空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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まだある悩み

 翌日。施設では黒幕との決戦に備えるため、逆に施設側の防衛についての話を進めていた。

 

 決着をつけるために行動はしていくのだが、それによってこの施設がガラ空きになるのは控えなくてはならない。そもそも、最悪の姫は自分を囮にして本土に攻め込んできたくらいなのだから、本拠地を襲撃している裏側でこの施設が狙われてもおかしくない。

 まだこの施設の場所は知られていないはずなのだが、何かの間違いで既にもう場所を知っているなんてことだって無いとは言えない。黒幕自身も中間棲姫と同じ力を持っているのだから、今こそ突破方法を見出だしているかもしれないのだ。

 そうなったら、いくら強力な力を持っている中間棲姫と言えど、その力に屈してしまう可能性がある。泥の侵蝕に耐性があるかどうかなんて、その泥に触れてみなければわからない。しかし、そんな危険なことはするべきではない。

 

「ということで、もしここからも人間さん達の戦力として向かうことが出来るのなら、誰が向かうかを決めておきましょうかぁ。もしかしたらダメかもしれないけれど、いいとなってから決めるのはよろしくないものねぇ」

 

 中間棲姫がメインとなって、これからのことを決めていく。勿論だが、姉妹姫は陸上施設型であるため、この施設から出ることは出来ない。そのため、残りのメンバー22名からの選出となる。

 この中でも、最初から出撃することが無い者は決まっている。戦えるかもしれないがあまり戦力としてはカウント出来ないミシェルと、忌雷と同化してしまった瑞鳳と黒潮、そして、純粋な深海棲艦である戦艦棲姫と飛行場姫。この5人は最初から施設に留まることとなった。

 

「ミシェルはみんなが帰ってくる場所を守るために頑張るぴょん。まだよくわかんないけど」

「うん、その方がいいわ。MichelleはHomeを守ってね。みんなのために」

「ぴょーん! 頑張るぴょん!」

 

 ミシェルは疑問が溢れているお陰で侵蝕も何も効かない上に、おそらく黒幕の結界も完全に無視出来る力がある。しかし、戦う力も忘れているのと、()()()()()()()()()()()()()()()という稀有な特徴を持っているため、この戦いが終わるまではなるべく知らないままでいてもらいたいというのがジェーナスの願い。

 ミシェル自身は、『観測者』から結界を越えられる者として名指しを受けたために非常にやる気が出ていたが、ジェーナスの説得により今はこの施設を守ることを優先するという思考に落ち着いている。

 

「ウチらは防衛に専念することくらいしか出来んわ。言うてドロップ艦に毛が生えたくらいやし」

「悔しいけど、でもこの子のおかげで多少は強い動きは出来ると思うから」

 

 この子とは、勿論胸に同化している忌雷。出力を上げる役割を持っているため、熟練者の動きとまでは行かずとも、ドロップ艦からは逸脱した動きが出来るはず。

 瑞鳳はこの施設に数多くいる制空権争いに参加することになり、黒潮は島周辺の警戒に参加することになる。

 

「私達もここに残らざるを得ないでしょうね。貴方達と違って、元々艦娘じゃあ無いしね」

「戦艦が、言うなら、私もここにいよう。まだあまり、慣れていない、が」

 

 空母棲姫はあくまでも戦艦棲姫からの教えを純粋に守っているだけ。旅人としてのノウハウを教えている間に、()()()()()()()()()()()という信念が生まれているようだ。

 そのため、今回の最終決戦もそこを念頭に置き、余計なことはしない。代わりに、この施設を守ることでこの()()()()()()()()を残し、いざ旅に出ても恋しくなれるくらいに愛着を湧かせることに重点を置いた。これも戦艦棲姫の作戦。

 旅の仲間が増えることは、当然嬉しいことだ。戦艦棲姫は一人旅ばかりを続けていたが、ちょくちょく会った同好の士との二人旅はまた違った景色を見ることが出来て楽しかった。だから、ここぞとばかりに仲間を増やすために動いていた。

