潮が施設に受け入れられ、飛行場姫が主体となって施設を案内している裏で、中間棲姫はまたもや鎮守府の面々に今回の件を報告していた。潮から聞き出した情報は、春雨と海風も知っているため、タブレットの前でその全容を話した。
今回重要なところは、潮は漣と出会い、一緒にドロップした曙が泥によって侵蝕されたことで逃げ出そうとして、捨てるように撃たれたということ。そして、その漣が
『漣を初期艦としている鎮守府はそれなりにあるわ。そういう意味でも、鎮守府に所属しているという言葉はどちらとも言えないわね』
『艦娘を連れて行こうとして虚偽を伝えることもすると思います。ましてや姉妹艦だ。信じないわけがない』
『そうね。私が黒幕だったとしても、その手段で油断させるように指示をするわ』
そもそも、漣は
その時点で、鎮守府所属という言葉は非常に怪しい。何処か別の場所から、ドロップ艦や野良の深海棲艦を狙って行動していたと考えるのが妥当だ。深海棲艦なら容赦なく、艦娘なら付け入って、次々と仲間を増やしているのだろう。
『嘘が真になっている可能性もあるわ。こちらでもすぐに調査を始める。幸いなことに、前回の調査に使った装置の類は、全てこちらにも貰っているの』
「それならよかったわぁ。こちらは潮ちゃんを正しく導く方針で行くわねぇ」
『ええ、よろしく姉姫。繭となって深海棲艦化した者は、貴女達にしかお願い出来ないから、頼らせてちょうだい』
大将からの言葉に、中間棲姫は勿論と笑顔で返した。
なってしまったのだから元に戻すことは出来ない。ならば、今の身体、今の状況を受け入れてもらい、ここで楽しく生きてもらいたい。幸か不幸か、今は畑の再建という大きな作業もある。戦いに恐怖を感じるのなら、戦う必要すら無いのだ。
どういうカタチでも、新たな命を楽しく生きてもらいたいと願う。
『もし、万が一、その漣が本当に鎮守府に所属している者であるとしたら、あちらは鎮守府を1つ占拠してしまったと考えなければなりませんね。なら、調査もある程度慎重にやらねば、こちらの技術があちらに漏洩してしまう可能性も』
『ええ、それも勿論頭にはあるわ。だから、素直に通信で話を聞くなんてことはするつもりは無い。私や、他の大本営の者で手分けをして調査に向かうつもり』
なんでも、既に大本営は堀内鎮守府の明石が開発したシステムの実用化に乗り出しているらしく、大将が貰ったという眼鏡と、望月が使っていた腕時計型の泥を消す装置からノウハウを学び、量産化の目処がついているとのこと。
明石の発明はそういうところが素晴らしいらしく、明石のみが理解出来るような代物ではなく、汎用化までされている。当然、それの量産が簡単なことでは無いのだが、それでも技術者ならば、なるほどと思えるような技術のみで組み上げられているそうだ。
そのおかげで、今は何処の鎮守府でも作ろうと思えば作れるというところまで来ている。その頃の明石はさらに数歩先を歩いているのだが。
「こんなことを聞くのは野暮かもしれないのだけれど……大将さんの、大本営……だったかしら、そこには、私の中身が泥を撒いていたりはしないのかしらぁ」
それも当然可能性としては存在する。大本営の中に
知らない間に侵蝕されているかもしれないというのは、大塚鎮守府でも実証済み。現に、眼鏡を使って初めて侵蝕されていることに気付けたくらいだ。極端な話、他のところでも既に同じようなことが起きていて、それが大本営でも起きていないかどうかが気になる。
『そこは大丈夫であると保証します。例の眼鏡を貰ったんだもの。私の部下達が徹底的に調べ上げたわ。ねぇ、吹雪?』
『はい。大塚鎮守府での対談の後、大本営に戻ってからつい最近まで、まず大本営に潜り込んでいないことを徹底的に調査しました。眼鏡は2つ貰っていたので、私と望月ちゃんを中心に。それで、誰一人として侵蝕された者がいないことを確認しています』
