一方その頃、堀内鎮守府。孵化した潮のことと、あちら側にされた漣と曙のことを知ったことで、その対策を開発している明石は余計にテンパりつつあった。しかし、それは行き詰まっているとかそういうことではない。
それは徹夜をやめろという大淀の横でうんうん唸りながらも眠ることも出来ず、結局身体を動かそうとしても作業が進まない。やりたいことが多すぎる上に、それに辿り着くためのアイテムが荒潮から手に入れた泥だけであるため、特性やら泥化やらはまるで進まない。
「特性の空間を見るための物でしょ。泥の対策もより強化するでしょ。出来ることなら艦娘そのものに照射して泥だけ引っ剥がすことが出来れば完璧だよね。身体を吹っ飛ばさずに内部の泥だけ消し飛ばす方法も考えなきゃ。あとは泥になったっていう龍驤をどうにかする手段か。存在そのものが泥になってるっていうなら、それはもう流動体……だよなぁ。攻撃しても受け流しちゃう? でも他人を器にしてするってところを聞く限り、それもあるんだよなぁ。だとしたら、まず捕まえる……のは難しいか。器を壊しても外に出てくるってことだし、最悪壊した相手を次の器にするんだよなぁ。そうしたらどんどん強くなるわけだし。あ、でも龍驤も黒幕の特性を持っちゃってるなら、空間を見る物も優先順位高くなるか。いやいや、でも器に照射して龍驤そのものを引っ剥がす装置も……」
あまりにも考えが纏まらないため、思っていることが全部口から漏れ出している。そしてそれを全て耳に入れてその考えを纏めているのが大淀である。明石がやりたいことを全てメモして、それを1つずつでもクリア出来るようにと、唸る明石の隣で大淀も悩んでいた。
実際に明石のような作業が出来るわけではないが、技術者ではなく管理者としてサポートするのが自分の役目であると大淀は自負していた。そのため、明石が徹夜をするのならしっかりそれに付き合い、眠るところを見届けてから自分も休むところまでしていた。かなりの親密さなのだが、大淀はともかく明石は大親友というところで考えは止まっている。そんな空気感を大淀は楽しんでいるようではあるが。
「明石、ちょっとストップ。考え続けてるせいで、ちょっと熱っぽくなってるわよ」
「考えが纏まらないんだよぅ。あ、なんか空白んでない!?」
「そうもなるでしょ。寝ろって言ってるのに横になったらなったで唸り続けて、結局動き出しちゃったんだから」
溜息を吐きながらも、あえて頭を冷やすようにと冷たい水を差し出す。すぐさま受け取った明石は大きく喉を鳴らして一気飲み。
「徹夜はダメだって、何度も言ってるんだけど」
「なるはや案件だからどうしても考えちゃって。大淀は付き合わなくてもいいのに」
「私が寝てる間に動いて、そこで何かやらかした時に誰が一番酷い目に遭うと思う?」
ニコッと笑うが、眼鏡の奥の瞳は一切笑っていなかった。明石も引き攣った笑みを浮かべるのみ。
「徹夜してるから考えが纏まらないの。一度寝なさい。それでも寝ないなら、私にも考えがあります」
「考えって?」
「寝るというよりは、
つまり、気を失うレベルで腹辺りを殴られ、否応なく意識を飛ばされるということ。痛みは度外視。最悪、入渠というカタチでの休息となる。
それは流石に勘弁してほしいと、明石もここで休憩することにした。だが、こう話しながらも頭の中では考えが纏まらずにぐるぐる回っているため、眠気に繋がらない。
「ただなぁ……困ったことに眠気も無いんだよね……。行き詰まるといっつもこんな感じで、正直私自身も困ってるくらいだよ」
「知ってる。どれだけ私が明石の近くにいると思ってるの」
もう一度溜息を吐くと、一旦そこに座れと椅子を指差す。明石はひとまず大淀に言われた通りにそこへと座った。
