空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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3人の努力

 前哨戦への部隊編成中の堀内鎮守府。堀内提督が提示した部隊に、漣達が含まれていないことに北上が難癖をつけた。泥バリアのアイテム数などの問題もあり、限られた人数しか出撃させられないのは仕方ないこと。しかし、それでも猶予があるのなら採用してもらいたいという北上の言葉に、まずはどれだけ戦えるようになったかを見るところからということになった。

 さらに、戦える練習巡洋艦である鹿島の目で見てもらい、戦いに参加させられるところまで来ているかの確認もしてもらう。3人で一人前という特殊な戦い方になるのだが、それでも充分に戦力としてカウント出来るかどうか。

 

 その3人は、今も武蔵やサラトガに鍛えてもらっているということで、堀内提督と鹿島がその様子を見に向かう。勿論北上と大井も便乗。いわば自分の()()達が、この短期間でどのような評価を受けるかが気になっていた。

 

「先に聞いておきたいんだが、君達は彼女らをどう育てたんだい。申請は来ていたが、あれでもう出撃出来る程に育っているとは正直思えないんだが」

 

 提督の当然な疑問。まだあの3人はこの鎮守府所属になってから数日。荒潮が改二になるまでにかかった時間よりも短い時間である。いくら敵対していた際の動き方などを覚えているにしても、泥のブーストも失われている状態で同じ動きが出来るわけもなく、身体がついていかない。

 しかし、北上は自信満々に3人は戦えると言う。何度も言うようだが、3人は3人で一人前となるべく鍛えに鍛えたのだ。単体では今回選ばれた者どころか、鎮守府にいる艦娘達の中でも下から数えた方が早いだろうが、3人揃えばそれこそこの鎮守府でも最も優れているであろう駆逐艦である山風にも匹敵する程になっているはずだ。

 

「曙は近距離、朧は中距離、漣は遠距離って役割を与えて、それが確実に出来るように筋トレから何から何まで徹底的に刻み込んでやったんだよ。荒潮の意見も取り入れてね」

 

 やったことといえば、陸上で出来る筋トレ、そして艤装無しで艤装ありの北上大井の攻撃を避ける体術、艤装ありならば電探の扱い方から艤装展開の精密性まで。()()()()()()()()()()必要なことを叩き込まれている。

 そこに荒潮からのアドバイスも入れ、敵側だった時の動きもなるべく早く再現して、癖を直すのではなく()()()()()ことでさらに成長した。今の能力で出来ることを完璧に出来るようにし、さらに出来ることを拡げていくことで伸ばす。

 

「武蔵さんもノリノリなんだよね。鍛えてやってほしいって言ったら、すっごいイイ笑顔見せてきてさ。今頃酷いことになってるかも」

「その割には北上さん、楽しそうですね」

「そりゃあね。アレを見たら部隊に採用しようって思うはずだから」

「そこは見てから決めさせてもらうさ」

 

 そして、訓練をしているという海上が眺められる場所へ。いつも陸上訓練をしている場所からはっきり見える位置で訓練中であるため、そこで見てくれと促した。

 

 その海上、武蔵とサラトガ相手に立ち向かうのは、北上組の3人。話していた通り、ポジションを徹底して守っており、自分が出来ることを完璧に押さえている戦い方。しかし、それだけでは足りないと自分達でも感じ取っていたのだろう。この訓練によって、さらに殻を破ろうと躍起になっていた。

 その中でも特に自分を磨いていたのが、意外にも漣である。後ろから曙と朧を見ながら、自分が出来ることを探し、それを形にしていく力は、2人よりも大きかった。

 

「戦闘技術は及第点だ。被弾率はかなり低いようだね」

「あっちの攻撃、当たったら終わりの攻撃が多すぎんだよね。だから、まず回避を優先させてる。で、そのついでに攻撃出来るようにするスタイルがメイン。でも、そういうのって武蔵さんにはなかなか通用しなかったりするから、ここで臨機応変を覚えてもらいたいんだよね」

