空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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泥の意思

 大塚鎮守府の調査隊が黒幕の拠点と思われる海域を発見したという情報は、仲間達にすぐに伝えられた。

 予想通り大塚鎮守府の近海に存在していたことに小さな安心と大きな不安。ようやく尻尾を掴めたという喜びと同時に、手が届く場所にいるということはいつ襲われてもおかしくないということに繋がる。そう考えると、攻め込む以上に身を守るアイテムの開発が急がれる。

 

「なるほど、まずは鎮守府を守ることを優先するわけですね」

 

 その情報は鎮守府中に広まり、勿論明石の耳にも届く。むしろ、コレに関しては提督直々に明石に伝えたレベルである。

 

 明石は今も大淀と共に泥対策の研究開発を続けている。つい先日に泥の対策に一筋の光が見えたとなった後に、二度溢れた春雨の髪の毛やら何やらも手に入れたので、今は捗って仕方ないようだ。

 そこに新たに黒幕の拠点らしき海域が判明したと聞いたら、より一層やる気が出ているようだった。それこそ、やる気が溢れて眠気も疲れも吹き飛んだレベル。

 

「ああ、難しいなら方針転換をする必要は無いんだ。そのために現状を聞きに来たんだからね」

「そういうことでしたか。よくぞ聞いてくれました!」

 

 満面の笑みの明石。そして、ここから始まる明石のマシンガントーク。

 

「以前研究している時に思いついた泥の対策の1つとして、寄生虫みたいな単細胞生物の意思をちょっとだけズラすことによって害の無いモノにしてやろうというのを考えたんです。それで、今はまだ上手いこと増殖させながら実験に使っている荒潮から採取した泥を使っていろいろやってるんですが、なかなかその手段を見つけられなくて。でも泥を消し飛ばす波長は今も使っているわけで、それを少し弄ることで解決しようとしているんです。少なくとも今は、円盤を回転させて波長を捻りながら泥そのものを捻じ切るカタチで排除しているんですけど、その波長自体が泥のようになっている寄生虫の群衆を分離させる効果を持たせています。1体1体になってしまえば、円盤の風圧で死滅するくらいでしたからね。なので今までは力業だったわけですが、その波長を寄生虫そのものに影響を与えるように改良することを念頭に置いて、改良を加えています。望月に持たせた腕時計型はそれに近くて、回転力を必要最小限にして波長の力を強めた感じです。それでも結局は僅かな風圧でも死滅してくれるので、小型化大成功でした。そこから」

「明石、一旦止まりなさい。ズレてるから」

 

 大淀がここで一時的にブレーキをかける。明石の言葉はいろんなところに飛んでいこうとするので、こういうタイミングで一度深呼吸させて、もう少し端的に話させようという狙い。

 事実、明石のこのマシンガントークは止まり、一度呼吸を整えた。今話したのはこれまでの成果。聞きたいのは、それ以降の研究の進み具合。寄生虫の意思をズラすというどうしたらそれが出来るかもわからないような手段を研究しているようだが、そこに辿り着けたかどうかを知りたかった。

 

「そうだ、結論から言った方がいいですね。コレに関しては()()()()()()()()。泥が自ら霧散するように仕向けることも、そもそも侵蝕をしないようにするようにも出来ます」

 

 とんでもないことを言い出した。この短期間で、明石は泥の構造を理解し、その在り方にメスを入れることに成功していたのだ。

 

「実際完成というか一歩進めたのは昨日の夕方くらいなんですけどね。キーになったのは、貰ってきた春雨の細胞でした。つまり、()()()()()()()()()()です」

「確かに、黒幕も溢れたことで器から離れて今に至っていると聞いたが」

「姉姫の細胞と泥は似て非なるものだったんです。それこそ私達艦娘のような、そっくりな別個体というか。あれです、焼きそばとカップ焼きそばみたいな」

 

