空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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悪性を善性に

 調査隊が施設に救援物資を運んでいる時、鎮守府でも最終決戦の準備が進められている。

 鎮守府に今必要なのは、黒幕の居場所の確定と黒幕への対抗策。前者は大塚鎮守府が調査中であるが、後者は堀内鎮守府で開発中である。

 

 その開発の筆頭である明石が早速徹夜をしたので、大淀が溜息を吐きながら無理矢理寝かせた。疲れた頭で考え始めたら、次は何を言い出すかわからない。むしろ、既に危険な発言はいくつか聞いているため、目を覚ましたらすぐにでも問い質してやると意気込む。

 

()()()()()()()()()()と言ったと」

「はい。よりによって工廠でケラケラ笑いながら。徹夜明けでハイになっているので、それが現実か夢かがわからないんですよね……」

 

 明石の様子を提督に報告する大淀。明石の発言がかなり不穏なものであるため一応伝えたものの、提督とそこにいた五月雨は2人揃って首を傾げた。

 

 今の龍驤は泥であり、地下室でドラム缶に詰められて実験材料とされている。当然だが龍驤本人は侵蝕状態。こちら側の指示に従ってくれるわけがなく、協力はおろか、常に抵抗を続けて今でも鎮守府を破滅させようと画策していることだろう。

 そんなものをシステムにすると言われてもよくわからない。むしろ、システムとはどういうことなのか。

 

「眠気の中で妄想を口にしただけならいいのですが、実現させようとするなら、一体何をするというのでしょうか……」

「起きたらすぐに聞き出してみればいいか。大淀は明石の監視をするんだろう?」

「そうですね。ちゃんと寝ているかを見ておかないと、今こうしている間も何か動いているのではないかと心配になります」

 

 実際にそういうことをしているから、その件に関して明石は信用が無かったりする。休めと言っても休まない常習犯は、大淀の管理の下でしっかり寝てもらわなくては今後のためにならない。

 

「それに、徹夜のテンションで相当ヤってますよ明石は。龍驤が文句を言わなくなったとか、従順に躾けるとか話していましたからね……」

 

 頭を抱えるように呟く大淀。明石の言っていることは、正直なところ、人道的にはかなり厳しいところに来ている。

 とはいえ、ブレーキを外したのは提督であり、龍驤について徹底的に調べることを許可したのも提督である。その結果がこれであるというのなら、責任は明石だけにあるわけではない。提督にも連帯責任がついて回るだろう。

 

「……目を覚ましたら問いただそう。流石にそんなことを話していたとなると、何をしているのか僕も気になる」

「ですね……。あまりに物騒なことをしているようなら、一度止めなくちゃいけないでしょうし。あ、ついでですが、念のため明石に対して泥のチェックはしておきましたが、何もなってはいません。ちゃんと()()で言っていました」

「余計に問題がありそうだがね……」

 

 その全容がわかるのは、明石が休息を終えた後になる。そこまで長々と待つことにはならないだろう。わざわざ起こしてまで聞かなくてはいけないようなこともないはずだ。

 しかし、早急な対処も望まれているため、余程目を覚さないようなら、大淀が目覚ましをするということになった。

 

 朝イチに多少作業した後で眠りについたということで、大淀の予想では昼イチから少し時間が経ってからの起床となるだろう。それまでは一時待つこととなった。

 

 

 

 

 そして、昼。施設への物資援助と搬入をしていることは隊長である山風からも伝えられており、帰投は今日中、暗くなる前には帰投出来るということに。

 交流の場を設けてもらえたのだろうと予想がつく。向かった7人の駆逐艦達は、施設に話がしたい者がいるのだから。

 

 ならば、戻ってくる前に明石に話を聞いておかねばならないと、提督は五月雨と共に工廠にやってくる。

 そこには眠ったことでスッキリした表情な明石と、呆れた表情で付き添う大淀の姿があった。ちゃんと休んでいたことに安心しつつも、寝起きであるにもかかわらずテンションが上がりっぱなしになっていることに呆れているのだろうと容易に想像がついた。

