翌日、前哨戦までの最後の準備期間。この1日の間にも、龍驤は手駒を増やしている可能性は高く、明日の戦いでは多くの侵蝕されたドロップ艦を相手取る可能性がある。
鎮守府から用意するのは、12人で編成された連合艦隊。泥を弾くバリアを生成する6つで1セットのアイテムは、コスト的に12人分しか用意出来なかったためである。そこまで出来ているだけでも充分なのだが、ひっきりなしに手駒を増やし続ける龍驤には、その人数で足りるかはわからない。
そこにさらに情報を得るためということで、大塚鎮守府から艦娘が派遣されるという話も出ている。この1日は、その打ち合わせも兼ねている。
工廠には朝早くから大塚鎮守府から派遣されてきた艦娘が到着していた。まだ朝食を終えたくらいの時間であるため、あちらで出向が決まった時にはもう出発の準備を終わらせており、日が昇る前から動き出していたと見える。
「今日と明日、よろしくお願いします」
「よろしくね! 絶対大丈夫だから、心配しないで! もっと私に頼っていいのよ!」
「ああ、よろしく頼む。彼が君達を派遣したということは、明日の戦いに有用だということにほかならないのだろう」
その派遣されてきた艦娘というのが、鹿島と雷である。2人とも侵蝕されている経験があるが、大塚提督からすればそんなことはどうでもいい。この戦いに勝つための采配である。
突発的に明日の戦いに入れてくれと言っても、当然だが顔合わせすらしていない者と一緒に戦うなんて普通よりもリスクが高いに決まっている。そのため、そういう状況でも十全な力が発揮出来る者が選択されているのだ。
鹿島は練習巡洋艦という特殊な艦種であり、通常の巡洋艦よりも若干力は劣るものの、大塚鎮守府の鹿島は一味違った。他者に艦隊行動のノウハウが教えられるということは、
雷も鹿島と似たようなもの。大塚鎮守府の古参であるために、仲間との行動は鎮守府の中では最もデキると判断されている。その社交性も島風並みに高く、古参なだけあって実力も非常に高い。鹿島との相性も抜群であるため、同じように連携が出来る逸材。
「こちらに来て早々で申し訳ありませんが、今回の出撃メンバーを教えていただけると嬉しいです。艦娘の基本的なスペックは全て頭に入っていますが、申し上げにくいのですが、若干そこから逸脱していますよね。なので、今日1日で全てを知った上で、お力添え出来るようにしておこうと思います」
「鹿島さんは堅いわ。要は、一緒に戦うヒト達と事前に仲良くなっておきたいってことよね。私も同じ気持ちよ。ちゃんと知っておかないと、連携なんて出来ないものね」
鹿島はどちらかといえば大塚鎮守府の在り方をしっかりと守り、感情を出さないように心掛けているように見える。そのおかげで、
雷は大塚鎮守府の中ではかなり感情的に動いているように見えるが、実際は
「ああ、昨日のうちに誰に向かわせるかは決めてある。君達を含めて12人。戦力としても申し分ないものとして考えた」
顔合わせとしても、早急がいいだろう。そのため、鹿島と雷に紹介するためにも、この場で部隊の発表をすることとした。呼び出された者が明日の前哨戦のメンバーである。
堀内提督が呼び出す度に、ゾロゾロと工廠にやってくる艦娘達。一部はやる気満々で、一部はやる気無さそうに。
「施設との関わり合いも多い者が基本になっている。まずは調査隊の隊長を務めている山風、その駆逐隊の一員である江風と涼風、そこに荒潮を加える」
この3人も、龍驤には因縁がある相手だ。2回目の戦闘で龍驤に致命傷に近い損傷を与えて撤退させた実績が大きい。それに、今ではこの鎮守府の最も強い駆逐隊といえばこの3人になる。使わない理由はない。
荒潮はこの鎮守府の中でも最も早く伸びた逸材だ。全てはジェーナスのためと鍛え続け、既にこの3人と同等に近い力を身につけてしまった天才。
