空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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無差別の悪意

 龍驤との戦いがついに始まった。その開戦の狼煙となったのが、春雨の『望み通りの答えに辿り着く力』。まずはその言葉を封じ、黙らせたことによって、行動で語り合うことになる。

 言葉が口から出なくなった龍驤は、咄嗟に甲板を2枚3枚と重ねて春雨の前に。その視界から自分の姿を消したことで、その影響下から逃れる。

 

 春雨の力は視界の範囲内に及ぼす力。壁があると対象が認識出来なくなるため、一時的な効果であればそれでおしまい。瑞鳳や黒潮に同化した忌雷に施した処置とは違うため、龍驤の声帯は元に戻ることになる。

 本当に喉を潰すのなら、春雨の腕から滴り落ちるマグマを直接呑ませる必要がある。望みを()()()()()()()力を持つのは、春雨から分泌されたマグマのみ。

 

「お前、ウチに何しおった。喋れんくなるとか聞いとらんぞ」

「教えてませんから。足りない頭で考えてください。あと、その無駄口を慎んでもらえますか。耳障りなので」

 

 両腕に鉤爪を展開し、足の伸び縮みを利用した爆発的なスタートダッシュで突撃する。甲板が何枚あろうが知ったことではなく、それを突き破るために両腕を振るう。

 ガギッと嫌な音を立てるが、表面に引っ掻き傷がついた程度で、貫くことは出来なかった。本人が言うように、これは相当な硬さである。戦艦の砲撃ですら食い止める程の強度なのだから、

 

 しかし、その硬さであろうとも、この中で唯一、モノともしない者がいる。

 

「そういうのは……良くないと思います」

 

 震えながら、怖がりながら、しかし後ろを向くことなく、潮が拳を突き出す。それが直撃した甲板は容赦なく爆散し、春雨の視界を遮る壁は次々と失われていく。

 

「お前、ホンマなんやねん!」

 

 それだけは完全に想定外だったようで、一時的に潮に集中攻撃を仕掛ける。春雨の視界はしっかり遮りながら、砲撃と甲板による押し潰しを組み合わせて追い詰めようと複数の攻撃を繰り出した。

 未だに格下と見ているのか、空母棲姫の艤装から降りようとしていないのだが、それが間違いであることにはまだ気付いていない。

 

「……怖くて、怖くて、堪らなく怖いけど、このヒトだけは許したらダメだってわかりました……こんなヒトに漣ちゃんも曙ちゃんも朧ちゃんも使われていたと思うと……不憫ですから」

 

 砲撃は軽々と避け、押し潰そうと振り下ろされる甲板は軽く撫でるように払うだけで、致命傷どころか軽傷すら防いだ。

 潮に仕込まれた技術は、そもそもが自分を守る力だ。敵を攻撃するよりも、その攻撃をいなす方が得意である。それがどれほど強力であっても、飛行場姫の教えを一切忘れることがない潮にとっては、それは全て()()()()という認識になる。

 技術全てを継いでいる潮は、島から出られない飛行場姫の現し身のようなもの。その思いも引き継いで、自分の身を守るため、仲間の心を守るため、教えられたことを忠実に再現し続けた。

 

「コイツ、ふざけとんなぁ。でもええわ、お前なんぞに構ってられへん。どうせやれるのはそれだけやろが。近付かせなければどうということやあらへんわ」

「そういう時のために、あたし達がいるのよ! このクソ泥女!」

 

 潮から離れればいいと艤装を動かそうとした瞬間、潮の後ろから曙がすかさず雷撃。近距離戦闘のために覚えた、北上直伝の魚雷投擲。

 爆発した瞬間に身体に治療薬を撒き散らす。砲撃よりは強力な火力ではあるが、本来の使い方ではないため、甲板を貫くかどうかは何とも言えない。それがまともな爆発をするのなら破壊は出来る可能性は高いものの、質量兵器をぶつけるのみであるため、貫くことはおそらく出来ない。

 

「んなチャチな攻撃が効くかいダボがぁ!」

「効かせるようにするのが、朧達だから」

 

 さらにその後ろ、朧が砲撃を繰り出す。その砲撃には殺意も乗っているが、明石謹製の薬剤弾でもある。侵蝕の泥弾と同じで、直撃なら死をもたらし、掠るならば治療する。

 

「そして最後に漣ちゃんじゃい!」

 

