龍驤が妖精さんへと生まれ変わり、ここから黒幕に関する話をさせる。龍驤としては、今までの罪を償うために、話せることは全て話すと姿勢を正した。
ここまで長かったが、ようやく黒幕がどういう存在かがわかることになるだろう。
『質問があったら何でも聞いてや』
聞きたいことがありすぎて、逆に質問がすぐに出てこない。それほどまでに、今まで黒幕の真相は秘匿され続けていた。
こんな機会はもう二度と無いだろう。龍驤ほど黒幕のことを知っている者はいないはずだし、これ以降に侵蝕された敵を
「それじゃあ、私から」
ここで手を挙げたのは、やはり春雨である。
『辿り着く者……春雨やね。何でも聞いてくれや』
「黒幕は今、何処にいますか。大まかな位置はわかっていますが、正確な位置はわかりません」
大塚鎮守府の近海にいることはわかっている。しかし、未だにその存在をその目にすることは出来ていない。
敵対する者を弾く結界があるため、正確な位置がわかってもそこに辿り着くことは出来ないかもしれない。そのため、聞いたところで何も変わらない可能性は高い。しかし、どんなところに拠点を置いているかは、知っておいて損はない。
春雨は黒幕に対して殺意しかない。そのため、もう別に黒幕の人となりなんてどうでもいい。そのため確実に殲滅するための材料を真っ先に尋ねる。
土地を侵蝕しているというのなら、その場所がどうなっているかをまず知った方がいいだろう。攻め込むためには、立地条件などが重要となる、
『無人島を本拠地にしとる。そちらの姫さんが使っているようなモンとは違う、木とかも生えとるような島やな』
「木……ですか。戦艦様が以前に野宿したところみたいなところですかね」
その島は、戦艦棲姫以外にも古鷹と白露がよくわかっている。何せ、襲撃した2人だから。
それに近しいような場所だったとしたら、無人島全域か一部に森があるということ。奥に行けば行くほどその姿を眩ますことが出来る。隠れるのなら持ってこいの場所でもあるだろう。
「最初から最後までずっとですか」
『せやね。ウチが器で無くなった後からずっとや。そこで、ウチらみたいな
かつて黒幕サイドだった者達が顔を顰める。
『古鷹が生きとったのは、内心結構驚いたわ。あの時、鎮守府を襲った時に、もうあかんから見捨てて帰ったんやけどな。治療されてそっち側におるやなんて思うとらんかったからな。でも、表に出したら調子付かせる思うて、平常心のフリしとった』
仲間をも見捨てるような行動を取っていたことを後悔するような仕草をする龍驤。そういうところを見ると、やはりもう敵対していた龍驤はいないのだと実感する。違和感すら覚えるほどだ。
『話戻すな。あの島を選んだんは、黒幕の姫さんが力を蓄えるためや。見つからへんように、コソコソとな。雌伏の時や言うて、森の奥に身を潜めとる。あれや、今でこそ見えんようにする結界みたいなモンを使えるが、そん時には姫さんにもそういう力があらへんかったからな』
泥の状態で活動していたわけではないだろうが、やはり隠れるのならそういう簡単には人目につかない場所を選択するだろう。適当な器を手に入れたとしても、だからといって堂々と表を歩くことはしない。
復讐心が溢れたことにより器を手放すという状態になったわけだが、その心はむしろ冷静。復讐を確実に、むしろより効果的に痛手を負わせるために全力を尽くす。
その結果がこれだ。尊厳を破壊し、艦娘に
『そうなると、1つ疑問がある。今もまだ潜伏しているのだろうが、規模が増えてきたら潜伏も難しくなるのではないだろうか。1人や2人だけではないだろう』
ここで提督からの意見。いくら無人島で、森の中に潜んでいるにしても、人数が増えてくれば嫌でも人目につきやすくなる。ただでさえ、その無人島は大塚鎮守府の領海に近い場所。空母による哨戒があれば、違和感くらい覚える何かがあってもおかしくない。
しかし、今の今までその存在を完全に秘匿出来ており、意識しながら捜索して違和感を覚える程度。しかも、一度侵蝕されているから肌がそれを微かに感じ取れたくらいである。
『それは、姫さんが隠れることに特化したからやろな。あのヒト、器が無ければ殆ど液体、流動体やん。だから、それを活かして、自分の身体をその島に染み込ませていったんや』
これが『観測者』の言っていた土地を侵蝕するということなのだろう。だが、それだけでは隠れることには繋がらない。
『そうしたら、その島に地下の施設が出来てしもうた』
『地下……?』
『せや。ほら、そっちの姫さんが島に施設を建てたんやろ? それを、地面の中に造ってしもうたんや。だから、表向きは無人島やけど、その中は拠点になっとったって寸法や』
仲間達の施設とは逆の、地下施設。それを造り上げてしまっていたという。黒幕も中間棲姫。つまりは陸上施設型である。島を自分のモノにするのはお手のものというわけだ。
「なるほど、地下からより島を侵蝕していったことで、その土地そのものを自分のモノにしてしまった、と。地下施設そのもの、島そのものが、その黒幕の器ということになるわけですね」
『そういうことやね。ウチらには住む場所が貰えたって感覚しか無かったんやけど、姫さんは裏でそうやって力を蓄えとった。その結果が今ってことや』
