空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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監査の結果

 一通り施設内も回ったことで、監査は終了。今ここに所属している全員と顔を合わせており、その誰もがここでの生活に不自由していないことを話していた。『楽しく生きる』をモットーとしているのは一目瞭然で、それを体現するかのようにこの島は平和であることがわかった。

 

 仕事が終わったことで、施設をグルッと回った後に来た時の岸へと戻ってきた。その時には調査隊の面々も戻ってきており、帰投の準備が出来たと言える。

 見送りはずっと案内をし続けていた中間棲姫と春雨、海風の3人。

 

「貴女達のことはよくわかったわ。監査として、私達の答えは決まった」

「上から目線な言葉で申し訳ないが、この施設は()()だ。人類に害を与えることなどあり得ない」

「ええ、断言出来るわね。まぁ、余程のことがあったら心変わりするかもしれないけれど、貴女達がそうなるのは、おそらく()()()()()になるでしょう。そんなことが起きないようにするのは、貴女達でなく私達の仕事よ」

 

 ここまでの平和を享受出来る空間に住まう者達に、人類の敵となり得る理由など存在しない。少なくとも、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンはそう思った。

 規律を重んじる中立の立場から見ても、中間棲姫の誠実さは理解出来たし、誰もがここの主であると納得出来るくらいの在り方をしていた。本心から監査役の2人を歓迎しているし、後ろめたいことが全く無いと言わんばかりに常に笑顔。

 

 そんな施設に危険を齎すのは、黒幕で無ければ一部の傲慢な人類くらいしかいないだろう。逆に、施設から人類の脅威になろうだなんて絶対にあり得ないのだ。

 ならば、大本営としても受け入れて何も問題ないだろう。むしろ、何もしてこないだけの強力な力を持つ者達を、自分達の目に入る場所に置いておくのは、これからの戦いのためにも必要。まだまだ深海棲艦との戦いが終わらない現状、この施設の存在にヒヤヒヤするのは間違っている。

 

「私達はそのように報告させてもらう。貴女達は信用出来る。手を取り合っても何ら問題ないとな」

「同時に、ここにいる子達が鎮守府に向かえるように手続き出来るように手配するわ。私達の独断では出来ないのが残念だけど、悪い方向にはいかないと約束する」

「それは嬉しいわぁ。重ね重ねありがとうねぇ」

 

 監査役からしても好感触なのは、施設としてもありがたい話であった。平和を維持するために、こういう外部の者達の協力も必要になるだろう。

 

「吹雪ちゃんもどうだったかしらぁ。今日は来てくれたけれど、ずっと()()()だったわよねぇ」

「そうですね。私は監査というわけではなく、この施設を見て回ること自体が目的でしたから」

 

 吹雪は大将に指示を受けたからというのが大きな根幹になっていたが、目的としてはもしかしたら共に戦うことになるかもしれない施設の者達がどういう生活をしてどんな性格をしているかを確認することがメイン。そのため、口を出すことなく観察することに注力していた。

 叢雲のことに関しては妹なので少し関わり合いを持ったものの、それ以外は後ろからビスマルクとグラーフ・ツェッペリンの監査としての役割を眺めて、ここにいる者達の内情を観察することで目的を達成している。

 

「ここは本当にいいところですね。司令官が入れ込むのもわかる気がします。艦娘とか深海棲艦とか関係なく、中身が綺麗ですから。今まで私も結構()()人間とかを見てきているので、こうやって観察すれば多少なり人間性はわかるつもりですが、ここの皆さんはみんなが()()()ですよ。喧嘩っ早い叢雲ちゃんも例外なくです」

 

 叢雲の怒りに悪意など全くなく、溢れたことによる純粋な感情であるために、そこに黒さは感じなかったという。つまり、裏がない。本心を隠していないため、黒さなんて微塵も無い。

 ここにいる者全員に対して同じように感じたと吹雪は話す。誰もが一切の裏がなく、思ったことを思ったように話し、行動しているため、より一層信用が出来るのだと。それは勿論、中間棲姫も同様。

 

