空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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特殊な亡霊

 新たに判明したコロラドの問題点。混じっているのが艦娘ではなく深海棲艦であり、それがよりによって侵略者気質であるために、黒幕との決戦に参加するのに抵抗を示しているというのだ。

 正確には、黒幕がやろうとしていることに対して否定の気持ちが無いため、決着をつけるという気持ちが無い。コロラドにとっては本来の身体を捨てさせられた憎しみ以外の感情がない相手なのだが、その身体を構成している残りの2人がそこまで考えていないという。むしろ、最初は憎しみを持っていたのに、時間経過で変に冷静になってきたことで、その辺りを考える余裕が出てきてしまっていた。

 

「それじゃあ、少しお話をしましょうかぁ」

 

 方針決めの場を解散した後、姉妹姫とコロラドはダイニングに残った。残りの者はいつも通り、施設のための仕事をしたり、決戦に向けてのトレーニングをしたりとそれなりに自由な時間に。

 それでも念のためと、春雨と海風、そして同じ境遇である白露、古鷹、大鳳は、コロラドが今どういう状況にあるかを理解するために待機する。特に春雨は、直感的に何かを感じ取るかもしれない。

 

「1つ教えてほしいのだけれど、その、混じっている子達は、自分じゃない子のことをわかっているのかしらぁ。例えば、頭の中で話せるとか」

 

 その辺りはハッキリとさせておきたいだろう。白露から始まっている魂の混成の件は、まず間違いなく自分に降りかからない災難であるため、その真っ只中にいる者達から聞いておきたかった。

 これはコロラドだけでなく、待機していた白露達にも聞いていた。コロラドだけが特殊な状況に置かれている可能性はそれなりに高いのだから。

 

「あたしは記憶を全部共有していることと、性格とかが表に出せる感じ。冷静に考えたい時は時雨の気質を使うとか、暴れたい時は夕立の気質を使うとか」

「私は記憶は白露と同じですが、気質ではなくその技能を使わせてもらう感じですね。伊勢と日向の技術で戦艦の主砲と刀の取り回し方はそこから学びました」

「私は……どちらかといえば感情でしょうか。榛名さんが混じっているので、金剛さんを姉と感じますし。最上さんと鈴谷さんはまだわかりませんが、もしかしたら姉妹艦と顔を合わせたら何かあるかも」

 

 三者三様である。記憶の共有化は共通として、扱えるものがバラバラ。混じっているのが白露は姉妹艦であるため、性格、気質が自分のモノとして扱える。大鳳は艦種は違えど大型艦であることには変わりなく、相性が良かったか技が使えた。古鷹は艦種違いは大鳳と同じだが自身の艦種すら呑み込まれるような混じり方をしたことで、感情を自分のモノのように感じる。

 

 ならばコロラドはどうか。混じっているのはコロラドと同様の戦艦。しかし、種族が違う。混ざり合う要素がある意味皆無と言ってもいいほどだ。そうなると、魂が混じったとしても何かしらの()()があってもおかしくない。

 

「コロラドちゃんはどうかしらぁ?」

「私は記憶の共有はみんなと同じとして、どちらかといえばタイホーに近いわ。この子達の艤装を扱える」

 

 ロブスターのハサミとカニの甲羅が混じっている要素の艤装。前者が南方戦艦新棲姫、後者が戦艦新棲姫のモノである。

 そこにコロラド自身の艤装として、主砲が先端に備え付けられた杖と、白鯨。それは艦娘コロラドの艤装からは大きく逸脱しているので、その辺りは古鷹と近しい。

 

「それと……声が聞こえるわけじゃ無いのだけれど、私の中にいる子達が()()()()()()()()()感覚がするの。完全に混じり合ってるんじゃなくて……そうね、例えるなら、アレよ、潰し切らないPotato salad」

 

 コロラドの例えも酷いモノだったが、言いたいことはある程度分かった。

 

 つまり、混じり合っているはずなのだが、()()()()()()()()()()()()ような感覚がするということ。やはりそこは、艦娘と深海棲艦の混成であるための違いであろう。

 その()の部分が、コロラドの意思に介入するようになっている。混じっている者が今ならこう考えるであろうことがわかるというのとは違う、現在進行形で別の()がああでもないこうでもないと無意識的に触れてきているようなもの。

