空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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施設の者達

 畑から見始めた監査は続く。畑組と監査組の旧友であるリシュリューとコマンダン・テストとは別れ、漁をする者達のいる岸に到着。今は釣果を確認しているところのようで、沖ではなく島に戻ってきていた。

 先導しているのは勿論飛行場姫であり、ジェーナスとミシェル、伊47、そして潮と潜水艦姉妹がそれを手伝っていた。潜水艦が多く参加していたおかげで、追い込み漁は大成功。人数が増えた分を賄えるほどの釣果である。

 

「ジェーナスちゃん、ミシェルちゃん、また来たわ〜」

「アラシオ、いらっしゃい! ちょうど今、今日のOutcome(成果)を見てたところよ」

「ミシェルも頑張ったぴょん! 今日は上で釣ってたんだぴょーん」

「あらあら、偉いわぁミシェルちゃん。それじゃあ、いっぱい釣れたのね〜」

 

 飛びつくように抱き着いてきたミシェルを軽々と受け止めた荒潮は、くるりと回って綺麗に着地させた後、そのままジェーナスに引き渡す。ミシェルの()()を、最も理解しているのは荒潮かもしれない。

 

「アンタ達が監査ね」

「私がビスマルク、こっちがグラーフよ」

 

 畑の後であるため、もうこの程度では驚かない。艦娘の中にも釣り好きがいるため、深海棲艦が同じようなことをしていても普通だと割り切る。

 そう考えると、畑も園芸の延長線上と考えればまだ良かったのかもしれない。陸上施設型だからと言って、自分の陣地をここまで改造しているのは普通では無いが。

 

「よろしく頼む。ここでは畑では手に入らない食糧の調達か」

「ええ、野菜だけだと栄養が偏るでしょ。だから、魚も獲ってるの」

 

 今回の釣果の中でも特に大物である魚を、監査役の2人に掲げて見せてやる飛行場姫。これだけあれば、ここにいる20人以上の仲間達の腹を膨らませることが出来るといい笑顔を見せる。

 

「畑もそうだが、他に迷惑をかけまいとする思いが伝わってくるようだ」

「他人に迷惑だなんて、そんなことするわけ無いじゃない。そもそもアタシとお姉はこの島から出られないし、この島に近付けるヤツは普通はいないんだもの。ここにいる仲間達だけで暮らしていくのが当然でしょ」

 

 侵略行為なんてくだらないとまで言ってのける。自分達で用意出来るものは極力自分達で用意するし、手に入らないなら諦める。たまたま、本当にたまたま、侵略出来る範囲に人間の船などが通ったとしても、飛行場姫は逆にその船からこちらが見えないようにカムフラージュするまで考えているとまで言い出した。

 今でこそ、食糧難を鎮守府側に協力を願い出て、しばらく分の食材を譲ってもらったものの、そうで無ければそれすらも無かったはずだ。遠征に行くことが出来ず、今や売るモノすらもリセットされてしまったために、藁に縋ったようなものではあるが。

 

「ちなみにだけれど、その魚は調理を?」

「勿論。アタシが捌くわよ」

「……並の艦娘よりも調理の技術があるんじゃないかしら」

 

 当たり前だが、一般的な深海棲艦がここまでスキルを持っているわけがない。飛行場姫は殆ど独学でここまでやれるようになっているに過ぎないのだが、それでも()()()()()()()()()()に関しては、異常と言っても過言では無いだろう。

 ちなみに、魚の捌き方を教えたのは、他ならぬ『観測者』だったりする。

 

「こうして見ると、本当に私達や人間と同じね」

「当たり前じゃない。見た目……まぁ色合いは違うけど、手と足がある二足歩行って意味で同じってことは、()()()()()()になるわよ。お互いに似たような知恵もあるんだから」

「確かにそうね。納得しておくわ」

 

 同じように感情を持ち、同じように生活をするのだから、種族の差なんて何処にも無い。畑と漁を見て回っただけでも、それに気付かされる。

 人間と同じように生活し、艦娘と同じように共存する。それが出来るのが穏健派の深海棲艦である。

 

「まだ施設の中を見たわけでは無いけれど、私個人の意見としては、貴女達は充分すぎるほど評価が高いわ。貴女は、グラーフ?」

「そうだな。今のところは何も問題が無い場所と判断している。人間に害を為す深海棲艦とは分別して考える必要があるだろう」

 