「龍驤が名指しで因縁をつけている北上と、その相棒である大井」
「ちょいちょい、あたしってばそんな理由?」
「言わずとも君ならば出撃を望むだろう。そのために武装の使い方まで聞いてきたんだから」
北上と大井は、必須と言える人員だろう。龍驤との因縁は相当深いものであり、煽りに煽って二度の戦闘を撤退まで追い込んでいるのだ。敵を手玉に取る戦術は、北上がトップクラス。大将の艦娘の中でも、堀内鎮守府の艦娘を加えても、その追随を許さない。
「敵が空母であることを考えると、制空権の確保は確実に必要だ。そのために、空母は硬めにしておいた。千歳と千代田」
こちらも龍驤とは一度交戦している2人。違う器を使っていようが、それは空母であることには変わりない。ならば、制空権をしっかり確保していないとまともな戦闘すら出来やしないだろう。そのためにも、千歳と千代田は必要となる。
2人がかりでも拮抗までギリギリというところではあるが、それでも無いよりはマシ。むしろ、2人がかりだからこそ柔軟に対応出来る。
「そしてやはり撃破のためには火力が必要になる。金剛と比叡。これで10人だ」
相手が他者を器として使っているのはわかるが、それがどんな器であれ、ある程度の火力が無ければ話にならない。侵蝕された艦娘を治療、解放するにしても、力業に頼らねばならない時も来るだろう。そのために、連携が最も得意な戦艦を2人投入。
武蔵を入れなかったのは、あまりにも火力が高すぎるのと、ハイになってしまった時に侵蝕された者達を沈めかねないからである。龍驤が器に使っている者が深海棲艦であっても、出来ることなら治療して解放したい。その成功率を上げるため、窮余の策かもしれないがこの手段を用いた。
ここに鹿島と雷を含めることによって12人。連合艦隊の完成である。他にも向かわせたい者はいたが、アイテムの数的にこれが限界。
だがここで北上が
「漣達はどうすんのさ。結構頑張ってるよアイツら」
ここまで必死に努力を続けてきた北上組の3人、漣、曙、朧。1人は龍驤を見返すために、1人は春雨に尽くすために、1人は潮と顔を合わせるために、今も絶えず訓練を続けている。そのおかげで、北上的には
しかし、その龍驤を斃すための部隊には含まれていない。アイテムが足りないのはわかるが、まだ練度も確認していないというのに最初から外すのはどうなのだと訴える。
そんな様子を見ながら、大井は相変わらずだと苦笑する。駆逐艦嫌いなどと言いながらここまで親身になっているのだから。
「ふむ……だが、3人分を追加となると、例の泥回避のアイテムは作れない。だからと言って、ここから3人削ることも難しい」
「あ、その件なのですが、我々の提督さんから言伝をいただいています」
そこにおずおずと鹿島が手を挙げた。
「『鹿島と雷の分の装備のコストは、うちの鎮守府が出す』とのことです。開発する環境が無いので用意までは出来ませんでしたが、追加で2つ作ることは可能でしょうか」
資源は後払いになってしまうがとも話していたらしい。問題ないようなら、午後にその分を持ってくるとも。実に大塚提督らしい言い分である。他の鎮守府の力ばかりを借りるのではなく、その技術は借りるがあくまでも自分達の装備として扱えるように手を回そうとしているわけだ。
実際、このアイテムに関しては資源さえあればすぐに作れるようなものなので、コストさえ用意してもらえれば増産は可能。2人分となれば、それこそすぐである。
「不可能では無いが……それでも1人分足りない」
「ああ、だったらあたしの分はあいつらに渡してやって。これで3人参加出来るっしょ」
とんでもないことを言い出す北上。つまり、
