空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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施設から鎮守府へ

 朗報を届けにやってきた艦娘達の部隊は、漁を終えた春雨達が施設へと連れていく。連絡を取る手段を作っていないため、どうしてもアポ無しでの突撃になってしまうのだが、施設側がいつでもフリーと言っても過言では無いような状況なので、何も問題は無かった。

 今日の中間棲姫は農作業ではなく施設内の掃除をしていた。そのため、施設に入ったらちょうど一段落ついているところに遭遇。都合よく飛行場姫もいたため、ここにいる純粋な深海棲艦は、戦艦棲姫も含めて勢揃いとなった。

 

「姉姫様、妹姫様、お客様です」

「あら、アンタ達、また来たのね」

「あら、あらあらあら、いらっしゃい。また来てくれて嬉しいわぁ」

 

 いつものペースの飛行場姫と、満面の笑みで対応する中間棲姫。穏健派の深海棲艦が訪れるだけでも喜ぶのに、艦娘の客が来ようものなら、それ以上に大喜びである。頻繁に会うわけではないとはいえ、長年の友人である戦艦棲姫すら見たことのないテンションだったようだ。

 

「Hey、貴女が噂の優しいAbyssal princess(深海棲艦)達ですネー!」

「あらあら、新しいヒトも来てくれたのねぇ。どうも初めまして。私はここで姉姫と呼ばれているわぁ」

「私は金剛デース! よろしくお願いシマース!」

 

 金剛は金剛でテンション高く中間棲姫と挨拶を交わす。初対面とは思えないくらいの距離の近さであるが、それがお互いの良さでもあるので、誰も文句は言わない。驚きはするが。

 

「早速デスが、貴女達との和睦の道が、大本営の人に認められたデース!」

「あらぁ! それは嬉しいわぁ」

「あの時の提督がどうにかしてくれたのね。良かったわ」

 

 細かく言うとひとまずは現状維持ということになっただけなのだが、それでも鎮守府に強引な討伐命令が出たわけでもなく、今の関係を続けていけばいいという方向になったのは、どちらの組織としてもありがたいことだった。こうやって艦娘が直々に施設を訪ねることも、何も問題視されない。

 しかし、通信機器を置いていくということは出来ず、真の意味で()()()()を徹底させられている。情報交換をするのは構わないし、鎮守府側の情報も多少なら伝えてもいいが、技術を与えるのはNGとされた。

 

 とはいえ、割と自由に行き来することが許されたことにより、姉妹姫や所属する元艦娘が許すかどうかはさておき、慰安施設のように心を癒しに来ることは可能となっている。

 特に海風は、中間棲姫からも指摘されているくらいに心がギリギリな状態だ。山風から直談判されるというとてもレアな事件が発生し、提督がここに遣いを送るときは必ず海風を入れると決めた程だ。

 

「今日はそれを伝えに来てくれたのかしらぁ」

「そんなところデース。あとは私が顔合わせに来たのもありマース」

 

 鎮守府の艦娘達は、全員が提督の意思に同調する者。ここにいる深海棲艦達が()()()()()であることが実証されているのだから、敵対する理由が無い。ここで裏切るような相手では無いことも、提督自身が話しているために理解している。

 そこに金剛という中間棲姫達にとっては新たな艦娘を見せ、それが攻撃の意思を見せない上に、望んでいるほどに仲良くしようとしてくるのだ。ここの深海棲艦達の信用を勝ち取るための布陣だった。元々信用はされていたが、それをさらに押し上げることを目的とした最善の策。

 

 この場に戦艦棲姫がいたのも好都合だった。中間棲姫と飛行場姫以外にも穏健派がいるという証拠にもなり、さらに友好関係を築くことが出来れば、今後の和平に向けて次々と道を進むことが出来るはずだ。

 

「突然こんなにヒトが増えるとは思っていなかったから、お昼ご飯が全く足りないわぁ。どうしましょう妹ちゃん」

「少し待っていてくれたら振る舞えると思うのだけれど」

「No problemデース。私達は私達で戦闘糧食(おにぎり)を持ってきてるからネー。それに、突然押しかけておいてご飯を寄越せだなんて、そんなImpoliteness(失礼)なことはしまセーン」

 

 テンションが高く、底抜けに明るいが故に油断しがちだが、金剛は鎮守府の艦娘の中でも古参も古参。五月雨の次くらいに鎮守府に配属したくらいの艦娘である。

 長く艦娘という姿で生活しているため、この辺りの礼儀はしっかりとしており、ここに来る前に菓子折の1つでも持っていくかを提督に聞いていた程である。

 

「こちらもそちらにお話があるのよねぇ。この子がちょっとした情報を持ってきてくれたの。これは貴女達にも聞いてもらいたいから、本当に都合が良かったわぁ」

「だから、遠慮せずここでお昼を食べて行きなさい。すぐに、えーっと……7人分ね。追加してあげるから。おにぎりがあるなら米は要らないでしょ。オカズなら用意するからちょっと待ってなさいな」

