農作業は午前中で終了。昼食後の午後からの時間、春雨はフリーとなった。この施設での作業は余程のことが無い限り、こうなることが多い。午前中にざっとやって、午後はのんびり。これを曜日など関係無く毎日やる。みんなが最低限のルールを守って好き放題にしていることが、最も心を癒して楽しく生きるための道だ。
「私がここに来た時、2人で日向ぼっこしてたよね」
「そうね。あの時はとっても天気が良かったし、やることも無かったから外でお昼寝しようって薄雲が言い出してね」
「あれだけ気持ちいいお日柄だもん。ヨナちゃんもベッドルームで寝てたくらいだし、私達も寝ようかなって思って」
その時と同じように、ビニールシートを持ち出して3人で広場に寝転んでいた。今回も春雨が中央で、両サイドに薄雲とジェーナスという配置。夜のベッドルームと同じ位置である。
気候がよく、ポカポカ陽気に照らされて、横になっているだけで微睡みそうになる程。現に、薄雲は早くもトロンとした表情である。
「……艦娘の時にはこんなことやろうとすら思わなかったなぁ」
「そんなスペース無かったよね。私のところは少なくとも無かった」
「こっちもよ。カッチリしてるってわけじゃなくても、こんな寝転がれるようなところは無かったわ」
艦娘だった時にはまずあり得ないことだった。1日休暇を貰えていたとしても、わざわざ外に行って昼寝をするようなことは無かったし、そんな場所も無かった。お日柄が良くても出来て散歩くらい。
身体と心を休めるためにも、少ない休みの間は好きにして欲しいと考えていたのがあの提督なのだが、残念ながらここまで出来るスペースが鎮守府になく、昼寝は自室でするしかなかった。3人が3人同じようなことを言うくらいなので、鎮守府の造りというのは何処も似たようなものなのかもしれない。
「気持ちいい……芝生ってこんなに気持ちいいんだね」
「本当にね。私もここに来て初めて知ったよ」
「ここは知らないことばかりだったものね。今は慣れちゃったけど、驚きの連続よ」
春雨はここに来てまだ1週間。まだまだ知ることは沢山ある。それがいつも新鮮で、その何もかもが楽しいのだから、この施設にのめり込んでしまう。それが誰にも咎められないのだから、尚更である。
事実、春雨は吹っ切れたことによって、その感情がより強くなっている。今まではなんだかんだで未練が付き纏っていたが、それすらもない。のんびり過ごすことに罪悪感すら感じなくなっている。
「こうやってお喋りしながらウトウトして、自然に眠っていくのが本当に気持ち良くて……ずっとこうしていたいなって、思えるんだ」
早くも薄雲は大分おねむ。それに引っ張られるように、春雨とジェーナスも睡魔に襲われていく。しかし、抵抗なんてするつもりは無い。抵抗自体不要である。
「だから……こんな毎日がずっと続きますようにって……願うよ」
それを最後に寝息を立てる薄雲。
「それは私もだよ。ね、ジェーナスちゃん」
「
この望みはみんなの望み。中間棲姫も飛行場姫も、それを永続的に続けるために手を尽くしているのだ。施設全体がそれを望んで、ひた走る。
誰だって命のやり取りなんてしたくないはずだ。中には戦いの中でしか自分の価値を見出せないような者もいるかもしれないが、死んでしまっては元も子もない。出来ることなら、みんながこの生き方が出来るようになればいいのにと思いながら、春雨も一時の眠りについた。
しかし、それは長く続かない。少し眠ってから突然のことだった。薄雲が眠りながらも何かを呟き始めたのだ。
その言葉を耳にしたことで、まずは春雨が目を覚ます。太陽の位置から、お昼寝開始からそこまで時間が経っていないことを知った。
「薄雲ちゃん……?」
「……さん……姉さん……っ」
完全に魘されていた。ここ最近は見ていなかった
「……りに……独りは嫌……姉さん……」
「ジェーナスちゃん、ごめん、起きて!」
「ん、んんぅ……
割と深く眠りかけていたジェーナスが目を擦りながら目覚めるが、薄雲の様子を見たことで飛び起きる。
