「これで、龍驤を
明石が開発した、いろいろな装置が仕込まれたドラム缶。それによって、泥と化した龍驤を捕獲し、今後の黒幕対策の実験材料にしようというとんでもない作戦に出ようとしていた。
今持っている泥は、荒潮から採取した泥の特性を利用して増殖させながら研究を続けているわけだが、最終的にそれが黒幕に通用するかはわからない。そして、出来ることなら黒幕との戦いは一発勝負で終わらせたいと考えていた。
そうなると、どうしても黒幕により近い存在の細胞を手に入れたい。作戦成功率を上げるためには、今の敵の中で最も黒幕に近い存在となっている龍驤
「捕獲したいのはわかった。だが、それはそう簡単な話ではないよ。明石の考えていることは、単純にこのドラム缶に詰め込むということだろう? より強大な力を持ってしまった彼女を、終わらせることなく」
提督でもこれは可能かどうか疑問を持つ。そもそも、今の状態で斃すこと自体がかなりの難易度であることは間違いない。強大な力を持ち、他人の身体を奪って使っている龍驤は、手加減など出来るような相手ではない。
それなのに、今後のためにより難易度の高い選択をしなくてはならないとなると、提督としてはそれに対して許可に持っていくかは何とも言えない。時間がないとはいえ、考える必要がある。
「この捕獲装置……まぁドラム缶でいいか、ドラム缶はですね、泥が外に出られないようにしてあります。なので、今龍驤が使っている身体ごと詰め込めというわけではなく、
単に、今の器はどうなっていてもいいという苦渋の選択ではあるのだが、実際、泥と化した龍驤は肉体を破壊されても泥となって外に出てきた挙句、次の身体を探して逃走するだろう。
そうなった龍驤は、鎮守府や施設でも使っている泥刈機の最大出力……むしろ、今作られている改良版を使って消し飛ばすというのが最も簡単で呆気ない最期を迎えさせられることになる。それすらも簡単ではないだろう。ああいう輩は、逃走能力が非常に高い。
だが、そうではなくドラム缶での捕獲を求められる。余程簡単でなければ、消し飛ばす方を選択することになるだろう。
「簡単には許可出来ない。撃破にすら手こずるであろう相手の捕獲は、危険度があまりにも上がりすぎる」
「いや、あたしとしてはそれ、大賛成かなー」
突然の声に振り向く提督と五月雨。そこには、午前中の訓練のために艤装の整備にやってきた北上。勿論隣には大井もいた。
「この鎮守府のモンじゃないあたしが言うのもなんだけどさぁ、龍驤を捕まえるっての、アリだと思うよ。ラスボスにも効く装備とか作れそうなら、そのために材料がいるだろうし、それを取ってくるってのは大賛成。後の戦いを有利にするための前哨戦ってなるなら、結構みんな賛成しそうだねぇ」
笑顔な上に、かなり軽い声色で話しているものの、北上の目は全く笑っていない。
自分を狙っていると名指しで言われているようなものなのは重々承知なので、北上自身も龍驤は自分の手で終わらせてやりたいという気持ちはあった。なので、内心では捕獲なんてせずにその場で消し飛ばしてやりたいと考えている。
しかし、今回の敵は龍驤というよりは、その向こう側にいる未だ姿すら見せていない黒幕だ。龍驤を斃すこと以上に、黒幕を確実に斃すことを視野に入れ続けなければならない。
当然、どちらの戦いも失敗は許されない戦いだ。敗北と侵蝕がイコールで繋がっているようなものなので、辛勝すらも厳しいかもしれない。ならば、より最終的な勝利が確実な道を選ぶ。難易度が高かろうが、一番の目標を達成するために必要なのは、どちらかといえば龍驤の捕獲だ。
「まぁ最終判断は提督なんだけどさ。あたしが何言ってもそちらの指示には従う。ただ、一応意見として言っておこうかなって。艦娘の言葉だから、聞き流してくれても構わないよ」
そして最後に投げた。意見だけ言って、でも選択は提督に任せる。実際、艦娘がどれだけ言ったところで、最終的な決断は全て提督にある。戦場での戦略は艦娘自身に委ねられるところもあるが、その根幹を担うのは提督の決断。それに反する行動は取らない。
「明石、ちなみにだが……そのドラム缶は、確実に龍驤を捕獲することが出来るのか?」
「確実……と言われると、申し訳ないんですけど、肯定は出来ません。何事にも例外はありますから。少なくとも、今自分が持っている知識の上では確実と言えるくらいです。龍驤が泥と化し、その成分が何処まで今までの泥と一致しているかにもかかっています。当然、ありとあらゆる可能性は潰していますが、私の想定外なところに行かれると、捕獲にならないかもしれません」
その場合は無理せず消し飛ばしてやってくれと明石は語る。出来れば欲しいと言うだけで、無理だけはしてもらいたくないというのは提督達と同じなのだ。
明石だって、この鎮守府を愛している艦娘の1人。仲間達の犠牲なんて全く望んでいない。実験材料が欲しいというのは、あくまで明石の希望。無いならば無いなりにやっていくとも。
「……まだ少しくらいは時間はある。やるかどうかは考えさせてくれ」
「はい、それで問題ありません。これはこれで出来ていて、量産の必要もありませんから。使うか使わないかはお任せします」
ただし、使い方は先に伝えておくと言う。その使い方で、作戦に組み込むかどうかを考えてくれればいいと。
「残りの装備のことも一通り説明させてもらいますね。あとは基本的には戦闘を有利に持っていくためのモノなので」
「ああ、わかった。頼むよ」
「あたしらも聞いていい?」
