空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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もう1人の姫

 施設の一員として飛行場姫に受け入れられた春雨は、まずこの施設がどのようなものであるかの説明と、施設内の案内を受けることとなった。

 説明は歩きながらでも出来るということで、飛行場姫に手を引かれながら春雨は繭として寝かされていた部屋を出ることになる。艤装と同じように作られた義脚の慣らしも必要だろうというのもあり、早速歩けと飛行場姫からのお達し。

 しかし春雨はというと、手を引かれるという行為が孤独から掛け離れた喜ぶべき行為であるため、ニコニコしながらついていく。

 

「最初に言ったけれど、ここはアンタみたいな溢れた艦娘を保護する場所。そんなに広い場所じゃないけど、そこそこ暮らしてるわ。アンタみたいに、寂しさが溢れた子もいるのよ」

「そうなんですね。じゃあ……独りじゃないですねっ」

「そうね。アンタだけってわけじゃないから安心なさい」

 

 同類がいるというのも孤独から離れられる要因。自分だけが寂しさから深海棲艦になったとなると、孤独を感じてしまって狂乱という流れになりかねない。

 

「でもまぁ、まずここの一員になるなら一番に会っておかないといけないヒトがいるの。溢れた艦娘の紹介はその後にさせてもらうわ」

「そうなんですか?」

「ええ。ここにはアタシ以外にも()()()()()()()()()がいるんだもの。というか、ぶっちゃけアタシよりも力あるし、ここの施設の半分……いや、それ以上はあのヒトの土地なのよね」

 

 飛行場姫は陸上施設型深海棲艦という少し特殊な存在である。自らの陣地として島を1つ得た状態で生まれ、その上で生活をし続けるという、その名の通りの陸上施設。

 自分のみの陣地では、ここまでの施設は出来なかったと飛行場姫は語る。彼女の他に、もう1人の陸上施設型深海棲艦が一緒に暮らしていることで、陣地の面積が増えると同時にやれることが増えた。

 

 田舎娘のようにキョロキョロと周囲を見ながら歩いている春雨だが、言われてもここが陸上施設型深海棲艦の陣地には見えないくらいに整備されていることには気付いていた。

 鎮守府と見紛う程の綺麗な建物がある時点で何かがおかしいのに、窓から見える外の風景も海と砂浜と綺麗に揃えられた芝生まである、何処ぞの慰安施設なのではと勘ぐる程だった。

 

「……私の知ってる陸上施設型って、もっとゴツゴツした岩のような陣地を使ってるイメージでした」

「最初はそうだったんだけどね。まぁ、あのヒトがこうしたいって言うから、アタシも手伝ったのよ。他にもいろいろあるんだけど、ほら、陣地もアタシ達にとっては艤装みたいなものだから」

「規模が違いすぎますよぉ……」

 

 艤装と同じようなモノであると言うことは、自由に着せ替えられる服と同じなわけで、陣地もある程度自由に出来るということになる。流石にあっという間に建物が出来上がるようなことはないようだが、時間をかけてここまでにしたのだとか。

 電力の部分もなんだかんだ艤装のシステムでどうにかしてしまっているらしい。そこは飛行場姫ではなくもう1人の陸上施設型深海棲艦の艤装がそこに繋がっているとのこと。

 

「今の時間は……ああ、外か。何処にいるかはわかってるから、このまま会いに行くわよ。……見ても驚かないように」

 

 最後の飛行場姫の言葉に首を傾げつつ、仲良く手を繋いだまま春雨は引かれるがままに施設を進んで行った。

 

 

 

 

 向かった場所は、建物から出て裏手に回った場所。そこには建物以上に陸上施設型深海棲艦の陣地とは思えない光景が拡がっていた。

 

「は、畑……!?」

「ええ。ここは自給自足もしているの。食糧は多く必要でしょう」

「それは確かにそうですけど……ここ陣地ですよね……?」

 

 眼前に拡がる畑。視界いっぱいというわけではないが、家庭菜園というレベルでもなく、出来る限りのあらゆる食用植物が育てられていたのである。これを見た春雨は、開いた口が塞がらなかった。

 

「やっぱりココにいたわ。手伝いの子もいるし、説明しやすいかもしれないわね」

 

 そしてその中央、畑の真ん中で農作業をしている女性の姿が目に入る。その隣には2人の少女の姿も。

 その女性達は、熱中症対策に麦藁帽子を被り、汚れ対策で上から下までをジャージで包んでいた。飛行場姫が会いに来たのは、この中の女性なのだろうと勘付いたものの、やはりそれが深海棲艦であるというところに繋がらない。農作業をする姿からは、同胞(はらから)とは思えないでいた。

 

 作業が一段落ついたのか、3人が3人、よっこらしょと腰を上げる。小さな伸びをしながら額を濡らす汗を手拭いで拭いた時、少女の片方が春雨の存在に気付いた。

 

