空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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謎の同胞

 穏健派の深海棲艦であり、人間の文化に興味津々である風来坊、戦艦棲姫が施設にやってきた。なんでも1ヶ月か2ヶ月に1度くらいは近くを通りかかるらしく、今回もその旅路の合間にちょっと寄ったということらしい。だが、用はそれだけでなく、変わったモノを見たから中間棲姫と飛行場姫に話しておきたいという。

 その内容というのが、ここに来るまでに変わったモノ、謎の深海棲艦を見かけたというものだった。目の焦点が合っておらず、声をかけようとしても無視。そもそも知性を持っているかもわからない、見たことのないタイプの同胞(はらから)だったと語った。

 

「生まれ方が悪かったのかしらね。人型なのに知能はもっと下になってるのか、それとも何か別の要因があるのか。意図的にこちらを無視しているんだったら、結構怖いわよね」

「ふぅん……まぁ何もしないならそれでいいんじゃないかしら。ボーッとしているうちに海に還るだけでしょ」

「それならいいんだけど」

 

 現場でそれを見た戦艦棲姫は、その謎の深海棲艦に対して違和感を覚えているようだが、飛行場姫は害がないのなら放置でいいという考えでいるようである。

 

 しかし、中間棲姫は口元に手を置き、少し考える仕草。謎の深海棲艦に心当たりがあるわけでは無いのだが、その存在がこの施設に脅威を与えるかが重要。

 そんじょそこらの深海棲艦では、中間棲姫には傷一つ付けることが出来ないのだが、施設の者はと言われると話が変わる。無論、全員が姫級であり、新人の春雨ですら艦娘の時とは比べ物にならない力を手に入れてしまっているのだが、それでも相手は何かがわからないのだ。心配はどうしてもする。

 

「警戒するに越したことは無いわねぇ。それが私達にどんな影響を与えるかはわからないけれど、もし今までにないタイプの同胞(はらから)で、私達とは違う侵略者気質だった場合、みんなが危ないかもしれないもの」

「まぁ、確かにね。アタシとお姉でこの施設をどうにか護るけど、みんなのことまで手が回るかって言われたら何とも言えないものね」

「ええ、だから念のため、ね。悪いことに繋がりそうなことは、前以て対策をしておくべきよぉ」

 

 中間棲姫がそう言うのだからと、満場一致で警戒の方向に動く。放置でもいいと考えていた飛行場姫も、姉が警戒するというのなら文句を一切言うことなく即座に考えを切り替えた。

 

「戦艦ちゃん、ありがとうねぇ。そういう情報は、やっぱり外にいる子達からしか手に入らないから、本当に助かるわぁ」

「こういう時は助け合わなくちゃね。こうやって勝手に来てはご飯ご馳走になっちゃってるわけだしさ」

 

 これで貸し借りが無くなるだろうと戯けて話す。元々そんなことを考えていないため、これも友人としての付き合い方。中間棲姫にこんな軽口を叩けるのは、妹である飛行場姫か、この戦艦棲姫くらいなものである。

 

「あの……戦艦様、いいですか」

 

 その戦艦棲姫に対し、今までの話を静かに聞いていた春雨が真剣な顔で詰め寄る。先程とは打って変わって積極的に来たので、戦艦棲姫も少しだけ驚く。

 

「どうしたの春雨、怖い顔して」

「その見たことのないタイプの同胞(はらから)というの、詳しく教えてもらえませんか」

 

 話しながらも、春雨の手は震えていた。見たことのない深海棲艦というキーワードによってトラウマが刺激され、発作の前兆が出かけている。それでも、それが姉の仇の情報に繋がるかもしれないのなら、ここで情報を手に入れておきたかった。

 切羽詰まっているような表情だったからか、そのまま素直に話し始める。戦艦棲姫自身はそこまで重要な話とは思っていなかったのだが、中間棲姫が警戒するとも言い出しているため、詳細な情報も共有しておくべきと判断する。

 

「まず姿形なんだけれど、見た目は貴女達に近い駆逐艦だったわね。まぁ駆逐艦にしてはそれなりに成熟してたようにも見えたけど」

 