 表現が非常に悪いが、提督にはひとまずピンときた。見た目は全く同じ細胞だが、性質がまるで違うということなのだろう。

 姉姫は二度溢れた黒幕が捨てた器。言ってしまえば、まだ溢れていない深海棲艦と同じと見てもいい。器と中身が別モノとなっているのは当たり前ではあるのだが、その形状は近しいモノなのだとか。

 

「でも、春雨の細胞は違った。どちらかと言えば、()()()()()()()()()()()でした。つまり」

「……深海棲艦が溢れたら、それはそれで細胞が変質する?」

「その通り! まぁまだ憶測でしか無いんですけどね」

 

 パチンと指を鳴らして提督のその言葉を肯定する。艦娘が溢れると深海棲艦に変質するが、深海棲艦が溢れてもまた別のモノに変質するということが研究から判明したのだ。

 生物学的には深海棲艦と一括りに纏めてしまってよさそうだが、今までの深海棲艦とは何かが違うらしい。

 

「春雨から手に入った細胞は、さっきとは逆。見た目は全然違うのに同じようなモノです。例えるなら、タコ焼きとお好み焼きみたいな」

「明石、お腹空いてるの? 何か持ってくる?」

「後から食べに行こう、うん」

 

 当たり前だが、春雨と黒幕はまるで似ていない。それも憶測ではあるのだが、ヒト型となっているのなら、それは春雨に似たカタチになることはまずあり得ず、中間棲姫と似たような姿、もしくは完全に独自のカタチをしているかのどちらかだろう。

 ここに、細胞から調査したところ、今の春雨は存在の定義からしたら黒幕と同じようなモノとなるらしい。本人にそれを伝えたら怒りが溢れそうだが、それが事実。

 

「別に春雨の細胞が寄生虫というわけでは無いですが、とにかく、二度溢れた者の細胞……じゃなく、深海棲艦が溢れた場合は、()()()()()()()()()()()()()()、というのが私の仮説です。最初は自分、次は周りってことですかね。黒幕は言わずもがなですが、春雨も似たようなことをしたんですよね?」

「侵蝕ではないが、無意識に敵の行動を抑制したと。視界に入った者を望み通りに動かしたそうだ」

「同じ原理ですよ。春雨は見えている範囲にのみ散布出来て、その行動を侵蝕したわけです。つまり、春雨の細胞を研究素材にすれば、黒幕の対処法もわかります。その結果、今の状況に都合のいい装置が開発出来ました」

 

 言いながら用意したのが、小瓶に分けられた泥と、何やら見たことのない装置。見た目だけで言えば電探のように見えなくも無いが、どちらかといえば泥刈機の先端部分、腕時計型の泥刈機に内蔵されているそれに近い。

 

「この装置は、泥を消し飛ばすのではなく、泥に意思を()()()()()()()波長を発生させます。侵蝕を前進だとすれば、これは後退させるモノです。すると、こうなります」

 

 小瓶を握ると、その体温に反応して泥が増殖を始める。しかし、装置の波長に当てられたことによってその性質を逆転させられたことにより、増えるのではなく減る方向に向かっていくようになっていった。分裂は結合となり、成長は衰退となる。その結果、瓶の中の泥は、逆方向にされた()()()()()によって数を減らし、最終的には消滅した。

 明石の手があり、かつ小瓶の中に入っているにもかかわらず、波長はしっかりと泥に効いている。これが小瓶だからとなるとまた話は変わってくるのだが、それでも肉体も瓶も貫通して泥だけをピンポイントで消滅させるように調整されているのだから、今回求めている物に近い挙動を再現出来るだろう。

 

「これを鎮守府に配備すれば、少なくとも人間や艦娘に害を与えずに、泥だけを消滅させることが出来るでしょう。ただこれ、出力を上げるためにはそれ相応のサイズにしなくてはいけないので、持ち運びがかなり難しいかなと思います。艦娘の装備には出来ないけど、鎮守府の施設として配備することは出来るかなと」

「なるほど、そういうカタチで防衛設備にするわけだ。確かに今最も欲しい物じゃないか」

「未完成といえば未完成ですけどね。これ、深海棲艦への影響は見れていないんですよ。今の段階でもまず確実に春雨に効いちゃいます。なので、施設に配備することは出来ません。そこがまだまだ改良ポイントですね」

