空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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和解

 ここで通信は終了。情報を整理した後、大将と大塚提督にもここで齎された情報を提供して、これから行われる最終決戦に挑むことになる。

 

 鎮守府では、堀内提督が大きく息を吐いた。龍驤が妖精さんと化した瞬間を目の当たりにしたわけだが、ここで成功して本当に良かったと、心の底から安堵した。

 万が一失敗したら、この鎮守府は侵蝕されて全てが終わる。その可能性が0と言われていても、やはり侵蝕の怖さを知っている分、不安が払拭されることはない。

 

「正直、一安心だ。龍驤が無事……とは言えないが、まともに話が出来る相手となってくれたのは僥倖だ」

 

 ドラム缶の横に置かれた台座の上で、同じように安堵した息を吐いていた龍驤。小さくなったことで体力不足がさらに如実になるかと思いきや、妖精さんという存在は普通とは違うようで、体力は有り余っているようである。

 龍驤を襲っているのはとにかく気疲れである。今までとんでもないレベルの敵として君臨していたことを考えると、何処もかしこもアウェー。こうして立っているだけでも、足が震えてしまいそうなくらいに怖い。

 

「迷惑かけ続けてるんやから、この程度はダメージにも何にもならんよ。本来なら死んで命で償うべき所業やで。それが、生きて償う時間をくれたんはホンマにありがたいわ。ウチがやれることは何でもやらせてもらうで」

 

 悪性を反転させたことで今の龍驤が生まれているわけだが、艦娘龍驤と殆ど同じ。小さな見た目からは考えられないくらいに仲間思いのお姉さんというイメージがあるのが龍驤だ。

 

「助かる。当面は明石の指示の下、黒幕対策の開発をしてもらいたいんだが良かったか」

「良いも何も、それがウチの生きてる意味みたいなもんや。いくらでもやらせてもらうわ」

 

 任せろと言わんばかりに胸を叩く龍驤。だが、少しだけ無理をしているようにも見えた。

 

 明石の処置によって今の龍驤となっているものの、その記憶は残したまま。情報提供が出来るほどにはっきり覚えている分、罪悪感も凄まじい。

 ドロップしてから今まで、そのほぼ全てを侵略者として過ごしてきたのだ。白露や古鷹ですら、仲間である艦娘を沈めた経験があるのに、龍驤にそういう経験がないわけがない。直近では、龍驤の策略で施設の者達へのあてつけのように命を落とした葛城と不知火がいる。それが龍驤の思考を常に苛んでいく。

 

「龍驤。君はすぐに仕事に入らなくていい。一度身体……いや、心を休めるべきだろう」

 

 言われて、龍驤も少し考えたが、提督の言うことを突っぱねる理由がない。むしろ、何を言われても肯定するくらいである。休めと言われれば休む。

 

「明石、龍驤との解析はすぐにやるべきかい?」

「早いに越したことはないですけど、私も休憩時間が必要ですし、龍驤にも休んでもらって大丈夫ですよ。それに、今日からはこの鎮守府の一員ですからね。仲間達との顔合わせも必要でしょう」

 

 少しだけ悪い笑みを浮かべた明石。仲間との顔合わせと聞いて、逆に龍驤の表情は強張る。

 

「あー、あのなぁ、ウチとしてはその、顔を合わせづらいっちゅーか」

「でしょうね。でも、最終決戦のときには誰かが龍驤を装備して出撃するんだから、絶対にヒト前に出ることになるよ。遅かれ早かれ顔を合わせるんだから、今の方がいいでしょ」

 

 そう言いながら龍驤を摘み上げた明石は、うもすも言わさず五月雨の頭の上に乗せた。提督と共に来ていたが、ここまでのことに驚きっぱなしで一言も発していなかった五月雨も、これには声を上げるくらいに驚く。

 

「はい、装備完了。今の龍驤は五月雨の装備として認識されました」

「え、これだけでですか?」

「そう、これだけで。あんまり振り回すと落ちちゃうかもしれないですけど、戦闘の時にはそうならないように出来るから、五月雨でも大丈夫」

 

 何も無いところでひっくり返るようなドジをする五月雨でも大丈夫であることを実証するための試験みたいなもの。

 明石の助手であり、泥の研究をサポートすることも仕事だが、RJシステムの根幹として戦場でその力を発揮するのが一番の役目。それが正常に作動するかは、しっかり試しておく必要がある。それが今だ。

