自分の身を守るためか、龍驤は以前に見せた自身の周囲に艦載機を群れさせる手段に打って出てきた。360度全方位に対して攻撃を行い、味方すら巻き込んで春雨達を全滅させようとしている。
あまりの猛攻に近接戦闘を主に行う者達はどうしても一時的に退かざるを得なくなる。遠距離からの攻撃も、その周囲を群れる艦載機と強固な甲板によって龍驤本人には届かない。
甲板を破壊出来た攻撃は、北上や漣達による魚雷投擲と、飛行場姫に鍛えられた潮の拳。今のところはそれだけ。だが、この周囲を容赦なく飛び交い射撃を続ける艦載機のせいで、魚雷は届く前に破壊され、潮はそもそも近付くことが出来なかった。
「砲撃……弾かれる。魚雷……届かない。空襲……防がれる。爆雷……魚雷と同じか。近接……近付けない」
常に視線は龍驤に向けながら、春雨が考え続ける。その力を発揮しようとしても、甲板で視線を受けないようにしているため、今の春雨の望み『動くな』が叶えられることは無い。
ならばと、艦載機側を視認した。意思を持っているのなら、力の影響下に入る可能性があると考えた。しかし、それだけでは止まらなかった。龍驤のコントロールする艦載機には意思が無い。ただの物。それをこの数動かし続けているのみ。
「それなら、全部ぶち抜いてやるわよ!」
ここでこの戦いに乱入したのが、今まではイロハ級から瑞鳳と葛城を守るために岩礁帯に残っていた叢雲。金剛に全てを任せて、龍驤を止めるために槍を握りしめる。叢雲の怒りは、限界にまで膨れ上がっていた。
叢雲ならば、近付くことなく近接戦闘を繰り出すことが出来る。少々特異な攻撃ではあるが、今この場で最も適している攻撃だ。
「ぶち込んでやるわ! せぇーのっ!」
怒りの力を艤装に流し、槍に全てを注ぎ込む。怒りを発散せんがため、突き出した瞬間に巨大化、そして急激に伸びる。
これならば、魚雷よりも鋭く、威力もある一撃となるだろう。質量兵器の側面もあるため、そう簡単には止められない。
「そんな棒っきれが、ウチを貫けると思うなぁ!」
だが、甲板を何枚も重ね合わせることでそれを防いでしまう。2枚3枚と破壊は出来たが、4枚目には先端が刺さる程度で終わり、5枚目はもう傷すらついていない。
しかも、その隙を突くように主砲が叢雲に狙いを定めていた。やられたらやり返すを実践するように、凶悪な砲撃が叢雲に襲いかかる。
当然だが、その威力は戦艦並み。直撃は死を意味し、掠るだけでも相当なダメージになる。その上、その砲弾は泥製。掠った時、傷を負いながらも侵蝕すら受けることになってしまう。いくら叢雲が耐性を持っていたとしても、火力によるダメージはどうにもならない。
「チッ……」
即座に槍を消し、通常の長さにして再展開。そのまま砲撃を回避。衝撃で軽くフラつくことにはなるが、それ以上のダメージを受けることはなかった。着ているスーツも無傷。
ここで砲撃を放ったことで、その真正面だけは甲板の盾も艦載機の群れも失われる。叢雲にだけは、龍驤の姿が見えるような状況。
そこを見逃さなかった春雨は、脚の伸縮を活かした超スピードでそのラインへと移動し、龍驤をその視界の中に入れる。ガードがないその隙間を狙った砲撃のために、鉤爪を主砲へと切り替えながら。
「アカン、それは許さへん」
しかし、春雨の視界に入ることを是としない龍驤は、すぐに甲板を展開。目が合うどころか、その身体の一部すら視界に入らなかった。そして、砲撃を放ったところで艦載機を墜とす程度。
砲撃よりも視認することに重きを置いたのだが、砲撃を食い止めるために盾を増やされるとなると、春雨の力は届かない。
「わかったやろ。お前らはウチの前では無力なんや。這いつくばって全員死にさらせ。自分から
「冗談は見た目だけにしなよー。借り物の力で支配者気取りはクソダサいぞミジンコー」
龍驤の言葉にすかさず煽りを被せる北上。この射撃と爆撃の嵐を、傘を差しながらヒョイヒョイと逃げ回る姿に、仲間達は感心し、龍驤は苛立ちを覚える。
唯一バリアを持っていない北上は、不意に傘の範囲から外れるだけでアウトだ。足下にも泥は溜まっているため、ステップを踏むにもかなりの神経を使う。無論、その辺りは大井がしっかりサポートしており、北上の進路を作るために薬剤を散布しながら共に回避を続けていた。