 

 とはいえ、今は確実に鎮守府を守ることが出来るのだから、段階を踏むにしてもいい具合。

 

「あとは散布されている泥に効くかどうかですね。というか多分効くんですけど、さっきも言った通り、持ち運ぶには出力が足りないし、出力を上げると持ち運べないし、小型のまま出力上げると多分使ったヒトが吹っ飛ぶか、装備している部位がミンチになるので、そこはまだまだ改良の余地ありです」

 

 相変わらず物騒な言葉が出てくるが、まだまだ伸び代があるということ。そこさえ解決出来てしまえば、敵対する者を弾く結界をも消し飛ばす装置が完成するだろう。

 だが、それまでにはまだ時間がかかる。そのため、まずはこの装置を大塚鎮守府でも製造出来るようにして、配備してもらう方向に持っていくのが先決だ。

 

「なので、黒幕の拠点に辿り着けるようにするにはもう少し時間がかかりますね。この装置の大出力小型化の研究をしていきますので」

「ああ、よろしく頼むよ」

「まっかせてください! 今の私はやる気に満ち溢れてますからね! もしかしたらやる気が溢れすぎて繭になっちゃうかも!」

「勘弁して」

 

 満面の笑みで心を燃やす明石は、今はとても頼りになる存在。大淀も苦笑しながらもしっかり支えて先へと進む。

 

「はいはいそれじゃあ頭を休ませるために、何か甘いものでも食べに行きましょうか。ちゃんと休憩しないと出来るものも出来ないわ」

「オッケーオッケー。一度リフレッシュした方が思いつくってことはわかってるからね。大淀に従いまーす」

「いつも従ってほしいんだけど」

「善処しまーす」

 

 ニコニコしながら大淀に連れられて一度工廠から出て行った。しっかりと管理が行き届いているようで、提督も一安心である。

 

「大塚提督に伝えておかねばな。これでさらに前に進める」

 

 独りごちて、提督も執務室へと戻っていった。

 

 あと考えねばならないのは、その辺りの対策が出来ても黒幕自体の力が完全に未知数であることだ。

 これだけ長い間戦っているのに、その片鱗すら見せてこない相手に対して、どのように戦えばいいのか。それを考えるのは提督の仕事。勿論、他の鎮守府との協力も考慮して、出来る限りの最善を導き出す。

 

 

 

 

「ふぃー、リフレッシュ完了! ここからバリバリ研究開発続けていくよー」

「するのはいいけど、ちゃんと寝てよ? 倒れたら意味が無いんだから」

「いやぁ、大淀のおかげで生活リズムは完璧だと思うよ。グッスリ寝てるし、ご飯も食べてるし、お風呂もちゃんと入ってるし」

「それが普通なの」

 

 間食で英気を養った明石と大淀は、再び工廠へ。

 

「とりあえずコレで泥対策はかなり強化出来てるんだけど、黒幕の本体に効くかどうかはわからないんだよなぁ。それを試すことが出来ればいいんだけど、基本的には一発勝負くらいの気概で行かなくちゃだし」

「そうね……確かに実験が出来ればいいけど」

 

 と考えている内に、明石は1つの答えに辿り着く。

 

「あ……いいこと思い付いた」

「なんか嫌な予感がするんだけど」

「いやいや、これは今後の戦いにも必要なことだよ」

 

 コソッと大淀の耳元でその思い付いた案を話した。それを聞いた途端、大淀は目を見開いて驚き、しかしそれしか無いかと納得もする。提督が許可を出すかどうかはさておき、やれそうなことはそれくらいなのかもしれないと。

 

「私は明石が偶に怖くなるわ」

「いやぁそれほどでも」

「褒めてない褒めてない」

 

 

 

 

 ここから戦いは一気に好転する。

 




明石の発明はさらにおかしな方向へ。泥を消滅させることは可能となりました。多分これなら照射するだけで侵蝕された艦娘は解放出来る。
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