午後の哨戒中に発見された艦娘は、いち早く施設側から報告があったことで、堀内鎮守府の艦娘達に保護されることとなる。
流石に深海棲艦の施設から連絡があったなんてこの場では言えないため、哨戒中にたまたま出会ったという体裁で確保。それもあるからか、メンバーとしては金剛と比叡をメインに、千歳と千代田、そして山風と荒潮という少し変わったメンバー。
一応、この海域はあまり安全では無いということを教えるためというのもある。施設が危険というわけでは無いのだが、実際ここで戦闘が行われているのだから、いつ何が起こるかはわからない。ただでさえ黒幕どころか龍驤が暗躍しているのだから。
「Wow. Drop艦デスか?」
早速声をかけたのが金剛。とっつきやすさ重視かつ戦力的にも充分であるために、今回に限り哨戒部隊の旗艦を務めている。
「あ、はぁい。鎮守府を探してたんだけどぉ〜」
少々舌ったらずな喋り方なその艦娘は、同じ艦娘に出会えたことでパァッと笑顔を見せる。どれだけ探しても見つからなかったことが不安だったのか、金剛に声をかけられたため、ようやく鎮守府に行けると大喜び。
「そんなに時間がかかったんデスか?」
「うぅんとねぇ、もう半日くらい動き回っちゃったかも〜?」
よく見れば、この艦娘はそれなりに消耗しているようだった。艦娘は人間よりは長い間活動は出来るものの、当然補給が無ければ最終的には力尽きる。休息無しで半日動き回っていたというのなら、体力の半分以上は持っていかれていてもおかしくは無い。
「半日……ということは、昨晩くらいにドロップしたんですか?」
比叡が尋ねると、そうだと答えた。深夜にドロップして、暗い中で彷徨い続けていたようである。そして朝になっても鎮守府が見つからず、それでもふらふらと動き回ってようやくここに辿り着いたようだ。
艦娘の本能に任せても、なかなか鎮守府に辿り着けないというのはある。ドロップした場所が悪かったりすると、どうしてもどの鎮守府からも遠かったりする。その間に深海棲艦に襲われたりすることだってあるだろう。
そういう意味では、この艦娘は比較的運が良かったと言える。施設の者とはいえ、鎮守府を探している姿を発見され、報告を受けて迎えに来てもらえたことで、これ以上彷徨う必要が無くなった。
「あ、あたし、文月っていうの。よろしくぅ〜」
消耗している割にはマイペースに自己紹介。その艦娘──文月は、笑顔を絶やさぬままに金剛と握手。
「ご丁寧にどうもデース。私は金剛、残りの子達は鎮守府に行きがてら話しましょうネー」
「はぁい」
金剛が相手をしている間に、千歳と千代田が周辺警戒し、そこで飛行場姫の艦載機が高高度から降りてくるのを発見。会話は出来ないものの、妖精さんがそれに対して小さく挨拶をして、引き取ったことを伝える。すると、その艦載機は小さく踊るように機体を動かした後、高高度へと戻っていった。
また、山風と荒潮は眼鏡によって泥が無いことを隈なくチェック。遠目に見ていても何も反応が無いのだから大丈夫だとは思うが、それでも念のため念入りに。文月からは泥の類の反応は一切見受けられないので、本当にただのドロップ艦なのだとわかる。
「でも、思ってた方とは違うところからみんな来たねぇ〜」
「そうなんデスか?」
金剛達がここまで来るにあたり、回り道をすることなく真っ直ぐ向かってきている。そのため、その方向に鎮守府があることになる。
それに対して、文月が向かっていた方向は鎮守府の方とは言い難い向き。ドロップ艦の本能で鎮守府に惹かれて向かっているとしたら、これは何処かおかしい。
そして、次に文月から発せられた言葉は、金剛達に緊張感を走らせる。
「
文月は、ここに来るまでに誰かと出会っている。しかも、何の違和感を持つことなく。
「アー、文月、それはどういう?」
「まだ明るくなるちょっと前かなぁ、あたし、
