空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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練巡の力

 イロハ級の群れの中から現れた新たな侵蝕者、黒潮。おそらく文月を施設側に向かわせたという3人の艦娘の内の1人。瑞鳳と同じく、泥によるブーストと泥のコスチュームによるバックアップにより、ドロップ艦であるにもかかわらず、対等に戦いを挑んでくる。

 真っ先に狙いを定めたのは、大鳳と古鷹を守った鹿島。一番身近にいたというのと、自分の行動を妨害したから。1人削れば戦力は瓦解していくだろうということで、その狼煙を上げるために鹿島に突撃。

 

「ごめんなぁ。一番近くにおるんやもん。自分の不幸を呪ってぇや」

「そうですね、まさか私がまず戦うことになるとは思いませんでした」

 

 だが、鹿島は一切臆さない。駆逐艦の突撃くらいならば、対処する方法なんていくらでもある。そう言わんばかりに、主砲と鞭を構える。

 

 大塚鎮守府の駆逐艦達は、基本的には鹿島によって鍛え上げられている。それ故に、鹿島は北上とは違う意味で駆逐艦の扱いに長けていた。それが敵対していようが関係ない。

 そもそも、やってくることなんて限られてくる。砲撃、雷撃、防空、爆雷。百歩譲って近接戦闘。その5種類。充分多いだろうが、これまで何人もの駆逐艦を見てきて、かつ鍛えてきた鹿島ならば、今この場で分析することは可能である。

 

「古鷹、貴女が行ってください。千歳と千代田は私が守ります」

「わかりました。任せます」

 

 そこにさらに、古鷹が参戦。艦載機をコントロールしながらにはなるが、古鷹は本来の姿とはまるで違う、真の万能戦力となっているのだから、駆逐艦1人に対しては過剰戦力とすら感じるだろう。だが、それだけ慎重に行っているということにもなる。侵蝕されていた時の慢心を振り払うように。

 それに、群れの中から飛び出してきたくらいだ。これだけの人数相手にも勝算があるから戦いを挑んできたに決まっている。いくら泥の効果で慢心しやすくなっているにしても、二度も敗北を喫している龍驤の部下なのだ。流石に三度目の慢心は無いと見た方がいい。

 

「鹿島さん、手伝います」

「ええ、一緒にやりましょう。……久しぶりですね、こうやって並んで戦うのは」

 

 黒潮の砲撃を捌きながらも、鹿島はほんの少しだけ嬉しそうに呟いた。

 

 古鷹は大塚鎮守府の一員だった者。まだ艦娘だった頃は、鹿島とも付き合いはあったし、共に並んで戦うこともあった。当然ながら連携だって出来る。長く顔すら合わせることが出来ていなかったが、そこは大塚鎮守府の艦娘。その時のやり方がしっかり身についていた。

 

「あの時から、私は随分様変わりしてしまいましたけど、ねっ!」

 

 尻尾を前方に構え、容赦なく砲撃を放つ。威力は当然戦艦並み。しかし、黒潮も侵蝕を受けた被害者。泥を吐き出させれば元通りになれることは確約されているため、放ったのは模擬弾である。

 しかし、ただでさえ威力の高い深海の主砲で、さらには戦艦のモノ、ついでにそれがほぼ戦艦レ級と同等なのだから、それが水鉄砲であっても水圧がとんでもないことになっている。直撃したらまともでは済まない。

 

「うわっ、なんやアレ、当たったらあかんのやろなぁ」

 

 しかし、黒潮は軽々と回避。ドロップ艦とは思えない瞬発力でステップを踏み、掠りもしない程に飛び退いた直後に主砲を鹿島に向けていた。

 黒潮の砲撃は泥を含んでいない()()()()()()()。泥製の矢とは違う、最初から最後まで殺意がたっぷり詰まった凶弾であり、ブーストのおかげで駆逐艦であっても巡洋艦並みの火力を出している。

 

「なるほど、駆逐艦といえど、火力は巡洋艦ですか。動きは駆逐艦のように素早い。なら、雷撃は雷巡と同じくらいですか?」

 

