空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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大混戦

 前哨戦のために龍驤の潜伏するであろう海域に到着した襲撃部隊。岩礁帯を陣取る敵、その1人目は軽空母瑞鳳。相変わらず泥で出来たコスチュームを身に纏い、ドロップ艦であるにもかかわらず、熟練者と同等の動きを見せつけてくる。

 艦載機による攻撃は一切終わらず、その中でも瑞鳳が目の前に現れたということは、まだこの空襲を仕掛けてくるだけの戦力が整っているということになる。ならば、瑞鳳に手間をかけている余裕はない。なるべく早急にあちら側の攻撃の手を緩めさせる必要がある。

 

「うわぁ、すごい人数。そんなに龍ちゃんのこと危ないって思ってるのかな」

 

 矢を連続で放ちながら、岩礁帯をちょこまかと動き回る瑞鳳。その合間にイロハ級の自分を顧みない野生丸出しの攻撃も入ってくるため、人数を揃えていても全員が瑞鳳に取り掛かれるわけではない。

 それに、こうしている間にもさらにあちら側から人員が出される可能性があるのだから、警戒は徹底。

 

「思っていますよ。これ以上、貴女のような存在を増やされたら困りますから」

 

 瑞鳳から放たれる矢は、基本的に金剛が盾で防御するか、春雨が鉤爪で打ち払う、あとは海風や山風が即座に撃ち落とすことで仲間達に届かせることもなく終わらせる。

 これでも瑞鳳は救出対象。ここにいる漣達と同様、侵蝕されているだけのただの艦娘なのだから、治療する余地はある。その手段をいくつも兼ね備えてここに立っているのだから、当然実行するつもりだ。

 特に春雨による解放は、鎮守府勢の持つ薬のようなその場で悶絶させるようなこともなく、蹴りによって容赦なく吐き出させるため、変に無防備を晒させる時間も少なめ。泥のコスチュームもその場で霧散させることも出来るだろう。

 

 だが、今の春雨には一切の容赦が無い。解放するにも、激痛を味わわせてのものになる。優しく一瞬だけ心臓を止めるなんてことはしない。

 それに、先の言葉も瑞鳳が心配だからとか、龍驤が恐ろしいからとか、そんな感情は何処にもなかった。ただただこれ以上敵が増えたら()()()()()という気持ちが強い。苛立ちがより強く溢れてくるだけである。

 

「岩礁帯のことを考えると、近接戦闘がメインの方がいいと思います、お姉さま!」

「Okay. 比叡、任せるヨ! 私達は周りに邪魔させないようにするからネ!」

 

 地の利を活かして海上というよりは岩場をメインに戦う瑞鳳を相手取るためには、同じように岩礁帯に突っ込むことが出来る近接戦闘組を突撃させるのが手っ取り早いだろう。

 近接戦闘ではない面々は、そこを援護するように戦うことになる。特にそれが上手いのが、春雨のために行動をする海風と、連携を徹底的に叩き込まれた漣達北上組。近接戦闘組が岩礁帯に突っ込んだところで、その隙間を縫って砲撃を放つことだって可能である。

 

 だが、それは相手が瑞鳳のみである場合。周囲のイロハ級を処理するのはまだマシではあるのだが、救出しなくてはならない相手が増え始めると、さらに面倒なことになる。

 

「アンタをさっさと片付けて次に行きたいのよ!」

 

 まるで猪のように突撃するのは叢雲。救うつもりがあるのか無いのか、槍は穂先を正面にして瑞鳳を追い詰めようとする。慣れない足場ではあるものの、接近戦専門だからこそ、悪い足場でも当たり前のようにその速度を落とすことなく突撃。

 

「うわぁ、すごいね。自分の危険とか顧みない子なのかな?」

 

 対する瑞鳳はそんな叢雲を集中的に狙い、次から次へと矢を放つ。頭から脚まで、狙いを1本に絞らせないことで、ガードに専念させる策。当たるわけにはいかないため、叢雲はその槍を大きく回転させ、矢を全て弾き飛ばしていた。

 その間に大きく離れ、斜め上に力強く放つ。その矢は大きく弧を描いた直後、空中で幾重にも分裂して降りかかる。泥で出来た矢であるため、その挙動もある程度自由自在のようだ。ただ射るだけなら連射も出来て、細かいことをするのなら少しだけ()()がいる。