ここまで聞いてようやく安心出来る。少なくとも今は、大本営には何も被害が無い。勿論、こうしている間にも誰かしらが侵蝕されているかもしれないが、大本営内のチェックは定期的に実施する予定。むしろ、毎日必ず執り行うレベル。
そして今開発中の量産型も、吹雪と望月が確認して、泥の痕跡が何一つ無い鎮守府に渡すという方針だ。ただでさえ魂の混成なんてやらかしてしまう輩に、人類の叡智とすらいえる高い技術を奪われたら目も当てられなくなる。対策に対策を取られ、こちらのやることが何も効かなくなるなんてことになりかねない。
「そちらのことで手伝えることがあったら何でも言ってちょうだいねぇ。少し前に明石ちゃんに髪の毛をあげたけれど、他にも何かあれば、ね」
『ありがとう姉姫。またその時になったら遠慮なくお願いすることにするよ。まずは潮のことをよろしく頼む』
「ええ、任せてちょうだい」
口には出さないようにしているが、やはり
しかし、飛行場姫を筆頭に誰もが貴女のせいでは無いと言い聞かせているため、気に病みつつも、振り切ろうという気持ちもちゃんとあった。そのため、人間側からの頼らせてほしいという言葉は非常に嬉しい。より前を向けるようになる。
『こちらでは念のためにはなりますが、海域の調査を開始します。俺の鎮守府近海に潜んでいる可能性があるのでしょう』
『ええ、何か痕跡のようなものがわかればいいわ。本当に何でもいい、それこそ、
『了解です。敵意を弾くというのなら、弾く何かがあるはずです。見えずとも、こちらの行動に何か違和感が出てくるはず。その観点から調査をしていきます』
大塚鎮守府では、黒幕が潜んでいる可能性を考えて、海域調査が開始される。ハズレの可能性もあり得るのだが、古鷹と鹿島の件から考えれば近海にその敵意を弾く効果を持つ島が存在していてもおかしくはない。
「それじゃあ、今日のところはこれで終わるわぁ。話を聞いてくれてありがとう」
『ううん、すぐに教えてくれてこちらこそありがとう姉姫。堀内提督も言ったけれど、潮のこと、よろしくお願いね』
「ええ、今は妹ちゃんに付きっきりだけれど、時間が経てば少しは生きやすくなると思うわぁ」
対談はこれで終わり、また各々の作業に戻る。施設では潮の保護。大将は全鎮守府の泥の調査。堀内鎮守府は新たなる対策の開発。そして大塚鎮守府は海域調査。
早急にやらなければ被害は増える一方ではあるが、焦ってやってもいいことはない。冷静に、しかし迅速に出来ることをやっていく。
対談終了後、大塚鎮守府ではすぐに調査隊の編成が行なわれた。そのメンバーは、今は
その者達は、大塚提督の指示で鎮守府に集合。お互いに少々思うところがあるようだが、鎮守府の方針に則り、感情を表に出さないようにしている。
「以前から話している通り、我が鎮守府の近海に、この事件の黒幕である『中間棲姫の中身』が潜伏している可能性がある。その調査を行なっていく。お前達は調査隊として、明日より近海の調査をしてもらう」
事件の話題が出ると、どうしても感情が表に出かけてしまう。だが、どうにか抑え込んだ。
「調査隊の旗艦は、鹿島、お前に任せる。大和、川内、雷、夕雲、長波は随伴艦として鹿島の指示に従ってくれ。航路はこちらからも指示を出すが、海上では鹿島が指揮を執ることになる」
調査隊のメンバーは、あの事件の時に泥に侵蝕されていた者6人。未然に防がれた雷と夕雲はまだしも、他の4人は実害まで出しており、鹿島に至っては首謀者に仕立て上げられているため、精神的なダメージは大きい。
それを払拭するため、延いては落ち込んだ効率を上げるために、あえてここで重要な任務を与える。戦闘ではなく調査である上に、事件の根幹に関わるところ。吹っ切れるには丁度いい。
