空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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姉姫の苦悩

『貴女達を大本営の管理下に置き、明確に穏健派の深海棲艦として認めさせる。そのために、協力して戦線を組んで、世界の平和を目指している者達であることを知ってもらうというのはどうかしら』

 

 大将からの提案に、中間棲姫は目を丸くした。つまり、自分達と一緒に戦う姿を見せることで人類に協力的な深海棲艦であることを知ってもらい、大本営の管理下で平和を取り戻そうということである。

 それは当然、今までの施設の平和とは違うものだ。だが、大将はそこからさらに続ける。

 

『管理というのは少し言い方が悪いわね。貴女達は基本的にはいつも通りにしていてくれればいい。この戦いが終われば、今までの生活に戻れるように保証する。その代わりに、その存在を周知させてほしいということ』

 

 そうすることで、今の春雨のように戦いを望む者も鎮守府と協力して戦うことが出来るし、今までよりも補給物資の支援がしやすくなる。戦いが終われば全て不要なモノになるのだが、少なくとも今までのこの関係を()()()()()()ことが出来る。

 

 ただし、本当に協力者であるかどうかの確認などは逐一する必要はあるだろう。今までこうやって付き合ってきた3人の人間だけではなく、大本営の他の人間にもその姿を見せなくてはならなくなるだろうし、あちらからは本当に裏切らないのかという疑問を持った目で見られ続ける可能性もある。

 一度このカタチで手を結んだら、それこそ管理されることになるだろう。大将はいつも通りに過ごしてくれればいいとは言うものの、その行動は定期的に監視され、息苦しいモノになりかねない。

 

『共闘することで、貴女達の平和を取り戻す戦いをサポートさせてほしい。それ以上でも、それ以下でも無いわ。どうかしら』

 

 あくまでも大将は、施設の在り方を捻じ曲げようとは思っていないと言う。同じ道を歩こうとしている仲間の望む平和を乱そうだなんてカケラも思っていない。大本営の向かう先は、戦いの無い世界だ。戦いを望まない者の意思を尊重しないわけがない。

 

「……1つ、いいかしらぁ」

 

 大将の提案に対し、中間棲姫は出来る限り思考を巡らせ、質問をする。

 

『ええ、なんでも聞いてちょうだい』

「大本営……だったかしらぁ。貴女達の一番上のヒト達は、私達の存在を認めてくれそうなのかしら。こんな言い方をするのはどうかと思うけれど、()()()()()()案なのかなって」

 

 当然そこは心配になるだろう。今まで中間棲姫が見てきた人間は、その誰もが思想を同じとして中間棲姫のことを仲間として見てくれている。堀内提督や大将はその人柄から信用出来ると判断しているし、大塚提督は牙を剥かない深海棲艦をわざわざ始末するなんて合理的では無いとして仲間と割り切れている。むしろ、このように対話することで、より一層人間味を感じていくことが出来ている。

 だが、人間というのはこの画面越しの3人だけではない。同じ思想の者も勿論いるだろうが、深海棲艦という種族に深い恨みを持つ者だっているだろう。そういう者に、協力者ですと中間棲姫の姿を見せて、果たして納得させられるか。

 

『ええ』

 

 大将は断言した。大本営、延いてはこの世界にある鎮守府全てを納得させると。

 

『覚えているかしら。大塚提督が初めて貴女と対面した時のこと。私はその時に貴女に言ったわよね。『こちらでは貴女達の力が借りられるような土台を作っていこうと思っている』って。私はね、本当にゆっくりと準備を進めてきていたの。だから、私に任せてちょうだい。同じ平和を望む者を、()()()()()()()()爪弾きにするだなんて、おかしいと思うもの。悪いようには絶対しないから』

 

 自信満々に言い放つ大将に、不思議と安心が出来た。勿論不安だってあるが、この人間ならば、本当に種族の隔たりなんて考えさせずに、施設も含めた真の平和に辿り着けるのではないかと感じさせるほどに。

 だからだろう、中間棲姫はあまりどころかまず口に出さないような愚痴を溢し出す。

 

「……正直なところ、私達だけではもうこの島の平和は守れないかもしれない。こんな弱気はダメなんだけれど、ここ最近はどうしてもそんなことを考えてしまうようになっちゃったの」

 