 

 瑞鳳はそれを、艦載機をコントロールしながら実行していた。今、上空を飛びながら襲撃部隊の空母隊を引き付けている艦載機の一部は、瑞鳳の操る艦載機。当然ながらスペックの高い深海仕様であり、泥ブーストとコスチュームのバックアップによって搭載数すらも通常より増加している始末。

 

「ああもう、鬱陶しいわね!」

 

 こうされると面倒でも対処しなくてはならない。いくらスーツを着込んでいるとしても、それが泥製であっても、難なく貫いてくるだろう。

 範囲が絶妙に狭いため、前に出れば回避出来そうだが、瑞鳳はそれすらも見越して既に叢雲の足場となっている岩場に矢を射掛けていた。それが泥となれば、踏んだ時点で侵蝕するし、それが出来なかったとしてもその岩場は()()

 

「叢雲ちゃん、一旦退いて」

 

 熱くなりそうだった叢雲に、静かに指示を出したのは春雨。燃え上がるような怒りに呑まれている叢雲に対して、凍えるような怒りに呑まれているのが春雨。こういう時には冷静に物事を判断していた。

 今は『望んだ答えに辿り着く力』のトリガーは引かれておらず、『最善の答えに辿り着く力』が発動中。光り輝く道は瑞鳳に伸びているものの、優先順位は叢雲に安全な道を踏んでもらうことである。そのため、無理して突っ込むよりは態勢を立て直すべきとした。

 

 叢雲も、春雨の直感的な指示にはある程度の信頼を置いているため、舌打ちしながらもバックステップで瑞鳳との間合いを取る。

 

「滑って転んだら痛いもんね。私の間合いには近付かないでほしいからさ」

 

 ニコニコ笑いながらも、矢の連射は止まるところを知らない。

 

 やはり拠点防衛とも言える岩礁帯での戦闘は、あちら側の方が一枚も二枚も上手。だからこそこの場所を選んだのかもしれない。

 

 

 

 

 瑞鳳への攻撃を近接戦闘組が受け持つ中、他の者達は周囲に群がるイロハ級の深海棲艦を処理していた。

 侵略者気質を持ち、さらに泥に侵蝕されたことで、駆逐イ級ですら並の力では無くなってしまっているこの戦場なのだが、そこを受け持つ襲撃部隊の艦娘達は、臆することなく対処していく。

 

「荒潮と漣は防空に専念してればいいよ。周りのはあたし達がどうにかするから。曙と朧は潮のサポート。潮は近接戦闘だけど、岩礁帯で戦うのはしんどいだろうから、むしろ一緒に行動しな。山風と涼風はこっちだ。江風は春雨と海風に任せときゃいい」

「私も頼っていいのよ!」

「当然。雷、アンタは臨機応変に全員助けてやんな。そういうこと出来るからここにいるんだよね?」

「もっちろん! 頼って頼って、頼りまくって!」

 

 指示を出すのは専ら北上である。駆逐艦に対しての信頼度と、ここにいる駆逐艦からの信頼度は、おそらく北上がダントツで高い。特に北上組は、師匠と弟子のような関係になっているため、言われたことに反発することなく、自分の出来ることを全力で実行する。

 雷だけはこの部隊での初見になるのだが、当然昨日のうちに顔を合わせて、その実力を知っている。こうやって動かした方が実力を発揮出来るからこそ北上はそれを忠実に守って指示を続ける。

 

「北上さん、瑞鳳への援軍は」

「今は無くていいよ。最後は行くことになるかもしれないけど、今は周りの奴らをあっちに近付かせないようにして」

「了解です。ただでさえ岩礁帯で魚雷が使いづらいですから」

「いやまぁあたし達にゃ関係無いっしょ」

 

 大井と話しながらも、魚雷を相変わらず投擲することでイロハ級を撃滅する。強化されていようが、魚雷そのものが砲撃のように飛んでいけばその装甲を簡単に撃ち抜く。

 北上に指示をされている涼風も同じ戦術。岩礁帯を想定していたわけでは無いが、もし雷撃がしづらい状況だとしても何も問題ないように仕込むのが策士としてのやり方。

 

