空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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小さな空母

 施設から敵地へと向かう襲撃部隊。

 

 総勢23人ともなると、その進撃も規模の大きなものとなる。戦艦である金剛と比叡が先陣を切り、そのすぐ後ろには接近戦を担当する春雨、叢雲、江風、そして潮が並んで航行。

 逆に最後尾は常に艦載機を飛ばし続ける空母隊として、千代田と千歳、そして大鳳が務める。古鷹も艦載機が発艦出来るため、今はそちらを手伝いながら周辺警戒を続けていた。

 残りの者達はその間にバラつきながらやはり周辺警戒。そして、仲間達との距離を保つように心掛けた航行。特に顕著なのは海風と漣達であり、海風は春雨の、漣達は潮の真後ろから援護をするような配置を心がけている。

 

「Hey, 叢雲。まだまだ敵は感知しないデスか」

「まだね。この周辺では誰かいる感じがしない」

「Okay. 他の敵はまだいないということデスね」

 

 頻繁に叢雲に確認しながら、真っ直ぐと龍驤が陣取っているであろう場所へと突き進んでいく。この方向でいいかどうかは、春雨が直感的に選択しているため、信頼度はそこそこ高め。実際、侵蝕されたままの漣から聞き出した方向もこちらなので、まだ拠点の場所を変えていないと見える。

 

「春雨、脚を生やした状態でCruise(航行)出来るようになったんデスか」

「そうですね、気付いたら。二度目の溢れのおかげで、いろいろと本質が変わってしまったようです。あの時の私は脚がない状態が当たり前となっていましたけど、今は脚を生やした状態が当たり前となったんだと思います」

 

 その辺りはまだわかりにくいが、少なくとも今の春雨は艦娘の時と同じように脚を展開した状態での航行がうまく出来るようになっていた。怒りが溢れる前は、脚を展開している時はまともにバランスが取れなくなっていたが、今はそれこそ艦娘の時と同じように動けている。

 実際、どちらも不便であるとは思わなかった。今なら今なりに戦えるだろうし、むしろ、艦娘の時の動きも再現出来るようになったため、今まで以上に強くなったかもしれない。

 

「それにしても……春雨は大分様変わりしてますねぇ」

「ですね。でも、比叡さんの攻撃とかを邪魔するようなことはしないので安心してください」

「それだと嬉しい、かな? 私、いつも勢い任せで突っ込んじゃうし」

「その辺りを知っているからこそ、隙を見て攻撃するので」

 

 比叡は春雨の両腕に展開された鉤爪に注目していた。むしろ見た目がもう今までから逸脱していると言っても過言では無い。

 怒りが溢れる前までは、まだ艦娘の時の艤装が深海側に歪んだと言えるような変化だったが、今は完全に別物。二段階目の溢れによる進化は、春雨を狂犬へと変えた。鉤爪や刺々しい脚甲に加え、耳のような電探に尻尾の形状の基部まで出来てしまっている。見る者が見ればカワイイと形容するかもしれないが、春雨から溢れ出す怒りを具体的に形状化したモノであるため、触れれば誰だって怪我をする。

 

「江風も自由にやってくれていいから」

「わぁーってるよ。つーか、江風は前のめりに戦うことしか出来ねぇンだ。そりゃあなるべく周りは見るけどさ」

「その気持ちがあるならいいよ。みんなが全力を出せる状況で私も戦うから」

 

 江風は、春雨から話しかけられた時に小さく震えたようにも見えた。どうしても生前の時雨のような()()()()()がずっと見えているようである。その矛先が自分では無いことはわかっていても、春雨に対して少し怖いと思ってしまうほどだった。

 同じように感じていたのは、江風だけでは無い。春雨をよく知る者ならば、同じような雰囲気を肌で感じ取ってしまう。それだけ春雨が変貌してしまっているということ。

 

 しかし、そんな雰囲気を醸し出していても、春雨は春雨。その心には優しさも兼ね備えており、だからこそ怒りが溢れてしまったのだ。それを全員が理解しているため、何も変わらず接する。

 

「金剛さーん、場所的にはそろそろ叢雲の感知が届くくらいじゃなーい?」

 

 そんなことを話していると、部隊の中でも真ん中から少し前方に来ていた北上が金剛に尋ねる。

 聞いていた話から割り出した龍驤の拠点と思わしき場所には、そろそろ近付くくらいにまで来ている。叢雲の感知の範囲はかなり広いため、もし何かあればそろそろだろうと意見を打診した。