 

「それじゃあ残りだけれど……流石に全員で向かうのはよろしくないと思うわぁ。だから、まずは立候補から教えてほしいんだけれど……」

「私は行かせてもらいます。責任を取らせなくてはいけませんので」

 

 率先して立候補するのが春雨。多少は落ち着いているが、やはり黒幕に対しての怒りは隠しきれない様子。龍驤に向ける怒りが黒幕に向かうようになったため、その分どうしても怒りが強くなっていたのだが、海風が片手を常に握り、温もりを与え続けた。

 

「春雨姉さんが行くなら、当然私も行きます。私という存在は春雨姉さんのためのもの。何処にいても私は側でサポートをさせていただきますので」

「私も参加。怒りをぶつけたくてぶつけたくて仕方ないんだから。誰が何と言おうと、私は黒幕を始末するために動くわよ」

 

 海風と叢雲も参加表明。そして、

 

「一昨日の戦いには参加しなかったけど、次はあたしも行きたい。というか、あたしみたいに()()()()()()()()ヒト達はみんな行きたがってると思う」

 

 白露が挙手。その時に発した言葉で、同じ境遇である古鷹、大鳳、コロラドが反応。

 今のようなカタチにされたのは、紛れもなく黒幕のせい。その恨みは、混じっている人数分はあると言っても過言ではない。

 

「……白露ちゃんの言う通り、私も出来れば参加したいと思います。私だけじゃない、私の中の榛名さんも、鈴谷さんも、最上さんも、みんな参加表明をしています」

「私もですね。伊勢と日向が、私の意見と一致しました。声が聞こえるわけではないですが、そんな感覚がします」

 

 古鷹と大鳳は、白露の言葉に賛同して、自分の中にいる仲間達とも感覚を同じとした。表に出ている人格ならまだしも、()()にされた者達の怒りは計り知れない。それならば、その怒りに任せて決戦にも参加したいと思うのは妥当である。

 実際に話が出来るわけではないし、白露のように気質を表に出すようなこともあまりしないのだが、なんとなくどう考えるかはわかるようだ。記憶も持っているために、感情の推移も自分のことのように理解出来る。それを鑑みても、同意、同調してくれるとわかった。

 

 だが、コロラドは少し違った。

 

「……チョロ助、アンタは行かないわけ? 日和ってんの?」

「そんなわけないでしょ。私も行くわよ。私の身体をこんな風にしたヤツは、BIG SEVENの1人として、制裁を加えてやるわ」

 

 叢雲の声が聞こえるまでは、何やら神妙な表情をしていたコロラドだったが、すぐに反応して参加することを宣言した。

 だが、少し様子がおかしいことにすぐに気付く。いつもの蔑称で呼ばれているにもかかわらず、何の反論もしなかった。完全に別事を考えていたようで気もそぞろに見えた。

 

「コロラドさんの()()()()は、艦娘じゃなくて深海棲艦ですよね。だから、この戦いにも抵抗を示しているのでは?」

 

 春雨が直感的に気付いた。コロラドの表情には、混ざり込んだ()()の感情が出てきているのではないかと。

 

 コロラドに混じっているのは、戦艦新棲姫と呼ばれる姫と、南方戦艦新棲姫と呼ばれる姫である。艦娘は一切混じっておらず、他の者達とは異質な存在。そしてよりによって混じっている2人の姫は、穏健派では無いのである。

 混ぜられた者達の記憶や感情が理解出来るとなっても、それは人類の守護者たる艦娘ではなく、侵略者たる深海棲艦の感情。

 

「……そうよ。私の中の2人の記憶と感情は、正直見るに堪えないモノだもの。黒幕に利用されて私と混じっているけど、Invader(侵略者)の気質は残ってるの。私が理性で抑え込んでるけど、黒幕のやりたいことに対して、否定の気持ちは無いのよ。ふざけたことに」

