空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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捻じ伏せる決意

 鎮守府側の部隊が決定したため、そのメンバーが施設側に知らされた。翌朝に施設経由で戦場に向かうことになっているため、誰が来るかを最初から把握しておく必要があるからだ。

 堀内鎮守府の面々だけならまだしも、今回は鹿島と雷という初めて施設を見る者、そして漣達という潮のトラウマを刺激する者が訪れることが確定している。そういうことは、事前に知っておく必要はあるだろう。

 

 このメンバーからして、施設の中で重要な立ち位置になってくるのは、漣達と会うか会わないかに繋がる潮。そして、

 

「鹿島さんと雷ちゃんが来るんですか!?」

 

 大きく反応した古鷹である。中間棲姫から呼び出されてこのことについて聞かされた古鷹は、確実に喜びの感情を表に出して驚く。自分の故郷となる大塚鎮守府からの参戦は、古鷹としては予想外だと思いつつも嬉しくも感じた。

 大塚提督と直接顔を合わせることは出来ずとも画面越しでは話が出来たが、昔の仲間と直接会えるのはあまり考えていなかった。そのため、少し緊張すらしてしまっていた。

 

「ええ、眼鏡くんのところの子達も、本番に向けて情報を直接欲しいということみたいでねぇ。そこで、彼が選んだのが鹿島ちゃんと雷ちゃんって子みたいよぉ。私は直接顔を合わせたわけじゃ無いんだけれど、提督くんからその名前を聞いてるわぁ」

 

 むしろ、堀内提督から古鷹によろしくと言われたくらいなので、あちらとしても若干意識はしていたようである。大塚提督としても、画面越しの再会をした時に、古鷹の部屋を残して戻ってこられるようにしておくと話していたくらいだ。艦娘を兵器として考えていても、元部下には愛着はあるのだろう。

 

「……姉姫さん、お願いがあります」

 

 ここで、決意したように拳を握りしめて、真剣な瞳で中間棲姫に向き直る古鷹。その目を見れば、古鷹が何を言いたいかはわかる。

 

「私にダメという権利は無いわぁ。古鷹ちゃんがやりたいと思ったことをやればいいのよぉ」

「あっ……は、はい。でもまずは宣言を」

 

 もう許可は貰えているが、ちゃんと言葉にして、意志を伝える。

 

「次の戦い、私も参加させてもらいます。本来の居場所の仲間達が来るというのなら、私も立ち上がりたいと思いました」

「ええ、わかったわぁ。でも、明日行く場所はとっても危険な場所。()()侵蝕されてしまう可能性があるのよ。それでも、いいのねぇ?」

「はい、覚悟の上です。相手が相手ですから、私の力も必要だと思います」

 

 重巡洋艦でありながら、戦艦の力、むしろ戦艦レ級の力を使えるようになってしまった古鷹は、スタミナこそ他の仲間よりもかなり少ないが、主砲も魚雷も艦載機も使える超万能な戦力となっている。

 特に艦載機は今回非常に有用。敵が空母であることが確定しているため、制空権争いは絶対的に必要。現状向かうとわかっているのが、鎮守府から千歳と千代田、そして施設から大鳳の計3人であるため、さらに向かうとなれば、より戦いやすくなるだろう。

 

「近づかない、必ず回避する、無理をしない。これを守ります。あの侵蝕の辛さは……多分、この施設にいる仲間達の中でも一番理解していると思いますので」

 

 実際、()()()()にいた期間が最も長いのは、施設にいる者の中では古鷹。そして、罪のない艦娘を手にかけた数が最も多いのも古鷹である。

 故に、艦娘としての思考を狂わされ、人類の敵となる辛さは嫌というほど理解している。本来の自分と全く違う言動をさせられ、怒らせてはならない者まで怒らせて、そしてそこまでやらせておいて罪を全て被せられるなんて、二度とゴメンだと口汚く吐き捨てることが出来そうなほどに。古鷹だからこそそんなことは言わないが、今の古鷹の中にいる最上や鈴谷だったら普通に口に出していそうだった。

 

「そうね……それなら、古鷹ちゃんもよろしくお願いねぇ。明日のために、今日はゆっくり休んでちょうだい」

 