「おっ、起きてんじゃん。アレだろ、この前運び込まれた黒い繭のさ」

「あ、ホントね。しっかり同胞(はらから)になってるみたいだわ」

 

 少女の反応を見たことで女性も振り向き、春雨と目が合った。途端にパーッと表情が明るくなる。

 

「あら、あらあら、あの繭から孵ったのねぇ」

 

 振り向いて理解出来たのは、そこにいたのは例外なく深海棲艦であるということ。少女2人はかなり艦娘に近い外見をしているのだが、女性の方は首筋、鎖骨の辺りから口を隠すかのように甲殻の襟のようなものが出来上がっていた。角が生えているどころではなく、そこだけ見れば確実に異形。

 飛行場姫以上に深海棲艦のテイストが強い女性なのだが、何処となく2人は似た部分があった。髪の色だとか瞳の色だとかは深海棲艦特有のそれであるため考えないものとしても、雰囲気、空気感が同じだと、春雨は感じ取っていた。着ているものは似ても似つかないのだが。

 

「こんにちは、お嬢さん。身体に不調とかは無いかしら。動かない部分とかは……ああ、脚が無くなってしまったのね。でも、艤装で補うことが出来ているのなら良かったわぁ」

「え、えっと、は、はぃぃ……」

「姉姫さん、ちょっと押しが強いっスよ。引いちまってる」

「あらいけない。ごめんなさいねぇ、目を覚ましてくれたのが嬉しくてつい」

 

 この圧に春雨もタジタジである。見知らぬ場所で深海棲艦に囲まれるという状況に置かれているのだから、こうなっても無理はない。

 

「えぇと、お嬢さんお名前は何と言うのかしら」

「あ、そういえばアタシも聞いてなかった」

「は、春雨ですっ。今日からお世話になりますぅっ」

 

 名乗りながら深く深くお辞儀。しかし、声が裏返ってしまっていた。それを聞いた畑の3人は苦笑。一方、飛行場姫は緊張しなくていいと春雨の背中を優しく撫でてやっていた。

 あちらは和やかに笑みを絶やさず話しかけてきているのだが、たった今深海棲艦になったばかりの春雨には、緊張感が普通では無かった。

 少女2人の方はさておき、女性の方が問題だった。近くまで寄られたことで、この女性が何者かにようやく気付くことが出来たからだ。

 

 過去、艦娘がまだ発生して間もない頃に、世界では類を見ない程の大きな戦いがあった。今でこそ人類と艦娘の連合軍は深海棲艦と五分五分のところまで持っていけているが、当時はまだ艦娘の解析も碌に出来ておらず、運用も四苦八苦していたような時期である。

 その時の敵艦を率いていた深海棲艦は、飛行場姫のような陸上施設型。海のど真ん中を陣取り、砲撃も航空戦もこなして艦娘達と激戦を繰り広げた。結果的に勝利を収めたのは人類と艦娘の連合軍だったが、その時の被害は計り知れなかったという。

 さらにはその裏側で本土決戦までしたのだ。主力を自らに引き付けつつ、本来の目的である陸への直接攻撃を押し通すという、今までの海戦まで見てもそこまでの策をやってのけた深海棲艦はいない。

 

 故に、人類にも艦娘にも大きな傷を負わせたものとして、資料にも大きく掲載されていた。知らぬ者はいないとすら言わしめている、最初の天敵。

 

 コードネーム『中間棲姫』。海の中間、戦いの中間にて最終決戦を企てた、現在までの海戦上5本の指に入る戦いの最悪の姫。それに人類が与えた名だ。

 

「そんなに緊張しなくていいわよぉ。取って食おうってわけじゃないんだもの。それに、春雨ちゃんはもう私達の仲間なんだから、気を楽にしてちょうだいねぇ」

「は、はぃぃ」

 

 それが、この軽さである。

 

 艦娘もそうだが、深海棲艦は艦娘以上に同型、同じ顔の別人がいる種族だ。それはバケモノの形をしていようがヒトの形をしていようが変わらない。同じ姫が3人並んで出てくる、なんてことだってあり得るのだ。

 なので、春雨の目の前にいる中間棲姫も、その時の中間棲姫とは別。そもそもその時に完全に撃破したことが確認されているため、同一人物なわけがない。いくら深海棲艦とて、爆発四散したら治療は不可能である。

 

「お姉、やっぱり有名人なのよ。アタシらにはわからないけど、艦娘って顔合わせすると大概腰が引けてるじゃない」

「そうなのかしらねぇ。私には何が何やらさっぱりなんだけれど。多分アレよね、同じ顔の別人が昔悪さしたのよ。そうに違いないわぁ」

 

 中間棲姫と顔を合わせると基本的にはこうなってしまうというのが通例だった。今でこそ和やかに農作業をしている少女2人も、初対面の時は今の春雨と同じように萎縮していたとのこと。