春雨は自分が無事な状態で仲間が発作を起こすという状況に立ち会うのが初めてだった。そのため、咄嗟に何をしていいかわからず、本能的にジェーナスに頼ったのだ。それが大正解で、自己嫌悪の塊であるジェーナスは他人のためならとことん尽くすほどなので、すぐさま適切な処置を開始する。
「これ、多分ハルサメの方がいいわ。私じゃちょっと……
「わ、わかった。薄雲ちゃん、薄雲ちゃん!」
魘される薄雲を揺すり起こす春雨。悪夢のために眠りは浅くなっており、少し触れただけで目を薄く開いた。その瞬間に、溜まっていた涙が溢れ出る。
自分が発作を起こしたときもこんな風だったのかと思いつつ、自分が中間棲姫や飛行場姫にやってもらった時のように、薄雲を抱きしめる。自分にあそこまでの包容力は無いにしろ、出来る限りをしようと。
「大丈夫、大丈夫だからね。薄雲ちゃんは独りじゃないからね」
「うっ、うぁぁ、姉さん……姉さん助けて……」
姉という単語で春雨もトリガーが引かれかけるが、今はダメだと必死に我慢する。今ここで自分まで崩れたら、以前にあった総崩れになってしまう。その散々な結果を思い出し、ギリギリのところで踏み止まる。
妹達と再会し、艦娘としての未練を吹っ切れることが出来たおかげで、春雨の心は以前よりも少しだけ強くなっていた。発作は当然治っていないのだが、当初よりは我慢出来るようになったのだ。
「大丈夫だよ、ほら、私がいるから、ね?」
「うぅ、うぅぅ……ヒッ、独りにしないで……」
縋り付くように春雨に顔を擦り寄る。春雨にも経験があるからその行為もわかった。
相手が中間棲姫や飛行場姫なら、その豊満なモノに対して温もりを感じるためにこうする。しかし、今回の相手は春雨である。この施設にいる駆逐艦の中ではいい方、むしろトップに立つのだが、あの2人には遠く及ばない。
しかし、薄雲には春雨のそれが最も効果的だったらしく、春雨に抱きついている内に、少しずつだが落ち着いていった。
「うぅ……ヒッ……姉さん……姉さん……」
「大丈夫、大丈夫。みんなここにいるからね。独りじゃないからね」
「そうよ、私達がいるわ。ウスグモは独りじゃない」
落ち着けるように顔に胸を押し当てて、ゆっくりと撫でていく。自分がされた時に最も落ち着けたことを返していく。ジェーナスもそれに加わり、2人がかりで温もりを与えていった。
される側からする側になり、多少は戸惑いがあった。だが、落ち着いてそれを対処出来たのは、やはり親身になって介抱されたからだろう。それだけ中間棲姫や飛行場姫の対処の仕方は適切であり、される側はそれを覚えてする側へと成長していく。
「私も独りじゃないから……大丈夫、大丈夫」
自分にも言い聞かせるように、だが薄雲を最優先にして、介抱を続けた。
過呼吸気味だった薄雲も、少ししたら落ち着いてくる。しかし、震えはまだ止まらず、春雨に縋り付いたままで離れる気配もない。発作が完全に終わるまでは、まだまだ時間がかかりそう。
むしろ、途中からあまり変わらなくなってきている。2人がかりでも温もりが足りないのだろうかと少しだけ焦り始めてしまった。
ここで、ジェーナスが苦肉の策を思いつく。
「えーっと、そうよ、ハルサメ、ちょっと案があるんだけど」
「薄雲ちゃんが落ち着けるなら、私なんだってするよ」
「服、姉姫か妹姫に寄せてみたらどうかしら。ほら、私達もあの2人に抱きしめられたら落ち着くじゃない。私じゃいろいろ足りないけど、ハルサメなら大丈夫、なはず!」
実際、ここにいる者達の発作は、最終的には中間棲姫か飛行場姫のどちらかが治めてくれる。施設に所属する元艦娘だけで全て終わらせることはなかなか出来ない。
施設内ならば即座に反応してもらえるのだが、今は外。2人の監視が完璧だったとしても、すぐにここまで来てもらえるかどうかは違う。きっと向かってくれているのだろうが、少なくとも今はまだ来ない。
それ故に、自分達が姉妹姫の代わりになってみようというのがジェーナスの案。しかし、ジェーナスは体型が比較的どころかかなり幼い。それに対して春雨は駆逐艦平均と同等か少し上くらいのモノを持っているため、行けるのではないかと考えた。