 キュッと拳を握り、少し俯きながらもボソリと呟く。隣にいる春雨や海風のみならず、台所にいる飛行場姫達もそんな表情を見て悔しそうにした。

 最も長く一緒に居続けた飛行場姫ですら、こんな辛そうな表情の姉を見たことは無かった。この現状で気に病んでいるのが、特に辛い。

 

「でもね、私の中身がずっと迷惑をかけ続けているのも、私としてはとても辛い。私はこの島から動けないから、それを私の手でどうにかする手段は無いけれど、叶うのなら私の手でどうにかしたい」

 

 ほんの少しだけ見せた苦悶の表情はすぐに消え、いつもの調子に戻る。この短時間で、どの選択をするのが仲間達の、自分の最も平和な未来に繋がるのかを考えていた。

 

「私の選択でこの島を危険に晒すかもしれないけれど、よくよく考えたらもう充分に危険なのよねぇ。そんな状態で何もせずにいたら、もっと良くない方向に向かっちゃう。それはよろしくないわぁ。だったら、多少茨の道でもみんなのためになる道を選ぶわぁ」

 

 ニッコリ笑って画面に向き直る。

 

「大将さん、共闘の方針、私は呑ませてもらうわぁ。貴女がそこまで力強く言うんだもの。悪いようにはならないわよねぇ」

『ええ、何があっても貴女達に悪いようにはしない。約束する』

 

 ここまで一緒に歩いてきた仲間を裏切るような真似は絶対にしないと、大将も笑顔で応える。

 今までもほとんど共闘のようなモノだった。同じ戦場に立ち、共通の敵と戦うこともあった。しかし、これからは非公式ではなく公式に認められた共闘となる。人々のためにその力を振るう深海棲艦として、大本営に認識させる。

 

「なら、明日の前哨戦から参加していいんですか」

 

 ここで春雨が口を出す。大将からの許可が出たならば、躊躇う必要も無い。真っ直ぐ正しい怒りを向ける。

 

『私としては、それでも問題ないと思うわ。むしろ、その方が貴女のためにもなるわよね』

「はい。正式に許可をいただけるのなら、私は施設の平和をここまで破壊した龍驤を、この手で始末したいです」

 

 あまりにも攻撃的。春雨とは思えない言い分。だが、堀内提督は表情を変えずに鎮守府側の作戦を伝える。

 

『いや、始末まではしない。黒幕との戦いに備えるために、龍驤は捕獲する』

「……捕獲?」

 

 明らかに嫌そうな顔。これまでに何人もの仲間達が嫌な思いをしているのに、そんなことを平気な顔をして繰り返す龍驤を生かしておくという選択肢に嫌悪感を見せていた。

 前までの春雨なら、この提督の提案も喜んで呑んでいただろう。倒さずに救う手段を探せるかもしれないと、是非その方針でと言っていただろう。しかし、今の春雨は違う。龍驤は生かしておけないと、最初から徹頭徹尾始末する方針だった。

 

「何故慈悲を向けるようなことを?」

 

 そして、その嫌悪感を隠さない。命を奪うことに躊躇が無いくらいに、龍驤への怒りは滾っている。

 そんな春雨の表情に臆することは無いのだが、そんな表情をするほどに壊れてしまった春雨のことを悲しく思いながら、堀内提督は続ける。

 

『僕としてはあまり良いことではないと思っているのだが、これは明石の提案だ。黒幕に通用する装備を開発するにあたり、その実験材料を手に入れる必要があると話していた。今開発に使っている泥にも限界はあるのでね』

「なるほど、被験体(モルモット)の獲得ですか。なら納得行きました。流石は明石さんですね」

 

 ニコリともせずに龍驤のことを実験材料にすることを受け入れた。もう救えない龍驤は、せめて安らかに眠れるようにと慈悲深さを出していた春雨が、その龍驤に対してそんな気持ちを一片たりとも見せない。

 仲間達に対しては慈悲の心はあるが、龍驤に対しては怒りと憎しみ以外の感情が欠如する。何も考慮などなく、こちらが与えられた苦しみを全て与えてからその灯火が消えてしまえばいいとすら考えている。

 

