空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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新たな生

 施設側では、調査隊が持ってきた物資の搬入が全て終了。その後は昼食を軽く摂り、調査隊本来の仕事として、施設の者達の状況整理。調査隊のみでどうにも出来ないような事態が起きていたら、任務用のタブレットを使って鎮守府に連絡をする。

 とはいえ基本的には施設側は何も変わらない。強いて言うなら、今回は新人である瑞鳳、黒潮、空母棲姫の様子を見ておくというのがメインになる。

 

「はぁ……心が落ち着く」

 

 久しぶりの調査隊の来島と、妹達と昼食を外で食べることにより、怒りがかなり発散されている春雨。もうなかなか出来ないであろう姉妹の団欒は、一時の平和を満喫させるには充分なイベントである。

 春雨だけでなく、海風も春雨がまったりしているところを見ているだけで安らいだ。今後もまた昨日の戦いのようなことが起きるのだから、今こそ心身共に休んでいてもらいたい。

 

「春雨姉から見て……施設は大丈夫?」

 

 山風が尋ねる。調査隊として、当人達の目から見てこの場所がどうなっているのかを聞いておく。

 山風の目から見れば、やはり何も変わっていないのんびりした島。鎮守府とは比べ物にならないくらいに静かで、敵がココを狙っているとは思えないくらいに平和。

 

「そうだね、平和そのものだよ。施設そのものが戦いに巻き込まれることはまず無いし、みんなが仲良いしね」

「瑞鳳さんと黒潮さんも、あっという間に馴染みましたしね」

「だね。黒潮ちゃんは最初から開き直ってたけど、瑞鳳さんも昨日の夜には開き直れてたからね」

 

 仲間という観点で言えば、今のところ心配事は何一つとして無い。仲違いからは無縁。叢雲とコロラドの言い合いは仲違いとは違う漫才なので、ある意味これも平和の象徴ではある。余裕がなければたわいない言い合いすらも生まれない。

 

「空母さんも、今は戦艦様にいろいろ教えてもらって楽しんでるみたい。そう考えると、今のこの場所は平和そのものと言ってもいいくらいだよ」

 

 空母棲姫は、今頃戦艦棲姫からいろいろと教えてもらいながら、世界の広さについて学んでいる。

 

 この戦いが終わったら、戦艦棲姫と空母棲姫2人で一緒に旅に出る予定だった。戦艦棲姫の思惑通りに進んだと言っても過言ではない。戦艦棲姫が思いつく限りの自分の技術を優しく、しかし徹底的に叩き込んでいる。

 この戦いが終わる頃には、その知識欲は最大に達し、戦艦棲姫と共に旅に出たがることだろう。

 

「それじゃあ……春雨姉はどうなの……?」

 

 ここも大きなところ。怒りが溢れて豹変してしまった春雨が落ち着けているかは、調査の対象とされていた。

 施設にいる者の中でも、最も特殊な例となってしまった春雨については、他の者達よりは入念な調査が必要であると、提督から指示されていた。何事もないことを保障するためにも。

 

「私? 私は大丈夫。昨日も気持ちよく寝られたし。ね、海風」

「はい。春雨姉さんはいつも通りグッスリと眠っていました。魘されているようなことも無かったですし、具合が悪そうなこともありません。寝返りの回数も、息遣いも、普段通りでした。寝言は……昨日はありませんでしたね。お疲れだったのでしょうし、夢を見ることなくグッスリ眠っていたのでしょう。穏やかな寝顔でしたから」

 

 海風がマシンガントークに発展しかけたが、妹達の前だからか自重した。ここで理性を働かせることが出来たのは、海風にとっては成長の1つ。

 

「それじゃあ……いつものような平和だったって、報告書に書いておくね」

「そうしてくれると嬉しい。他のヒトにも聞いて回るんでしょう?」

「……うん、そのつもり」

 

 こんな簡単なやり取りでも、施設の平和さが溢れているので、充分な報告書となるのである。

 

 

 

 

 昼食を終え、少し休憩していると、突然山風の持つ任務用のタブレットが着信音を鳴らす。

 鎮守府から何か連絡が来る予定では無かったため、山風がビクッと震えてからそれを受ける。

 

「は、はい……調査隊隊長の……山風だけど……」

『ああ、急に連絡を入れてすまない。物資の搬入は終わったかい』

「うん……全部午前中に終わった……。姉姫さん達、喜んでた……」

 

 今は調査隊としての本業の方に勤しんでいると伝えると、向こう側にいる提督も順調で何よりと喜んでいた。物資を施設側に喜んでもらえたのも嬉しいようだ。

 