「んー、話があるというのなら、お言葉に甘えマース。海風、良かったデスか?」

「あ、は、はい。大丈夫です。提督にはこちらで多少時間を使ってもいいと言われていますので」

 

 一応この部隊の隊長は海風ということになっているようだが、金剛の方が立ち位置としては上にいるようである。

 

「姉姫さん、妹姫さん、今日も少しの時間ですが、よろしくお願いします」

「はぁい、私達はいつでも歓迎だから、大丈夫よぉ。海風ちゃんも、春雨ちゃんと遊んでていいからねぇ」

「うぇっ!? え、は、はぃぃ……」

 

 顔を真っ赤にして俯く海風に、その場は小さな笑いに包まれた。

 

 

 

 

 飛行場姫を中心に、リシュリューとコマンダン・テスト、そして春雨も手伝ったことで、追加の7人分はすぐに完成。しかし、ダイニングにそんな人数が入れるわけもなかったため、子供組は外で食べようとジェーナスが提案。そして駆逐艦全員と伊47はそのままピクニック感覚で食事となった。

 そうなるのではと最初から考えていた飛行場姫は、施設組の食事もおにぎりに変更。オカズもそれらしく外で食べやすいものを取り揃えるという柔軟性を見せつけた。

 

「何でも出来ますね妹姫さん……」

「ね。お弁当まで作れちゃうんだもんね。ああ、お漬物美味しい」

 

 海風はちゃっかり春雨の隣を陣取っている。むしろ、山風が筆頭になり、海風の心を癒すために画策した結果そうなるように仕向けていた。春雨は気づいていないかもしれないが、薄雲やジェーナスもそこに参加していたりする。そして一番乗り気だったのは松竹姉妹だったことは言うまでもない。

 

「そっちの鎮守府のこと、いろいろ教えてほしいわ!」

「はい、私も気になります。春雨ちゃんがいた場所って、どんなところなのかな」

 

 そして、暇をさせないようにすかさずジェーナスと薄雲が話題提供。2人の仲を取り持つかの如く、しかしそういうことは感じさせないくらいに自然に、鎮守府の駆逐隊全体への質問。

 海風だけではない。山風だって、江風や涼風だって、表には見せていないだけで今まで大分ストレスを溜め込んできたはずだ。それを見越して、ここで癒されてもらおうという算段である。

 

「お、いいねぇ。海風の姉貴、いろいろ話しちまおうぜ」

「な、何から話せばいいのやら……」

「春雨姉が鎮守府でどんな感じだったかとか話せばいいんじゃね?」

 

 江風と涼風が囃し立て、山風がそれを見守るという立ち位置がしっかり出来上がっていた。

 海風の壊れかけの心は、ここでさらに癒されていくだろう。完全に壊れたわけではないのだから、癒され続ければ、そのヒビはわからない程にまでになるはずだ。

 

 

 一方ダイニングには大人組が集まっていた。先程の中間棲姫がしたいと言っていた話を、この場でしてもらおうという算段である。

 子供達には少し聞かせづらい話のようで、ジェーナスの提案は渡りに船だった。先程同じ話を戦艦棲姫からしてもらった時点で、薄雲が発作を起こし、春雨が起こしかけたことを考えると、発作を起こしやすい子供達は席を外してもらっていた方が都合が良かった。

 

「それで、話というのは?」

「この子がねぇ、見たことのない同胞(はらから)を見たっていうのよ。もしかしたら、何かに役に立つかと思って」

 

 そこから、それを見た本人(戦艦棲姫)からの説明となる。

 艦娘としては、見たことのない深海棲艦というのは普通なこと。大規模作戦が展開される場合は、基本的にデータベースに存在しない未知の深海棲艦が現れた時が殆どである。大きな戦いの時には知らない敵と戦うのが当たり前だったりする。

 それが深海棲艦の視点になったら話は変わる。同じような個体が多いからこそ、別物かもしれないが大概は知っている。知らない個体でも、侵略者気質か穏健派気質かの2択になるので、話せば大体決着がつく。

 

 しかし、今回はそれでわからないから戦艦棲姫も少し困っていたのだ。ただ懐いてくるわけでもなく、警戒や敵対もない。知性も見えず、こちらの行動を無視するような振る舞い。

 侵略者気質でも同胞(はらから)なら話は出来たそうだ。一緒に人間滅ぼさないかというスナック感覚で侵略を勧められたりして遠慮したり、放っておいてくれと素っ気ない態度を取られたりと様々ではあるが、少なくとも会話は成立している。

 

「深海棲艦も不思議な性質なのね……」

 