 

「あ、提督! ちょうどいいところに!」

 

 工廠に訪れた提督の姿が目に入った途端、まるで子供のようにはしゃいでいた明石が駆け寄ってくる。大淀がその後ろで平謝りしているのを見逃さなかった。

 

「龍驤の解析の途中経過、聞いてもらっていいですかね!」

「そのためにここに来たんだ。大淀から不穏な報告を聞いているからね」

 

 提督から出た不穏という言葉に、明石はあちゃーという顔を見せつつも、その昂まりすぎているテンションを抑えることは出来ていなかった。

 

「早速なんだが、龍驤をシステム化するという意味を教えてもらおうか」

「あ、なら早速根幹の部分から説明させてもらいますね」

 

 ここではアレだからと、地下室に連れていかれる。ほぼ使わない地下牢を越えた先の、新設された部屋。この奥に龍驤が閉じ込められているのだが、さらにその隣に設置された扉を開けると、部屋の管理を司る空間となっていた。

 

「まず大前提として、龍驤は完全に泥となっているので、艦娘は勿論、深海棲艦に戻すことも不可能です。そして、泥の身体のままでは攻撃も防御も出来ず、()()()()()()()となっています。代わりに手に入れているのが、他者を器として扱う力ですね」

 

 明石の調査からわかっていることは、龍驤自身はもう器が無ければ他者に物理的な危害を加えることが出来ないということ。代わりに、器にしてしまえば、今まで手に入れた力を全て使うことが出来るとのこと。

 なんでも、(コア)の分析の際に、明らかにおかしい情報量を持つ塊があったらしい。それが龍驤を龍驤と成立させているパーツであり、(コア)の中でも最も重要なモノ。中心の中の中心。中枢と言ってもいい部分。

 明石が電気信号を流していたのは、その周囲である。中枢は本当に弄ってはいけない部分だが、他の部分はまだ手が加えられるということになるらしい。

 

「龍驤はもう治療出来ない。侵蝕されていない艦娘龍驤、もしくは深海棲艦龍驤に戻すことは出来ない。身体は元より、頭の中ももう0の状態が侵略者、黒幕から分かたれた存在となってしまっている。もう侵蝕ではなく()()ですね。引き剥がしたら確実に死ぬというくらいの絡みつき方です。いつもの薬を使ったら、龍驤諸共消えてしまいます」

「ふむ……だが、龍驤も今はこうとはいえ、被害者の1人だ。出来る限り救いたい」

「勿論です。なので、私は考えました。元に戻らないのならば、()()()()()()()()()()()()()()と」

 

 そこで明石はとんでもないことをしでかした。電気信号によって痛覚を刺激することが出来るということは、他の感覚も操作出来るということ。そのため、龍驤の思考を外部から操作し、侵略者としての思考を塗り潰す方向で考えたのだ。

 やっていることは黒幕と全く同じ。洗脳されたものを再度洗脳することで、マイナスをプラスに持っていくようなもの。

 

「それはまた……」

「提督がそういう反応するのも承知の上でした。しかし、今回に関しては、そのまま置いておいても救えない。だからといって容赦無く消すのも忍びない。なので、龍驤には()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、悪性しか持っていなかった龍驤に善性を植え付け、鎮守府の協力者とする。そのための()()を行い、今は文句を言わなくなるところまで来ていると、明石は少し悲しそうな笑みを浮かべながら話した。

 

 これが良いことなのか悪いことなのかがさっぱりわからなかった。そもそもの龍驤は、人類のために戦う艦娘。それを黒幕に歪められ、取り返しのつかないところまで持っていかれてしまった。それを元に戻すためには、こちらも取り返しのつかないことをしなくてはいけない。それはわからなくもなかった。

 だが、人道的かどうかと言われれば、口を噤む。非道だと罵られたら、返す言葉もない。相手が今までどれほど非道なことを繰り返してきた存在だとしても。

 