ちなみに、北上が回避する先に大井が先回りしてしまえば、足下にもバリアが作用するため、海上に浮かぶ泥は全て消滅する。大井はそこも考慮しながら行動を続けた。
「はっ、お前も口ばっかりやんけ。そんだけ言うならお前がウチを止めてみろや」
「そうだねぇ。それじゃあ、ちょいとやってみようか」
そういうと、指を鳴らすような仕草をする。龍驤本人には見えていないだろうが、艦載機からの視線で北上が何をしようとしているのかはわかっている。
「何のつもりや」
「あたしが指を鳴らした時、アンタは痛い目を見る」
どう考えてもはったりである。戦況は何も変わっていない。指を鳴らす程度では何も起きない。龍驤自身も体力はまだまだたっぷり残っている。泥となる前のスタミナ不足状態とはわけが違う。
「やってみぃや。ハッタリぬかしとんのちゃうぞ」
「それじゃあ遠慮なく」
パチンと指を鳴らした。その間も攻撃の手は止めていない。そして、指を鳴らしたくらいでは、やはり何も起きない。
龍驤もそのハッタリにほんの少しだけ警戒はしていた。今までに二度も自分に苦汁を飲ませてきた北上がやることだ。本当に何か起きるのではとどうしても考えてしまう。しかし、艦載機から見える全ての視点から何も起きないことは確認済み。
「……やっぱりハッタリやんけ。何が痛い目を見るや。クソザコが」
何も起きなかったことを鼻で笑おうとした龍驤。だが、北上の目は自信に満ち溢れていた。
そして、その瞬間、龍驤が腰掛けている空母棲姫の艤装が
「なっ……!?」
「ほらね。あたしの予言通りだ。痛い目を見たろ」
一瞬何が起きたかわからなかった。しかし、今のは確実にダメージだ。艤装が動かなくなったわけではないが、その衝撃は龍驤本人にも届き、北上の宣言した通りに痛みを感じる羽目になった。
360度の視野で見ているにもかかわらず、その視覚から出来ることなど無いと確信していた。北上は傘を差しているため、真上からの確認は出来ないが、周囲を飛び交う艦載機がその行動の一部始終を見ている。それでも回避に徹していたし、放った魚雷はその悉くを艦載機の射撃によって破壊していた。他の者は尚更だ。あの春雨ですら、今は龍驤への攻撃に苦戦している程。それなのに、何が起きたというのか。
「それじゃあ、次に行こうか」
もう一度、指を鳴らす仕草。一度起きたことは、二度起きる可能性が出てくる。
「この、何しおった北上ぃ!」
龍驤の言葉など無視して、もう一度指を鳴らす。流石に二度目は喰らうわけにはいかないと、龍驤は艦載機を群れさせながらその場から移動を開始。北上に突撃するように突っ込む。回避しながらも北上をどうにかしようという、一石二鳥の手段。
だが、またもや艤装が爆発に見舞われる。動いていたからか、先程の場所よりも少し後側。しかし、1発だけでなく2発3発と喰らったような衝撃。流石にこうも喰らうと艤装にもガタが出てきたようで、北上への突撃が中断される。
「アンタにゃわからんでしょ。ほーんと、自分のことしか見えてない自意識過剰ちゃんになっちゃってまぁ。正直、軽空母の時の方が苦戦したまであるね。アンタ、今の方が確実に弱いよ。こっちも人数揃えたってのはあるけど、変に力持ったせいで慢心が余計にでっかくなってるし。あれ、もしかして自分の理想的な身体を手に入れたからかな? なんでも出来る気になった? アッハハ、流石だねぇ」
完全におちょくっている北上だが、やはり目は笑っていない。
「力を借りすぎて本来の自分を見失うとか、わかりやすくクソザコちゃんだよね。なーにが支配者の力だ。知ってる? そういうこと言う奴って、まず間違いなくイイ死に方出来ないんだよ。まぁあたしが読んでる漫画とかではだけどね」
動揺というわかりやすい隙を見せたところに、元祖である北上による魚雷投擲。教えられてその手段を使っている涼風や曙とは段違いの鋭さで龍驤に向かっていく。
「何度も見とれば、その程度喰らわへんわぁ!」
龍驤も負けじと艦載機からの射撃で迎撃し、その魚雷をしっかりと防ぐ。念のためか、甲板を2枚3枚と重ねたことで、爆風すらもシャットアウト。