『そこに春雨達もいるようだね。それなら都合がいい』

 

 カメラに見切れているように春雨達の姿が映っていたため、ちょうど良かったとすぐに本題に入る。

 

『捕獲した龍驤の処遇が決まった。これは施設の全員にも知っておいてもらった方がいいだろう。今回の件は、姉姫に伝えるよりは山風経由の方がいいと思ってね。こちらに連絡したんだ』

 

 龍驤の名前が聞こえた途端、春雨の周囲に熱気が溢れたような感覚を覚えた。明らかに怒りを溢れさせている。それにあまり詳しくないものですら、今の春雨は苛立っていると一目でわかるくらい。

 しかし、真っ先に知ることが出来たのはありがたかった。ギリギリまで知らされていないとかになると、春雨の怒りはさらに膨れ上がっていただろう。

 

「アレはどうなるんですか」

 

 その口調には明らかに怒気を孕んでいた。提督もその気持ちを理解しているため、表情も変えずに結論だけを淡々と伝える。

 

『明石の手によって再洗脳を施し、こちらの味方につける。さらには、新たな器──妖精さんの身体を得て、泥対策の要となるシステムの根幹となる予定だ』

「再洗脳……ですか。まぁ、そうなりますよね。根っこまで侵蝕されて治療もできない上に、身体すら失ったんですから、救われるにはそれしか無いと思います」

 

 不服というわけでは無いが、あれだけのことをした龍驤に対して相当な譲歩であるとは思う。もっと痛い目を見てもいいとすら感じていた春雨としては、それに対して若干不満があった。

 だが、再洗脳というなんだかんだ尊厳を踏み躙るような行為をされていることと、妖精さんの身体になるというこれもまた違った生き方を強いられることには仕方ないとも思える。元々救えるのなら救うという気持ちはあったため、仲間になるのは喜びこそすれ、悲しむことでは無い。

 

「記憶などはどうなるんですか?」

『明石曰く、全てそのままだそうだ。恐ろしいことに、その罪悪感で壊れることが無いように()()()いるそうだが……』

「なるほど。全てにおいて有用な存在となってくれるわけですね。黒幕を斃すためには、アレの記憶も必要でしょうし、最善の手段だと思います」

 

 納得はした春雨。溢れる怒りは多少抑え込まれているものの、やはり思うところはある。しかし、本当の目的を忘れてはいけない。この戦いを終わらせるためには、黒幕を斃すことが絶対条件。そこに最も辿り着ける道は、『辿り着く者』としての観点からも、明石が取ったこの手段がベストなのだと感じた。

 

「提督……それ、いつやるの……?」

『明石が今準備中だ。今日中には可能と話していたが、早ければすぐに……』

『提督! 準備出来ましたよーっ!』

 

 山風が質問をした瞬間に扉が開く音。同時に聞こえたのは明石の声。

 

『……だそうだ』

 

 提督も諦めたような表情で苦笑した。

 

「提督、それ、私達も見させてもらってもいいですか。前哨戦ではありましたが、私達にとっては1人目の宿敵です。その最後を見ておきたい」

 

 春雨の言葉に、海風や白露も首を縦に振る。海風にとっては、春雨を裏切るカタチにさせられた元凶でもあり、憎らしい相手。白露にとっては、妹達を壊した原因となった元仲間。その終焉を、その目に焼き付けておきたかった。

 これは終わりでは無く、新たな龍驤の始まりなのだが、悪性を持つ龍驤が死ぬことには変わりない。

 

『ならば、このままここで映しながら処置を執り行うことにする。そちらでも君達のように最後を見届けたいと思う者を集めてくれ。……別にショーというわけでは無いんだがね』

「了解です。まだすぐに始まるわけでは無いですよね。ちょうどお昼時でしたから、すぐに集まると思います」

 

 こうして、龍驤の終わりと始まりは、施設の者の前でも行われることとなった。

 

 

 

 

 結果的に、それは施設の者と調査隊全員が見るということになる。タブレットの画面では小さく、施設にプロジェクターがあるわけではないので、うまく施設のタブレット側にも映せるようにした。画面が2枚あれば、一応全員の目に入るようになった。

 

『はい、それでは処置を始めますね。ご覧の通り、今、龍驤が入れられているドラム缶の前には、()()()()()()()()が安置されています。これからの処理で、あの中に龍驤を入れることになります。妖精さん監修であり、絶対的な安全の下で執り行われるので御心配なく』

 