 

「五月雨、そのまま龍驤に鎮守府を案内してあげてくれ」

「あ、はーい、了解です。それじゃあ行きましょう」

「ちょ、ま、なんやこれちょっと怖い!」

 

 龍驤を頭に乗せたまま、五月雨は地下室を出て行った。あまり安定しない頭の上のせいでバランスがうまく取れなかったが、そこは装備としての本能がうまく作用しているのか、そこから落ちるようなことはなかった。五月雨の髪が長いお陰で掴むところに事欠かない。

 

「ひとまずこれで装備状態の運用試験と行きましょう。あとからRJシステムとしての運用も確かめてみませんとね」

「それはいいんだが、なかなか強引だったんじゃないかい」

「いやいや、これくらいしないと、ずっとヒト前に出ようとしませんよ。それに、さっきも言った通り、いざ決戦という時に精神的な理由で本調子が出せなかったら困るじゃないですか。ただでさえ、本来の妖精さんとは大分違うんですから」

 

 五月雨の背を見送りながら、2人は龍驤のこれからについて考える。システム妖精となったことで、艦娘とも深海棲艦とも違う生き方を強いられることになるのだ。精神的にも調整されているとはいえ、何か悩みを持ったり、それこそ精神的に辛い思いをするのではないかと。

 しかし、それは今まで侵蝕されていたものも同じく。龍驤はそれが度を越しているだけ。それならば、周りの助けがあれば救われる。

 

 

 

 

 龍驤を頭に乗せた五月雨は、手当たり次第に鎮守府の中を案内する。とはいえ、艦娘のための設備を妖精さんが使うことはほとんど無い。妖精さんには妖精さんの生き方がある。食べ物だって違うだろうし、同じであっても量が違う。風呂なども必要かわからない。そのため、案内されたところで無意味である可能性もあった。

 だが、本質はそこではない。五月雨だって察している。龍驤すらも気付いている。こうやって鎮守府を歩き回ることで、龍驤が今の身体に慣れてもらうことが目的だ。身長が変わったことによる景色の違いが主であり、精神的な部分もある。

 

「さ、五月雨、もうちょいゆっくりでええか。まだ慣れとらんねん」

「あ、ごめんなさい。髪の毛掴んじゃっていいですよ」

「掴んどるんやけど、思ったより滑んねんて。そういう意味では五月雨、めっちゃ髪綺麗やな」

 

 これではダメだと、龍驤はグリップのある手袋を展開して五月雨の髪をしっかり握る。これならどれだけ揺さぶられても落ちることはないはず。

 

 妖精さんの重さはほとんど無いようなもの。そこにあるというのはわかるが、首が痛くなるほどの重さでもなく、だからといって乗っていることがわからないほどでも無い、ちょうどいい重さ。

 そのおかげで、髪の毛を引っ張られても痛みも何も無い。そこに何かあるという感覚があるのみ。強引に悪意を持って引っ張れば痛いかもしれないが、今の龍驤にはそういうことをする気持ちはカケラもない。そうするくらいなら落ちることを選ぶだろう。

 

「あ、いたいた。龍驤さんに会ってもらわなくちゃいけないヒトがいたんですよ」

「……大概予想はついとったわ」

 

 来たのは鎮守府の外。いつもなら山風達や五月雨達、荒潮なども加わって、陸上のトレーニングを積んでいる場所。今はその面々が全員調査隊として施設に出向いているため、そんなトレーニングは行われていない。

 静かなその場所だからこそ、そこにはまったりしている北上と大井がいた。のんびりと、海で行われている演習を眺めているのみ。大井が用意したのだろうビニールシートとお茶で、精神的な休息をとっているように見えた。

 

「北上さーん」

「ん? ああ、五月雨かぁ。なんか来るんじゃないかなって思ってたよ。龍驤の実験やるっつってたもんね」

 

 北上の姿が見えた途端、龍驤は五月雨の長い髪を活かして、後頭部側に隠れる。北上は特に顔を合わせづらい相手。利用していた荒潮や漣達よりも話すことが難しい。利用していたから謝るとかでもなく、戦ったから健闘し合うとかでもなく、いがみ合い、煽りあった仲だからこそ、顔を合わせるのも辛い。

 