 

「それに話しかけることは出来ないわけ?」

 

 今度は飛行場姫の質問。しかし、コロラドは首を横に振る。

 

「ダメね。黒幕のことを別に否定しないと言ってきてるように感じるってだけだもの。その感覚が私にわかるから、さっきはあんな風に言ったの。身体の主導権まで奪うことは出来ないから出撃はするけど、意識的に何かが引っかかってくるのよ」

 

 あくまでも、コロラドが感じているのは、別の意思が介入してきているという感覚のみ。そしてその意思が、自分とは別の意見を持っているのだと感覚的に理解出来ているだけ。

 

「コロラドちゃん、出来るかはわからないけれど、ちょっと触らせてちょうだいねぇ」

 

 そう言いながら、中間棲姫はコロラドの額に触れる。それは、深海棲艦化する艦娘の繭に触れるような雰囲気だった。

 中間棲姫は繭に触れることによって溢れた感情が何かを読み取ることが出来る。それはあくまでも繭にのみ作用する力ではあるのだが、もしかしたら何かわかるかもしれない。

 

「ん……やっぱり私には溢れた感情しかわからないみたい。でも、確かにコロラドちゃんの中には()()()()()という感覚はあるわぁ。無理矢理混ぜ合わされたからかしらぁ」

 

 繭ではないのだが、その境遇からか、ほんの少しだけその2人の何かに触れることが出来たようだ。

 黒幕の手によって無理矢理泥に包み込まれて深海棲艦化したことが、中間棲姫の力に触れる結果となっていた。試しに白露に触れてみたら、同じように白露の中に3人分の何かを感じ取ることが出来たため、黒幕によって魂の混成をされた者にはその力が及ぶということがここでわかる。

 

「でも、わかるだけなのよねぇ。白露ちゃんが運び込まれてきた時みたいに直接泥に触れて調べたわけではないから、何もわからないわぁ」

「え、姉姫様、泥に触ってるんですか?」

「あの時はカピカピに乾燥していたから侵蝕性も無かったもの。繭と同じだったわぁ」

 

 ともかく、中間棲姫の力は、繭からしか読み取れない。今のコロラドの中にいる者達の感情はわからなかった。そこに何かがあるとわかるだけでも充分といえば充分かもしれないが。

 

「白露達と違って、アンタは敵対するもの同士で混じっちゃったもんだから、そういうことになってんのね。その反発されるような感覚って今回だけ?」

「……ちょくちょくあったわ。最初は私とSynchroしてるように感じたんだけど、アレね、姉姫と一緒にAgricultural work(農作業)をした時くらいから、ちょっと感じることはあったの。でも、私の行動を止めることなんて出来ないから、無視して働いてたの」

 

 そして前哨戦、龍驤との戦いの時も、施設を守ることに専念するとは言っていたものの、その時には反発を感じていたらしい。反発というよりは、龍驤のやり方を否定していないという感覚と言った方が正しいか。むしろ、コロラドに対して文句を言っているような、そんな感覚である。

 そこは飛行場姫の言う通り、敵対するもの同士で魂の混成が行われたことがコロラドにおかしな影響を与えているわけだ。艦娘同士なら、良くも悪くも向かう道は同じだが、深海棲艦、しかも侵略者気質というのだから、向いている道が全く違う。同調なんて簡単にはしない。

 

「それなら、コロラドさんの中にいる姫2人を、実力行使で屈服させればいいのでは?」

 

 ここで春雨による提案。少し力業ではあるが、言うことを聞かないのならば聞くようにしてやればいいという強引な手段。

 

 春雨が感じたのは、コロラドと中にいる2人の姫は実力としては同等なのに、コロラドに()()()()()されているのが気に入らないのではないかということ。姫であるが故にプライドもあるだろうし、侵略者気質ならば元々艦娘だったコロラドに従うのは気に入らないと考えるのもわからなくは無かった。

 深海棲艦に先輩後輩の概念はない、上から下まで実力主義。特に2人の姫はそういうことを考えるような性格なのかもしれない。

 実際、南方戦艦新棲姫はかなり勝ち気な喧嘩っ早い性格であり、戦艦新棲姫は多少上品さはあっても南方戦艦新棲姫と似たような攻撃的な部分がある。そして何より、()()2()()()()()()()であるというのが重要。それがコロラドの中に押し込められているのだから、常にイライラするような状態になってもおかしくはないのだ。

