空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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前哨戦を終えて

 前哨戦を終え、鎮守府に連絡したことで訪れた宗谷と合流した部隊は、鎮守府組と施設組で分かれて帰投することになる。事後処理として海域に散らばる泥がもう失われていることは確認済みであり、元からそこには何も無かった状態となっているため、安心してその場から離れることが出来た。

 念のため潜水艦姉妹が時間の許す限り海中も探索しており、やはり何もないことを確認している。龍驤の隠し球のようなものが海中や海底に仕込まれているなんてこともなかった。

 

「お疲れ様ぁ」

 

 高高度から見られていたため、島に到着した時には中間棲姫が出迎えてくれた。それだけでなく、妹達の安否が気になっていた白露や、潮が戦えていたか心配していた飛行場姫、叢雲のために甘い物を用意していた薄雲もここにいる。

 最初に出て行った時よりも人数が増えていることに気付き、今回の戦いで救われた者をここに連れてきたのだろうと察する。しかし、そのうちの2人が、今までに無い姿であったため、流石の中間棲姫もどういうことなのかさっぱりわからず。

 

 こんな施設があることなど知らない初めての3人は、驚きで目を丸くしていた。いくらドロップ艦や生まれたての姫だとしても、この施設が普通では無いことくらいは見ればわかる。

 

「ただいま戻りました。龍驤は生かしたまま捕獲され、鎮守府に運ばれています。理由があって、別々に帰投することになりました」

 

 少し重い雰囲気になっているようだが、無事に帰投出来たことを伝える春雨。ここまで来ればもう大丈夫と、スーツも消していつもの服装へと戻る。それをきっかけに、他の者達も普段の服装に。

 

「そうなのねぇ。みんな、お疲れ様ぁ。誰一人欠けていないみたいで本当によかったわぁ。怪我をしている子はいないかしらぁ」

「ありがたいことに怪我人はいませんが、疲労がピークに来ているヒトはいます。すぐに休ませてあげてください」

 

 古鷹と大鳳が該当する。戦いが終わり、帰るべき場所が目に入ったことで、元々足りないスタミナの分がどっと来てしまったようで、今になって疲労困憊となっていた。それでもギリギリまでは耐えて、ここまで辿り着くに至る。

 2人とも本当にギリギリだったか、陸に上がったところで膝をつき、これ以上は動けないと訴えているようにへたりこんでしまった。

 

「スタミナ不足が、本当に足を引っ張りますね……」

「自力で部屋まで戻りたいですけど、ちょっとこれは無理そう……」

 

 大鳳と古鷹は揃って苦笑。これはヘルプが必要だと、白露がそそくさと戦艦棲姫を呼びに行った。彼女の艤装ならば、2人を運ぶことくらい余裕だろう。それまではここで休んでもらうことに。

 

「えぇと、まず貴女達は……それはどうしちゃったのかしらぁ?」

 

 続いて、胸に忌雷が同化してしまっている2人、瑞鳳と黒潮について。これに関しても、春雨が説明した方が早いため、事情を掻い摘んで説明した。

 春雨のマグマによってその性質が変化しており、2人を生かすために動き続ける生体艤装のようなモノということで納得することになるのだが、そうなった流れも話すことに。

 

「なるほど……とんでもないことをされてしまったのねぇ……。春雨ちゃんで無ければ治療出来ずに、絶対に命を落とす手段、ということよねぇ」

「はい。それでも、全員を救い切れませんでした。この2人は間に合ったんですが……残りの2人は」

 

 そのせいで、どうしても浮かない顔になってしまう。勝利の凱旋と行かなかった。これで喜んでいたら、命を失った2人に失礼だと思ってしまうから。元々あまり笑えなくなっていた春雨は、より暗い顔になってしまっていた。救えなかった怒りは、どうしても湧いてきてしまう。

 

「そう……その子達の冥福は、離れた場所であるけど、ここで祈らせてもらうわ」

 

 悲しそうな表情を見せるが、ここで悔やんでいるだけでは前に進むことが出来ないので、辛いながらも割り切るしかない。

 

「貴女達の処遇はまだわからないけれど、きっといい方向に進むと思うわぁ。今はここで身体と心を休めてちょうだいねぇ。この施設は、好きなように使ってくれて構わないから」