長い時間、その島に泥を染み込ませ続けていたのだ。その四肢を伸ばし続けて、島の全てを手中に収めようとしていた結果、本当に収まってしまったわけである。
その度に力も増しているし、やれることも増えてくる。最初は他人を器にして自分の身体とするだけだったが、そこから泥を分離させて侵蝕するようになり、その泥が増殖する性質を持ち、さらには龍驤のように完全に泥にすることすら出来るようになった。時間をかけて成長をしていったのだ。
ここ最近での成長速度が速くなったのは、復讐心に火をつけ、恨みと憎しみがさらに膨れ上がったからと言える。黒幕は、そういうカタチで壊れている。
そこで今度は気になることが出てくる。それについて口に出したのは、その処置が施されている白露。
「質問。あたし達、他の艦娘と混ぜられちゃってるよね。それもその地下施設でされたことなのかな。張本人であるあたし達は何をされたかも全く覚えてないんだけど」
魂の混成。侵蝕と同様に黒幕が実行した魂の冒涜。死んだと思っていた白露が今ここに妹達の記憶と共に生きているのは、紛れもなくその処置をされたからだ。
『ああ、それはな、姫さんの泥の効果や。あのヒトは、
やはりというか、予想通りというか。殺害した仲間達を連れて行ったという古鷹や、そこに一片の証拠も残さずに持って行かれた白露達は、そのために使われたということ。
該当者は、白露、古鷹、大鳳、コロラド、そして潜水艦姉妹。勿論、龍驤も含まれている。あらゆる場所から
『ウチはそれを見とったから覚えとる。古鷹を混ぜるところをな』
古鷹の表情が歪む。自分に施され、今尚心の中にいる3人の仲間達のことを思い出すことで、苦しい思いに苛まれた。
『新鮮な死体を、姫さん自身が包み込むんや。そうすることで、死体がグズグズに溶け合って混じり合う。再構成されたら艦娘も辞めて
やっていることは実に簡単。しかし、何故そうなるかと言われたら、原理は不明に近い。おそらく、艦娘が感情を溢れさせて繭になり、深海棲艦化することを、
繭の中で亡骸が一度液状化すると言われても、それは昆虫などと同じなので違和感はない。実際、繭に包まれて孵化したら脚や腕が無くなったりしているのだから、完全変態のような再構築であってもおかしくはない。液状化したのなら、混ざり合うことも可能だろう。
溢れさせるのではなく、包み込む。そのせいで、泥も体内に入り、完全な支配下に置かれる。それは他者を侵蝕する泥と同じように、宿主が死ぬことでその場に吐き出され、次の宿主を探そうとするのだが、そうなるまではしっかりと侵蝕して使い込むわけだ。
『ウチが今のカタチにされたんも、その地下施設でや。ほら、北上にボコボコにされたやん。その後、治療言いながら姫さんから処置を受けとったんよ。生きたまま包み込まれたからこうなったって感じやな。いや、姫さんの力が増したから、こういうことが出来ただけかもしれへんけど』
つまり、やろうと思えば黒幕は、この龍驤と同じような存在をいくらでも生み出せるということだ。時間はかかるかもしれないし、今までの経験なども必要になってくるかもしれないが、例えドロップ艦であろうとも、取り込んでしまえば二度と治療出来ない配下の出来上がり。
これも、艦娘への復讐に燃え、嫌がらせに特化した力だからこその進化。治療されることを知ったためか、より艦娘の尊厳を踏み躙ることを求めたことによる力であろう。
復讐心に囚われるとこうなるという大きな例である。同じく復讐心が溢れているリシュリューは、表に出さないように心の中でこうはなるまいと決意した。
『今の黒幕の姫はどういうカタチを取っているんだい。島そのものになっているということは、姿も持っていないのかな』
今度は提督からの質問。撃破するためにはどうすればいいかがここでわかる。ヒトとしてのカタチを持っているとしても、それがまともに倒せるかはわからない。
『拠点の中ではヒトのカタチはしとるよ。自分用の器は確保しとるみたいやから。でも、ウチでいう
こればっかりは一番の部下にも伝えていないようである。自分の急所を自分以外が知ることは許さないということだろう。龍驤もそれに対しては違和感も不信感も無かった。
『つまり、島を破壊してしまえば万事解決ですかね!?』
『そんな簡単な問題じゃ無いだろう』
やはりというか何というか、明石が物騒なことを言い出す。間違ってはいないのだが、それで本当に終わるかと言われればそうではない。故に、提督が即座にツッコミを入れた。
例えば、島を消し飛ばすくらいの威力の爆弾を上空から投下して、全てを木っ端微塵にしたとしても、あの黒幕のことだから、その程度では
やるのなら、その
それは龍驤の解析によって明らかになる可能性がある。龍驤が黒幕と同様の存在に変化させられているのなら、対策は考えられそうだ。
黒幕の存在が明らかとなり、これからの戦い方も考えられるようになる。しかし、姿を見せていない黒幕に何が通用するのかは未だわからず。
ここに来てようやくスタート地点に立てたようなものだった。長い長い戦いに決着をつけるには、まだまだ情報が足りなかった。
黒幕がどうやって勢力を伸ばしてきたかはわかったけど、弱点や戦い方はわからず。あくまでも他人を使い、艦娘の尊厳を踏み躙りながらの戦いであるため、本人が何をしてくるかは不明。