 間違いなく、ここにいる者達は人間に危害を加えようだなんて思っていない。稀に、極稀に、壊れた心のトリガーが引かれて暴走することもあるかもしれないが、それすらも()()()()()()()()()ではない。それと正しく付き合っていけば、大惨事が引き起こされることは無いのだ。

 それもあってか、監査からの評価は非常に高い。ブラック鎮守府は例外としても、並の鎮守府より余程評価出来るとまで言ってのけた。ぶっちゃけてしまえば、余計な知恵を使って出し抜こうとか、変に競い合って破滅に向かっていくとか、そういうところがない。ほぼ善意で構成されている。

 

「あら、それは嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「誰も彼もが、私達に対して敵意を持っていないんだもの。普通侵略者気質を持っているのなら、多かれ少なかれ私達の存在が邪魔だと思うじゃない。少なくとも今はそういったものも感じない。……なんだかグラーフだけは警戒されているみたいだけれど」

 

 そんな目を向けているのは海風だけである。むしろ、山風達妹は、前例がある分、海風が何かやらかさないかと若干ヒヤヒヤしていた。ただでさえ春雨絡みになると止まらなくなるのだから、それこそ今すぐにでもグラーフ・ツェッペリンに危害を加えるのではと考えてしまっていた。

 実際は、警戒はしているものの危害を加えようとは微塵も思っていない。春雨に危害を加えたわけでは無いのだから、排除する必要もない。しかし、また()()()()()をされたら困る。ただその一心で警戒を怠らない。

 

 対するグラーフ・ツェッペリンは、何故警戒されているのかはわかっていないようだったが、姉に向ける信頼の目は理解しているため、いい姉妹愛だと微笑ましく思っているようである。

 

 

 

 

 そのまま施設内へ。ここからは大人数だと邪魔になりかねないので、調査隊は山風のみが便乗。春雨と海風も協力してくれるはずなので、安心して送り出せた。叢雲と薄雲もここで別れ、農作業の手伝いに向かうようである。

 

「正直な感想いいかしら」

「はいどうぞぉ」

「思った以上に普通な場所で驚いてるわ」

 

 保護施設と銘打っているだけあって、生活に苦がないようにされているのがよくわかる。鎮守府にあるような()()()()()設備は何処にもなく、()()()()()()()()設備のみ。どちらかと言えば、人間の生活を模倣しているような雰囲気。ビスマルクもグラーフ・ツェッペリンも、人間が住まう施設というものは資料でしか知らないのだが、こういう場所なのだろうと納得出来る程である。

 

「私達は戦うつもりが無いんだもの。そういうものを取り入れなかったら、こうなると思うわぁ」

「ですね。誰も攻め込んでこないのなら、これ以上必要ありませんから。自由気ままに生きるだけなら充分過ぎるくらいですよ」

 

 中間棲姫に加え、春雨もこの施設の在り方には同調している。平和で在り続けるならば、余計なものは必要ない。強いて言うなら娯楽が無いかもしれないが、それでも住人は満足出来ているのだから、これ以上を求めない。

 人によっては、そんな生活に何の意味があるのかなんて訴えてきそうではあるが、ここの住人は揃って『余計なお世話』と返すだろう。これで平和に幸せに暮らしていけているのだから、それ以上を求めていない。

 

「貴女達が充分と感じているのなら、ここはこれが正解なんだろう。我々が口を出す理由にはならない。逆に、不便だと思ったことは無いだろうか」

「今のところ無いわねぇ」

 

 グラーフ・ツェッペリンの質問に対しても、間髪容れずに答える。ここ最近の事件に巻き込まれるまでは、本当に不便だと思うことが無かったのだから、考えるまでもなくこの答えが出る。

 今でこそ怪我をしてしまうことや怪我人が運び込まれることが増えてきてしまったので、もう少し怪我人を治療するための設備が整っていると嬉しいのだがと苦笑はするものの、そもそも戦いに巻き込まれてしまう前にはここまでの大怪我を負うものが施設にいることが無かったので、平和であれば無用の長物。むしろ、深海棲艦は自然治癒力が艦娘よりも異常に高いため、軽めの救急用具が有れば事足りる。

 

「私達から関わり合いを持たないのだから、これだけあれば充分なのよぉ。本当に欲しい物があったら、リシュリューちゃんとコマちゃんが仕入れてきてくれるんだけれどねぇ」

「なるほど。貴女達の生き方に何か言えるほど、私達は高尚な存在でも無いわ。私達は戦いにどっぷり浸かってしまっているから足りなくないかと思ってしまうけれど、真に平和を取り戻したらわかるんでしょう。ごめんなさいね」

