「まだまだ時間はあるわ。屈服するまではまだ時間がかかりそうだし、たっぷり刻みつけてやるから覚悟なさい」
白鯨の上から2人の姫を見据えたコロラドは、真下に向けて砲撃を放ち続ける。まるで手を抜かない本気の攻撃が続くことで、2人の姫は自然と協力せざるを得ない状況へと追い込まれていく。
犬猿の仲であるお互いを認識することすらも気に入らず、本来の目的であるコロラドを始末することすら放棄して喧嘩を始めていたわけだが、そんなことをしていたらここから先には進めないということを痛いほど理解させられた。それほどまでに、コロラドは圧倒的な力を持っていたからだ。
当然ながら、それも気に入らない。艦娘
「……おい」
先に声をかけたのは南方戦艦新棲姫。
「……なによ」
流石に無視をするわけにもいかず、戦艦新棲姫もそれに反応する。
似たモノ同士であるために、今から言われるであろう言葉は手に取るようにわかった。だが、察したことを察せられるのが気に入らないため、相方からの言葉を待つ。
「マジで嫌だが、決着をつけんのはアイツを始末した後だ。マジで嫌だが、今は協力するしかないだろ」
「私も本当に嫌だけれど、アンタと組まないとアレはどうにもならないと思うわ。というか、何度も嫌だ嫌だ言わないでくれる。私も嫌だっていうのに」
「アタシの本心だから仕方ねぇだろうが。嫌なもんは嫌なんだよ」
「こっちから願い下げよ」
これで協力しながら戦うだろうと考えていたコロラドは、目の前で繰り広げられる口喧嘩に大きく溜息を吐く。まだ懲りないのかと主砲による砲撃を再開。
「もしかして私、この期に及んで下に見られてる? 口喧嘩する暇がある程度の存在と思われてる? 随分と余裕があるのねアンタ達」
一切の容赦なく、逃げ道を塞ぐように撃ち続け、さらには白鯨も再起動。暴れ回ってもコロラドは安定した乗りこなしを見せつけつつ、2人の姫を追い詰めていく。
この質量兵器を食い止めるのはまず不可能。いくら強靭で強固な生体艤装を扱えるとしても、質量が数倍あったらどうにも出来ない。だからといって砲撃で破壊出来る代物でもないので、どうにか回避行動。
「クソッ、おいチビ!」
「何よバカ!」
「一回分かれてやんぞ! 纏めてやられるわけにゃいかねぇだろ! お前囮やれよ!」
「はぁ!? 囮はアンタがやりなさいよ! でも、離れて戦うのは賛成してあげるわよ!」
まだまだ口喧嘩は絶えないが、ここで2人はコロラドを翻弄するために左右に散開。少なくとも目の前の
しかし冷静とは言えない。本来の力を発揮出来ているかはわからないが、ようやく戦いになるかというところには来た。
「高いところから見下すんじゃねぇ!」
右に散った南方戦艦新棲姫は、白鯨の上に乗るコロラドに向けて全力の砲撃。簡単には破壊出来ない白鯨を狙うのではなく、その本体となるコロラドを始末することで、白鯨からの脅威も消そうとした。
無防備ではないものの、コロラドは上にいる時点でかなり狙いやすいのは確か。乱射をするだけで、一部は当たってもおかしくない。コロラドだけでなく、南方戦艦新棲姫も体力無限なのだから、いくらでも乱射出来る。
「一回止まりなさいよ!」
戦艦新棲姫は、逆に白鯨のオビレに対して砲撃を放つ。その付け根の部分は、白鯨の中でも特に細い部分であるため、砲撃で叩き折ることが出来るのではないかと考えた。こちらもありったけの砲撃をぶち撒ける。
本来ならば強引にカニの鋏で挟み、力業でちょん切る方がいいのかもしれない。しかし、その威力を考えると近接で受ける方が危険。動きが多少収まるまでは撃ち続けるしかない。
「全く、ここまで来るのが長かったわね。ようやく手応えがあるってものよ」
しかし、コロラドは一切怯まない。集中砲火を受けても、それを全く気にならないように軽々回避。
南方戦艦新棲姫の砲撃は、白鯨自体の動きとコロラド自身の動きで掠るどころか衝撃すらも感じることなく避けた。戦艦新棲姫の砲撃は、むしろより激しくオビレを振り回すことで、砲撃自体を弾き飛ばすまでした。強度的なところから若干傷がついたものの、それでも当たり前のように健在。
さらにはお返しと言わんばかりに上から砲撃。オビレもより激しく振り回して直撃を狙う。当たればほぼおしまい一直線の攻撃であるため、2人の姫も必死に回避し続けた。
