前衛から離れた後衛の戦い。鹿島と古鷹のペアの前に現れたのは、黒潮と不知火。前衛の瑞鳳と葛城のように、ペアで戦うつもりのようである。
前衛側は結果的に1人ずつにされて個別撃破されているが、黒潮と不知火は離れる気が無いようで、しっかりコンビプレーに徹する。
これは2人が駆逐艦だからというのもあるだろう。空母よりは非力であることを自覚しているため、正しく連携をするように徹底する。漣達と同じだ。
「ナイフによる近接戦闘ですか。深海棲艦の硬い外装を剥がすには向いていませんが、私達のような
「それはどうも」
不知火が肉薄し、近接戦闘により始末するという手段を取るようで、黒潮がそれを援護する。泥によるブーストで、それはかなり精鋭化されており、まるで熟練者のような完璧な連携を見せてきた。
相手取る鹿島は、鎮守府では連携を教える側。それに、既に戦術構築は脳内で完了している。2人組、近接戦闘、援護、その全てを当てはめて、最善の動きが出来る。
そして、その計算を大きく上回っているのが古鷹の力だ。深海棲艦化による強化だけならまだしも、戦艦の力まで使えるようになり、あらゆる攻撃方法が戦術に取り入れられるため、やりたいと思ったことが全て可能になる。
「古鷹さん、隣へ」
「わかりました」
まずは二人並んでの迎撃に。こうすることで、黒潮の援護があろうとも、不知火と2対1の様相を作り上げることが出来る。
近接戦闘の手練れというわけでもなく、ブーストによって熟練者と同じ動きをしている
「使ってくるのがナイフであれば」
言いながら前に出た古鷹は、その右腕の艤装を巧みに操り、不知火のナイフ捌きを軽くいなすように払っていく。腕の全てが包まれているそれならば、ナイフで傷付けることは出来ない。
しかし、不知火の動きを止めることまでは出来ず、一進一退の攻防となる。せめてナイフを掴み上げることが出来たなら話は変わるのだろうが、そこはまずいと感じているのだろう、不知火はそれだけはされないように立ち回っていた。
ちなみに、古鷹の右腕を包み込む艤装は、手だけはちゃんと外に出ている。そのままならばナイフを掴むことなんて出来ないのだが、今は防刃防針のスーツを着込んでいるため、手もしっかりコーティング。掴もうと思えばガッチリと掴むことが出来る。
「ぬい、そのまま抑え込んどいてや」
古鷹が不知火にかかりっきりになることを見越し、不知火に当たらない位置から砲撃で支援することで、古鷹を追い込もうとしていた。
直撃すれば当然良し。そうでなくても掠れば相変わらず侵蝕の可能性がある。防刃のスーツであっても、砲撃の直撃、しかもしっかり殺意を込めている実弾ならば、貫くことも出来るし、掠れば傷だってつくだろう。黒潮はそこまで考えていなそうだが。
「何をしようと言うんです?」
しかし、それを止めるためにここにいるのが鹿島だ。わざわざ古鷹を隣に呼んでいるのだから、お互いを守るために動くのが当然のこと。それが連携である。黒潮と不知火は攻めの連携、対する鹿島の古鷹は守りの連携と言えるか。
黒潮の砲撃に合わせて鹿島が繰り出したのは、バルジである。いわゆる盾。自分を守るため、
「直撃さえ受けなければ、バルジ1つで砲撃をいなすことが出来ます。勢いを殺すわけではないので、衝撃は最小限。まぁ、その威力がいなせないくらいのものもよくありますがね」
壁に減り込む程の強烈なスピードと威力で投げられた爆雷や、ノックしただけで壁に吹き飛ばす程の衝撃に関してはいなせないと、鹿島は心の中で呟いた。
侵蝕されていた時の経験すら、戦術構築に活かしていこうとしている。最悪な経験から得られる情報は、鹿島の戦術を一段階引き上げている。
「侵蝕され、威力が上がった砲撃であろうとも、その程度ならこれでどうにか出来ますよ」
片手に鞭、片手にバルジの盾と、見るものが見れば何か別の戦いを挑んでいるようにしか見えない姿ではあるが、今の黒潮にこの鹿島を砲撃による支援によって正面から打ち負かす手段があるかと言われると、若干難しいかもというのが正直な感想だった。
「背中を見せるのは余裕の表れですか?」
そこにすかさず不知火が襲い掛かる。古鷹と一進一退の攻防をしながらも、持ち前の体術を使って振り払い、完全に隙だらけの鹿島に向けてニードルガンを放つ。刺さればそのまま侵蝕の必殺武器。
「前までの私だったら、こんなことは無理でしたね」
しかし、振り払われても古鷹がそれを許すはずがない。尻尾の艤装がすかさずその針を防ぎ、不知火に対しては無防備である鹿島を守る。
これがあるから鹿島は堂々と背中を向けることが出来る。古鷹も黒潮からの攻撃に対して反応する必要がない。背中合わせで立っているわけではないのだが、お互いを完全に信頼した状態でのタッグである。元大塚鎮守府所属は伊達では無かった。
「余所見をしている余裕なんて与えませんよ」
そこから、古鷹は尻尾の先端の口をガバッと開く。内部にはわかりやすく砲門が鎮座していた。不知火を今から撃つと宣言しているようなもの。
「させるわけがないでしょう。そんな大振りな攻撃を喰らう程、不知火は愚かではありません」
「勿論。理解した上で、今から撃ちます」
撃つぞと言われて回避しないわけがない。これを潜る、ないし飛び越えることをすれば、眼前には鹿島の背中。そこに一撃入れてやれば、敵は必ず1人は減る。