「まずはお腹を満たす。その後にお風呂に入る。そして、寝床で横になる。たったこれだけで眠れるから」
言いながら明石の前におにぎりを置いた。戦闘糧食の一部らしく、1つくらいなら問題ないと先んじて提督に聞いているため、申し訳なさも感じずに明石に提供。
そこに何処から出したのか、少し大きめな水筒。その中には温かい味噌汁が入っていた。明石が唸っているうちに、大淀がささっと作ってきたらしい。
「はぁ……あったまるぅ」
「それだけでも多少は落ち着けるでしょ」
「だねぇ。ちょっとテンパりすぎてたなぁ」
おにぎりをもふもふと食べながら味噌汁を啜り、大きく息を吐いた。大淀も呆れながらその通りだと突きつける。
「独り言がループし始めてたもの。あれはダメな合図みたいなもの。手も動かないし頭も動かない。あのままだったら何やってもダメ」
「真っ直ぐぶつけてくるなぁ相変わらず」
「助かってるでしょ」
「いやもうホント助かってます」
本当なら先程の水やこの味噌汁辺りに睡眠薬でも仕込んでやりたいと考えていた大淀だが、残念なことにこの鎮守府にはそういうものは無いし、そこまでするのはやりすぎと自重することも出来ている。そんなことやったら後から何を言われるかわからないし。
そのため、なるべく眠りを誘うような休ませ方をして、そのまま気を失わせる方向に持っていった。
「はぁ……久しぶりだよこんなに行き詰まるの」
「そうね。なんだかんだチャチャッと仕上げるのが明石だものね」
「いつもはさ、こう、点と点がドーンと結ばれる感じがするんだよ。でも今回は、こっちはいっぱいの点で、向こうが面って感じで、何処に結んでいいのかわからないっていうか」
おにぎりの残りを頬張った後、頬杖をついて大きく溜息を吐く。食べて落ち着けたとはいえ、考えが纏まるわけではないため、悩みは深くなる一方。
「寝て起きたらまた一緒に考えてあげるから、何度も言うようだけど今はまず休みなさい。これで寝なかったら、本当に武蔵さん呼ぶわよ。もしくは最近絶好調の江風さん辺りを」
「艤装で殴られるじゃん! わかった、わかったから、もう寝るから」
「最初からそうしろと言ってるのに」
結局、いろいろと考えながらも明石は言われた通りに仮眠に入った。眠れない眠れないと言いつつも、大淀の献身により疲れがドッと表に出てきて、そのまま眠りに落ちた。仮眠と言いつつ、昼まで寝ていそうな勢いだったので、大淀はさりげなく提督に申請だけして自分も眠りにつく。
いくら艦娘とはいえ、事前準備なしで徹夜なんて出来やしない。コンディションは嫌でも落ちていき、出来ることも出来なくなっていくだろう。ここで無理にでも寝かしたのは大正解。それこそ、急がば回れである。
そこから大淀が目を覚ましたのはちょうど昼時。仮眠として眠っていたものの、それなりにグッスリ眠れたようで、大分頭は冴えていた。
「……明石はどうなっただろう」
眠る前に外していた眼鏡をかけ直し、まだ寝ているかなと思いながら明石の部屋に行ってみたもののもぬけの殻。先に目を覚ましていたようで、ならば工廠だろうとそちらへ向かった。
流石に寝ていないということは無い。本当に寝ずにやりそうだったため、寝るまで隣で見守っていたほどである。だから寝ていることは確認済み。本当に仮眠の時間が短かったという程度だ。
「あ、大淀さん、ちょうど良かったわ〜」
そこに現れたのは荒潮。いつものんびりとしているか、ジェーナスとの妄想に耽っているイメージが強い荒潮が、ほんの少しだけ焦った雰囲気を醸し出しつつ大淀を探していたようである。
「あら、どうかしましたか? 荒潮さんが私を探しているというのは珍しいと思いますが」
「ん〜、ちょ〜っと明石さんが凄いことになっていて〜」
明石の名前が出たことで、これはまずいと工廠に急ぎ足で向かう。