しかし、その時にはまた北上は指を鳴らしていた。その瞬間に当たり前のように龍驤の艤装が爆発に巻き込まれ、ついにここで艤装が明確に破損を見せた。同じ場所とはならないが、何度も艤装の底に爆発を受けていたら、いくら深海の強固な装甲といえど、中破大破となる。
「あたしのは喰らわないかもしれないけど、こっちは喰らうんだよなぁ。いやぁ、節穴でありがたいわぁ」
未だに龍驤は何が起きているかわからない。この北上の
「……なるほど、そんな簡単なことなのに、
春雨がボソリと呟く。海風がえっという顔を見せるが、春雨が口元で
そもそも北上は何もしていない。潜水艦姉妹が、潮のピンチに合わせて雷撃しているに過ぎない。都合よく龍驤はその場に止まっていてくれるため、海中からはさぞ狙いやすかっただろう。それには北上も気付いていた。そのため、あえて自分の手品だというように見せかけて、タイミングよく指を鳴らした。
結果として、それが見えていない龍驤には潜水艦姉妹の存在が認識出来ない。対潜を出来る力も混じっているというのにもかかわらず、それをしていないのは慢心か、それとも北上の誘導のおかげか。
「この……ダボがぁ! ウチはこんなふざけたことで、負けるわけが無いんやぁ!」
大きく手を振るうことで、さらに艦載機を発艦させ、群れをより濃くする。だが、艤装が中破したことで、周囲に飛び交う艦載機の動きが悪くなった。龍驤自身が操作しているのは甲板の方であり、艦載機は空母棲姫の力を引き出すことで行っているらしく、艤装とリンクしているようだ。破損状況が反映された。
つまり、その数が増えたとしても、艦載機からの視界は逆に減ったようなもの。完全な全方位に視界が行くようにはならなくなる。
「射撃が甘くなったよ。そんじゃあ、よろしくどうぞー」
北上がニヤリと笑った瞬間、近接戦闘で甲板が破壊できるであろう3人が飛び出した。
1人目、比叡。甘くなった射撃ならば、比叡の実力で全て斬り払える。高速戦艦という名を体現するような動きで近付いていき、ついに甲板に触れられる場所まで。
「だらぁあああいっ!」
2本の刀剣を力強く振り下ろしたことで、数枚重ねられた甲板すらも叩き斬った。その勢いは凄まじく、海が割れるかと言わんばかり。
2人目、大鳳。程度が落ちた射撃を掻い潜り、持ち前の運動性能で艦載機の群れの内側まで移動。そこで強く踏み込む。
「甲板はこうやって使うものじゃありませんよ。私の中の伊勢と日向も、苦言を呈しそうですね」
その踏み込みの力を存分に発揮して、甲板を纏めて横薙ぎにした。比叡と同様、こちらは空気を裂くかのような勢いである。
そして3人目、潮。飛行場姫に鍛えられたことにより、最も育っているのは回避性能。自分の身を守るため、敵の攻撃が当たることは一切なく、甘くなった攻撃くらいなら恐怖に苛まれながらでも余裕で回避が出来る。それくらい身体が覚えていた。
「怖い、怖いけど、やっぱり許せません……そんなの、味方も犠牲にするような戦い方をするヒトを、許しておくわけには、行きません!」
そして強く、とても強く腕を突き出した。音すらも置いてけぼりにするような渾身の拳は、直撃した甲板どころか、周囲の艦載機すら爆散する衝撃を生み出した。
3方向から一気に甲板が破壊されたことで、ようやく龍驤は考え方を改める。格上だ格下だ言っている余裕なんて何処にも無い。そんな単純なことを、今更気付いた。
それがもう遅いということに気付くには至らなかった。
「動くな」
春雨が甲板の内側まで来ていたのだ。その視界に入ったことで、『望み通りの答えに辿り着く力』の影響下に入った。龍驤の身体が途端に動かなくなる。
「お、おま……」
「貴女には罪しか無いですが、
怒りを込めた蹴りが、その胸に突き刺さる。そして、ダンと、脚の伸縮を利用した渾身の一撃。
それが、龍驤の、
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/99142545
MMDアイキャッチ風大和&雷。大和は今は大塚鎮守府でお留守番中ですが、雷はこの戦場で最高最善の動きを見せてくれているでしょう。縁の下の力持ち。