一応コロラドは低速艦であり、2人の姫は共に高速艦であるため、回避性能は姫達の方が上。勿論、コロラドはそれも考慮して攻撃を繰り出しているのだが。
「この、降りてこいよ!」
「何でアンタの指図を受けなくちゃいけないのよ。これが私の力。何か文句あるなら、アンタもその
南方戦艦新棲姫はロブスターの生体艤装が無ければ十全な力を発揮することが出来ない。施設の仲間である戦艦棲姫のように独自の進化を遂げているわけではないので、生身である本体側での攻撃はどうしても近接戦闘になる。
南方戦艦新棲姫はマスト状の槍を持っているものの、砲撃はロブスター頼みだ。コロラドの誘いに乗った場合、まず間違いなく杖からの砲撃で為す術なくやられる。
戦艦新棲姫に至っては、腕を包み込むガントレットくらいしか近接武器を持っていないので、カニが失われたらほぼ無防備となるだろう。小柄な身体では、格闘戦を挑んでも無意味。
互いの生体艤装を排除しても、コロラドの方が得ている力は上。2人がかり、協力し合ってもかなり厳しい状況であるのは変わりない。
これが夢の中で無ければ、コロラドは即座にスタミナ不足を引き起こしていただろうが、この空間はコロラドの夢の世界。そんなことすら起きない。
最初から、2人の姫に勝ち目など無かったのである。
「私はね、別にアンタ達を這いつくばらせるために戦ってるわけじゃないの。跪けとも言ってないし、消してやろうとも考えてない。ただ協力しましょうと言いたいの。でも、私のことが気に入らないと言うから理由を聞きに来た。そうしたらこれだもの。実力行使に出るしかないでしょ」
一片の容赦も無く、的確に、確実に、致命傷を与えるための攻撃を繰り出し続けた。しかし、今の言葉通り、この場から追い出そうというつもりは無い。コロラドが求めているのは、あくまでも協力関係だ。
コロラドは当然として、南方戦艦新棲姫も戦艦新棲姫も、黒幕に殺されたことに対して恨みが無いわけではないはず。それなのに、命を奪った相手よりも主導権を握るコロラドが気に入らず、さらには隣にいるだけで何よりも気に入らない相手がいたらそれを最優先で周りが見えなくなる。それはよろしくない。
それが誰にも迷惑をかけていないのならまだしも、実害が出ようとしているのだから、それに巻き込まれたコロラドは実力行使でも止めようとする。
「これまでの行いを後悔するくらいにメッタメタにしてあげるから、考えを改めなさいよね」
ここからさらに猛攻が続く。上から横からの攻撃は激しさを増し、今までは手を抜かれていたのだと嫌でも理解することになる。一矢報いるためにその隙を探そうとしても、隙を塗り潰すような強烈な動きを続けるため、最早どうにもならないレベルに達しようとしていた。
夢の世界であるため、2人の姫もスタミナは無限。好きなだけ暴れることが出来る。しかし、それを物理的にも精神的にも上から押し潰す力には勝てなかった。
「クソッ、がぁ!」
ここで南方戦艦新棲姫が無理を通しての突撃を繰り出す。白鯨さえどうにか出来れば勝ち目があると踏んだのだろう。サイズ差はかなりのものだが、同じ生体艤装なのだから互角に戦えるはずだと、強引な一撃に賭けた。
ロブスターに備え付けられた主砲、鋏、そして自分の手に持つ槍までを一点に集中させ、渾身の力で白鯨を貫こうと全力で攻撃。
「私はね、そうやって横から貫かれることがほんっとうに嫌いなのよ!」
コロラドはその辺りの対策はしっかりとしていた。何故なら、まだ侵蝕されており、かつ大分消耗している時とはいえ、巨大化した槍に真横からぶち抜かれた経験があるからである。
故に、攻撃を受ける瞬間にその場所にバルジが生成され、強固な装甲がより強固になった。結果、南方戦艦新棲姫の攻撃は傷を少しつける程度で止まってしまった。
「ま、マジ、かよ!」
「勝手に諦めてるんじゃないわよ!」
だが、そこにさらに押し込むように、戦艦新棲姫が回り込んでいた。あれだけ別行動を取っていたが、この時だけは一点集中に協力をしたのだ。
こちらもカニの鋏と砲撃を重ね合わせて、生成されたバルジを破壊するために集中攻撃。一度ついた傷を広げるために、同じ場所だけを何度も何度も攻撃する。
「お前……っ!」