 

「そうデスね。それなりにSpeedyにここまで来ましたガ、さっきは叢雲は何も感じないと」

「……入ったわ。本当に端っこ、感知が届くギリギリのところに、何かがいる反応」

 

 先程までは何も感じないと話していた叢雲が、このタイミングで感知範囲に反応を確認。今はまだ1つだけのようだが、近付けば近付くほど、その反応は増えていくはず。

 

 そして、叢雲が感知したということは、ここからは見えない高高度にも何かが見えてくるはず。それを確認するため、大鳳がより注意深く上空に飛ばした艦載機からの視線を調べ上げる。

 

「こちらでも確認。高高度の艦載機です」

 

 大鳳がいなければ気付くことが出来なかったであろう敵の監視。しかし、逆に大鳳がいれば気付くことが出来る場所に監視を置いている時点で、何も知らない艦娘を施設に嗾けてきた時につけていたであろう超高高度の監視とは別に艦載機を用意しているようである。

 

「大鳳、それは龍驤の艦載機デスか? 覚えていたらでいいんデスけど」

「……私の知っている限りでは、これは龍驤のモノではありません。おそらく、別に空母がいますね」

 

 艦載機は見た目が近しいモノが多いが、龍驤が好んで使うタイプとは別物が来たと大鳳は言う。つまり、空母が複数人いるということ。文月が話していた3人のうちのどれかがその空母に該当する可能性は高い。

 そういう意味では、空母を多めに配備させたのは正解だった。これでも少ない可能性もあるのだが、拮抗まで持っていければ御の字。

 

「この辺りは岩礁帯になっているみたいです」

「島ってほどじゃないけど、拠点にするってなったら出来るかも」

 

 偵察機からの情報を千歳と千代田が伝える。陸に近いような場所では無いが、この辺りは岩礁が至るところにある若干戦いにくい場所のようだ。

 空母ならばその場から動かずに圧倒的な物量で押し込むということも出来るかもしれないが、近接戦闘を主体とするのなら、この障害物だらけの場所は少々面倒くさい。

 雷撃に至っては岩礁に邪魔をされてまともに届かない可能性もある。一撃一撃で破壊し続ければ、最終的には更地に出来るかもしれないが、そこまでやるには時間もかかる。

 

 この場所を陣取っているのは、どう考えても北上対策。魚雷主体の北上の攻撃手段を近接戦闘に制限させつつも、それすらも十全に使えないようにしていた。

 

「余程あたしの魚雷が怖いと見えるねぇ。あれか、スクリューで背中抉ってやったのを根に持ってるんかな。かぁーっ、ちっちぇえなぁ」

 

 そんな戦場でも、北上は余裕を崩さない。それならそれでやりようがあると、ニヤニヤしながら計算を進めている。

 

「油断はしない方がいいですね。私も斬撃が難しいかも」

「比叡、私達は戦艦としての戦い方をすればいいデース。まぁ、それも対策されているかもデスけどネ」

「ひえー……で、でも、気合、入れて、ぶち抜きます!」

 

 より一層気合が入ったところで、春雨にいつもの虫の報せがやってくる。今までは悪寒を感じたら蹲る程の震えになっていたが、怒りが溢れた春雨には強めの苛立ちとして変換されていた。

 

「……来ますね。おそらく、空襲です」

 

 そう言ったのも束の間、水平線の向こうから目に見える範囲で艦載機が飛んでくる。その数は、10や20では利かない。さながら暗雲が高速で流れてくるかのように、一直線に部隊を呑み込もうと襲ってきた。

 

「泥を降らせてくる可能性もありますので注意を」

「Okay. 対空砲火、お願いしマース!」

 

 ここで歩み出たのは、山風、涼風、荒潮、そして雷。4人の駆逐艦が一斉に真上に向けて高角砲を構えた。

 

「うふふふ〜、本当にやることがわかりやすいのね〜」

「空母なんだから、こういうことしてくるわよね! 大丈夫、対空砲火は私も得意だから、頼ってくれていいのよ!」

 