「あっ、は、はい、よろしくお願いします。っと、私、瑞鳳といいます」

「ウチ、黒潮いいます。よろしゅう頼みます」

 

 深々とお辞儀する2人。一時的か永続的かはわからないが、この施設の一員となることが確定したため、中間棲姫も快く受け入れる。

 

「あ、でも1つだけお願いがあるのだけどいいかしらぁ」

「は、はい、大丈夫です。ここに置いてもらえるだけでもありがたいので、何かあれば従います」

「本当に申し訳ないのだけれど、その見た目だけ変えてもらえると嬉しいわぁ。実は、それにトラウマを持っている子がいてねぇ」

 

 今の瑞鳳と黒潮は、敵側の泥コスチュームを無害なものに変化させたもの。つまり、レオタード姿である。ロンググローブやニーハイソックスもそのまま。

 それを見て騒ぐことはないが、今ここにいる薄雲は、その姿に対して強めのトラウマを持っており、飛行場姫や潜水艦姉妹、叢雲ですら、着ている物をそれらしくない物に変えたくらいである。

 

「え、えーっと、これどうやれば変えられるんだろ……」

「コレにお願いしたら変えてくれるんちゃうかな。なあなあ、普通の制服とかにしてくれへん?」

 

 胸元の忌雷にお願いするように撫でると、了解と言わんばかりに触手がのたうち、生成されていたコスチュームがドロリと変化した。

 最終的には普通の制服──シャツとスカートが出来上がり、スカートの下にはスパッツまで。黒潮としては、ドロップしたばかりの自分の姿と殆ど同じであるため大喜び。逆に瑞鳳からしたらまるで違う姿になったため、新鮮な気持ちになれたようである。

 しかし、胸の忌雷はどうしてもそのまま。心臓を守る胸当てのように見えなくもないが、やはり異形感はなかなか拭えない。

 

「便利やねぇ。ウチらはもう一蓮托生やから、これからもよろしゅうな」

 

 褒めるように撫でると、喜ぶように歯をカチカチ鳴らした。共存関係としては良好。春雨のマグマで、忌雷も優しい存在へと変化しているおかげ。

 

「それと、貴女も被害者なのよねぇ」

 

 次はその後ろでだんまりを決め込んでいた空母棲姫へと目が行く。目の前で起きていることが現実味が無いようで、救われた時とはまた違った混乱をしているようだった。

 

同胞(はらから)、というのは、こういうもの、なのか」

 

 素直な疑問が口から出た。生まれたばかりの時に器にされているため、この世界のことがよくわからなくなっている。侵略者気質を持って生まれたはずなのだが、疑問が疑問を呼び続け、侵略という気持ちはどんどん薄れていた。むしろ、最初に出会った存在があんなだったせいで、対人恐怖症にすらなりそう。

 こうやって話しながらでも、空母棲姫は周りをキョロキョロも見回し、周囲を警戒していた。先程もそうだが、大人数に囲まれていることに不安を持っているようである。

 

「私達はかなり特殊だと思うわぁ。でも、楽しく生きたいと思う子達が多いことは、知っておいてもらいたいわねぇ」

「そ、そう、か……」

 

 やんわりと説明され、素直に納得。目の前の同胞(はらから)は怖くない存在として認識は出来る。

 楽しく生きるというのがどういうことかはまだわかっていないようだが、空母棲姫は精神的に大分追い込まれているようなので、他の者達と同じようにこの施設で心身共に休息をとった方がいいだろう。一度落ち着いて、改めていろいろと考えてみるべきである。

 そもそも、休息をとらなければ艤装の破損も修復されない。ここから出て行くにしろ、共に生活するにしろ、万全の体調にするのが一番である。

 

「来たわ。古鷹と大鳳が動けないのよね」

 

 ここで、呼びに行った白露と共に戦艦棲姫がやってくる。岸で動けなくなっている2人を見ると、これは大変だと艤装を展開し、やんわりと持ち上げた。

 

「このままお風呂は流石に危ないわね。回復するまではダイニングか部屋で休みなさい。自分で動けるようになったらお風呂に行くこと。いいわね」

「ですね……このままお風呂なんて入ったら多分溺れます」

「陸で溺死とか笑えませんね……」

 