 

 武蔵は少なくとも手加減をしているのが、遠目でもわかった。サラトガも合間合間に空襲を入れて、回避性能の訓練に貢献しているものの、全力では無い。

 しかし、見ていれば見ているほど、2人は徐々にその力を強く出していく。どちらかといえば、自分達の攻撃に目を慣らさせているような雰囲気だった。

 さらに武蔵は、砲撃と格闘を入り交ぜて繰り出してくるため、先陣を切っている曙は悪戦苦闘。それを助けるために朧と漣が頭を使っているという感じか。

 

「付け焼き刃にしてはよく出来てると思うんだけど」

「……確かに、アレがドロップしてまだ数日しか経っていないと言われれば驚くものだ。侵蝕されていた時の動きを、追いつくことが出来ないにしろ覚えてはいるから、あれだけやれるんだろうか」

「多分ね。連携もある程度はそれで出来るっぽいから」

 

 提督が見ている内に、武蔵から一本を取ることは出来そうにない。だが、目に見えて成長していく様子は確認出来た。今は午前中ではあるが、同じことを午後まで続けていれば、3人がかりといえど一線級にまで成長出来そうである。

 

「鹿島の目から見てどうよ」

 

 北上に振られた鹿島だったが、その声も聞こえていないくらい真剣に3人の動きを目で追っていた。

 

 連携に重きを置いていることを前提に、今の動きが最善かをあらゆる観点から分析し、本当に辿り着くべき場所を脳内構築、展開することで、教え子を最高に仕上げていくのが、練習巡洋艦鹿島のやり方。

 今ここでも3人に対してそれを実行し、()()()()()()()ことは瞬時に看破。練習巡洋艦ではない者の教えがここまで的確であることに驚きつつも、今の観点からさらに伸ばす方法を割り出しながら、今日中に戦力になり得るかどうかを考えていた。

 そして、出た答えは北上の望むモノだった。

 

「……可能ですね。1人で一人前にするのには時間が必要ですが、三位一体の戦術で土台があそこまで出来ているなら、今日中に仕上げることは出来ます。私も口を出していいですか」

 

 視線は北上の方には向かないが、あの3人を戦場に出しても問題ないくらいには出来ると、練習巡洋艦の視点から見て保証した。

 むしろ、ここから自分の教育で強く出来るかもしれないと思うと、ほんの少し昂揚しているようにも見えた。生粋の教育者タイプ。

 

「鹿島もこう言うことだしさ、アイツらも部隊に入れてもらえないかな。さっきも言った通り、足りない分はあたしのモン持っていってくれていいからさ。頼むよ」

 

 龍驤への嫌がらせもあるのだが、あの3人の思いを遂げさせるためになるべくその方向に持っていきたいという意志を感じる北上の瞳。いつもおちゃらけているようではあるが、今回は至って真剣。

 

「……もう1つ聞いておきたい。先程言っていた、君のやりたいこととは一体何か。これが最後の決め手になる」

 

 ああ、と北上が納得。わざわざ自分を無防備にしてまで何をしたいか。

 侵蝕されたら終わりのこの戦いで、侵蝕されないようにするアイテムが開発出来たから、攻勢に出られるようになったのが今だ。それなのに、自分の弟子を戦場に出したいというだけで自分の守りを全て捨て去るのは、あまりにも効率が悪いというか、慢心に近い危うさを感じる。

 

「ああ、確かにそれはちゃんと教えておかないとね。ほら、龍驤ってば、あたしに執着してくれてんじゃん。それを利用してさぁ……」

 