「もう救われないところまで堕とされてしまった龍驤を救うためには、これしかないと思います。正直、私も悔しいですよ。泥化が不可逆なのを覆してやろうとは思っていましたから。でも、調べれば調べるほど、龍驤に身体を与えるのは不可能でした。器ありきの存在なんです。……黒幕もそうなんでしょうね」

 

 明石ですら匙を投げたということだ。最もノウハウを持ち、今まで多種多様な開発と対策をこなしてきた明石がどうにもならないと言うのなら、おそらく本当にどうにもならない。

 

「君の助手とするにしてもだ、泥のままでかい」

「意思の方はそちらに持っていこうと思っていますが、泥の方は調整をして、侵蝕性を逆転させた新たなシステムを開発中です。龍驤自身が仲間を守るために行動出来るシステム……名目上、侵蝕による仲違いや裏切りを防ぐシステムということで、Riot Jammer(暴動妨害)──RJシステムと名付けました」

 

 黒幕と同じ力を持ちながらも、善性に傾けたことによってAIが自動的に仲間達を守るような力を発揮するような新システムにしようと考えているようである。

 これがうまくいけば、黒幕との戦いもかなり楽になると思われた。土地を侵蝕し、泥を散布して敵対勢力を近づけさせないようにしている黒幕に対して、鎮守府側から提供出来る最大の対策となるはずだ。

 

 無論、春雨や叢雲のような泥に対して耐性を持つものや、ミシェルのようなそもそも効かない存在というのはあるのだが、黒幕との戦いには参加出来ない可能性も考慮しておく必要がある。

 それに、耐性があるからと言っても春雨達に負担をかけるのは本当に良くないこと。本来は施設側には平和を提供しなくてはならないのだから。春雨達はもう怒りを晴らすためにも参加したいと言い出すとは思うが。

 

「あと……これこそ人道的に厳しいかもしれませんが、善性を持たせた龍驤には器を用意したいと思っています」

「それは……つまり、艦娘を1人犠牲にするということになるんじゃないのか」

「いえ、ちょっとした裏技みたいなものなんですが、妖精さんにサポートしてもらうことで、()()()()()()()()()を生み出すことが出来るらしいんです。龍驤にはそこに入ってもらおうかと思います」

 

 これもまたとんでもないことである。妖精さんの増殖の機構は未だに解明されていないのだが、生まれたばかりの妖精さんというのはまだ何を担当するかが決まっていない空っぽの状態になっているらしい。そこに他の妖精さんが担当を割り振ることによって、同種とするそうだ。

 その担当割り振りの時に、正しく生まれ変わった龍驤の(コア)を入れることによって器とする。言ってしまえば、RJシステム専属の妖精さんとなってもらうということだ。装備妖精やドック妖精とほぼ同じ。

 

「大丈夫なのかい……?」

「私よりも詳しい妖精さん本人の進言ですので。妖精さんとしても、今の龍驤の状態は何というか可哀想と考えているみたいなんです。だったら、自分達の仲間として楽しく暮らせばいいと思ったと」

「……失敗の確率は」

「今のところは0です。妖精さんのサポートも入るので。()()もおおよそ終わっていますので、今日中にはRJシステム妖精として、生まれ変わってもらうことは可能かと」

 

 自信を持って発言する明石。かなり思い切った方法ではあるが、龍驤を救う唯一の方法となった。最終的な決断は提督に委ねられる。

 

「……わかった。被害者である龍驤を救うためにはそれしかないというのなら、それでいこう。それが本当に救われているのかは、僕には正直わからないが……」

「泥のままで生き続けるよりはマシかなというくらいですね。あのままだと本当に死ねないようなので。それに、そのまま放置していたら最終的にとんでもないことをしでかす可能性を考えると、今のうちにこうしておいた方がいいと思います。後のことを考えた、今の決断です」

「なるほど……。確かに、あの泥のままで放置していたら、本当に何かあった場合にこの鎮守府は滅ぶだろう。それを未然に防ぐためには仕方ないか」

 

 

 

 

 これが英断となるのか、愚行となるのかは、神のみぞ知る。

 




救われない者を救うためには、取り返しのつかないことをしなくてはならない。
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