 

 ただ、利用するために殺された恨みというのはあるらしく、黒幕が気に入らないという気持ちはちゃんと持っているとのこと。そこだけはコロラドと同調しているのだが、元々の侵略者気質のせいで、黒幕の行動に反感が無いらしい。

 黒幕の目的は既に侵略ではなく艦娘への復讐、延いては全てに対する復讐となっているため、2人の姫とは目的は違えている。だとしても、別にそれを邪魔してやるという気持ちも湧かない。

 

 正気を取り戻した時にはその怒りから黒幕への反感が最高潮に達していたが、時間が経つにつれて少しずつ落ち着いたことで、2人の姫も変に冷静になってきていた。それがコロラドを悩ませる理由である。

 この感情を納得させるのは、コロラドにしか出来ない。まだ時間はあるため、それまでに折り合いをつけたいとコロラドは今は終わらせた。出撃に関しては、参加する方向で。

 

「はぁ、面倒臭いわねアンタ。そんな姫くらいビッグセブンだかビックリセブンだかの実力で捩じ伏せなさいよ」

「自分のことでも手一杯なヤツには、私の苦労なんてわからないわよ。口出すなポンコツ」

「はいはい今は黙ってなさいアンタ達。潮が怖がるから、あんまりアレなら摘み出して制裁するわよ」

 

 叢雲とコロラドの言い合いが漫才レベルでは無くなりそうだったため、飛行場姫がいち早く止めた。あまり激しい言い合いになると、潮が確実に発作を起こす。今でもハラハラとしており、震えが出始めているくらいなのだ。潜水艦姉妹がその手を握っているためまだ落ち着けているが、そうで無かったら泣き叫んでいたかもしれない。

 

 その潜水艦姉妹も魂の混成によって生まれた存在なのだが、黒幕に対する恨みや憎しみは無い。むしろ、感情が混じりすぎて理解出来ておらず、それに姉妹愛や潮への感情が上書きされているため、復讐に向かおうという気持ち以上に、潮の側にいたいという気持ちが強い。

 そのため、潮が出撃しないのなら、潜水艦姉妹も出撃はしない。むしろ、陸上施設型に対して、潜水艦は不利過ぎるために出撃を見送るのは妥当。

 

「コロラドちゃんは、後からお話ししましょうかぁ。そんな悩みがあるなんて気付けずにごめんなさいねぇ」

「姉姫が謝ることじゃないわ。これは私の問題だもの。でも、Thanks. 少し頼らせてちょうだい」

「ええ、任せて」

 

 姫のことは姫に話すのが一番。それでこの悩みが解消出来るかはわからないが、話さないよりはマシだろう。

 

「大人数で詰め掛けるのは良くはないと思うけど、他にどうしても行きたいという子はいるかしらぁ。みんなの気持ちは汲むつもりよぉ」

 

 中間棲姫が他の者にも意見を仰ぐが、今のところは声が挙がらない。

 この事件よりも前から施設に所属していた者は、黒幕の撃破よりも施設の防衛の方が大事であるため、出撃は任せようとする気持ちがそれなりに大きい。代わりに、施設を破壊させることは絶対に防ぐ。姫としての全力を用いて、居場所を守るのが役目だと確信している。

 

「まだ考える時間はあるわぁ。何も変わらないかもしれないけれど、少しだけ考えておいてねぇ」

 

 一旦ここで話を纏めて、最終的な方針を決めるのは、鎮守府側の決定を待ってから。それまでは考える時間とする。それまでに何があるかもわからないのだから。

 

 

 

 

 施設の方針は決めていくが、少々前途多難なところもある。まずはコロラドの件を片付けなくてはならない。

 




コロラドに混じっているのは、サウスダコタっぽいヤツとワシントンっぽいヤツ。
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