 

「春雨、言うのは簡単だけど、どうやってやればいいの? 相手はこの世にはいない精神的な存在よ。触ることも出来なければ、話すことも出来ない、いわば()()みたいなもの。それを屈服させるのは不可能じゃない?」

 

 飛行場姫の疑問はごもっともである。ただでさえコロラドにしか認識出来ない存在であり、中間棲姫ですら触れてそこにいるように思えると感じる程度。コロラド以外には本当にそんな存在がいるのかも正直わからない。それをどうにかしろというのはなかなかに難しいこと。

 

「白露姉さんは、他の姉さん達に夢の中で思いを託されたと言っていましたよね」

「だね。あたしが全員分を背負うことになるから、後は任せたって」

「なら、そういう場で話が出来たりするのでは?」

 

 とんでもないことを言い出したのだが、春雨が確信を持って話しているため、無下には出来なかった。

 むしろ、そういうことでもやってみなければ、今の問題は解決しない。夢の中でも幻覚の中でもいい、自分の中の者達と向き合える場をどうにか作り出し、そしてそれと徹底的にぶつかり合い、屈服させる。いや、そこまで行かなくてもいい。コロラドをリーダーとして認めさせればいいのだ。結果的に屈服させることがそれに繋がる可能性が高いのは仕方ない。

 

「夢の中ねぇ……。少なくとも今までにそんな夢なんて見た覚えが無いわ。私、変に寝付きがいいの」

「そういうのって、強く思いながら眠ると上手く行ったりしますよ。それに、コロラドさんは特別……いえ、特殊ですし」

「そんなもんかしらねぇ……。でも、ちょっとやってみるわ。ワラニモスガルって言うのかしら。そうじゃなきゃ、Decisive battle(決戦)にも気持ちよく向かえないもの。Thanks, ハルサメ」

「いえいえ、頑張ってください。決戦で本気が出せないなんてことがあっても困っちゃいますからね」

 

 この戦いの結果を見届けることは出来ないが、応援することくらいは出来る。

 

「ならあたし達も願ったら夢の中で会えたりするのかな。今日の夜くらいに試してみようかな」

「うん……やってみてもいいかもしれない」

「それで顔を合わせることが出来たら、嬉しいですしね」

 

 白露達も、こんな手段で混じっている仲間達と話すことが出来たら嬉しいと、今晩あたりに試してみると言い出した。それでモチベーションが上がるのなら万々歳だ。

 

「流石春雨姉さんです。私ではそんなこと想像もつきませんでした。自分に無いことでもそこまでの想像が出来るだなんて、聡明な春雨姉さんならではの素晴らしい発想ですね。海風、また感激してしまいました。他者を思いやる力は春雨姉さんがトップクラスですね。あの龍驤に対してももう怒りを溢れさせないほどですから、もう慈悲の化身と見てもいいのでしょう。分け隔てなくその手を差し伸べる姿、私も見習わなければならないなと実感しています。流石は春雨姉さん、女神のような神々しさは増す一方ですね」

 

 海風も春雨の案を聞いて大興奮である。春雨を讃え、ニコニコしながらその手を握り、自分も隣に立つために精進せねばと意気込んだ。

 

「コロラドちゃんはやれることをやってみてちょうだいねぇ。話をすると言ってこれくらいしか出来なくてごめんなさいねぇ」

「いえ、姉姫も妹姫もThanks. 話が出来ただけでもスッキリしたわ。これからも何かあったらよろしく頼んでいいかしら」

「ええ、好きにして。アタシもお姉も、そういうことは喜んで引き受けるわ。愚痴だろうが何だろうが、いくらでも話しなさいよ」

 

 コロラドも随分とスッキリした顔。これで夢の中で対話が出来るだなんてことがあれば、より気持ち良く決戦に挑めるようになるだろう。

 

 

 

 

 コロラドの悩みがこれでどうにか出来るかはわからない。しかし、光明は見えたと言えるだろう。

 




亡霊として残ってしまった姫2人。本来混ざり合わないモノを混ぜようとするからこうなる。
水と油は混ざり合わないけど、上手くやれば乳化する。コロラドはそう出来るかどうか。
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