 イロハ級が待ち受けていることは、北上のみならず、ここにいる誰もが予期していたことだ。ただ龍驤とその配下にされているのが残り2人だけなわけがないと。結果的に大正解。そのために広範囲の殲滅兵器だって用意している。

 

「Good jobデース北上ぃ! そっちは任せましたヨー!」

「あいよー。金剛さんも手筈通りによろしくー」

「Okayデース!」

 

 金剛が放った弾は、本来ならば対陸上施設型のためにも使われる対空兵装、三式弾。普通ではこんな使い方はしないのだが、今回は別。群れて数で圧倒してこようとするモノ達を一掃するため、砲撃の雨を降らせる。

 そしてそれはまた明石の開発した兵器でもあった。その三式弾は特別製。触れれば侵蝕を治療する薬剤入りの水弾でもある。これでイロハ級の中に侵略者気質では無いモノが少しでも含まれていれば、そこから混乱を引き起こすことが出来るだろう。

 

 侵略者ならば殲滅しなければ人類の脅威となり得るが、そうで無いのならば救う理由になる。もう、種族なんて関係ない。今関係しているのは、泥に侵蝕されているかされていないか。

 

「空襲の勢いが止まらない……かなり厄介ね」

「とりあえず、全機発艦、全力で!」

 

 その戦場を支えているのが空母隊だ。これだけの混戦の中で上を気にせず戦えるのは、全力で艦載機を処理している空母達のおかげである。

 その中でも、千歳と千代田は艦載機のコントロールに全神経を集中していた。同じように艦載機を操る大鳳と古鷹には他の攻撃方法があるが、千歳と千代田は混じり気のない正真正銘の空母。空を制する以外の手段を知らない。

 

 しかし、そうしていると2人は無防備になってしまう。そこを補うのが、他の手段がある大鳳と古鷹だ。

 

「やはりこちらを狙ってきますね。千歳と千代田は私が守りましょう。均衡を崩されたら一転不利ですから」

「ですね。幸いにも、私達には他の子達の力がありますから、全力で使わせてもらいましょう」

 

 千歳と千代田を狙う敵の凶弾は、大鳳がその刀で斬り払い、古鷹が尻尾と右腕の艤装で薙ぎ払う。艦載機を操りながらのそれであるため、スタミナ不足の2人にはかなりキツイものではあるのだが、この戦場に立つまでにトレーニングを積んできているのだ。まだまともな体力とは言えないものの、慢心させられていた侵蝕の時期とは打って変わって長持ちするようにはなっている。

 

「っ、危ない!」

 

 だが、その2人に忍び寄る存在に気付いた鹿島が、群れの中に砲撃を放った。

 

 これだけの群れになると、その間をすり抜けてくる存在を知覚するのにはどうしても時間がかかる。それが命取りになる可能性もあるので、この戦場の全域に意識を張り巡らせる者が必要となるだろう。

 そのうちの1人は、北上により空間把握能力を伸ばされた涼風。そしてもう1人は、仲間達の実力を測るための慧眼を持つ鹿島。涼風と同じくらいに戦場に視野を広げ、瞬時に動けるように常に鞭と主砲を展開して警戒している。

 その広い視野があったからこそ、この不意打ちが認識出来た。そうで無かったら、大鳳か古鷹が痛い目を見ていたかもしれない。

 

「っと、すごいやん、よう見えとるねぇ」

 

 当たりはしなかったものの、空母隊への攻撃を中断させることに成功。群れの中から1人の駆逐艦が現れた。

 

 やはり泥のコスチュームを着せられたその駆逐艦は、瑞鳳と同じようにニコニコしながら主砲を構える。

 

「貴女は……黒潮さんですね」

「せやで、黒潮や。姉やんの邪魔はさせへんよ」

 

 その駆逐艦、黒潮も、ドロップ艦でありながらも泥のブーストによる強化がなされている。一筋縄ではいかない存在だろう。

 

 

 

 

 これで2人目。文月が話していた3人のうちの2人かはまだ定かではないが、明確に敵対している艦娘だ。まだ増える可能性を考えながらも、見えている敵は全て斃し、解放しなくてはならない。

 

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