空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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3人の道

 翌日、鎮守府。昨日のうちに3人の艦娘の引き取りは無事終わり、本日から鎮守府の一員として活動をすることになる。

 

 荒潮も通った道だが、最初は鎮守府内で訓練を行い、ある程度の力をつけたところで近海哨戒や遠征などを経験し、最終的には戦場に出るという流れが堀内鎮守府のやり方。

 荒潮はかなり例外的なところがあり、訓練を短期間で乗り越え、あっという間に改二改装まで上り詰めてしまったものの、本来はそれなりに時間がかかるもの。漣達3人は、荒潮を追いかけるつもりで自分を鍛えていくつもりのようではある。

 

「昨日のうちに話は聞いている。君達も、黒幕との戦いに参加したいと言うんだね」

 

 執務室にて、漣達3人が提督の前に並んでいた。対する提督は、3人の気持ちは汲むと穏やかな表情。秘書艦五月雨も、3人のやる気満々な態度に笑顔を見せる。

 

「ウス。漣達はドロップしたてのど新人かもですが、出来ることなら自分の手でケリつけてーんです」

 

 侵蝕されていた時もそうだったが、なんだかんだ漣がリーダーのように率先して会話をしていく。話し方はさておき、そもそもが会話が得意な方であるため、こういう時に悪い空気にせずにスムーズに回すことが出来た。

 

「荒潮にも伝えたことなんだが、うちの鎮守府ではある程度の経験を積んでもらわなくては実戦には参加させられない。そのため、まずは鍛えてもらうことになるわけだが、それは北上がやるということでよかったかな」

「そっスね。北上さんが直々に鍛えてくれると言ってくれたんで、よろしくお願いしようかなと」

「しっかり申請もされたよ。君達のやる気を買い、それは受理した。とはいえ、時間が足らずに参加出来ないという可能性も視野に入れるように」

 

 荒潮は本当に特別。北上に加え、武蔵やサラトガからの()()()にも耐えられるほどの才能を持っていた上に、ジェーナスと対面するのだというありすぎる程のやる気も相まって、超高速の成長を見せつけた。改二改装というわかりやすい成長の結果も見られたことで、今や当たり前のように調査隊に加わっている。

 漣達が望んでいることは、第二の荒潮。やる気は充分すぎるが、才能はやってみなくてはわからない。しかし、北上が自分から鍛えてやると言うほどなので、何かしらの光るモノはあるのだろう。才能の有無なんて関係なしに、技術を叩き込むはず。

 

「あたしはあのクソ泥女を見返してやらなくちゃいけないんだから」

「すぐに強くなって、潮にまた会うために、朧は頑張る」

「漣ちゃんもいろいろ思うところがありますんで、努力はさせていただきやす」

 

 三者三様ではありながらも、目指す先は同じ場所。施設を守り、龍驤を斃す。これが目的だ。そのためなら、多少辛い訓練だろうが関係無しにこなすつもりだ。むしろ、荒潮を超えるくらいの意気込みがあるので、気持ちが才能を塗り潰す可能性すらある。

 

「ふむ、なら君達はそのようにやればいい。ある程度経ったら、練度を計測させてもらい、頃合いと見たら調査隊に加わってもらうよ」

「了解っス! それでは、早速特訓させてもらいますぜ。ぼのたん、ボーロ、さっさと行くべ!」

「ああもう、漣はいちいち喧しいのよ! 引っ張らなくても行くから!」

 

 居ても立っても居られない漣が、言うことを言うだけ言って、すぐに北上に鍛えてもらうのだと曙と朧の腕を掴んで執務室から出て行く。曙はそんな漣に怒りをぶつけながら、朧は提督に小さく敬礼しつつ、姿が消えていった。

 

「……何というか、明るい子だ」

「ですね」

 

 その後ろ姿を見届けて、提督が苦笑しながら呟く。五月雨も釣られて苦笑。

 

 つい最近まで侵蝕されて敵対しており、治療されたにしてもその時の記憶や感情を全て刻まれたままにされていても、そんなことを感じさせずにいるのがこの3人だ。3人が3人、心の支えを手に入れているから、ありのままでいられるのだろう。

 

「話を聞く限り、彼女らのような艦娘がまだまだ増えそうだ。うちで引き取るかどうかはわからないが、みんながあんな感じだといいんだがね」

「それは……」

「いや、これは無いものねだりだな。落ち込んでしまうのは仕方ない。我々でサポートをしてあげなくてはな」

「ですね。ここに所属するヒトが増えたら、みんなで助け合いましょう。それこそ、春雨達がいる施設みたいに」

 