いつもは面倒臭いと他の者に任せることが多い北上が、ここぞとばかりに首を突っ込んでくる。大井もそれを止めようとしない。
これからの駆逐艦達の訓練を、この特殊装備に合わせたものに変えていこうという算段である。
やはりドロップ艦を数日もかけず最前線に立たせるのは無茶であることはわかっているので、完全特化の育成に入るのは当然のこと。通常の育成は二の次で、今出来ることではなく、今
その頃、その3人。通称『北上組』と呼ばれるようになった漣達は、北上と大井が艤装の整備をしている間は自主練をすることにされている。
その相手として相対しているのが、山風達調査隊の白露型3人。そこに荒潮も加わり、練度の低い3人を徹底的に鍛え上げていた。
「あ、アンタねぇ、多少は手加減しなさいよ!」
「ンなことしたら育たねぇだろがい。お前は前衛なンだから、これくらい避けてもらわないと困るぜ」
曙を扱いているのは江風。理論的に物事を考える前衛ということで、大井に鍛えられながらも江風の近接戦闘に慣れる方針。見てから避けられるくらいに目を鍛えろというのが大井からの指示。
曙の性格からして、砲撃雷撃よりも直接殴りかかる方が合っていると判断されたようで、むしろ江風と並んで殴りかかれるように筋トレも欠かしていない。
「そこまで速く撃つのは難しいかな。連射力?」
「……それもあるけど……狙いは先読み」
朧に砲撃を教えているのは山風。こちらは理論的に物事を考える中距離として、徹底的な砲撃精度を仕込まれている。
山風が覚えた一度の砲撃で二度放つ程の精度と速射力を得ようとはしていないが、確実に敵に砲撃を当てる手段を徹底的に叩き込まれ、どうあっても砲撃を放てるという状況を作り出す。
「いやいや、漣ちゃんはそこまで視野広くねーですよ」
「広くなくてもやんだよ。お前さんはチームの一番重要な位置にいんだから、あたいと同じくらいに空間把握出来るようになんなくちゃあいけねぇ」
「んな無茶苦茶な」
そして漣は、涼風から空間把握について学ぶ。電探の力を借りることなく、夜でも周囲がしっかりと見えている涼風の力を、漣も手に入れようと必死。
涼風の言う通り、漣が担当するのは最も重要な役割。最後衛にて曙と朧の動きを完全に把握しながら雷撃による援護をするのが漣の学んでいること。3人で1人分を成立させるための骨となるのは、この漣である。
理由はとても簡単なこと。
それに、実のところ漣は
「ん〜、ちょっと意見言わせてもらってもいい〜?」
そんな3人の訓練を少し遠目に見ていた荒潮が、ニコニコしながら口を出す。あらゆる訓練を嗜み、それを全て吸収していった荒潮は、その目も期待されている。
「3人とも、変な癖が付いてるみたいに見えるわ〜。多分だけど、あっち側だった時の癖よね〜」
それは、泥によるブーストに頼った動き。ドロップ艦であるにもかかわらず、身のこなしが熟練者と同じにされていたことの弊害。今の身体はそんなことが出来ないのに、今まで出来ていたせいで身体が最初からそうしようと動いてしまう。それによって、いろいろとついてきていない。最初はその動きも活かしていけるだろうと高を括っていたのだが、やはり練度が低いうちはブーストと同じ動きなんて出来やしなかった。
ただし、成長率に関しては普通のドロップ艦よりはかなり高い。癖がついているとはいえ、教えられたことが身につく早さに関しては他の追随を許さない。3人とも荒潮以上の早さで育っているのは確かだ。
「もっと癖を強く出してもいいと思うのよね〜。身体は覚えちゃってるんだから、それを伸ばしつつやりたいことやれるようにしてみたらどうかしら〜」
「アンタ簡単に言うわね……。あたし的にはあんまり思い出したくないことなのに」
荒潮のアドバイスに曙は顔を顰める。だが、早く成長するためには、手段を選んでいられないというのはあったりする。
あの時の記憶は忌むべきものではあるが、使えるものは使うとするならば、敵の動きも取り入れてやるべきかと考えはする。
「でも、考えてみて〜。あちら側の動きであちら側を出し抜くって、気持ちいいと思わない〜?」
そう言われて、曙は考え方を変える。当てつけのようにぶつけることは、龍驤に嫌がらせをするようなもの。自分の部下に離反され敗北すれば、そのプライドはズタズタになるはずだ。
その方針は、曙にとっては特にやりがいのあるものになる。3人の中でも、特に龍驤を出し抜いてやるという気持ちが強いため、荒潮の提案は即座に賛成出来るようなもの。
「まぁそのためにはそう出来るくらい身体を鍛えなくちゃなンねぇけどな」
成長率が高かろうが、身体がまだ追いつかないのだから意味がない。そこは地道な努力が必要になるだろう。他よりもその努力の期間が短いだけマシ。
「やるわよ。やってやるわよ。あのクソ泥女に、目にもの見せてやるんだから!」
「強くなるためには、手段なんか選んでられない。早く強くなって、潮に会うんだから」
「だぁね。漣も、春雨氏の手を煩わせないくらいに鍛えなくちゃあいけねぇ」
三者三様の目的ではあるものの、ここからさらに成長率を上げていく。ここに新たな装備も入ってくるため、3人が戦場に出られる日も近いかもしれない。
この後、北上と大井も合流し、よりハードな訓練になり、3人は今までになく成長と消耗させられるのはまた別の話。
訓練中の駆逐艦7人は、対龍驤戦参加の筆頭候補になるでしょう。山風達も、(海風の件で)間接的に龍驤には恨みがあるので、参加を希望しそう。駆逐艦の中でもトップだし、龍驤とも因縁ありますしね。