 さらにさらにその後ろから、曙の魚雷を押し込むように砲撃。こちらは薬剤すらも入っていない、殺意のみの一撃。

 3人合わせての連携攻撃により、投擲された魚雷が海中と同じくらいの威力となって、甲板を撃ち抜いて爆発することとなった。潮の一撃と同じように甲板を粉々に砕き、同時に朧の放った薬剤弾が周囲に飛び散る。

 

「じゃかぁしい! お前ら如きが、ウチに傷付けられると思っとるんか雑魚が!」

 

 だが、念入りに止めるようにしているのか、甲板が1枚貫かれたところで、さらに2枚3枚と重ねられるため、龍驤に届くことはなかった。

 龍驤の体力が続く限り、この甲板は無限に現れる。本来ならスタミナ不足である龍驤だが、他人を器として使うことにより、それも乗り越えていた。体力すらも他人任せ。

 

「壁が邪魔だね。どうにか出来ないかな」

「すみません姉さん。海風には少々力不足のようです」

 

 鉤爪で戦う春雨の隣では、右腕を馬上槍のように変形させて貫こうと試みたが、1枚貫けても2枚目以降がかなり厳しいようであった。

 せめて春雨の視界に龍驤本体を入れることが出来れば、この戦況は一気に優勢になる。最初の望みが『黙れ』でなく『動くな』だったら良かったと、春雨は内心舌打ちしていた。

 

「ほい春雨、ちょっと危ない、よ!」

 

 そんな春雨の後ろから、北上が甲板に向けて魚雷を投擲する。その技術の元祖と言ってもいい存在であるためか、それは的確に1枚ずつ破壊していく。しかし、甲板の増殖速度が異常であり、破壊してもすぐに次の甲板が現れた。そのサイズや硬さが変わることは無かったが、とにかく数が多い。

 

 幸いにも、今は龍驤が防戦一方になっているため、これと同時に繰り出される攻撃が簡単に回避可能であった。まだ考える時間が与えられる。空母であるのにもかかわらず、使ってくるのが甲板による防御と砲撃のみだからだ。

 その空母の要素もずっと出し続けているのだが、仲間達の空母隊がそれに拮抗しているのが大きい。そのおかげで、空襲にまで巻き込まれることは無かった。この中で上まで気にしていたら、まともに戦いが出来なくなる。

 

「……このダボ共が……後悔させたらぁ!」

 

 しかし、ここで龍驤が突如空襲をストップ。空母隊をフリーにする代わりに、近場から確実に始末する方向へと切り替えてきた。

 以前にも北上達の前で披露した、自らの周囲に艦載機の群れを飛ばし攻防一体の弾幕を放ちつつ、一部を上空へと舞い上げて爆撃まで放つ、本人曰く本気の技。その時はスタミナという大きな欠点を背負っていたが、今はそれもなくほぼ無限に発生させられる。

 さらにその内側には甲板まで用意され、しっかりと春雨の視界も対策されていた。龍驤自身は春雨の力の詳細を知らずとも、あの紅く燃える瞳に()()()()()()()()()という部分は直感的に気付いたのかもしれない。

 

「またこれかい。でも、今は理に適ってるのかもしんないねぇ。近付けないや」

「北上さん、あまり余裕はありませんよ」

「わかってるよ大井っち。ちょっと下がろう」

 

 近場にいる者達は、否が応でも間合いを取らざるを得なくなる。これによって、潮は攻撃手段を失ってしまった。むしろ、この射撃と爆撃の雨で恐怖が再発し、身体に刻みつけられた回避能力で致命傷は避けているが、泣きそうな顔で下がっていく。

 この状態で砲撃を放っても艦載機に妨げられ、それを乗り越えたとしても甲板に防がれる。先程とは打って変わって苦戦を強いられることになってしまった。

 

 その射撃は近くにいる者だけでなく、周囲でイロハ級を処理している仲間達にも影響が出ていた。今までは正面の敵だけを見ていれば良かったものを、後ろからも横からも攻撃が飛んでくるようになったため、まともな戦いが出来なくなりつつある。

 それにいち早く気付いたのは、最も空間把握能力を鍛えていた涼風。背後で起きた異変を即座に察知し、イロハ級よりも先にそちらをどうにかしなくてはならないと判断。

 

「江風、山風姉! なんかやべぇことになってる!」

「うぇ!? やべぇやべぇ、回避回避!」

 