 五月雨の言葉に賛成しつつ、提督は業務に戻った。今日もやることは多い。

 

 

 

 

 執務室から出た漣達は、事前に伝えられていた場所へと向かう。流石にこの時はいい加減に離せと曙も漣の手を振り払っており、朧もやんわりと離れていた。

 

「……アンタねぇ、気が逸るのはわかるけど、もう少し落ち着きなさいよ」

 

 曙が漣を落ち着かせようとするが、漣はやる気スイッチが変に押し込まれてしまっているのか、早く鍛えたくて仕方ない様子。それは、曙が言う通り、焦りも見えていた。

 

 自分達を操り、手駒として使っていた龍驤との因縁を、自らの手で終わらせたいという気持ちが前へ前へと出てきてしまっており、本来の明るい性格の裏側にドス黒いモノが渦巻いてもいる。

 それをどうにか抑え込んでいるのが、海風に教えられた(植え付けられた)春雨への想い(信仰心)である。直接的に被害を受けた漣の方が恨み辛みは大きいかもしれないが、春雨はその悪意に間接的に呑み込まれ、あのような姿となってしまった。その償いのために、自分のためではなく春雨のために戦う。その気持ちが、漣をギリギリのところで踏み留まらせていると言える。

 

「落ち着きたいのは山々なんだけどねぇぼのたん。早く強くなんないと、あのクソ泥女との戦いに参加することすら出来ないんだよ。まぁ、春雨氏が戦いに出たらあんなもんゴミクズみたいに捨てられるとは思うけどさ、何も貢献出来ないのは悔しいじゃん」

「アンタの言いたいことはわかるわよ。あたしだって、自分の手でトドメを刺したいわ。生まれてきたことを後悔するくらいにケチョンケチョンにしてやりたいと思ってる。でもね、今のあたし達が出て行ったところで、それこそゴミクズなのよ」

 

 曙も漣と同じくらいに燃え滾っている。元々勝ち気な性格の曙には、あの時の扱いが悔しくて苛立ち、それこそ一歩間違えれば怒りやら何やらが溢れていてもおかしくは無かった。

 それを押し留めてくれているのが、やはり潮の存在と言えよう。仲間に引き込んでも役に立たないだろうという憶測からの巫山戯た理由で殺されかけ、恐怖に呑まれて深海棲艦化してしまい、そのせいで顔を合わせることすら出来ない状態にされているのだ。そんな潮のためにも、自分までそうなるわけにはいかないと踏ん張っている。

 

「漣、ぼのの言う通り、今は落ち着かないといけない時だと思う。朧達はせっかく鎮守府に来れたんだから、ここで出来る限り早く強くなっていこう。あの北上さんなら、朧達をすごく強くしてくれる。……多分」

 

 朧も静かに燃えていた。だが、2人とは少し違い、龍驤を始末することではなく、強くなって潮と顔を合わせることに念頭を置いている。そのため、2人ほど感情が溢れそうにはなっていなかった。

 しかし、早く会いたいという気持ちは2人以上ではあるため、そこに繋がる特訓を求める気持ちは同じである。

 

「もどかしいねぇホントに。飲んだら強くなれる薬とかありゃいいのにさぁ」

「それは都合が良すぎよ。あったとしても、副作用とかで酷い目に遭うに決まってる。それに、それって極論あの泥になるんじゃないの」

「うえ、努力した方がマシだわ。漣ちゃんは努力の子。しばらくドロっとしたモノは見たくは無ぇですな……」

 

 舌を出して嫌そうにする漣に、2人も同意した。

 

 

 

 

 呼び出された場所は、鎮守府から外に出て少し歩いたところにある堤防の辺り。3人は知らないが、山風達のトレーニングはここでやっており、今回も同じように北上と大井主導の下、駆逐艦達が身体を鍛えていた。

 

「お、来たねぇ新人ども」

 

 その中で、相変わらず江風の上に乗っている北上が小さく手を上げる。その下で腕立て伏せ中の江風は、そろそろ限界のようで腕がプルプル震えていた。

 その隣で山風を背に乗せて同じように腕立て伏せをしている涼風は、既に限界を迎えてその場に倒れ伏している。

 

「えーっと、それはなんスかねぇ」

「んー? そりゃあ勿論筋トレだよ」

 

 艦娘として戦うとしても、このトレーニングが正しいものかは正直わかっていない。だが、誰も文句を言わずにやっているくらいだし、調査隊の隊長達が率先してやっているくらいなのだから、これが強くなるのに効果的なのがわかる。

 

「漣、アンタはあたしの下で鍛えるから」

「う、ウス」

「曙と朧はあっち。大井っちがガッツリミッチリやってくれるよ」

 