 この時点で、春雨は少しだけ安堵していた。姉の仇であり、春雨に瀕死の重傷を負わせたのは、駆逐艦では無かったからだ。

 春雨の見立てでは、その深海棲艦は見たことがないものとはいえ重巡洋艦くらいに見えた。小柄ではなく、だからといって大柄でもなく。鎮守府の仲間達と照らし合わせたら、おそらく重巡洋艦程度ではないかと思えた。

 

「艤装もそこまで大きなものじゃ無かったわ。ただ、変わってるなって思ったのは、武器みたいなものを持ってたのよね。アレは槍だったかな」

「槍を持った同胞(はらから)なんていたかしら」

「私はいろいろ見て回ってる時に知り合ってるけど、こっちの方ではまず見かけない子だし、そもそもその子は戦艦なの。駆逐艦じゃないわ」

 

 武器を持つ深海棲艦というのは、いないわけではないらしい。少なくとも春雨には見当が付かなかったようだが、それならそれで仇からはかけ離れてくれるため、若干安心出来る。

 

「髪は長かったわ。あと服装なんだけど、ボロボロでよくわからなかったのよね。服作れるのにそれをそのまま着てたから、余計に不審に思ったんだけどさ」

「わざとボロボロのままでいるってこと?」

「どうなのかしらね。そこに気を配るほど頭の中が出来てないとか? ほら、知性のないタイプのヤツらは、そういうところ無頓着じゃない。必要最低限があればいいみたいな」

 

 知性のない深海棲艦は、人型すらしていない場合が多い。一部人型というモノもいるはいるが、そういうモノは服も微妙だったりする。大事なところが隠せれば充分と言わんばかりに、布を巻いているだけのようなモノもいる程である。それすらないモノもいるくらいだ。

 戦艦棲姫が発見した謎の深海棲艦は、それっぽさがあったという。人型はしているが、知性はない。ならば姫である戦艦棲姫に対して何らかの反応を見せるはずなのだが、それすら無いのはまた謎。

 

「それくらいよ。おかしいというか、珍しいタイプだとしか」

「確かにねぇ。知識が少ない私が言うのも何だけど、見たことも聞いたこともないわねぇ」

 

 世界を回っている戦艦棲姫だからこその違和感なのかもしれないが、中間棲姫や飛行場姫も、見たことも聞いたこともないタイプのようである。

 

 しかし、今までの説明を聞いて大きく反応する者がいた。薄雲である。

 

「ど、どうしたのウスグモ、顔色が悪いわ」

 

 薄雲のその様子を心配するジェーナス。しかし、薄雲の様子は悪くなる一方である。今の戦艦棲姫の説明に、発作に繋がる何かがあったのかもしれない。

 

「……そ、その特徴……姉さんに、姉さんにそっくりなの……」

 

 長い髪の駆逐艦というだけならいくらでもいる。それこそ、春雨だって結んでいる髪を解けばそれなりの長さはあるし、最近ここで交流のあった五月雨や江風だってかなり長い方である。

 しかし、()()()()()()()()()()という強すぎる個性は、薄雲の姉にしか存在しないものだった。そのせいで、薄雲のトラウマが大きく刺激され、発作を起こしかけていたのである。

 

「この話はしない方がいいかもしれないわね。ごめんなさいね薄雲」

「いえ、いえ……私の方こそ……うぅっ……姉さん……っ」

 

 トリガーは引かれかけている。いつ発作を起こしてもおかしくない状況であるため、すぐに飛行場姫が動き出した。

 薄雲を抱きしめながら、少し席を外すとダイニングの外へ。このまま話を続けてくれて構わないということのようだ。

 

「どうする? まだ話す? もう私の見たことは全部伝えたわけだけど」

「……えっと……私は大丈夫です。姉さんの仇とは……違う深海棲艦だったみたいなので」

 

 春雨も薄雲に引っ張られて危険な状態になっている。いつ発作を起こしてもおかしくないギリギリの状態であるため、大丈夫とは言っているものの中間棲姫がケアにあたる。

 先程の飛行場姫と同じように春雨を抱き寄せてから、今回は部屋から出て行くことなく頭や背中を撫でて行く。そうしているうちに、春雨はゆっくりと眠りについた。先程の言葉はやはり強がりだった模様。

 

 春雨がその話を聞かなくなったため、そこからもう少しだけ話を続ける。春雨は抱きついたままだが、眠っているのなら大丈夫と踏んだようである。

 

