空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

365 / 506
春雨の弱点

 調査隊が帰投した後、施設では昼食の時間。そこでの話題は、当然ながら先程までの監査のこと。

 全員が一通り話をしているため、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンがどういう存在かは把握出来ている。その上で、信用出来る出来ないだとか、単純に印象の話が繰り広げられた。

 

「監査として充分すぎるくらいの性格だから、信用してあげてちょうだい」

 

 真っ先にフォローを入れたのはリシュリューである。旧友であることがどうしても前に出てくるが、そこから一旦目を逸らしたとしても、誠実にこの施設のことを評価してくれていると話す。

 

「私も大丈夫だと思います。あのヒトも嘘を吐けないようなヒトだと思うので」

「思ったことをすぐに口に出している感じでした」

 

 最初から最後までを見続けた春雨と海風も、この監査に対しては一定の評価はしていた。中立の視点で施設のことを正しく判断してくれており、考えた上で施設の者達を仲間と認めてくれた素振りを見せていた。

 そして、そこに裏表が無いことは春雨が気付いている。腹の探り合いのような雰囲気はあったものの、その結果として最後に合格という答えに辿り着いていたのだから、信用してもいいだろうと考えた。

 

「まぁ、嘘は吐かないけど隠し事くらいはしそうな雰囲気だったけど」

 

 ボソリと呟く春雨。やはりと言うか何と言うか、春雨だけはビスマルクの首元に着けられたアクセサリーから会話を聞かれていることには勘付いていた。そのため、若干口数が少なくなっていた。

 

 そこでそれについて指摘しなかったのは、まず勘付いた時に叢雲がそこにいたから。隠し事と裏切られることがイコールで結ばれている叢雲に、その事実を知らせる必要は無いと思ったからである。その場で喧嘩沙汰になるのはよろしくないため、叢雲のためにもその場では発言をしなかった。

 また、ビスマルクの隠し事は、言ってしまえば施設のための行動。施設のありのままを曝け出させるための手段だ。ならば、それを指摘するのは()()というものである。それこそ腹の探り合い。何を目的として()()()()なことをしているかを知っておきたかった。あまり目に余るようなことなら容赦なく指摘するつもりだったようだが、それを加味しても誠実に施設を監査してくれたので、結果的に指摘もせずに終わっている。

 

「あの言い方なら、近々最終決戦になるでしょうねぇ。そうなると、私達も多少は準備しておくべきよねぇ」

「参加者は決まってるから、各々でって感じになるんじゃないかしら。他の子達は自衛の手段を増やしておくべきね」

 

 姉妹姫の言葉に、参加を決めている者達は少しだけ緊張が走る。最終決戦に参加するのは、結局今回の事件に巻き込まれた者達。春雨を筆頭に、海風、叢雲、白露、古鷹、大鳳、コロラドとなる。

 他の者は施設の防衛。敗北を知れば知るほどにその力を増していく黒幕は、こうしている間にもさらなる力を手に入れている可能性が高い。それこそ、今までずっとあった侵蝕だけでは利かなくなる可能性もある。結界に阻まれているはずのこの施設にも干渉してくるかもしれない。

 

「……私も、少し自分の問題点が見えてきました」

「春雨姉さんに問題点なんてありましたか。私にはその絶対的にして完璧な力が、この戦いを終わらせると思っていましたが」

「弱点だらけだよ私の力は。だって、そもそも自由に使えないんだから」

 

 春雨の力、『辿り着く力』は、今の状態では常時勘が鋭い程度。戦闘に入ることで、『最善の答えに辿り着く力』として、戦場でこうすれば一番いい結果になるだろう道を示してくれるようになる。心臓を一瞬だけ止めるという治療法もそうだが、回避方向や攻撃する先を光の道として見えるようになるのが、その時の春雨。

 そして、さらに敵の行いに怒りを覚えた時、マグマが溢れると同時に『望み通りの答えに辿り着く力』へと変貌する。春雨の望んだことが現実化し、その視界に入った者を操ることが出来るようになる。ただし、コントロール出来るのは身体だけ。そして、割と端的な命令しか出来ない。喋るな、動くな、逃げるな、そうやって()()()()()()()()()に関しては屈指の力を発揮する。マグマを流し込んで思い通りにその存在を書き換えたのは、()()()()()()()()()()()()()と考えることも出来る。

 この力は、自分には常時発動しているようで、それ故にもう春雨には泥による侵蝕が通用しない。それが春雨の望みであるため、常に叶えられ続けているということになる。自分への望みは条件が関係なく、他者にそれを仕掛けるときだけは怒りがトリガーとなる。

 

「ちゃんと使えるようになるためには、春雨がガチで怒り狂わないとダメなのよね。近くで見てた感じ、そう見えたわよ」

 

 ここで叢雲が春雨の力の特性について気付いたことを話す。怒りに精通している者は、他人の怒りにも敏感。春雨の怒りを見て、そこに気付くことが出来た。

 

 そもそも()()()()()()()()春雨が怒り狂うことにより、『辿り着く力』がフルスロットルになる。溢れた怒りが力にまで影響して、その感情に合わせたカタチに変貌させる。泥を溢れさせるようにマグマを溢れさせ、瞳からも真紅の光を輝かせる。

 春雨自身も、怒りが溢れたのだから力の変貌のトリガーも怒りなのだろうとは薄々気付いていた。しかし、それは春雨自身も気に入らないトリガー。

 

「私が本当に腹が立つ時って、絶対に誰かが取り返しのつかないくらいに傷付いてるとき……なんだよね」

 