「私は監査ではないですけど、司令官にはちゃんと伝えておきます。この施設のみんなは、絶対に私達に対して悪いことをしない。同じ道を歩けるだろうと」

「ええ、お願いねぇ。貴女も感じたままに私達のことを伝えてちょうだいねぇ」

「はい、勿論。むしろ、何も隠しようがないですよ。そちらが何も隠していませんからね」

 

 満面の笑みを浮かべる吹雪。ここで得られた情報は、これから向かっていくであろう最終決戦にも役に立つだろう。初見では無くなったなら、連携も取り易い。

 まだ吹雪が最終決戦に赴くかどうかは決まったわけではないのだが、勝利のためには念入りに準備は必要。今回はそれに繋がったはず。

 

「もう良さそうね。それじゃあ、姉姫。貴女達には朗報が届けられるように動いていくわ。期待していてちょうだい」

「ええ、ありがとう。よろしくお願いねぇ」

 

 これにて監査は終わり。ビスマルクが山風にもういいかと尋ねると、問題無いと返す。頭の上の龍驤も、今だけは隠れることなく表に出ており、中間棲姫の視線がそちらに行くと、小さく会釈。

 今までの非礼を詫びようと考えたが、春雨のお願いの1つとして『もう謝るな』があるため、既に謝罪を述べた相手には何も言わないことにした。ここに春雨もいるのだから尚更である。

 

「ハルサメ、最後に」

 

 帰投直前にグラーフ・ツェッペリンが帽子を脱ぎながら春雨の前に膝をつく。またアレかと海風が最大限の警戒をするが、春雨からちょっと待ってと言われたことで、前に出ることは無い。

 

「貴女はその高潔な魂を穢すことは無いだろう。だが、もしかしたら危ぶまれることもあるかもしれない。その時は、周りのことなど気にせず、助けを求めるといい。駆けつけられるのならば、我々も貴女の力になろう」

「……はい、肝に銘じておきます」

「ああ、その覚悟を持つことが大事だ。貴女は怒りと寂しさが溢れていると聞いている。怒りが先立つこともあるだろう。だが、それを我慢してでも、周りに頼ってほしい。そこにいる者、いない者、誰にでもいい。それは無様でも何でも無いのだから。貴女は独りでは無い。離れていても、我々は気にかけている」

 

 その手を取り、キスするわけでは無いのだが両手で包み込むように握る。この春雨には数多くの温もりが必要だと看破していたグラーフ・ツェッペリンは、こういうカタチで春雨をさらに先の段階へと引き上げる。

 

「ありがとうございます。なんというか、落ち着きました。怒りが晴れていくようです」

「それはよかった。それと、ウミカゼ」

 

 急に自分に話を振られてビクッと震える海風。

 

「ハルサメを最も支えられるのは貴女だ。我々が駆けつけられなくとも、貴女は必ずハルサメの隣に寄り添うのだろう」

「勿論です。春雨姉さんあっての私ですから」

「ならば、我々の分まで頼んだ。背負ってくれとは言わない。心の片隅にでも置いておいてくれ」

 

 春雨のためによろしく頼むと言われれば、海風も悪い気分にはならない。春雨の心を落ち着かせるためには海風の存在が必要不可欠であると理解してもらえているのだから。

 

「わかりました。貴女達の分まで、私は春雨姉さんの心を守ります」

「頼んだ。ハルサメ、そういうことだ。独りではない。誰もが貴女と共に在る。それだけを心がけてくれ。それならば寂しくないだろう。頼れるだろう。縋れるだろう」

 

 だから、孤独を感じる必要はないと、グラーフ・ツェッペリンは春雨に刻みつけた。

 

 

 

 

 帰路、調査隊は足取り軽やかに鎮守府に戻っていくのだが、周囲に施設の誰かがいないことを確認した後、ビスマルクが首に引っ掛けていた錨型のアクセサリを徐に外した。

 

Admiral(提督)、今まで聞こえていたかしら」

 

 事前に一切聞かされていなかったようで、山風達は何事かと驚いた。

 

『ああ、聞こえていた。施設の内情はおおよそ把握出来ているよ』

 