「流石にそれは容認出来ない。それで君が侵蝕されてしまった場合、取り返しがつかないだろう。万全な態勢で向かっても勝てるかわからないのが今回の戦いだ。1人失うということは、敵が1人増えるということにもなるんだ。君だってそれを理解しているだろう」
「理解している上で言ってんの。それに、あたしだけ無防備にしておけば、ちょっとやりたいことが出来るんだよね。だからさ、お願い」
いつも飄々としている北上の、やけに真剣な表情。勝算があるからこそ、この選択をしているのだと言わんばかりの目。
そもそも北上はこの鎮守府の艦娘ではないため、それが大将の艦娘であろうと堀内提督にはその意志を受け止める必要は一切ない。大塚提督ならば、北上が何と言おうと選択肢にすら入れていなかっただろう。合理的ではないため、意見があろうがより勝算が高い道を自分で割り出してから決定している。
だが、堀内提督は艦娘の言葉を親身になって聞くタイプであるため、そこまで言うならばと北上がそこに至った経緯を聞き出す。やりたいこととは何か、それが本当に妥当なのか。それを知らない限り、この意見は取り入れることは出来ない。
「まぁでもその前に、アイツらがどれだけ出来るか見てよ。そもそも実力不足で参加させられないってなら、あたしの分を渡すなんて出来やしないしさ。アイツらがお眼鏡にかなっているかどうかを判断するのは、提督のお仕事だからね」
「……そうだね、そうさせてもらおう。君がそこまで推すのだから、この短期間で相当なものになっているとは思うが、今回の戦いは普通ではない。3人で一人前となっているとしても、それが戦場に出せるレベルに達しているかは、見てみなくてはわからないからね」
そもそもお眼鏡にかなったとしても、それが北上のアイテムを譲渡してまで採用出来るかどうかはわからない。戦えるとしても、通用するかどうかは別。
「今頃は武蔵さんとサラトガさんが鍛えてくれてっから、それを見てよ。そうそう、鹿島もいるわけだし、練習巡洋艦の目から見てもどんなもんか意見が欲しいな」
「わ、私ですか!?」
「アンタ以外に練習巡洋艦はいないよ。こんな場所に合理的な考え方をする提督が送り込んでくるんだ。実力も見る目もあるんでしょ。それに、連携するにしても何が出来るかしっかり理解しておかにゃね」
新人を鍛えることに定評のある練習巡洋艦。その目から見ても、北上組が実戦に耐え得るかどうかを確認してもらい、これならば行けると確信出来るものならば今回の部隊に採用してもらう。
「見てビックリしてよね。あたしと大井っちが鍛えに鍛え上げたから」
「だが、どうしてそこまで入れ込んでいるんだい。君は体裁としては駆逐艦嫌いで通しているだろう」
「アイツらの思いを遂げさせてやりたいじゃん。三者三様だけど、やる気があるならしっかり完全燃焼させてやんなくちゃ。そうしないとずっとウジウジしててウザそうだし。あたしはどちらかといえば後者。イジけてるとこ見せられたくないの。面倒臭そうだし」
駆逐艦がそうしている様子を見たくないという本心が薄々ではなく堂々と見えている気がするが、あえてそこには触れなかった。否定していても、北上はどうやっても駆逐艦好きからは逃れられない。本人以外は全員理解しているほどである。
「むしろあたしとしては、調子に乗ってる龍驤に吠え面をかかせるのはコレが一番だと思ってるからね。意気揚々と送り込んできたアイツらが、因縁の相手に育てられて自分を打倒してくるなんてさ。龍驤はどんな顔をしてくれるのやら」
ニヤニヤする北上。根っこの部分は若干性格が悪いようだが、それも駆逐艦達のことを思ってのことである。
漣達は今もその戦場に出るために努力している。その努力が報われるかどうかは、まだわからない。
連合艦隊からどんどん規模が大きくなる前哨戦。もう決戦に近い程の戦力投入である。