 北上が指差す方では、大井が荒潮を鍛え上げていた。

 陸だというのに大井は艤装を展開し、最小出力とはいえ水鉄砲で荒潮を攻撃。対する荒潮は、それをただひたすらに回避しているのだが、なんと艤装を使わずである。単に身体の運びだけで艤装の出力と同じ程の動きを身につけようとしていた。

 多少は直撃を受けたようだが、最小出力であるため、傷がつくわけでもなくただ身体が濡れるだけ。しかし、艤装を身につけていないのだから一撃を貰えばそれ相応の衝撃を受けるわけで、骨が折れるなんてことは無いにしろ、痛みはしっかりある。

 

「……何やってんのアレ」

「急ピッチで成長するために荒潮が言い出したことなんだけどさぁ、アレはアレで結構効率いいんだよね。艤装無しでアレだけ動けるってことは、艤装有りだと相当なもんになるだろうねぇ」

「そうかもしれないけど、ここ陸の上よ。やる意味あるわけ?」

 

 曙が問う理由も、北上には理解出来た。だが、そう言われることも予想通り。

 

「海の上も陸の上も似たようなもん……っていうか、海の上の方がキツいことくらい、アンタ達でもわかるでしょ。じゃあ、陸の上でも動けないと海の上なんて以ての外。で、その代わりに艤装無しってことでやってんの。ぶっちゃけ、艦娘と深海棲艦の力の差ってあんなもんだよ。こっち艤装無しであっち艤装有りってくらい」

 

 ただの深海棲艦ならそこまで考えなくてもいいかもしれないが、今戦っている深海棲艦は、泥によるブーストがかかることで確実に艦娘よりも強い力を振るってくる。

 それは北上が龍驤と相対した時に実感したことでもある。あちらは1人で、こちらは北上以外にも駆逐艦達を盛りに盛って、一方的に撃退出来たくらいだ。1対1(タイマン)ならば、北上とはいえ少々厳しいと感じるくらいに。煽りに煽っても、頭の中ではそこまで考えていた。

 

 北上に慢心など無い。その場その場であらゆる手段を使って最善を掴み取るために努力する。しかし、その様子を他者に見せることは無い。それを知るのは、大井のみ。

 

「強くなるだけじゃあ無く、勝ってこそだから。まぁ荒潮は大分特殊だけどね。武蔵さんからも鍛えられてるから、アイツやばいよ。砲撃や雷撃だけならともかく、()()()()()網羅しやがった。しかも、まだ全然時間経ってないのに。あれが天才って言うんかねぇ」

 

 事実、陸の上で実力差を作っているというのに、荒潮の動きは徐々に大井の砲撃に慣れていき、直撃ではなく掠める程度になり、そして当たらなくなっていく。まだ大井は比較的手を抜いているようだが、それすらも少しずつ凌駕していくだろう。

 

「あそこまでになれとは言わないけど、アンタ達にはせめて、3人で1人分にはなってもらわないとね。だから、最初からそれを根っこに置いて鍛えるよ。個人プレーは二の次。3人が3人、自分のやるべきことの一点特化に仕立てる。1人やられたら3人やられたって思ってやんな」

 

 1人1人を完璧に仕上げるのは時間がかかる。だから、1人で出来ることを3等分して、それに特化した特訓を施していく。その特化したことに関して一人前になるための時間は短くて済むだろう。

 

「龍驤に吠え面をかかせるには、これがベストだと思うんだよね。ああ、あとあたしと大井っちに分けたのは、漣はどちらかと言えば感覚的で、曙と朧は理論的でしょ。だから振り分けた。文句は無いよね?」

 

 ニヤッと笑う北上に若干の恐怖を覚えつつも、自分達がやれることを考えてこのようにしてくれたことに感謝する。故に、文句なんて1つも無い。

 

「やるわ、やってやるわよ。短期間で、あたしがやれること、全部取り込んでやるわ」

「それで強くなれるのなら、朧はいくらでもやる」

「こりゃあ漣も踏ん張る時っぺぇなぁ!」

 

 3人とも気合は充分。自分のためにも、仲間のためにも、これが最善として進むことを決意した。

 

 

 

 

「……北上さん、やっぱり駆逐艦(こども)のこと好き……だよね」

「おいおい、山風もそれ言うのかい。大井っちにも言ってるけど、あたしゃ駆逐艦(ガキ)はウザいって思ってんだから」

「……そっか」

 




北上大井に鍛えられる3人は、3人1組という新たなスタイルで1人前を目指します。役割分担をしておけば、成長までの時間は1/3で済みますからね。
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