施設との通信終了後、堀内鎮守府は翌日の監査についての相談を大将としていた。今回はここで話している者達とはまた別の外の者から派遣される艦娘であるため、事前にある程度は知っておく必要もあるだろう。
この通信のグループに入れるのは難しいものの、施設のことを知ってもらえれば、違ったカタチでの協力が望めるかもしれない。とはいえ、既に次が最終決戦。戦力を借りることなどはおそらく無い。そのため、あの施設の者達を認めてくれるだけで充分。決戦への道を綺麗に舗装してもらうために協力してもらう。
「その監査の艦娘というのは誰なのかは」
『それはまだわからないわね。でも、正しく現状を捉えられる子を用意してくれると思うわ。施設の子達は、誰もが信用に値する子であることは、私達がよく理解出来ているでしょう?』
「そう、ですね。何かを偽装する必要なく、裏が無いのなら必ず信用が出来るはずです」
そこは確信している。施設側には、一切の落ち度が無いのだから。その存在そのものと言い出したら意味が無いのだが、
『それに、監査を担当する提督は、そういうところで差をつけないわ。安心してちょうだい』
「わかりました。こちらも自信を持って案内します。あの施設の者達を見てもらえれば、確実にわかってもらえるはずですからね」
堀内提督も大将も、施設には絶大な信頼を置いている。特に堀内提督は、本来は自分の部下であった春雨と海風が所属しているのだ。信頼を置かない理由がない。いろいろあったとはいえ、艦娘としての心を持ったままに深海棲艦となっているのだから、その本質は提督も知っている者だ。
ならば心配なんて必要が無いだろう。本質をそのまま見せれば、誰だってあの施設が人類に対して敵意や悪意があるようなものではないことが理解出来る。
『それでは、そちらからの案内役を選出しておいてちょうだい。こちらからは、おそらく3人くらいがそちらに向かうことになると思うわ。監査役が2人と、吹雪にも顔を合わせてもらおうと思っているから』
初耳だと言わんばかりに吹雪が驚いていたが、大将は続ける。
『私も明日はそちらに向かいます。これからのことで少し話したいこともあるもの。その間に、吹雪には施設を見てきてもらおうと思っているの。吹雪も監査に参加するようなものね』
「僕としては構いませんが、大丈夫ですか? 大将はその、脚が」
『ある程度は大丈夫よ。それに、吹雪も共闘する深海棲艦に関して実体験で知っておく必要があるでしょう。もしかしたら、決戦に出てもらうかもしれないのだから』
こちらも初耳だったが、強敵を斃すために駆り出されるのならば、自分が出ることもあるだろうと感じた。ならば、画面越しではなく直に顔を合わせておいた方がいいかと納得。
あくまでもかもしれないという程度なので、戦場に出ることはないかもしれない。それを最終的に決定するのは、決戦の部隊を決定したとき。選択肢として頭の片隅に置いておくということ。
『改めて、また明日よろしく。朝早くに向かうからそのつもりで』
「了解です。準備をしておきます」
通信終了。もう時間はかなり少ないものの、今日の残された時間で施設までの案内役を準備する必要がある。
実際はすぐに決まるようなものだ。施設に向かうということは、調査隊が出向くのがベスト。山風、江風、涼風、荒潮の調査隊の駆逐艦が最も適していると言えるだろう。
「先に話しておいた方がいいな」
「ですね。山風達ですよね?」
「ああ、調査隊を送り込んだ方が早いからね」
そろそろ鎮守府も夕食時というところではあるが、急務であるためすぐに執務室に呼び出し。そこまで時間がかかることなく4人が部屋に集まる。
「山風、頭に乗っているのは」
「……龍驤だけど……」
山風は頭に妖精さんと化した龍驤を乗せていた。なんでも、明石との研究の合間に、決戦に出撃しそうな艦娘達と慣れるためにこうやって装備させているらしい。
「すまんなぁ。明石がこうしてくれ言うもんで、今は山風の頭におらせてもらっとる。RJシステムをみんなに装備してもらいつつ、ウチが話させてもらっとるんよ」
龍驤としては少し居心地が悪そうではあるのだが、明石の指示なのだから逆らえない。また、鎮守府の者達に認めてもらうためにも、こういうカタチで話をしていこうとしていた。
山風は今の龍驤に対しては割り切っていた。過去に三度も戦い、そのうちの二度は直接攻撃もしているのだが、今ここにいるのは手段はどうであれ救われた存在。仲間として認識する以外にない。
むしろ、今後の有用性から考えて、ここでちゃんと意思の疎通が出来ていないと、いざ決戦の時にまともな運用が出来ない可能性がある。それを考えるのならば、割り切らざるを得ない。あの時とは別人のように大人しいため、割り切るのも結構簡単だったようだが、人見知りの山風は他の者達よりは時間がかかった様子。
「……大丈夫だから、呼び出された理由、教えてほしい」
「ああ、そうだね。君達には明日、少し違う理由で施設に向かってもらいたい」
ここで簡単に明日の予定を伝える。朝イチに大本営からの監査役の艦娘が大将と共にやってきて、その者達を引き連れて施設に向かうという、ただそれだけ。簡単ではあるのだが、緊張感のある任務である。
説明はこれだけだが、その裏側には、監査役がもし施設に対して
「……ん、わかった」
当然快く引き受ける。提督からの指示なのだから拒否することは出来ないのだが、この鎮守府はその辺りの自由度が高いため、一応聞くようにしている。山風達はなんだかんだ最も施設に慣れている者。適任であるため、提督もなんの不安もなく依頼が出来る。
それに、施設が絡むとなれば山風達は殆ど躊躇せずに引き受けるだろう。海風とまた顔を合わせることで、メンタルの回復にもなる。
「ンじゃあ、江風達が