「提督、質問よろしいですか」
「どうした大和」
「調査という名目なのはわかるのですが、そこにその、大和が参加するのは良かったのでしょうか」
おずおずと挙手しながら大和が質問。この鎮守府では最強の戦力と言える大和だが、その代償として1回の出撃で相応な資源を消費する。消耗が激しく、鎮守府にも影響を与えるレベルの存在。
効率も重んじる大塚鎮守府では、大和は敵を全力で叩き潰す時で無ければ出撃がなかなか出来ない箱入り娘である。代わりに、出撃した時は確実に殲滅するほどの実力は持っているが。
「構わない。今回の件、この部隊のまま戦闘をすることにもなり得るだろう。その時、お前がいれば心強い。あちらは見た目にそぐわぬ戦力を持っているだろう。ならば、こちらも惜しみなく戦力を出すべきだ」
効率を考えても、今回の資源的な問題は度外視出来ると判断した。もし何者か、例えば龍驤と会敵した場合、大和程の力があってもどうなるかわからない。むしろ、また侵蝕される可能性だって見えてしまっているのだ。
だからこそ、最高戦力を惜しみなく出す。圧倒的な力をあちら側が持っていたとしても解決出来るように。
「わかりました。大和、全力でこの任務に当たりたいと思います」
「ああ、それでいい。他の者も、何も躊躇いは無いはずだ。だが、もし見つけたとしても、何もせずに戻ってくること。あちらから攻撃を受けた時に迎撃するのみとすることだ。余計な消耗は抑えたい。それに、調査のまま決戦は出来やしない」
本来ならそのまま攻め込んで全てを終わらせたいだろう。しかし、あちらのやり方はそう簡単にはいかないことくらいわかっている。
まずは場所を割り出し、そこからまた作戦を立て、そして勝率を極限まで上げてから事に当たりたい。
「以上だ。療養期間も今日で終わり、明日からまた戦いに出てもらう。よろしく頼むぞ」
全員が敬礼をし、執務室から出て行く。大塚提督もその背中を見届けた後、ふぅと小さく息を吐いた。
「お疲れ様なのです。電もそれとなくみんなの様子を見ておきますね」
「ああ、頼んだ」
大塚提督が執務室からあまり動かない分、電が艦娘達の様子を見に行くことが多い。今回のこの部隊も、ほんの少しの蟠りを抱えているものの、お互いがそれをしっかり受け入れており、鹿島に対しても怒りや恨みなど一切無く、同情が一番であることは調査済み。
結果的に、この6人の部隊でも問題なく動けると判断して実行に至る。戦力としても、大塚鎮守府の中では屈指となっているため、並の敵であればモノともしない。今回は並ではないので困るのだが。
「鹿島さん、大分参っていたみたいなのです。なので、今回の旗艦で調子を取り戻してくれればいいのですが」
「大丈夫だろう。鹿島は強い。これまでに幾人もの艦娘を後ろから支えてきた矜持がある。それに、調査という点では鹿島がトップクラスだろう。効率から考えても、今回の人選は間違っていない」
大塚提督も、今回の部隊はベストメンバーだと考えているようだ。感情論ではなく、効率として。
「何か見つかればいいがな。敵意を弾くだなんてオカルト、簡単にどうにか出来るとは思えないが、僅かにでも痕跡が見つかればいい。鹿島達ならそれも見つけられるだろう。期待している」
無表情でここまで述べるが、電としては大塚提督がここまで自信を持って言うのだから、悪い方向には行かないと信じられた。今までのやり方が間違っていたことがなかったのだから。
各場所で黒幕を追い詰めるために動き始める。決戦はいつになるかはまだわからないが。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/97582019
MMDアイキャッチ風大淀。明石と話をしている時はとても明るい。ストッパー&ブースターとしての役目を全うすることも出来るでしょう。