 これがあるため、午後と深夜の哨戒に関しては必要最低限で済ませる予定である。誰が出撃するかもわからないため、それならば全員休もうというのが中間棲姫のやり方。

 それでも身体を動かしたい者がいれば好きにすればいいとも言ってある。例えば、春雨は怒りの発散のために午後は外でいろいろとやっているし、潮のトレーニングは毎日欠かしていない。それ以外は何も考えず好きにする方針。

 

「私も少し身体を動かしておきます。明日になって鈍っているとかだと目も当てられませんから」

「そう、それじゃあ、軽く流す程度にしておきなさいねぇ。疲れが明日まで残るようなことは無いと思うけれど、万全にしておくに越したことはないから」

「はい、ありがとうございます。それと……潮ちゃんには話しておいた方がいいですか」

 

 勿論これは、漣達が明日、施設に訪れることである。あちらはあちらで、潮と顔を合わせたがっているのだが、肝心の潮がそれに耐えられるかどうかはわからない。

 

 一応ではあるが、潮は漣達が既に救われており、鎮守府所属の艦娘として活動していることは聞かされている。そして、潮に対してやったことを、やらされたことなのに自分の罪とされているために苦しんでいることも知った。

 それならば、顔を合わせることも可能ではないかと考えた。それでも恐怖に呑まれる可能性は高いが、潮が望むのならば会ってみるべきだとも思う。

 

「そうねぇ……それは知っておいた方がいいかもしれないわぁ。知らない状態で顔を合わせちゃうかもしれないよりも、知っておいて覚悟をしておいた方がいいものねぇ」

「ですね。なら、このまま私が伝えてきます。妹姫さんもそこにいると思いますし、もし何かあってもカバーしてもらえるかなと」

「ええ、それじゃあお願いねぇ」

 

 古鷹が一礼して出て行く。潮が前向きになってきているところにこれは大丈夫だろうかと不安になりつつも、いつかは知らなくてはならないことなのだから今知るべきだろうとも考える。

 

「難しいところよねぇ……過去と向き合うようなものだもの。そうよねぇ」

 

 小さく息を吐き、扉の向こうに話しかける。すると、古鷹と入れ替わるように『観測者』が入ってきた。

 春雨との約束を守り、明るいうちは施設内にいるため、呼べば来るような存在となっていた。基本的には施設を拠点に外海を監視し続けて、向かわなくてはいけない事態が発生した時は誰が何と言おうと島から離れる。そして、また戻ってくる。

 春雨には出て行ったタイミングも戻ってきたタイミングもバレているため、それで良しとされていた。『観測者』としても、逆に管理される立場になるとは思っていなかったが、これはこれで活動をそこまで阻害されることでは無かったため良しと出来ている。

 

「彼女もまた進むために必要な試練を受けねばならない。止まるよりは善い道を歩くことが出来る。なに、耐えられないなんてこともないだろうさ」

「そうよねぇ。潮ちゃんも強くなったもの。身体も、心も」

 

 何もおかしなことは起きないと信じて、中間棲姫は『観測者』をお茶会に誘った。『観測者』は少し迷ったものの、道化達が背中を押したため、仕方ないとその誘いに乗る。

『観測者』が滞在するようになったことで、ここ最近の事件で少し落ち込んでいた中間棲姫は、以前よりも心が落ち着いていた。それも春雨が想定した道なのかはわからない。

 

 

 

 

 施設の外では、相変わらず潮が飛行場姫にトレーニングを課せられている。今日の参加者は明日の出撃のために身体を慣らしておくという4人。大鳳はギリギリまで失われた体力を取り戻すため、春雨と叢雲はいつもの鬱憤晴らし、そして海風は春雨のサポート。叢雲がいるため、薄雲も参加まではしていないもののここにいる。

 潮はというと、本当に言われたことを全て吸収していくため、次々とやれることが増えていた。飛行場姫に仕込まれた格闘術は、なんだかんだでほぼ全てを網羅しており、それを覚えるにつれて力も増している。

 

「うん、もう潮は自分の身くらいは守れるわね。筋が良すぎて逆に怖いわ」

「は、はぁ……そう、ですか……」

 

 そして、これだけ鍛えても息一つ乱さないスタミナ。これも潮の特性、恐怖から発展しているもの。

 切り捨てられることに大きな恐怖を持っている潮は、自ら切り捨てる行為である兵器を握ることは出来なくなっているが、切り捨てられないようにするために追いつける体力を得ていた。

 