 そのアクセサリから男性の声が聞こえてきたことで、その驚きに拍車をかける。

 

 この監査、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンのみが参加していたわけではない。艦娘のみが監査として赴いていることにより、少し()()()()輩というのは少なからずいる。トップがいないのだからと気を抜くことで、僅かにでもボロを出すことがあるのだ。

 そのため、3人目の監査役として、音声だけでもビスマルク達の提督が参加していたのである。又聞きのような報告よりは確実に相手のことを把握出来るため、監査の時にはこの手段を多用しているらしい。

 

『彼女達には裏表が無かったね。話せる深海棲艦というのはそういうものなのかもしれない』

「私もそう思っていたわ。隠し事をしていない、いや、出来ないんじゃないかしら。ありのままを常に曝け出し続けているような感覚を持ったわ」

『正直、あんなにスラスラと言葉が出てくるから驚いたがね』

 

 声だけ聞いていても、施設の深海棲艦達の話し方はとても流暢で、話すことに何の躊躇いも持っていないようだったと提督は語る。声色から多少なりなら感情を察することが出来たが、その言葉は全て本心。裏表が無いどころの話では無い。

 

『OK。これなら俺も信用出来る相手だ。君達の言葉通り、余程のことが無ければ心変わりなんてしないさ。そういう意味では、注意しなくてはいけないのは春雨と叢雲だが』

「彼女達も不安は無い。ありのままに生きているからこそ、怒りを隠そうとしないだけだ。本心のままに生きているのならば、何も言うことは無いだろう」

『グラーフは入れ込んでいるのかい?』

「敬意を表しているだけだ。彼女達の在り方を尊重している。怒りが溢れるだけのことが起きているのだから、今は自由に生きてもらいたいだろう。平等の目で見ても、彼女達は怒りを曝け出すだけで人類に害を与えようとはしないさ。それも、理不尽な怒りではない」

 

 裏表が無いが故に、争いの火種になってしまいかねないのが、怒りを溢れさせた2人だろうが、そこも制御は可能だし、口に出す怒りはその時に必要な怒りだろう。理に適っていない怒りを表に出すことはまず無い。特に春雨は。

 

『まぁ、これをきっかけにその施設とはいい関係で繋がっていきたいと思えたよ。君達もまた行けるのなら行きたいだろう?』

「そうね。あの平和は魅力的ね。あちらが迷惑で無ければ、慰安施設として使わせてもらいたいくらいよ」

「流石にそれはあちら側の許可を取らねばならないだろうがな。我々が平和を乱す可能性もあるのだから、そっとしておくのが一番だとは思うが」

「それもそうなのよね。私達が入り浸るのは良くないことだとも思うわよ」

 

 それくらい、あの施設には問題ないと感じたようだ。そういう意味でも、この監査は合格。

 

『では、これを踏まえて他の者達とも相談していく。全てが良い方向に向かえるように、俺も努力しよう』

「ええ、お願い。私達にも限界があるものね。貴方に任せるわ」

『任された。人間同士の政治には、人間である俺が力を使わなくてはいけないからね』

 

 提督との通信もここで終了。監査は全て終了ということになる。

 

「……ビスマルクさん……そういうの、先に教えておいてほしい」

 

 ここで堂々と山風が苦言を呈する。他の者もうんうんと頷いていた。

 

「ごめんなさいね。これ、他の誰かが知っていると、相手からボロが出なくなるのよ。だから、完全に秘密裏にやらせてもらったわ。ちなみに大将も知ってること。フブキには教えられていないでしょうけど」

「初耳ですよぅ。全部利用されていた感じに思えちゃいます」

「ある意味利用してしまったようなものね。そこはごめんなさい。でも、そのおかげで施設の信用度は鰻上りよ。うちの鎮守府は全面的に味方出来るから」

 

 ニッコリ笑うビスマルクだったが、周囲の者達はまだ少し納得がいっていなかったようである。そこには龍驤も含まれていた。

 

 

 

 

 監査は合格。施設は大本営からも認められる、優良な深海棲艦であることが知れ渡ることになる。

 




監査組の提督は、また出ることになるでしょう。
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