「聞こえは悪いが、そういうことになるね。勿論、施設側に迷惑をかけるつもりはない。監査も形式上であって、信用は充分に得られている。だが、施設に対してはいくつも禁則事項があるだろう」
「あー、確かに。ミシェルのこととか、潮のこととかだよな」
その辺りもすぐに察する。施設のことをよく知っているからこそ、施設でやってはいけないこともよく理解出来ていた。すぐに思い浮かんだのはミシェル。その次が潮。
施設にはこういう者がいるのだと事前に伝えておかなくては、施設の者達どころか監査役にも嫌な思いをさせることになりかねない。そこは正しい距離感を保つことが重要。
「今はアレだろ、春雨姉も結構ヤバいんじゃないか?」
「だな。叢雲もいるし。気に入らないことがありゃ、ズケズケ言っちまうもンな」
怒りが溢れている2人に関しては、鎮守府側も若干危惧しているというのはあった。歯に衣着せぬ物言いをすることが確約されており、春雨はまだしも叢雲は艦娘に対していいイメージを持っていないため、何をしても口悪く罵る可能性がある。
とはいえ、叢雲だって成長している。余程気に入らないことをされない限り、我慢くらいはするだろう。その沸点は他の者よりも低いとは思うが。
「その辺りは、私達が向かう途中で教えればいいのよね〜」
「そうしてもらうつもりだった。ちゃんと説明をして、お互いに柔らかい雰囲気で向かってもらいたい」
「は〜い。施設のヒト達に嫌な思いをしてもらいたくないものね〜。私達だけなら気にすることも無いけれど、初めてのヒトにはルールもわからないでしょうしね〜」
荒潮は勿論、こう話している間もジェーナスのことを考えていた。ジェーナスにもトラウマが刻まれているため、監査役がそれに触れるような言動をした場合は、容赦なく止めるつもりで。
「それじゃあ、明日頼むよ」
「な、なぁ、ちょっとええかな」
そこで山風の頭の上の龍驤がおそるおそる手を上げる。小さいためにすぐにはわからなかったが、山風が龍驤を頭から下ろして、両手で提督の前に掲げた。
「ウチも……そこに行ってええかな」
龍驤の進言。なかなか難しい話ではあるが、そう思い立った理由について聞くと、龍驤はおずおずと話し出す。
「その、な、まずアレやん、今度の決戦、ウチもこういうカタチで行くことになるんやろ。だから、こうやってみんなと慣れられるように話をさせてもらっとると思うとる。でもな、施設のヤツらとは画面越しにしか話しとらんねん。だから、直に話したいんよ。決戦の時にギスギスするとあかんと思うし」
それは真っ当な意見である。鎮守府の者達との交流は、決戦当日に息が合わないなんてことを防ぐため。ちゃんと顔を合わせて、再洗脳より前の時のギスギスした関係をある程度払拭することが目的だ。
その決戦に施設の者達も参加するとなったら、当然だが顔を合わせることになる。もしかしたら、緊急時に装備の乗せ替えなんてこともするかもしれない。その場合、現場で突発的に行うと確実にいざこざが起きる。
それを防ぐためには、決戦よりも前に一度顔を合わせて、お互いのことを知っておくべきだと龍驤は訴えた。それで許されなかったら許されないでも構わない。それならそれで、その時のやり方を考えればいい話。当日に勝率を下げるようなことはしたくないというだけ。
「それに、な。画面越しやなく、直に会って謝りたいんや。ウチが元に戻れへんから、明石に元に戻っとる
これは誠意の話。今の龍驤には、それを考えるだけの思いがある。
「……ふむ、確かに、当日に龍驤を巡っていざこざが起きるのはよろしくない。あちらもRJシステムのことを知っているとはいえ、それを納得出来るかはわからないからね。龍驤自身がそれを望むのなら、僕はそれを許可しよう」
提督は少し考える素振りをしたが、実際必要なことであろうともわかる。最善の戦いにするためには、事前準備で出来ることは全てやっておかなければならない。
「ありがとうな。今のウチは、殴られても蹴られてもある程度は大丈夫やから、いざって時はそれくらいやられる覚悟を持っていくつもりや。それくらい重い罪を犯しとるのはわかっとるでな」
「そこまでされることは無いだろうさ。彼女達も龍驤は被害者であると理解はしているんだ。画面越しでもその素振りは見せなかったろう?」
「直接会ったら思いが溢れる可能性はあるやん。そんだけのことをウチはしてもうてん。特に、春雨や叢雲辺りは怒りが溢れとるわけやし、ウチのことボコボコにしたい思うても何も否定出来へん。だから、そん時はそれを受け止めるわ。司令官も、ウチのためや思うて、そこは許したってくれへんかな」
今の龍驤は調整の結果、罪悪感の塊。泥となっていることで感情を溢れさせて壊れることも無くなってしまっているため、ジェーナスのような自己嫌悪を溢れさせることも無い。ただただ、この思いを忘れることなく生きていくのが苦しいという無限地獄になっている。
死ぬよりも辛い極刑を今でも受け続けているのに、そこに痛みまで与えられるのは過剰ではないかと考えたものの、龍驤がそれを望んでいるのならば、何も言えなかった。
「……僕は施設の者達に限ってそういうことは無いとは思っているがね」
「そういうことにしとくわ。でも、何かあっても誰にも罪はあらへんのや。全部ウチのせいやから」
ともかく、龍驤も参加することになった。果たして、大本営からの監査を難なく抜けることが出来るのか。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/99587921
MMDアイキャッチ風潮。恐怖が溢れてビクビクしているのに、今では硬い装甲をワンパンで破壊するパワーキャラになってしまった潮。でもやっぱり知らない相手を見たら悲鳴を上げながら隠れたりするんだろう。