「わかった。姉姫様や妹姫様ほどじゃないけど、それでなんとかなるかもしれないならやるよ」
言われて思い浮かんだのが、初めて発作を起こした時に飛行場姫に抱き締めてもらった時のことだった。その時は初めてだったというのもあり、特に温もりを強く感じられたような気がした。
中間棲姫は母性の補正があるため、抱き締められた時の温もりのベクトルが違う。しかし、飛行場姫は単純に落ち着ける。春雨としては、そちらの方がそれらしく出来ると考えた。
「それじゃあ、妹姫様の服に……!」
念じれば服も替えられる深海棲艦の特性を最大限に利用した作戦。もう1週間も見ているのだから、完璧とは言えずともその再現は出来る。
胸元の装甲などを取っ払ったボディスーツ姿を9割方再現し、薄雲をより密着させた。今までの制服とは密度が変わったかのように温かく、薄雲は一気に落ち着いていく。
「ふぁ……姉さん……」
そして、そのまま再び眠りについた。あれだけ発作で苦しんでいたが、今はそれを感じさせないくらいに安らかな寝顔だった。
「……ふぅ、よかった。落ち着いてくれたね」
「大分
そのまま膝枕と行きたいところだったが、春雨の義脚では酷いことになってしまうため、そのままお昼寝スタイルで寝かせることに。傍で見守っていてあげれば、もし目が覚めた時でも寂しさでまた発作を起こすようなことはないだろう。
「ごめんなさい、ちょっと手間取ったわ。薄雲が発作を起こしたみたいだったけれど」
と、ここでようやく飛行場姫がこの場に現れた。なんでも、施設の外で起きたことだったので感知が少し遅れたらしく、そういう時に限って姉妹共々資材整理をしていたとのこと。
そちらの方は中間棲姫に任せて、飛行場姫が大急ぎでここまで来たようだが、その時には春雨とジェーナスの機転でどうにか出来ていた。
「あら、春雨はなんでアタシのカッコしてんのかしら」
「この方が薄雲ちゃんが落ち着けるかなと思って……実際、これですぐに発作が治ったんです」
「へぇ……多分、アンタのそれが薄雲の姉さんに近しかったのかもしれないわね」
こんな格好の艦娘なんて見たことが無いのだがと疑問を持ったが、そういうことじゃないと即座に否定される。
飛行場姫としては、春雨のスタイルが薄雲の姉に近いのではという予想をしていた。身長や体格が似たようなものなら、抱き締めていた時にその温もりに近くなるはずと。
いつもの制服もそれなりに露出度があるのだが、今は身体のラインがよりよく出ているおかげで、その再現性がより強くなったのは間違いない。
「なら、薄雲ちゃんが発作を起こした時は、私が抱き締めてあげた方がいいですかね」
「そうね。アンタが大丈夫そうなら、その方がいいかもしれないわね。というか、アンタ達は大丈夫なの?」
トラウマの連鎖を危惧したものの、ジェーナスは総崩れした時のトドメになるだけのため問題なく、春雨は薄雲のためになんとか耐えることが出来たため、今は大丈夫。
しかし、耐えられていたもののかなり限界が近かったようで、薄雲がなんとかなった時点で少しずつ震えてくる。他者のために力を発揮したものの、それが終わった途端に自分が崩れるのは、春雨の優しさかもしれない。
「なるほど、今度はアンタになりそうね。大丈夫よ、わかってると思ってるけど、ほら、独りじゃないわ」
「むぐ」
腕を引っ張り、そのまま顔を胸に押し当てる。それだけで一気に落ち着いていった。
発作が起きている最中ではなく、起きる前に処置を施されたおかげで、それ以上に悪くなることは無かった。
施設の一員として、仲間の発作を処置する方法を覚えた春雨。みんなで楽しく生きるためには必要不可欠なモノであるため、これからはより一層、仲間のことを思いながら暮らしていくことになるだろう。
元々の仲間思いな優しい性格は、深海棲艦と化しても失われていない。未練から吹っ切れることが出来たとしてもだ。
薄雲の姉で、春雨のおおよそスタイルが近しいってなると、もう1人しかいないんですよね。自分の中ではそれくらいという認識ですけど。あと妹姫のボディスーツで落ち着けるってことは、その姉もピッチリしたインナーを身につけてるんでしょう。