 全方位への攻撃ということは、つまりそういうことになる。しかも甲板で視界を覆っているため、完全な無差別攻撃だ。

 気付けたおかげで涼風達は回避することが出来たが、本来龍驤の部下であるはずのイロハ級達は、何が起きているかも理解していないようにそれを喰らい、手をかけるわけでもなくその命を散らしていく。

 

「……何あれ」

 

 山風が明らかに不機嫌そうな顔を見せた。敵も味方も区別することなく攻撃の手をさらに激しくしていく龍驤には、いい気分になる者はいない。明確に嫌悪感を露わにし、それでもまだ倒れないイロハ級をどうにかするために、周囲を警戒しながら対処していく。

 

「山風ちゃん、私は先にあっちに行ってくるわ〜」

「……うん、後から追いつく、と思う」

 

 荒潮は3人に任せて、龍驤への戦いに参戦する。この中では最も万能な戦いが出来るのは荒潮だ。イロハ級を処理するより、龍驤の対処に向かう方がいいかもしれない。

 

「周りの敵は私が抑えるから! みんな、頑張って! もっと私を頼っていいのよー!」

 

 その代わり、今の今までずっと対空砲火に専念し続けていた雷も、イロハ級の処理に参戦。主砲だけではなく、手に持つ錨に装備を追加し、撃ちながらも打撃まで加えて、山風達と即座に連携を可能にした。

 

Indiscriminate attack(無差別攻撃)デスか……堕ちたものデース」

 

 金剛も瑞鳳と葛城を守るために盾を展開してその攻撃を防いでいた。2人を守るならば、金剛1人でもまだやれる。ただし、攻めに転じることはかなり難しい。

 

「比叡、叢雲、ここは私に任せて、あれを止めてくだサーイ。嫌でもGradual decline(ジリ貧)になりマース」

「お姉さま、よろしくお願いします!」

「……助かるわ。私の怒り、あのクズにぶつけてやる!」

 

 龍驤が勝手に周囲のイロハ級を押しとどめてくれているため、そちらに割く手が不要になる。そのおかげで、龍驤をどうにかするための人材が次々と投入されるようになった。

 

「鹿島さん、そちらは任せていいですか」

「問題ありません。近付くことは憚られますが、あの攻撃からこの子達を守ることくらいなら造作もありません」

 

 黒潮と不知火を守るのを鹿島に一任して、古鷹も戦線へ。この2人は戦場からかなり離れることが出来ているため、あの砲撃の威力も大分落ちている。そのおかげで、鹿島のバルジだけでも十分に2人を守ることが出来た。

 しかし、威力が落ちているということは、周囲のイロハ級にもダメージが無いということ。それを1人で捌くことはかなり難しいだろう。それでも、鹿島はやれると言ったのだ。

 

「勿論、私達も手伝いますよ、鹿島さん」

「空襲が無くなったからね。周りをどうにかするのが、空母の仕事ってヤツでしょ!」

 

 そこに飛んでくる千歳と千代田の艦載機。次から次へとイロハ級を襲撃しては、翻弄しながら処理をする。鹿島への攻撃が向かないように、あえて空母でありながら敵の矢面に立ち、それでもその攻撃を回避しながら艦載機を操った。

 

「では、私もあちらに行けますね。あの硬い壁を、私が斬りましょう」

 

 空母隊がフリーとなるのなら、大鳳も戦線に立てる。艦載機は不要とボウガンを消し、腰に差した刀を抜いた。大鳳の渾身の一撃ならば、潮の一撃よりも威力が出る。硬い甲板でも一刀で斬り伏せることが出来るだろう。

 しかし、周囲を飛び交う艦載機は簡単にはどうにも出来ない。そこに関しては、与えられた戦艦の主砲が役に立つ。対空とはいかずとも、眼前まで降りてきているのならお構いなしに砲撃で撃ち墜とせるはずだ。

 

 その様子を見ている内に、春雨の怒りはさらに増す。攻撃出来ない怒り。近付けない怒り。敵味方に関係なく龍驤が()()()()()()()()()ことへの怒り。次々と湧き上がる怒りに、その瞳の焔はより燃え上がる。

 

 

 

 

「気に入らない。許せない。自分が連れてきた仲間まで巻き込んで、自分のことしか考えないなんて、本当に、本当に、許せない!」

 




支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/99114439
MMDアイキャッチ風望月。ここの望月といえば、腕時計型波長発生器。それはもう某名探偵。だから蝶ネクタイも似合う。メガネだし。
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