「さっきアンタも言ったでしょ。アンタを始末するのは私なんだから、こんなところで終わってもらっても困るって!」
「ああ、そうだなぁ! コイツが終わったら決着つけねぇと、なぁ!」
南方戦艦新棲姫も諦めず、同じ場所を再度攻撃。2人の姫の集中攻撃を受けてしまうと、流石の白鯨もダメージを受けてしまった。横っ腹からヒビが入り、そこから至るところに拡がっていった。
「っし、もう少しだ! 根性入れろよチビ!」
「アンタこそ気を抜くんじゃないわよバカ!」
さらに力を込めることで、白鯨に拡がるヒビは全身に届き、最後は爆散。そのまま消滅していく。
「最初からそうやっておけばいいのよ。全く」
しかし、その時にはコロラドは白鯨の上から降りていた。白鯨を処理するのに後ろを向くことすらしなかったため、背後に回っていたコロラドにまるで気付いていなかったのである。
「でも、一度終わりにしておきましょうか。これである程度はわかったでしょ」
砲撃を放つわけでもなく、杖を振るって南方戦艦新棲姫の後頭部を殴打。返す刀で戦艦新棲姫の脇腹にも食い込ませた。
「ってぇ!?」
「っぎっ!?」
2人揃って大きなダメージを受けたことにより、ショックで艤装が消滅。自然と蹲ることになり、結果的にはコロラドの前に跪くようなカタチになってしまった。
「協力すると無理も押し通せるの。いがみ合っている時より、アンタ達は強かったわよ。でも、まだまだね」
殴打された後頭部を押さえながらプルプル震えている南方戦艦新棲姫と、脇腹を強打されたことで吐きそうになっている戦艦新棲姫を見据えるコロラド。
「まだやる? やってもいいけど、何も変わらないわよ。今はやられたけど、白鯨は無限に出せるんだもの」
そう言うと、たった今協力して破壊した白鯨が即座に再生された。現実世界ならばこれだけで気絶しかねないくらいにスタミナを消耗するが、夢の中ではお構いなし。
2人で何とか破壊出来たのに、それが無限に現れるとなったら、いくら2人の姫でも心が折れた。主導権を握るだけあると、納得してしまった。
「……やめだやめ。腹が立つが、お前には勝てそうに無ぇよ」
「悔しいけど、このバカの言う通りね……。今ので全力を出したのに、すぐに無駄にされるのは勝ち目が無いわ」
ここでの戦いの決着は、殺すか心を折るかのどちらかしかない。2人の姫は前者を、コロラドは後者を目指して戦っていた。そして、それはコロラドの思惑通りに進み、ここに達成された。
「それじゃあ、私の言うことを聞いてもらいましょうか。黒幕を斃すために協力しなさい。私が主導権を握ることになるけど文句は言わないこと。あと一番重要なことだけど、2人で私の中でいがみ合うな」
勝者の言うことには従わなくてはならないと、2人の姫は渋々了承した。また何か文句があるのなら、今のように夢の中に呼び出せとすら。その度に今のような
「別に友情を育めとか、仲良くしろとか、そういうことを言ってるわけじゃないの。今の話の本質を捉えろと言ってるの。アンタ達だって、あの黒幕には思うところがあるでしょ」
「そりゃそうだ。いけすかないコイツと同じ空間に閉じ込めたのは、お前じゃなく黒幕だからな。恨みもひとしおってモンだぜ」
「そうね。同意なのが気に入らないけど、元凶は全部黒幕よね。始末しないと気が済まないわ」
ここでようやく全員の最優先事項が一致する。黒幕を斃すことが今一番やらなくてはならないことだ。
「悪いけど、主導権は私がもらっておく。でも、アンタ達の力は借りるわ。良かったかしら」
「ああ、負けちまったんだから逆らえねぇよ。今は好きに使ってくれ」
「そうね。私の力、今は譲るわ」
敗北を喫したからか、コロラドに対してはやけに素直となった。心が折れたというのもあるが、やはり勝者には傅くモノと本能的に感じているのだろうか。
「ところで、アタシの艤装の方がコイツのより使えただろ」
「何言ってるのよ。私の艤装の方が強いわよね」
しかし、この喧嘩は終わりそうにない。コロラドは大きく溜息を吐いた。しかし、その顔は今までとは違い、苦笑とはいえ笑顔であった。
結局のところ、生理的に無理なのだから喧嘩を止めることは簡単には出来ません。それでも、本来見なくてはいけないところを見るようになっただけ良しとしました。主導権を持つ力には、姫2人でも太刀打ち出来ません。