 離れていれば、どれだけ火力があっても関係なく回避は可能。連射されればまた話は変わるだろうが、単発の砲撃ならばまず当たらない。

 周囲のイロハ級は、泥でブーストされてはいるものの、結局は野生のままであるため、統率があまりとれていない。本能的な部分に作用して、敵を追い込む、始末するという感情のみで行動しているようにも見える。

 そのため、黒潮と連携を取るようなことは無かった。おかげで鹿島も悠々と回避しながら、その性能をその目で見ることで解析が出来ている。

 

「随分と余裕あるみたいやん。ほな、こういうんはどうやろか」

 

 雷撃をリクエストされたからか、黒潮は鹿島に向けて魚雷を放った。その数は一般的な駆逐艦と同じではあるが、魚雷自体に仕込みがある。

 それについては既に知っていること。漣達も使わされた、泥が詰まった侵蝕魚雷。破壊しても泥が飛び散り、そうじゃなければ爆発によってダメージ、さらには泥の追加攻撃。百害あって一利なしの攻撃。

 さらには、そこに黒潮自身が砲撃まで合わせてきた。避けられても、避けられた瞬間に魚雷を爆破することで、鹿島に泥を浴びせかけてやろうという策。

 

「よく見る策ですね。自身の雷撃を自身で破壊することで爆破のタイミングをズラし、水飛沫による目眩しの後に急速に接近する。今回は魚雷に泥そのものを仕込んでいるのでしたか。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、無数の策が頭の中にある鹿島には、その程度の策は瞬時に見破られる。そして、()()()()()()()()()

 

 鹿島の放った砲撃は、黒潮の砲撃が魚雷に当たる前に魚雷に直撃し、想定していたよりも早く爆散。当然泥もその場でばら撒かれることになるのだが、鹿島はそこに砲撃を2発重ねていたため、その飛び散る泥ですら衝撃で自分の方へと向かないようにしていた。

 黒潮の放った砲撃は、本来当たるはずの魚雷が失われたことで、ただ何事もなく着水するのみ。戦況を何も変えることのない砲撃となる。当たるものと思って突撃の姿勢に入っていた黒潮は、その場にいる方がまずいとすぐに考えを切り替えてバックステップ。

 

「すぐに下がるのは及第点。敵の殺気をすぐに判断出来たことは褒めてあげましょう。ですがそれは、敵が私だけの時です。自分で目眩しをしているのですから、想定外が起きた場合は後ろじゃない、横に跳ぶべきです」

 

 下がることを見越していたのは鹿島だけではない。古鷹もそこに合わせて砲撃を放っていた。直撃したところで模擬弾であるため死にはしないだろうが、呼吸が出来なくなる程の衝撃を受けることは間違いない。

 

「っぶな!? めちゃくちゃやなぁ!」

 

 しかし、泥ブーストの力は絶大であり、その隙を突かれても瞬時に対応。着水と同時に横に跳び、衝撃は受けるものの直撃は免れていた。瞬発力に関しては並以上である。

 

「なるほど、漣さんから聞いていた通りですね」

 

 そう、鹿島は事前準備を一切怠っていない。漣達から侵蝕された者の身体能力や戦い方は聞いており、それを踏まえた戦術を既に構築済み。

 そしてそれを、鎮守府の仲間達全員に展開している。昨日の北上組へのハードなトレーニングも、それを身体に刻み込むため。

 

 聞いたところからすぐに戦術をアウトプットして他者に教えることが出来るのは、練習巡洋艦である鹿島の特性と言える。さらにはそれを()()()()()()()()出来ているのは、大塚鎮守府の鹿島ならでは。

 自分が出来るから仲間に教えられるというのは当たり前のこと。知識だけではその教育が真なるものにならないと大塚提督が鹿島を鍛え上げた結果である。

 

「古鷹さん、出来る限り多様な攻撃でお願いします。万能戦力は1人だけでもいると頼もしいですね」

「わかりました。あちらの対応力をオーバーフローさせるわけですね」

「そういうことです。それに、あちらの手段を全部見たいので」

 