 ひとまずはダイニングでいいかと動こうとしたところ、空母棲姫と目が合う戦艦棲姫。ビクッと震える空母棲姫だが、何やら品定めをするように眺めた後、うんと1人で納得するように頷く。

 

「あら、貴女も被害者かしら」

「そ、そうなる、みたいだ」

「その辿々しさ……生まれたばかりなのね。だったら、私がこの世の中のことを教えてあげるから、貴女も一緒に来なさい。お風呂にでも入りましょ」

 

 空母棲姫はただ混乱するものの、言われるがまま。否定する理由も無いため、素直に従った。

 

「……戦艦様、もしかして旅の仲間にしようとしてるんじゃない?」

「あり得ますね。あのヒト、まだ世間知らずな感じですし」

「侵略者にならないなら、どういうカタチでもいいよね。仲良く付き合っていけるなら、その方がいいよ」

 

 龍驤の器だったかもしれないが、あくまでもただの器。空母棲姫には一切の罪がない、ただ巻き込まれただけの存在だ。怒りを持つ必要は無いし、むしろここから楽しく生きてもらいたい。今の春雨だってそう考える。

 これでもし侵略者気質を取り戻して、陸に向かって破壊活動をしようものなら、残念ながら制裁を加えることになるだろう。そうならないように、戦艦棲姫が事前に()()()を入れるようだ。見た感じ素直な空母棲姫ならば、戦艦棲姫の話をしっかりと聞いて、旅人の一員になりそうである。

 

「それじゃあ、改めてお疲れ様ぁ。みんな、今は休んでちょうだいねぇ。お昼ご飯も用意しておくから、好きな時に食べてちょうだい」

 

 ここで解散となる。戦場に立った者達は、ようやく気を抜くことが出来た。春雨もこの頃にはようやく溢れ続けていた怒りが収まり、それと同時に怠さが溢れ出す。フラつくまでは行かなくとも、大きく息を吐くくらいには疲れを見せた。

 

「叢雲姉さん、いると思って用意しておきました」

「あら、ありがと。ちょうど欲しかったわ」

 

 薄雲が用意していたクッキーを頬張り癒される叢雲。戦場で動き回ったことで空腹感もあったからか、甘味が身体に染みるようだった。

 

「潮、すごく頑張った」

「今は休むべき」

「う、うん、そうする……ね」

 

 潮も潜水艦姉妹に連れられて、施設へ。飛行場姫も何事も無かったことを確認出来てホッとしており、3人と共に施設へと戻っていった。

 

「春雨、海風、お疲れさん。辛いことあったみたいだね」

 

 そして、白露が妹達を労う。しかし、勝利しても浮かない顔をしていることに気付いた。そのことを中間棲姫に報告しているとき、白露はちょうど席を外していたため、その理由は知らない。

 だが、そのことをまた話せというのは酷であるため、察するだけ察してそれ以上のことは聞かないでおいた。余計に精神的な疲労を溜め込むのはよろしくない。

 

「今はひとまず休むべきだね。落ち着いてから、それでもまだ悩みがあるなら、お姉ちゃんが聞いてあげよう。気が晴れるかはわからないけど」

「……ありがとうございます、白露姉さん。正直助かります。愚痴になっちゃうかもですけど」

「お、いいぞいいぞ、かかってこい。いくらでも聞いちゃうぞ。海風も言いたいことがあれば言いなよ。受け止めてあげる」

「よろしくお願いします。鬱憤が凄いので」

「うわ怖。でも妹の愚痴くらい聞かずに何がお姉ちゃんだって話よ。どれだけでも話したまえ」

 

 こういう時に姉の存在は助かると、春雨と海風は少しだけ笑顔になった。

 

 

 

 

 今は休息の時。心身共に回復し、この後に始まる最終決戦に向けて、準備を始める。

 




全員無事に戻ってこれましたが、精神的にはダメージを受けています。愚痴を言うだけでその鬱憤が晴らせるかはわかりませんが、やれることはやっていきたいですね。
一方、何も知らない空母棲姫さんは、戦艦様に仕込まれていくのである。
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