「ううん、何も問題は無いわぁ。監査役としての仕事をちゃんと全うしようとしているのよねぇ。貴女達は貴女達の仕事をしてちょうだいねぇ」

 

 何事もないことを説明していく間に、ダイニングに到着。そこには大概誰かが休んでおり、今日は瑞鳳と黒潮、そして空母棲姫がお茶を呑んでいた。

 前回の戦いの被害者組ということで、山風の頭の上にいる龍驤は警戒して山風の髪の中に潜り込む。

 

「あー、監査のヒト達やね」

「貴女達が最近ここに所属することになった子達ね。……貴女も?」

「ああ。私も、今は、ここに」

 

 まだ辿々しさが抜けない空母棲姫だが、戦艦棲姫からの教育により、人付き合いは並となっていた。今後、戦艦棲姫と旅に出るのなら、多少はコミュニケーションが取れるようにするべきだと教わったようである。

 

 ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンの視線は、どうしても瑞鳳と黒潮の胸に同化した忌雷に行ってしまっていた。何をやっても外すことが出来ず、無理矢理剥がしたら死に至らしめるような融合。その一箇所だけで、2人は他の者よりも異形感が拭えなかった。

 

「あ、これ? これは気にしないでほしいな。大丈夫、ヒトに危害は加えないから」

「せやでー。コレはウチらと一心同体やさかい。春雨のおかげでちゃーんと共同生活出来とるからね」

「うんうん。ただ、この子達も少しとはいえご飯を食べるから、私達だけちょっと食費が多くなっちゃうのは考えものかな?」

 

 そんな境遇となっても明るく振る舞う瑞鳳と黒潮。そして、忌雷もそれに同調するように歯を鳴らしたり舌を出したりしていた。無表情に見えてその実、思った以上に考えていることがわかる存在である。

 

「あと、ちぃと聞きたいんやけど、そこにおるんと違う? 龍驤姉やん」

「監査と一緒に来るって言ってたもんね。少しでいいから話させてほしいな」

 

 リクエストされてしまっては仕方ないと、山風がまた髪の中に手を突っ込み、隠れている龍驤を摘み出して2人の目の前に。都合のいいことにダイニングのテーブルもあるため、そこに乗せた。

 目の前の3人は龍驤による被害者。特に空母棲姫は、その身体を器として使われていたのだから、思うところはいろいろとあるはず。

 

「そ、その、ホンマにすまんかった」

 

 すぐさま土下座の姿勢に入るが、黒潮が待て待てと手を出す。

 

「姉やんだって使われとったんやろ。あれや、姉やんは下請け、ウチらは下請けの下請けみたいなもん。あかんのは、使っとったいっちゃん上、黒幕や。そりゃあ姉やんにも多少何してくれてんねん思うところあるけど、そら仕方ないわ。妥協は出来る」

「そうだねぇ。龍ちゃんをどうにかしたところで何も変わらないし、黒潮が言う通り、龍ちゃんも巻き込まれただけだからなぁ。本を正せば私達と全く同じなんだよね。ドロップしてすぐに取り込まれてって。じゃあ、同じ境遇同士、いがみ合う必要は無いかなって割り切ったよ」

 

 2人の優しさに泣きそうになっている龍驤。

 

「私、は、よくわかっていない。あの泥だけは、気に入らないが、今のお前は、それとは違う。なら、許す。戦艦にも、そうしておけと言われた。わからないことに怒りを持つのは不毛だ、と」

「……アンタには謝っても謝りきれんわ。さんざん使ってしもうて、ホンマすまんかった」

「覚えていない。だから、何も知らない。それで、チャラ、というのだろう」

 

 空母棲姫も、龍驤に対してはそれで終わりとした。器として使われている時の記憶はあって無いようなもの。そのため、怒りより疑問の方が大きい。漣のように器として使われた後、泥に侵蝕され手駒になっていたわけでも無いので、割り切るのは簡単だったようである。

 

 

 

 

 監査の間でも、この施設にいる者達がどういう者なのかを理解出来る。監査役の2人は、少なくともこの施設には人間より害を為す者がいないと確信出来た。

 




ここに集まるのは優しく芯を持った者達ばかり。叢雲だってプリプリしているものの根はいい子だし、他の者達も思いやりのあるいい子です。だからこそ、黒幕以外は巻き込まれた被害者として認識出来ます。
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