨は何か予感のようなモノを感じ、ビクンと震えた。

 

「うぇっ!?」

 

 だが、今までの悪寒とは何処か違う、()()()()()()()()予感。その場に蹲るようなことでもなく、まるで死角から脇腹を突かれたような驚き。

 

「春雨姉さん、どうしました!? 敵ですか? 春雨姉さんを狙う不届き者ですか? この海風が八つ裂きにしますので安心してください。危害を一切加えさせません。コロラドさん、姉さんを守るのを手伝ってください。春雨姉さんは施設の第二、第三の要。やられたら私達に勝ち目は無くなります。それくらい偉大で崇高なお方ですから」

「最後の方は知らないけど、ハルサメが何か感じ取ったのは確かなのよね。Intuition(直感)Sixth sense(第六感)、辿り着く者のそれは信用しないといけないわ」

 

 海風がバッと春雨の前に躍り出て、右腕を盾に変形させる。コロラドも何が起きるかわからないと、カニの甲羅の盾を展開した。

 

 すると、先程潜ったはずの潜水艦姉妹が合図無しに浮上してくる。

 

「質問。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あまりにもおかしな質問に、3人が3人、おかしな声をあげかけた。

 

「我々は視野が広い方。この目で確かに見た」

「海底を歩く者がいた。こちらに向かってきている」

「人数は3人。うち、1人は()

 

 これでようやくピンと来た。春雨も海風も、その存在を知っている。たった一度だが、顔を合わせ、会話もしている。コロラドだけはちんぷんかんぷんだと首を傾げるのみ。

 

「そのヒト達は味方! こっちに来てる!?」

「歩いているが、その速度はかなり速い」

「おそらく、すぐに会敵する」

「敵じゃない、敵じゃないから!」

 

 このタイミングでここに現れるというのは何故かはわからない。しかし、来てくれたのならば、歓迎する必要がある。

 まさか海底を歩いてここまで来ているとは思っていなかった。おそらくだが、先程までここに鎮守府の面々がいたからだ。ソナーや哨戒機にその存在を捕捉されないように、しかし施設の面々にはその存在を知らしめるように、真正面からここまでやってきている。

 

「どちら様なのよ。そんな悠々と歩いてくるようなヤツって」

 

 春雨がこう言うものの、コロラドは何処か懐疑的。味方と言われてはいそうですかと言えるような環境に無いことは理解している。

 

「コロラドさんは聞いたことなかったですか。そのヒトは、姉姫様の育ての親のようなヒトなんです。中立の立場のヒトなんですけど、今は摂理を崩しているとか何とか……」

 

 そうこうしている内に、潜水艦姉妹が海中をじっと見つめていた。

 

「浮上してくる。目の前」

 

 言うが先か、大きな水柱を上げて派手に登場したのは、道化の2人である。シュタッと華麗に着水し、恭しく、だが何処か巫山戯たような仕草でお辞儀。

 そして、その水柱が失われたところに、1人の()が立っていた。一度だけ見たその姿、忘れるわけが無かった。

 

 

 

 

「『観測者』様!」

「久しぶりだね、辿り着く者」

 

 現れたのは、『観測者』。滅多なことでは出てこない中立の存在が、このタイミングで再び表舞台に立ったのである。

 




122話ぶりに登場。また会おうと言って、また会いに来たのは、投稿時間で4ヶ月後のことでした。
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