 荒潮と雷の砲撃を皮切りに、泥まみれの暗雲を全て消滅させるための対空砲火が始まる。その密度は相当なもので、空襲をまともにさせる前に次から次へと墜としていった。

 それでもそれを回避する艦載機はいくつも現れ、さらには墜とせど墜とせど艦載機は飛んでくるため、どうしても空襲は収まらない。

 当然、こちら側の空母達も艦載機で拮抗に持っていこうとはしているものの、物量の差は簡単には覆せない。泥によるブーストを実感させられる酷い空襲である。

 

「……北上さんは下がって」

「あいよ。ああいうのは任せるしかないからね」

 

 対泥のバリアを唯一装備していない北上にとって、この空襲はかなり厳しい。避けられる程度にまで空襲の量を減らしているために何とかなっているが、ほんの一滴でもかかったらおしまい。ただのダメージを与える爆撃以上に慎重にならなければならない。

 

「それなら、この漣ちゃんが()()()()をぶっ放しますぜぇ!」

 

 ここで漣が新たな武装を展開。施設にもある泥刈機、改良前の旧式ではあるが、最高出力で上空に波長を放てば、少なくとも泥が着水する前に全て消滅する。

 ヒトに向けて放ったらミンチになることは変わっていない。しかも高出力であるため、漣の華奢な身体では真上に向けて放つのも大変なモノ。だが、北上組として身体を鍛えさせられていた甲斐もあり、非常に安定した姿勢で暗雲に向けて波長を放つ。

 

 これにより、墜とし漏らした艦載機から放たれる泥の爆撃の心配も無くなる。純粋な爆撃も、ヒトをミンチにするとまで言われている波長ならば空中で爆散するため、ここでコレを使うのは大正解。

 

「反応、かなり増えてきたわ。文月が言ってたっていう3人だけじゃない。多分これ、野生の同胞(はらから)も交じってる」

「Oh……でも、それも想定通りデース。泥まみれのイロハ級は、もう仕方ありまセーン」

 

 侵蝕された艦娘以外にも、イロハ級が多数配備されていると叢雲の感知が言っていた。龍驤からしたら、それも自分を守る盾みたいなモノなのかもしれない。

 泥に塗れた海域で生まれた深海棲艦であるため、おそらく治療不可能。侵略者気質がさらに際立ち、どうあっても人類の敵にしかならないだろう。

 

 そして、大分近付いたからだろう、春雨にはあちらからの攻撃が直感的にわかった。狙われているのは、先頭にいる金剛。

 

「金剛さん、盾を展開してください!」

 

 その言葉を全て聞く前に、金剛は艤装の盾を前面に展開する。その瞬間、ガツンと強めの衝撃を受ける。

 

「Wow, 春雨Thank youデース」

「いえ、でもそれは……矢ですか」

「デスね。Arrowを使う空母がいるということデース」

 

 金剛がガードしたことによって側に落ちていたのは、黒い矢。拾おうとした瞬間に消滅したため、おそらく泥製。刺さっていれば即死、擦っていれば侵蝕。針よりも太く、威力もあるため、防針ではどうにもならない可能性が高い。とはいえ、掠める程度なら傷はつかないので、刺さらないように気をつければまだ大丈夫。

 

「あちゃー、やっぱり当たらないかぁ。でも、それくらい歯応えがないとね」

 

 そんな言葉と同時に現れたのは、弓を握る小柄な艦娘。しかし、その服装を見て数人が顔を顰める。

 ドロップ艦を泥でブーストさせ、さらには熟練者と同じくらいの動きを可能にさせる、例の泥のコスチューム。触れただけでもアウトのそれを身に纏ったその空母は、ニコニコ笑いながら弓をさらに構える。

 

「ああそう、なるほど。文月が言ってたちっちゃいお姉さんって、アンタのことかい。瑞鳳」

「あ、やっぱり私のこと知ってるんだ。さすが大将の艦娘。龍ちゃんが目の敵にしてるだけあるねぇ」

 

 小柄な空母、瑞鳳は、さらに矢を放つ。今度の狙いは北上。だが、その矢は北上に届く前に春雨が鉤爪で握りしめた。侵蝕を受けることなく握り折り、矢を消滅させる。

 

「で、駆逐艦というのは何処の誰ですか。貴女だけでは無いでしょう」

「そうだねぇ。でも、今は私と遊んでよ」

 

 その姿勢は変えず、弓に矢をつがえた。

 

 

 

 

 1人目は瑞鳳。だが、まだまだ敵は多い。これが始まりとなる。

 

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