 自分を無防備にしてまでやろうと考えていた作戦を話す北上。最初の方はふむふむと聞いていた提督だったが、話が進むにつれて、本当に大丈夫かという気持ちが強くなる。

 自己犠牲というわけでもなく、そうすれば丸く収まるかもしれない一番の手段。龍驤の特性まで考慮にいれた作戦。直接ぶつかり合っているからこそ思い付いた手段。

 失敗したら終わり。しかし、それくらいしなければ最善のゴールには辿り着けない。泥と化した龍驤を捕獲しつつ、その場にいる全員を解放することが出来るとなると、多少のリスクを取らなくてはどうにもならない時が来る。その中でも、最もリスクが少ない手段。

 

「……なるほど。だが、君は本当にそれでいいのか」

「構わないね。あの龍驤(バカ)を出し抜くためなら、手段は選んでらんないから」

 

 考えに考える提督。今回の部隊編成も、必要最小限のリスクだけは考慮したものだ。そのリスクも、部下の艦娘達が傷付くリスクではなく、あちら側にされている者達を救えない方のリスク。だが、今選んだ者に加え、鹿島と雷、そして施設から選出された深海棲艦の仲間も加われば、そのリスクもかなり抑えられるところだろう。

 そして今回の北上が提示した策は、それをさらに盤石にするものな上に、龍驤の捕獲率を格段に上げることが出来そうなもの。しかしながら、分散していたリスクを北上に集約するようなものなので、たった1人の危険度は格段に上がる。

 

「容認は出来ない。最善とは言えないからね。だが、手段としては成功率を上げるモノなのだろう」

「でしょ。だからさ、頼むよ」

「……上手く行ったときの最高の戦果は、そちらだろう。責任を問われるのは僕なんだが」

「あたしも婆ちゃんに謝るからさ、ね、お願い」

 

 冗談のように媚びてくるような北上の仕草に苦笑。そして、

 

「わかった。北上、君の案に乗ろう。だが、ギリギリまで最善の手段を考える。それでいいかな」

「問題無し!」

 

 ニパッと笑顔を見せる北上に、提督は小さく溜息を吐きながらも、その作戦のリスクを最小限に抑える手段を考え始めた。

 

「ありがとう提督。ただの艦娘の意見を取り入れてくれて」

「今更それを言うのかい。でも、君の言い分もわかるんだ。艦娘とて、感情を持つ人間と同じ。利用された彼女達の思いを遂げさせるため、一矢報いるために、戦場に出してやりたいという気持ちは僕にも理解出来る。だが、それが無駄死にになる可能性があるのなら、何と言われようと僕はやらせるつもりなんてなかった」

 

 だが、あの3人の成長と、北上の作戦、そしてそれに懸ける思いを知ったことで、問題ないとは言い切れずとも、限りなく敗北の可能性を排除出来るところにまでは至った。あとは本人の思い次第だろう。

 ならば、それをやらせる。無理無茶無謀と言われようが、前を向いているものを躓かせるよりはマシである。

 

「ちなみに、君は大将にもそういうことを?」

「結構打診してる。8割は却下されるけどね」

「なら今回はその残り2割だったわけだ」

 

 よかったよかったと北上も安心していた。あれだけ努力している3人のそれが報われないなんてあってはならない。間に合わせることが出来て本当に良かったと、内心ホッとしていた。それに気付くのは、この場では大井くらい。

 

「今日中に仕上げるのなら、私も力を貸します。午後からでもいいので、私に教えさせてください」

「ああ、よろしく頼むよ。練習巡洋艦の教育、期待している」

「お任せください。あの子達を一人前からさらにステップアップさせましょう」

 

 ニコッと笑う鹿島だったが、北上組の3人は後に語る。鹿島の教育が、今までで一番ハードだったと。

 

 

 

 

 兎にも角にも、堀内鎮守府から出る部隊は決定した。翌日の戦いに備えて、ギリギリまで準備を怠らず、確実な勝利に向けて最善を尽くすのみ。

 




漣達も龍驤との戦いに参加することが確定しました。3人がかりで一人前というのは戦場では足手纏いになりかねませんが、そこは鹿島先生の教育によってさらにいい方向に向かいます。
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