 画面に映されたのは、まだ役割を持っておらず、意思も何もない妖精さん。ヒトでも着ることがある検査着に身を包み、眠るように横になっているものの、この妖精さんは絶対に目を覚ますことがない。あくまでも器であり、妖精さんの中でも、この存在は仲間ではなく仲間になるための素材というイメージなのだという。

 そして、ドラム缶からチューブが伸びており、その妖精さんを包み込むようにセットされていた。ここから龍驤の(コア)が流れ出し、妖精さんを埋め尽くすことで、それが龍驤となるという。

 役割を持った時点で、妖精さんは()()妖精さんへと姿を変える。工廠妖精なら作業着になるし、艦載機妖精ならパイロットスーツになる。そして、ここ最近は艦娘の姿を取るような妖精さんも多数見かけるようになった。龍驤はそれになると考えられる。

 

『では行きます。龍驤、そちらも覚悟はいいね?』

『……ああ、いつでもええ』

 

 龍驤の声が聞こえたことで、数人がビクンと反応する。ある者は怒り、ある者は恐怖、ある者は悔しさ、あらゆる感情がそこに渦巻いたが、龍驤の声色からは、一切の悪意が感じ取れなかった。

 明石の調整(躾け)によって、悪性は善性へとひっくり返り、しかし記憶は残っているために常に罪悪感を持ち続ける。しかしそれで壊れることは出来ず、深い悲しみに呑み込まれた状態で、常に正気を保持させられ続けるという地獄。

 

『スイッチ、オン!』

 

 明石が何かのスイッチを押した瞬間、ゴウンゴウンと周りの機械が音を立て始め、ドラム缶の中から黒い泥がチューブを通って妖精さんの器に流し込まれる。それは次々とその身体を埋め尽くしていき、そしてその身体の中へと染み込んていった。

 泥塗れになってもびくともしなかった妖精さんだが、チューブから明らかに違うもの、(コア)が入り込んだことでその小さな身体を大きく震えさせた。

 

『入りましたね』

 

 ビクンビクンと震えた妖精さんの器がさらに泥に塗れていき、それすらも身体の中に収まった時には、先程とは似ても似つかぬ姿へと変貌していた。役割を持ったということになる。

 

 その妖精さんは、どう見ても小さくなった深海棲艦のような色味。髪も真っ白で、肌も真っ白。まるで、施設にいる元艦娘のような見た目。髪型はかつての龍驤のようなツインテールで、この中に龍驤が入ったのだと如実に表していた。

 しかし、服装が微妙におかしかった。やはり()()()()の気質が抜けておらず、侵蝕したという事実があるからか、その張本人であるにもかかわらず、侵蝕された者のトラウマに近いセーラー服とレオタード姿。システムの妖精さんであるからか白衣のようなものを着ているものの、その姿は明らかに、侵蝕された者であると表現しているようなもの。ご丁寧にもロンググローブとニーハイソックスまで完成。

 

『妖精さんが深海化したみたいになりましたね。初めての反応ですよ』

 

 周囲の妖精さんは処置の成功に拍手をしているのだが、画面越しにそれを見ていた施設の者達の一部、特に泥によって侵蝕されたことを経験している者達の表情は複雑だった。

 

 処置が終わったため、チューブが外され、妖精さんが解き放たれる。ゆっくりと目を開け、その場に立ち上がると、何処か驚いたような表情で自分の手足や服を見ていた。

 龍驤の記憶があるとしても、こんなに小さな存在となるなんて思ってもいなかったのだろう。

 

『龍驤、話せる?』

『……ああ、妖精さんでもちゃんと話せるみたいやね』

 

 普通の妖精さんは、まともに話すことは出来ないが、龍驤は深海化も伴っているのでかなり特殊であるようだ。それこそ、小型化した深海棲艦みたいなもの。だが分類的には妖精さんであることには間違いない。

 

 

 

 

 龍驤は新たな生を与えられることとなる。それはもう艦娘でも深海棲艦でも無いのだが、死というカタチで終わらず、少し方向性は違うかもしれないが救われたと言えた。

 




RJシステム妖精爆誕。見た目は龍驤だけど、役割を持たせられたことによって変わった姿になりました。でもいろんなヒトのトラウマを刺激することになるので、着替えた方がいいとは思う。


支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/99350343
MMDアイキャッチ風川内+夕雲&長波。侵蝕されていた者達の中でも、長波は結構後に引っ張りそうなイメージはあります。島風に瞬殺されましたからね。逆に川内は引っ張らなそう。今日も元気に黒幕調査。
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