「この子と薄雲ちゃんは、同じ理由で同胞(はらから)になったみたいなの。今までの話を聞いている限り、お姉さんに何かがあったみたいなのよねぇ」

 

 トラウマを刺激しないように、誰からも詳細は聞いていない。ここにいるのなら経緯はそこまで重要ではないし、何が溢れたかは中間棲姫が黒い繭から解析出来てしまうようなので、聞く必要すらない。

 そのため、春雨と薄雲の元々の原因というのは推測の域だったのだが、流石にここまで大きく反応しているのなら疑いようが無くなった。春雨に関しては先日の対談によりおおよそ見当がついていたが。

 

「そうだったのね。だから春雨はあんなに必死な顔をしていたのか。薄雲は私が見たのがそのお姉さんにそっくりみたいだから」

「ええ。でも、聞いている限り、その見かけたっていう子は春雨ちゃんの仇でも無ければ、薄雲ちゃんの実のお姉さんというわけでも無いと思うのよねぇ。だって、薄雲ちゃんがここに来たの、半年は前だもの」

 

 中間棲姫の頭の中には、その謎の深海棲艦は()()()なのではという考えが生まれていた。

 

 見たことのない深海棲艦というのは大概が自然発生ではなく、心を壊した艦娘が黒い繭により深海棲艦化し、適切な処置を受けずに終わってしまったという悲惨なモノ。

 ここにいる元艦娘達は姉妹姫のおかげで適切な処置を受けたことで艦娘としての意思を残しているが、戦艦棲姫が見かけたという謎の深海棲艦は深海棲艦化の際に壊れたままで変化を終わらせた。その時に艦娘としての意思を失い、変化で知性すら失ってしまった可能性もある。

 もしそうだとしたら、半年もあれば新しい自我──侵略者としての意思──が生まれているか、何もせずに海に還るかしているはず。そのため、薄雲の目の前で死んだのであろう実の姉とは考えづらかった。艦娘も深海棲艦程ではないが同じ顔の別個体が当たり前のようにいる種族だ。姉は姉だろうが、薄雲の知る姉ではなく、別の生まれの姉。

 

「とはいえ、それが薄雲ちゃんのお姉さんであると確定しているわけでも無し。見たわけじゃないから判断は出来ないわぁ」

「まぁそうね。貴女達はちゃんと警戒しておいた方がいいって話よ。大体どの辺りで見たかも伝えておくわ」

「そうねぇ、それを知っておけば万が一の時にいろいろ出来るわぁ。それに、あのヒト達にもこのことは伝えてもいいかもしれないし」

「あのヒト? ここに新しい客が来たわけ?」

「ええ、ついに人間さん達とお近づきになれたのよぉ」

 

 これは流石に予想していなかったらしく、戦艦棲姫も初めて声を荒らげた。自分が擬態などをして社会に潜り込んで堪能している間に、この場所から動けない中間棲姫かどうやってと疑問ばかりだったようだが、春雨がきっかけとなって繋がりが出来たことを伝えると、妙に納得した様子。

 

「なんて羨ましい。私もそれくらい仲良くしたいわねぇ。人間はともかく、艦娘はどうしても私の顔を見ると攻撃してきちゃうし」

「それはまだ仕方ないわぁ。でも、今回の交流からそんな関係がうまく拡がっていってほしいとは思っているのよぉ」

「そうね。無駄な争いをするくらいなら、共通の文化で一緒に楽しめばいいのよ。服飾なんて一番わかりやすく交流出来ると思うんだけれどね」

 

 自分の別個体が忌々しいと冗談を交えつつ、この話は一度終わりにした。彼女から中間棲姫に話したいということはこれだけだったし、これ以上話しても何の進展もしなそう。それに、話せば話すほど発作の被害が拡大しかねない。

 

 

 

 

 ここで手に入れた情報は、次に鎮守府から誰かやってきた時に提供される。これで時間の解決に繋がることを祈りつつ、施設全体でも少しだけ警戒の方向に動くように。

 

 これが吉と出るか凶と出るかは、まだわからない。

 




戦艦棲姫の知り合ったという槍を持っている戦艦というのは、南方戦艦新棲姫のことです。ブラブラ動き回って鉄底海峡まで行っているようですね。
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