文月はその時のことを語る。
生まれたばかりの文月は、本能に従い、最も近場であろう鎮守府に向けて航行を始めた。しかし、方向音痴というわけでは無くとも、それはかなり遠くの鎮守府だったようで、何処まで行っても水平線ばかり。稀にある岩礁で少し休憩しつつ、何処かの鎮守府所属の艦娘に会えるまで頑張ろうと動き回っていた。その時に、何者かに出会ったようである。
その艦娘を見つけた文月は、誰かいたと喜び近付いたのだが、何でも緊急性のある任務中であり、鎮守府に送り届けることが出来ないと言ったそうだ。その代わり、ここからあちらに真っ直ぐ行けば自分の鎮守府があると説明されて、そこで別れたとのこと。
「優しいよねぇ〜。すごく急いでるのに、あたしに構ってくれてぇ」
文月はわかっていないが、金剛達はすぐに察した。文月に鎮守府の場所を教えたというのが、まず間違いなく龍驤、もしくは龍驤に属する者であることに。
どれだけ任務で急いでいたとしても、ドロップ艦を見つけたならその場で鎮守府に報告くらいはする。そこで鎮守府側からの指示を仰ぐ。何もせずに、あちらに鎮守府があるから自分で行けだなんてまず言わない。
艦娘とはいえ、ドロップ艦は戦闘の経験も無いいわば
それ故に、ドロップ艦は必ず確保するというのが常識、むしろ大本営に定められた軍規になっている。艦娘を人間と見ようが兵器と見ようが、その存在自体を尊重する方針である。
「でも、教えてもらった方とちょっと違う方に行っちゃってたのかなぁ〜」
「Ah……そうデスね。海の上では方向感覚が狂いマース。慣れてないと、真っ直ぐ行ってるつもりでも、物凄く曲がってる時もあるからネー」
おそらくこの『教えてもらった方』というのも、鎮守府の方向では無い。施設の方向だ。
善意も悪意も無い、何も知らない者なら辿り着ける施設への道のりを、文月に導かせるために仕組まれているとしか思えない。
「山風、荒潮、海の中は調べてマスか?」
「潜水艦の反応は無い……かな」
「そうねぇ。ソナーに引っかからないような深〜いところにいるならわからないけれど、少なくとも今は何もないわね〜」
この文月を監視している存在があるはずだ。そこで考えられるのが、海中か上空。それこそまた潜水艦姉妹のような存在がいるかもしれないし、艦娘達が確認出来ない高高度から監視しているかもしれない。
今のところはそれらしいものがわからないとは言うものの、何かあるのは間違いない。疑心暗鬼と言われてしまえばそれまでだが、周辺警戒を怠ったら、何か拙いことが起きる気がしてならない。
「文月、道を教えてくれたヒトって、どんなヒトでしタカ?」
ここで何かしらの手がかりを得るために、鎮守府に戻りながらも文月から情報収集。他者を器として活動する龍驤が直接動いている可能性があるので、その姿を聞いたところで参考になるかどうかはわからないものの、最低限の残りの敵の数はわかるだろう。
「3人だったよぉ。ちょっと大きなお姉さんと、少し小さなお姉さんに、あと駆逐艦の子」
今の文月にとって、それが深海棲艦であっても偽装をしていればわからない。龍驤本人ならば多少は違和感があるだろうし、深海棲艦の身体を使っているのならよりわかりやすくなるはずではあるのだが、それでもヒト型となればかなりわかりづらくなる。事実、
「金剛さんのところのヒトじゃないの?」
「Yes. その3人というのは、私達が探しているモノかもしれまセーン」
文月に掻い摘んで説明する。生まれたばかりだと訳がわからないだろうが、今この海域には艦娘の姿をした敵がいるのだと。泥とかそういった部分は後から鎮守府で説明を受けることになるだろうが、今は文月が利用されかけていたということを知っておいてもらえばいい。
「え、えぇ〜!? あたし、何かに使われそうになってたの〜!?」