「それなら、捕獲のお手伝いをします。今使っている身体に関しては、救えたら救います」

『ああ、その場で乗り換えるなんてこともするかもしれないが……こんなことを言うのも辛いのだが、龍驤()()は全員被害者だからね。救えるものなら救ってほしい』

「了解です。私が聞いている限り、空母棲姫の身体を使っているということなので、その命は取らないように努めます。その空母棲姫が侵略者で、救われても人間を襲うと考えているようなら、その場で始末します」

 

 提督は肯定も否定も出来なかった。

 

『大将、一ついいですか』

 

 冷たい空気が流れる中、今度は大塚提督が質問。

 

『何かしら』

『その前哨戦、俺の鎮守府から1人か2人、参加させられませんか』

 

 ここで戦力増強の申し出。大塚提督としては、黒幕との決戦に向けて、龍驤がどういう存在なのかを知っておくいい機会だと考えていた。当然苦戦は必至だし、最悪な場合、そこで重傷を負う可能性もある。何せ、黒幕も同じだが未知の手段を多々使ってくる難敵だ。だからこそ、事前に知ることが大事。情報を得ることが最も勝利に近づく鍵。

 今のところ、大塚鎮守府が敵について知っていることは、艦娘を侵蝕して手駒に置き、自分の手を汚すことなく戦わせるということだけ。あとは侵蝕された者はブーストがかかり、本来以上の力が出せるようになるということくらいである。それ以外の力、純粋な戦力がどれほどのものかは知っておかなくてはいけないことだ。

 

『堀内提督、可能かしら』

『そう……ですね。部隊編成のことを相談したいので、出撃を少し遅らせることが出来るのなら、問題ありません。僕の鎮守府と大塚提督の鎮守府はそれなりに離れていますし、移動にも時間が必要ですから』

『そうね。それなら、明日ではなく明後日としましょう。早期決着は必要だけれど、お互いに準備が必要よね』

 

 時間を置けば置くほど、あちらは力をつけていくだろう。それ故に、明後日が限界。明日1日を準備期間とし、明後日に前哨戦、龍驤との決戦に持っていく。たった1日ではあるものの、猶予が出来たことでさらに鍛え上げることが出来るだろう、

 

『姉姫、今のところ、龍驤の居場所は貴女の島が近いみたい。一度そちらを経由させてもらってもよろしいかしら』

「ええ、構わないわぁ。真っ直ぐ行くより、少し休憩をする方がいいでしょうしねぇ。それに、そこから合流して、こちらからの子達を一緒に行かせるということで良いかしらぁ」

『それが一番妥当ね。大塚提督の艦娘もその場所を知ることになるのだけれど、それも大丈夫かしら』

「貴女が認めている子なんだもの。私達を見ても何かするわけでも無いでしょう? それなら大丈夫、みんな受け入れるわぁ」

 

 逆に大塚提督も誰を参加させるかは考える必要はあるだろう。この施設の者達とも交流出来て、お互いに敵意なく協力し合える仲になれる社交性を持つものを選別しなくてはならない。

 

『それじゃあ、戦いは明後日。それまでにしっかりと準備をして、確実に勝ちましょう』

 

 通信はこれで終了。前哨戦までの日程が決まる。残された時間、各所でそのための準備が進むことになるだろう。

 

 

 

 

「春雨ちゃん」

 

 通信終了後、大きく息を吐いた後、中間棲姫は春雨をちょいちょいと呼ぶ。

 

「なんですか?」

「平和は歩いてこない。本当にその通りね。だから私も、自分から歩み寄ろうと思うわぁ」

「……ですね。このまま手をこまねいていても、何も変わらないと思います。私怨もありますが、私はこの島の平和を強く望んでいますから。そのためにも、自分から動きたいと思います」

 

 辛い決断だっただろう。だが、中間棲姫はこの決断に迷いは無い。いや、その迷いを振り払った。

 全てはこの施設の平和のためだ。今は辛くとも、必ずこの闇を抜けて元の平和に戻る。そう信じて、今はこの選択をしたのだ。

 

 

 

 

 きっと上手く行く。そのために、まずは目の前の敵をどうにかする。

 




施設も含めた、人間、艦娘、深海棲艦の連合軍により、龍驤との戦いに挑みます。翌日ではなく翌々日となったことで、もう少しだけ準備期間を得ることが出来たため、戦力向上も出来るでしょう。それはあちらもですが。
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