「龍驤ちゃーん、そこにいるのはわかってんだぞー。妖精さんになってんでしょ。顔を合わせるのが嫌なのはわかるけど、顔を見せないと誠意が伝わらないぞー」

 

 ニヤニヤしながら五月雨の髪の向こう側に声をかける。髪が変に震えたが、五月雨の肩から龍驤がおそるおそる顔を出してきた。敵対していた時とは正反対の、何かに怯えるような表情を見せる。

 

「あたしゃ別に今のアンタについてムカついてるわけじゃあ無いから安心しなよ。改心したんでしょ。強制的にだけど」

 

 龍驤を摘むように持ち上げて、五月雨の頭に乗せ直す。隠れることも出来ないため、自然と目を逸らした。

 

「ウチが今までやってきたことは許されることやあらへん……北上、お前にも散々なことをやってきたと思う。せやから」

「ん? あたしは別に何とも思ってないけど?」

 

 あっけらかんと言い放つ北上。

 

「あれはそういう戦いなんだから割り切ってんの。んなこと言ったら、誰も救われないでしょうが。荒潮とか漣とかさ。だから、スパッと割り切っておしまいにすりゃあいいんだよ」

「北上さんは能天気すぎるとは思いますけどね」

「大井っち、こういう時は結構キツめに言うよね」

「北上さんのためですから」

 

 北上は本心からそう言っている。つい最近、むしろ昨日までは完全に敵対しており、互いに出し抜く事しか考えていないような関係だったのにもかかわらず、もうその時のことは水に流したような言動。

 龍驤は最後の最後に北上を器にしてやろうとも考えていたので、その時の罪悪感もある。あそこまで行ってまだ利用しようとした性根の悪さを、調整されたことで深く後悔していた。

 

「だから、別に謝らなくていいよ。真に悪いのはアンタじゃ無いでしょうに。ぜーんぶ黒幕のせいなのは、誰もがわかってんのさ。そりゃあ、アンタに苦手意識持ってるヤツはいるだろうけど、少なくともあたしはそういうの無いね。というかアレか、龍驤ちゃんは罵ってほしいのかな? 望むのならあの時みたいに煽り散らしてあげるけど」

 

 戯けて話す北上に、龍驤は少しだけ精神的に楽になった。あの時に持っていた怒りと憎しみが、全て罪悪感に変わったようなものであるため、そこが張本人に緩和されたのは大きい。心への負荷が大分減る。

 

「本当ならあたしがアンタを装備して黒幕との最終決戦が良かったんだと思うけど、アレっしょ、どうせ陸上施設型なんでしょ。だったらあたしは出番がないからね」

「……せやな。お前くらい器用なら、ウチも使いこなすんやろな」

「だから、今はこれくらいで終わりにしとこうよ」

 

 五月雨の頭の上に拳を突き出す。

 

「……ホンマにええんか」

「いいんだよ。気が変わらないうちに終わりにしてよ。それとももしかしてお仕置きとか受けたいドMちゃんだったりする? いやぁヒトの性癖についてとやかく言う筋合いはないけど、それはやる側もそういう性癖でないとダメだと思うんだよなぁ。残念だけどあたしはそういうのは」

「ちゃうわ! ウチかてもう痛い思いはしたくあらへんわ。身体はまだしも、心はな。そら反省は必要やけ、罰としてある程度は受けるけれども」

 

 北上の煽りによって、龍驤は少しだけでも元気が出たような気がする。

 

 龍驤を北上と会わせるのが、この鎮守府案内の一番の目的だ。精神的にかなり参っている、罪悪感だらけの龍驤の心を休ませることが出来るのは、あの時に宿敵だった北上しかいない。

 

「……ほな、ウチはこんなになってもうたけど、よろしゅうな」

 

 突き出された北上の拳に、龍驤も拳を突き合わせようとするが、短すぎて手が届かず、五月雨に屈んでもらってなんとか格好がつくくらいになった。それが妙におかしくて、この姿になって初めて、龍驤は笑顔を見せた。

 

 

 

 

 受けるべき罰はあるかもしれないが、誰もがそれを望んでいないのならば、受ける必要はない。龍驤は罪悪感は残され続けるが、新たな鎮守府の一員として活躍することになるだろう。

 




龍驤はこれによって鎮守府の一員に。帰ってきた調査隊とも和解は出来ることでしょう。一番キツそうな漣達北上組も、北上に仕込まれているため、精神的な部分も成長しているはず。
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