「そうなんデース。でも、私達が来たからにはもう安心デース」
「酷いよぉ〜……そういうの、良くないと思うなぁ」
文月も憤慨。敵の目論み通りに行っていた場合、文月は施設への道案内役となり、そのまま施設に混乱を巻き起こしていただろう。
たまたま、施設まで真っ直ぐ行けなかったというイレギュラーがあったことで回避が出来たものの、施設の哨戒部隊が発見しなかったら、なんだかんだで辿り着いてしまっていたかもしれない。そうでなくても、金剛達が迎えに来ることも出来ず、そのまま消耗し切って終わっていた可能性すらある。
「しかし、3人デスか……予想はしてマシタけど、増えてますネ」
少なくとも残り3人。あとは黒幕と龍驤という段階まで来たのに、そこからさらに増えていくのは厄介極まりない。しかも、今も現在進行形で増えている可能性がある。
そこに追加で、文月のような何も知らない者を投入してくるまで出てきた。泥に侵蝕されているならまだしも、そういうのもなく、ただその存在を利用されるだけというのは殊更に酷い。
「艦載機では何の反応もありません」
「千歳お姉と同じく。もっと高いところから見られてるのかな……」
千歳と千代田の艦載機でも、その痕跡らしきものは無い。今でも監視をされているかもしれないのだが、それがわからないのだから何とも言えなかった。
高高度からの監視ならば、飛行場姫が何かわかるはずだ。今はそちらに任せるしかないだろう。それでもわからないのなら、また考えなくてはいけないが。
「まずは鎮守府に行きましょうネー」
「はぁい」
ひとまずは文月に何もさせずに終わったことに安心しつつ、そのまま鎮守府へと連れ帰る。何も知らないにしても、こういうことをしてきたという事実が大切である。
「鎮守府の子達がドロップ艦を保護したみたいね」
飛行場姫が艦載機経由でそれを知って、安心して変装を解いた。それに続いて他の者達も元の姿に戻る。
「周辺に何かありましたか?」
「アタシが見ている感じは無いわね。ただ、見えていないところに何かあるかもしれない」
「例えば……もっと高い場所、とか」
春雨の言葉に、飛行場姫は気に入らなそうな表情を見せる。これでも充分すぎるほどの高高度に艦載機を配置し、海上を監視していたのだが、それよりも上から見下ろされているかもしれないと言われたら気に入らないのもわかる。
「気に入りませんね。狡い手ばかりを使ってくるのに、こちらを見下しているというその態度が」
「同感。自分の力でどうにか出来ないクセに偉そうにしてる奴は気分悪いわ」
怒りが溢れた春雨と叢雲はこういうところでも同調。その妹達がまあまあと宥める。海風は同調しかけていたが。
事実、海風と薄雲も、龍驤に対しては小さくない怒りを抱いているのは確かだ。漣経由とはいえ侵蝕されているため、その元凶とも言える龍驤は恨みの対象。本来の発作を超える怒りが心の内に存在する。
「ちょっと考えなくちゃいけないわね。もっと上を見られるようにしておく。今でも出来るけど、多分今から向かわせたところであちらも撤退してるでしょ。だから、次からは高高度だけでなく、
海上への視界が悪くなる代わりに、上空の監視が細やかになるため、次はそちらを優先するとした。大鳳もそれが出来るのならしていく方針。
まだ真相は定かでは無いが、文月を手始めに、ここから何も知らないものを頻繁に嗾けてくる可能性が上がってきている。これは完全に嫌がらせだ。
ドロップ艦は文月。これ、実際に施設に辿り着いていた場合、ミシェルの地雷になっていた可能性があるため、事前に知ることが出来て良かったといえます。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/98566496
MMDアイキャッチ風鹿島。侵蝕状態ドS鹿島だけど、このまま吹雪と五月雨にボコられるんですよねー……。