 この期に及んでまだ裏がある可能性は高い。黒潮1人ならこれで終わりかもしれないが、ここにさらなる増援が入ってくるかもしれないと思うと、慢心なんて絶対に出来ず、周囲の警戒は常に厳としておく必要はある。

 それを楽にするために、黒潮の全てを確認しておく。もしここで増援が来たとしたら、出来ることはこの黒潮とほぼ同じと見ていいだろう。

 殺意のみの砲撃、侵蝕の可能性がある魚雷、並ではない瞬発力、今見えているのはこれだけ。そこに漣達から聞いている情報を加えると、爆雷を交えた攻撃と、コンバットナイフのような近接戦闘も視野に入る。

 

 そして最も警戒しなくてはいけないのが、連携。

 

「あかんなぁ、ウチ1人でどうこう出来るモンやあらへん。ちゅーか、そっちは2人でウチは1人や。あかんあかん、数の差は必要やわ」

「よくもまぁこれだけ周りに侍らせて言えますね。貴女には協力してくれていないようですけど」

「そらぁなぁ、コイツらは本能のままにしか動けへん(ケダモノ)やさかい、協力っちゅーのはしてくれへんのや。だから、ちゃんと()()()()()()()を使わせてもらうわ」

 

 黒潮がそう言った瞬間、視界の端に何かが見えた古鷹が、咄嗟に鹿島の壁になるように跳び、その右腕の艤装によってガードした。チンと軽い音がしたかと思うと、それは強固な艤装に刺さることなく海上に落ちる。

 ニードルガンの針。先日の戦場で朧が使っていた、刺さればそのまま侵蝕まっしぐらの、ある意味必殺武器。対針のスーツを着ることになった理由である。

 これもバリアによって侵蝕を防ぐことは出来るかもしれないが、まだバリアの存在を明確にするわけにはいかない。そのため、古鷹は即座にガードという道を選択した。

 

「針、ですか。それも聞いています。無防備な相手にチクリと刺すだけで、あっという間に侵蝕し手駒にするお手軽兵装でしたか」

「知られとるんやねぇ。そりゃそうか、七駆と戦っとるんやもんな。ぬいー、それ、あんま効かへんみたいやわ」

「そうですか。残念です」

 

 イロハ級の群れの中から現れた2人目の駆逐艦。黒潮と同じように泥コスチュームに身を包んだその艦娘、不知火が、効かないと知るやすぐにニードルガンを消す。

 

「……2人目ですか。情報には無い人材でしょうし、文月さんが言っていた3人から溢れているところですね」

「ですね。大きなお姉さん、でしたっけ。それはまだこの戦場にはいないんでしょう。少なくとも、私達の敵はこの2人となりますか」

「見えている範囲では。人数差は五分五分となりましたが、それだけでは終わらないでしょう。まだこちらにいるというだけですから」

 

 そもそも、連携となると2人分とは行かないだろう。3倍にも4倍にもなる可能性は充分にある。漣達が3人で組んで戦っていた時に、いいように瓦解されたことを考えると、ここからが正念場となる。

 だが、鹿島も古鷹も、何処か気分が昂揚していた。久しぶりに仲間と並んで強敵に立ち向かうことに、戦意が漲るような感覚。共に大塚鎮守府の一員として感情を抑え込んではいるのだが、それだけでは収まらない程に漲る力。

 

「黒潮、貴女だけではやはり無理でしたか。落ち度ですね」

「すまんなぁ、別に慢心しとったわけやあらへんよ。ほら、力を測るためや」

「口ではどうとでも言えます。ですが、ここからは不知火も協力しましょう。あの2人を相手取るのなら、不知火としても楽しめそうです」

「それが慢心なんちゃうかぁ? 油断しとったら漣達みたくやられるで」

「彼女らと同じ轍は踏みません」

 

 ニードルガンを消した後はナイフを展開する不知火。黒潮が遠距離で不知火が近距離という配置のようである。ここからは連携によって圧倒しようという策のようだ。

 

 

 

 

 当然、こうなることは鹿島の中で戦術構築済み。古鷹が隣にいるのだから、より勝率を上げる策に行ける。

 

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