さらには、鹿島は古鷹と違って防刃防針のスーツを着ているわけではないのだ。不知火には無防備にしか見えていない。だからこそ、ここで古鷹の一撃を乗り越えて攻撃し、鹿島を始末、もしくは手駒にする。それがベストだと考えた。
無論、古鷹だってそう考える。自分が
侵蝕されていた苦い経験を戦いに活かし、敵側の行動を読む。深海棲艦化させられ、長く侵略者として活動させられた経験を、汚点としつつも利用出来るモノとしても考えた。
「避けられるものなら、避けてみなさい」
ここで古鷹は、全力で、
実戦経験がある程度あれば、この主砲を見た時点で下がるという選択が出来ていただろうが、やはり不知火も泥によるブーストをされただけのドロップ艦。その考えに至らない。
爆音と共に発生した衝撃波は、見事に不知火を貫く。撃った古鷹本人ですらビリッと身体に痺れを感じるほどの強烈な圧を、泥コスチュームによる補強が入っているとはいえ、小柄な駆逐艦がまともに喰らってただで済むわけがない。
「カフッ……!?」
「見えない攻撃は回避出来ないでしょう。まともに経験を積ませてもらえなかったのが運の尽きです。かつての私のように、侵略をさせられていたら……また違っていたでしょうね」
少し悲しそうな表情を浮かべる古鷹だが、容赦など無かった。
しかし、不知火もブーストがかかっているために、これだけでは気を失うこともない。ギリギリで踏み止まって、さらに前に出る。その目は古鷹ではなく鹿島を見ていた。
黒潮と相対する鹿島は、不知火の方には目も向けていない。むしろ背中を向けている。不知火が繰り出そうとする行動は、まるで見ていない。
それ故に、自身を犠牲にしてでも鹿島を侵蝕さえしてしまえば、精神的な揺さぶりにもなり、戦力増強にもなる。この一瞬でそこまで考えた。
「鹿島さ──」
古鷹が声をあげようとした時には、鹿島の行動は終わっていた。古鷹の方は未だに向いていない。だが、その手に持っているのは主砲ではなく鞭。わざわざ構える必要もなく、手首のスナップだけで何処にでも攻撃が出来るモノ。
故に、振り向くこともなく鞭を後ろに振り、その先端が不知火の顎を捉えていた。ニードルガンを鹿島に向けるよりも前に、意識を刈り取られ、その場に倒れ伏す。
「黒潮さん、今まで及第点が取れていたのに、ここでダメな部分が出ましたね。いくら視線の先で自分の仲間がいい動きをしたからといって、それを表情に出すのはいただけません。貴女は私の装備を知っているわけではないでしょう。私が電探を装備し、後ろにも目が行くようになっていたらどうなると思いますか。こうなるんです」
黒潮の砲撃をバルジでいなしながらも、その視線や次の行動をしっかりと確認し、予測まで立てながら戦えるのが今の鹿島。やはりこちらも、自分が侵蝕されていた経験を活かし、慢心などせず、確実に敵を征する行動を計算する手段を鍛え上げている。
五月雨と吹雪にやられた経験は活きている。鹿島の弱点、
「授業を続けましょうか。実戦経験が足りない貴女には、教えることが沢山ありますからね。身を以て知ることもいい勉強になります。もう結構堪えているようですけど、まだまだありますよ。ついてこれますか?」
「言うやん練巡のくせに。でも、アンタの動きも覚えてきたで」
こう言う鹿島も今のところは防戦一方、黒潮が近付いてこないためにバルジでのいなしをメインにしており、逆に近付こうとしても砲撃や雷撃が激しく、なかなか近付けない。
むしろ、古鷹と共に戦うためにあまり動かないでいた。流れ弾が古鷹の方に行っては困るというのもある。
「そうですか。なら筋がいいですね。そろそろ私のバルジを撃ち抜けますか? そうすれば次の段階に」
「行ってもらおうやないか。そのうち足すくわれるで」
「かもしれませんね。ですが、まだまだ経験不足の貴女にすくわれる足は持ち合わせていないんですよ。だって」
ニコッと笑う鹿島。イラッとする黒潮。そして、その時には黒潮は背後に近付く存在、古鷹がさりげなく発艦していた艦載機の存在に気付いていなかった。
「周りが見えていないんですから」
その艦載機は爆撃も射撃もするわけでなく、黒潮の後頭部に特攻、そして直撃。ゴリッと嫌な音がしたかと思うと、黒潮は白目を剥いて倒れた。
不知火に砲撃を放った時、古鷹は1機だけ艦載機も放っていた。猛スピードで真っ直ぐ進んだそれは、艦娘の艦載機では絶対に出来ないような挙動で反転し、真上に、そして真後ろにと移動していき、速度をそのままに黒潮の背後を取っていたのだ。
殺すつもりなら何かを言うまでもなく射撃で心臓を撃ち抜いていただろうが、黒潮だって巻き込まれただけの被害者。鹿島とも古鷹とも同じ存在。ならば救ってやらなければならない。その結果が、この強引な特攻と意識を刈り取る一撃である。
「ありがとうございます古鷹さん。やってくれると信じていました」
「こちらこそ。衝撃波だけではダメだったので、助かりましたよ」
お互いの勝利を讃えあう2人。長く離れていたとしても、2人は同じ鎮守府に所属していた仲間同士なのである。
だがまだ戦いが終わったわけではない。ひとまずは鹿島が薬剤の砲撃で2人を治療し、周囲にまだ群れるイロハ級を処理するために戦いを続ける。