 一通り話を聞いた後、納得が行っているか行っていないかわからないように千歳が溜息交じりに呟く。

 艦娘側からしてみれば、敵の生態なんて知らないことばかりだ。普段何をしているか、どういう考えを基に行動しているかなんて、艦娘と同じだとは思っていない。

 

「深海棲艦でもわからない深海棲艦……デスカ。確かに、春雨達を襲った深海棲艦と何か関係があるかもしれませんネ」

「千歳お姉、前の対談の時、春雨が見たことのない深海棲艦だったって言ってたよね」

「ええ、あの子なら知ってる深海棲艦ならコードネームくらいは言うはず。本当に見たことがないモノだったと思う」

 

 その姿を思い返すだけでも発作を起こしかけた程なのだから、詳細を聞くことは出来ない。姿形を鮮明に伝えてくれというのは酷である。

 しかし、話を聞く限りでは、何かしらの関係を持っていてもおかしくは無かった。戦艦棲姫だから何もされなかっただけで、それが艦娘だった場合は容赦なく襲いかかっていた可能性は充分にある。

 

「それで、特徴が槍を持っている駆逐艦……でしたっけ」

「ええ、服はボロボロだったから判断がつかなかった。艤装は小さめ。髪が長くて、槍を持ってる、おそらく駆逐艦って感じね。薄雲が自分の姉さんと特徴が似てるって言っていたけれど」

「薄雲の姉……槍を持っている……叢雲ですね」

 

 薄雲の姉、叢雲。大本営の貴婦人が隣に控えさせていた吹雪の妹でもある彼女は、姉妹の中では少しだけ異質な存在ではあるものの、どちらかと言えば普通な艦娘である。

 その大きな特徴が、槍。近接戦闘が可能な兵装を持つ艦娘は少数だが存在しており、叢雲もその1人に該当する。槍を使う者というだけでもレアであり、駆逐艦では叢雲しかいない。それも、改装を進めるうちに使用しなくなってしまうのだから、よりレアだろう。

 

「こう、なんだかウサギの耳みたいな艤装はありませんでしたか?」

「それはあったら真っ先に言ってるわね。そういうのはなかった。パッと見でわかったのは槍だけ」

 

 そして、叢雲の最大の特徴が、今千歳が聞いた艤装。頭の上でウサギの耳のように浮かんでいる特殊な艤装で、電探などの各種機能が備わっている万能艤装らしい。それが無いというのなら、その深海棲艦は叢雲であるとは少し言いづらい。()()()()だけの別物。

 しかし、黒い繭によって深海棲艦化したとなれば話は変わってくる。春雨を始め、ここにいる元艦娘は元々使っていた艤装とはかけ離れたモノを手に入れているのだ。それが叢雲では無いとするのは早計。

 

「わかりましタ。この件は提督に伝えておきマショウ。何処で発見したか教えてくだサーイ」

「ええ、海図とかあるかしら」

「はい、これ」

 

 千代田がタブレットを取り出し、近海のマップを表示させる。周りは本当に海ばかりで、何の目印もあるわけがないのだが、戦艦棲姫はおおよそここの辺りだと目星をつけて指差した。

 そこは、駆逐隊が襲われて消息を絶った場所からは大分離れた位置。捜索部隊が痕跡を調査している範囲からも離れた、海のど真ん中。この施設の近海とも言えない場所。陸からもかなり遠い。

 

「こんなところ、Richelieu達も通らない場所よ。ねぇ?」

「Oui. ここからだと、私の目でも見えません」

「哨戒機も届かないような場所ね。これだとアタシ達にもわからないわ」

 

 施設組でも知らないような場所である。そのため、わざわざ調査に行くこともせず、施設は警戒だけして放置の方向に持っていこうとしている。下手に行動したら藪蛇になりかねない。触らぬ神に祟りなし。

 

「これは鎮守府で調査するべきデスネ。ここからの帰りにちょっと寄るというのもやめた方が良さそうデース」

「しっかり準備をしてからってことですね。提督に指示を仰ぐべきよね」

「下手したら主力部隊を投入しなくちゃいけないかも」

 

 艦娘側も未知の深海棲艦ということで警戒は怠らない。かつて駆逐艦の姿をしておきながら、並の戦艦の数倍の力を持つ者もいた。それ故に、どんな相手にも手を抜かないのが基本方針である。

 

 

 

 

 戦艦棲姫が見かけた謎の深海棲艦は、調査を鎮守府側に委託することで決着がついた。その場所は鎮守府からも施設からも遠く離れた海の真ん中。そこを調査することが、吉と出るか凶と出るかは、まだわからない。

 




謎の深海棲艦の情報は鎮守府側に行きました。施設側は警戒を厳として、鎮守府側は失踪事件の調査に乗り出します。



支援絵をいただきました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/92133970
https://www.pixiv.net/artworks/92134903
MMDアイキャッチ風春雨。元艦娘であり、現深海棲艦である春雨。姿は変わっても、春雨は春雨です。
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