「ジェーナスちゃんを守るために艤装の改造のこととかを相談しようと思ったんだけれど〜、なんというか凄いことになっていて〜」
「凄いこと、とは?」
「やる気に満ち溢れているというか、とにかく凄いことになってるのよ〜」
荒潮の言い方では何が起きているのかわからない。それほどまでに明石がえらいことになっているのでは無いだろうかと、妙な胸騒ぎがする。
そして工廠。そこで見た明石の姿を見て、大淀は引き攣った笑みを浮かべた。
「繋がった! 繋がったぞーっ! 位相を変えた波長なら艦娘の身体に影響を与えずに泥だけ吹っ飛ばすことが出来る! 艦娘と深海棲艦の身体の構造が近しいものだから泥だけ消すためにあんなことになっちゃったけど、近いだけで別物なんだから極々僅かなズレくらいなら再現出来るじゃん! 寄生虫が穴に入らなくても侵蝕する可能性があるなら、外側から内側に入れるなら内側から外側に弾き出すことくらいこっちから操作出来るに決まってる! むしろ微妙にでも意思があるならそこをズラしてやればいいんだ! あっちが洗脳ならこっちも洗脳してやればいい!
眠って回復した明石が、今まで行き詰まっていた分を取り返すレベルで動き回っており、周囲の視線は勿論、声も音も聞こえないように自分の世界に入り込んでいた。
とんでもない独り言が聞こえたようにも聞こえたが今はあまり気にしないことにして、周りが引くほどの行動をしている明石を止めるために一歩二歩と前に出る。
「明石! ちょっと止まりなさい!」
「うぉーっと、大淀ぉ! 聞いて聞いて! 一回寝たことで頭が冴えて冴えて仕方ないんだよね! あの泥って前から言ってる通り寄生虫みたいなものでしょ? で、1つの意思で寄生した艦娘や深海棲艦を侵蝕して、魂を侵すって感じなんだけど、その意思そのものをこっち側にしてやればいいんだよ! いわば、こちら側の
大淀が来ても止まらないくらいにテンションが高い。
「ああもう! わかった、わかったから、今はちょっと止まって! みんな引いちゃってるから!」
「あとは泥の意思に干渉する手段なんだけど、単細胞生物なんて単純なんだから、ちょっとズラすだけでこちら側に来るはず。それが黒幕側なら頑丈かもしれないけど、1mmズラすだけでゴールは変わるでしょ。ほんの少しだけでもズラすくらい出来るはず! これなら行ける行ける! 右にズラすか左にズラすかで向かう場所は変わるだろうから、その方法を考えるだけで全部解決だよ!」
まるで止まる気配が無いため、もう最後の手段に出るしかないと考えた大淀は、武蔵の姿を探そうとするものの、その武蔵は今別の場所で他の者の特訓で出払ってしまっている。
「明石さんを止めればいいの〜?」
と、ここで荒潮がニコニコしながら前に出る。もう縋れるものもないため、荒潮にお願いした。
「それじゃあ、止めま〜す」
そこで一撃。本当に一撃。明石の腹に1発入れることで、明石の動きを完全に止めた。
その一撃は駆逐艦とは思えないくらい重かったようで、武蔵からの特訓もしっかりと効いていることがこんなことでもわかってしまう。
「止めたわ〜」
「は、はい、ありがとうございます。明石、落ち着きなさい」
「ご、強引すぎだよぉ……」
とはいえ、明石は何かに辿り着いたようである。ここから鎮守府の力は黒幕をどうにかする手段を次々と身につけていくことになる。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/97673474
MMDアイキャッチ風コロラド。叢雲との関係は悪いようで良い、まるでトムとジェリー。まだ殴り合いの喧嘩をしないだけマシ。コロラドまでしっかり制御する薄雲の方が実はヤバいやつなのでは。