 そもそも深海棲艦と面と向かうだけでも緊張しかねないのに、春雨のような鎮守府出身の艦娘ならば資料により恐怖が刻まれているのだから尚更である。

 

「春雨、ビビんなくていいぜ。このヒト達は、ガチで()()()()()()なんだ」

 

 ここで場を和ませるためか、少女の片方、やけに強気で男勝りな少女が春雨に肩を組んできた。もう片方の少女が止めようとしたものの、飛行場姫が問題ないと制す。

 

「いい……深海棲艦……ですか?」

「ああ、悪いことなんて微塵も考えてない、艦娘にもここまでの聖人君子いるのかよってくらいのいいヒトなんだぜ。そっスよね、姉姫さん」

「そうよぉ。私もこの子も、人間を襲いたいとか艦娘を壊したいとかそんな気持ちは何処にもないの。だからこういう陣地に造り替えたんだし。楽しく生きるのが一番よねぇ」

 

 春雨には、中間棲姫が今の言葉を本心から言っているのが理解出来た。

 中間棲姫にも、飛行場姫にも、悪意と言えるモノが1つも無い。特に中間棲姫は、雰囲気も善意の塊と言える程に良く、相手が上位種であるという緊張感さえ失われれば、この眩しいほどの笑顔と柔らかく温かい空気によって骨抜きにされそうになる。

 魅了の力があると言うのなら、それが正しくそれなのではないかと思える程だった。そして、それを拒否する術も無い程のカリスマ性。

 

「っと、名乗ってもらっといてこっちが名乗らないのは失礼だよな。ってことで、俺は竹。松竹梅の竹だ。で、こっちは俺の姉の」

「松よ。溢れた感情は2人揃って『依存』ね」

「松姉ぇ、それは別に言わなくても良かったんじゃねぇの?」

「どうせ最後はみんな知ることになるんだから、先に言っておいてもバチは当たらないわよ」

 

 少女2人は姉妹。松型駆逐艦の松と竹。仲のいい姉妹なのだが、溢れた艦娘であることは春雨と変わらず、理性の壁が崩れている。

 その感情は『依存』。どちらか片方が少しだけでも欠けた瞬間は暴走する。松は竹に、竹は松に対して徹底的に依存しているため、何をするにも2人1組で行動している程である。

 

 そして残るは飛行場姫と中間棲姫。2人とも自分から名乗るようなことをしないため、春雨もだんだんと焦り始める。

 

「あ、あの……お二人のお名前は……」

「ああ、それも伝えてなかったわね。深海棲艦(アタシ達)に名前とかそういう概念は無いから、好きに呼んでくれて構わないわよ。艦娘(そっち)の呼び方でもいいし」

「私は姉姫でこの子は妹姫って呼ばれることの方が多いわぁ。春雨ちゃんも好きに呼んでくれて構わないからぁ」

 

 飛行場姫がそう呼ぶように、この2人は姉妹関係である。実際に血が繋がっているかと言われればそうでは無いのだが、艦娘と同じように艦種や型番などからの姉妹と似たようなモノ。この場所に先に生まれたのが中間棲姫で、後に生まれたのが飛行場姫というだけ。故に、姉姫と妹姫。

 おそらく最も手っ取り早い呼び名であり、松と竹もこの呼び方を使っている。事実この2人も気に入っているようなので、春雨もそれに準ずることにした。

 

「それなら……姉姫様、妹姫様、春雨を今後ともよろしくお願いします」

「ご丁寧にどうも。よろしくお願いねぇ。春雨ちゃんにも、農作業を手伝ってもらえたらなって思うんだけど、いいかしらぁ」

「は、はい、私で良ければ喜んで!」

 

 どんなことでも一緒に作業するということは孤独ではないことに繋がるため、是非ともとお手伝いの予約を入れていた。その素直な反応に中間棲姫も大喜び。

 

「それじゃあ、次の案内に行くわ。お姉、それと松竹、結構汚れてるからちゃんと洗っておきなさいよ」

「ええ、作業は一区切りついたから、このままお風呂に行こうかしらねぇ」

 

 世話焼きな飛行場姫の言葉に和やかに相手をする中間棲姫。お互いを尊重し、共存している仲であることがよくわかる光景だった。

 

 

 

 

 この中間棲姫こそが、この施設のキーパーソン。無くてはならない存在であるとわかるのは、今からまたしばらくしてからである。

 




もう1人の姫、中間棲姫と、溢れた艦娘である松と竹。松は駆逐林棲姫で、竹は深海竹棲姫ですね。
中間棲姫といえば、アニメ艦これで飛行場姫が変化したことで驚かれました。そこから今回は姉妹設定としています。でもここの中間棲姫の声は川澄女史のイメージなのであしからず。
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