「潮はすごい」

「自信を持つといい」

 

 潜水艦姉妹も、全力で潮を肯定する。実際、2人の言うことに嘘はない。本心から凄いと思っているから、今の言葉が口から出てくる。

 そもそも2人は嘘をつけるような存在ではないので、その発言の信用度はとても高い。直接言えないことには黙りを決め込むだけ。そうで無ければただただ思っていることを口に出すのみ。

 

「それじゃあ、あとは基礎の部分を──って、あれ、古鷹?」

 

 トレーニングを続けようとしたところで、施設からやってくる古鷹の姿が目に入る。ただ散歩しているのではなく、明確に潮に向かってきているのがわかったため、一旦中断。

 この時には、便乗している春雨は何を話しに来たのか勘付いていた。そして、何も口に出さない。そのままでいる方がいい方向に向かうとわかっていたから。

 

「明日の戦い、鎮守府から来るメンバーが決まりました。その報告を」

「別に後からでもいいじゃない。今ここでする必要は……ああ、そういうこと。早く知ってもらいたいってことね」

「はい。他は後からでもいいかもしれませんが、今すぐ話しておく必要がある子達がいますので」

 

 その目は潮の方へ。そして潮はそれにビクッと震える。

 

「メンバーはかなり多くて15人です。そのうちの3人が、漣、曙、朧」

 

 名前を聞いただけで目を見開き、震え出す。朧は()()()にはいなかった存在だが、漣や曙と同じように敵に利用されていたのだと知った途端、また違った怒りも感じ始める。

 そんな潮を支えるために潜水艦姉妹が駆け寄る。足腰が立たないほどの震えにはならないが、やはり強い恐怖を受けたことで息が荒くなっていた。しかし、涙目になりながらも自分の足でしっかりと立ち、その現実を受け入れる。

 

「潮、顔を合わせる機会よ。どうする」

 

 飛行場姫の言葉に、震えは一層強くなった。やはり、その時のトラウマを刺激され、悪夢ではなく現実でその恐怖を反芻してしまっている。

 今でこれなら、顔を合わせたらどうなってしまうのか。泡を吹いて倒れてしまうのではないか。心配事は尽きないが、まずは潮自身に前に進む気持ちがあるかどうかを尋ねる。

 

「直接会うのが怖いなら、まずはタブレット越しに顔を合わせてみるのもいい。それも怖いならまずはやめておいても構わないわ。誰もアンタの選択を否定しない」

 

 あくまでもこれは、潮の選択。潮がやりたいかやりたくないかである。

 漣と曙が利用されていたことを知ったことで、恐怖を上回る怒りが発露した潮。朧すらも同じように扱われていたために、その怒りはさらに強くなっていた。

 だが、やはり強すぎる恐怖は付き纏う。発作を起こすほどに潮を襲う恐怖の中では、まともに考えることも出来ないかと思われた。

 

 だが、潮は決意した。

 

「会います……私……みんなに、会います……」

「本当にいいのね?」

「ご迷惑……かけるかもですが……会わせてください。それと……もう1つ……」

 

 まだ落ち着かない息をどうにか鎮めようと深呼吸。しかし、震えが止まらない以上、まともに落ち着くことは出来ない。しかし、それでも潮は初めて強い決意をし、意志を見せる。

 

「わた、私も、私も……その戦いに、参加……します。させてください……」

 

 ここまで言ってくるのは想定外だった。恐怖に呑まれ、戦い自体を恐れるようになっていたのに。

 

「私……曙ちゃん達を利用したヒトが……許せません。どうしても、許せないんです……だから……私も、私も戦いたい……っ」

 

 震えは止まらずとも、少しずつ息は整っていく。この強い決意が、恐怖も怒りも捻じ伏せる。

 

「……簡単にいいとは言えないわね。明日、アンタのその友達と顔を合わせて、どんな反応をするかで決めましょう。なんなら今から鎮守府と通信して、話をさせてもらってもいいわよ」

「は、はい……その……ワガママかも、しれませんが……話を、話をさせてください……直接会う前に……声だけでも、いい、ので……」

 

 

 

 

 潮の瞳には、強い意志が宿っていた。

 




いきなり直接会ったら呼吸困難を起こしてしまいそうなので、カメラ越しでもいいから顔を合わせておく方がいいでしょう。それで発作を起こしたら……流石に参加はさせられませんね。
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