 春雨の怒りのトリガーは、自分のことではない。他人が傷付いた時だ。1回目は海風が侵蝕された時。2回目は瑞鳳に同化した忌雷が命を使い潰そうとした時。結果的にそれを治療することが出来ているとはいえ、海風には消えない心の傷が残り、瑞鳳には見た目からしてわかりやすい傷が残された。

 つまり、トリガーには誰かが犠牲にならなければならない。それが春雨には気に入らない。さらに気に入らないことに、自分への怒りではトリガーが引かれないようである。自分の力なのに自分の思い通りにはいかないという理不尽さ。強力すぎる力の最大の弱点。

 

「それに、もし使えるようになったとしても、泥を止めることは出来なかった。あの時の龍驤の動きは止められなかったんだ」

「つまり、黒幕は止められない、ということですか」

「うん、そういうことになると思う。器に入っているのなら、その器を止めることは出来るかもしれないけど、泥の状態だったら対象が多すぎて止められない」

 

 そしてこれも1つ厄介なところ。視界の中に入れたもの全てに影響を与えられるわけではない。数に限りがある。

 泥が寄生虫の群衆であるが故に、力が全てに通らない。極々一部を止めたところで、大部分がまともに動くのだからどうにもならない。龍驤でダメなら黒幕でもダメ。

 

「春雨、あたしその力のこと聞いてからずーっと思ってたんだけどさ」

 

 ここで白露が春雨に疑問をぶつける。

 

「それ、()()()()()()()()()()()()?」

 

 一瞬、この空間がシンと静まった。

 

「えっと、白露姉さん、それはどういう」

「言葉のままだよ。春雨のその力って、あたしは直に見たわけじゃないから何とも言えないんだけどさ、今度はまた一緒の戦場に立つからちょっと思ってたんだよね。その力、敵じゃなくて()()()()使()()()()()()()()()って」

 

 春雨のこの力、今まで怒りに任せて敵を止めるためにしか使っていなかった。先にも述べたように、否定することに対して屈指の力を発揮するのは、この怒りが理由。仲間を傷付けた相手に対しての怒りが、その者を否定するために大きな力を発揮する。

 

 だが、白露はそうではなく、力を味方に使ってはどうかと言っている。

 

「例えばさ、あたしに対して強くなれみたいに望んでくれれば強くなるんだよね」

「……出来るかはわかりませんけど、望む答えに辿り着けるのなら、仲間を守るためにも使える……と思います。……あ、そうか」

「そうだよ。春雨ってばさ、本来はそういうことする艦娘じゃないでしょ。あたし達をサポートしてくれて、戦いやすくしてくれたじゃん。どちらかといえば前に出る方でも無かったし。それが本質だと思うんだけど」

 

 元来春雨は先頭に立つような者ではなく、姉を援護してその戦場を仲間達が動きやすくするために動く、生粋のサポーター。それ故に、周囲の行動を把握し、最も適した援護を即座に選択して実行する。

 しかし、ここ最近は自ら切り込み、怒りのままに攻撃をし、連携の方針も仲間を引き立てるというよりは確実に敵を始末することに特化していた。味方をどうこうするのではなく、敵をどうこうすることに専念していた。

 

 この事件に巻き込まれて深海棲艦化し、ここまで戦ってきたが、春雨は自分の本質を見失っていたのかもしれない。怒りが根幹になってしまったが故に。

 

「でも、出来るんでしょうか。敵だから容赦なく縛り付けることは出来ますけど、その、仲間に使うのはちょっと怖いというか」

「気持ちはわからなくもないけど、本来の自分を思い出しなってことだよ。腹が立つのはわかるけどさ、もう少し周りを見てみるのがいいと思うね。怒りに任せそうになったら、一回深呼吸してみなよ。それだけで世界が変わると思うから」

 

 冷静に怒り狂っていたと思われた春雨も、やはり根幹に怒りがあるせいで、何処か本来の冷静さを失っていたのだろう。その視界に敵しか入れないようにしていたのも、それがあるから。

 

 だから白露は、一旦落ち着けと言っている。簡単に出来ることではないかもしれないが、そこはこんなにも仲間がいるのだから、落ち着ける時間くらい作ってくれるだろう。特に、春雨の隣には海風がいるのだから。

 

「春雨姉さんの怒りが増す瞬間は、この海風が判断出来ます。ですので、安心してください。何かあれば、必ず声をかけます。白露姉さんの言う通り、深呼吸をした方がいいかもしれません」

 

 春雨の力を十全に発揮させるためにその身を捧げる覚悟がある海風は、春雨の手を取って自身の強い意志を伝えた。

 

「真っ先に私に使ってください。どうあっても、私は春雨姉さんの望む通りに動きます。反発もしません。全てを受け入れます。心身共に、私は春雨姉さんあっての私ですから。いつでも好きなようにしていただければ、私は本望です。だって春雨姉さんは私を導く戦乙女、天使、女神なのですから。そうだ、そうですよ。春雨姉さんは導く者ですから、後ろでドンと構えてくれていてもいいくらいなんです。それでも並んで戦ってくれるのですから、素晴らしいですよね。勇敢で果敢な在り方に、海風は尊敬を通り越して平伏だけでは足りません。言葉に表すのも難しい素晴らしさです。流石は春雨姉さん、神々しくて眩しすぎる程です」

 

 久しぶりのマシンガンに苦笑しながらも、少し勇気が出てきた。自分の本質を見つめ直し、やらねばならないことを改めて考える。

 

「少し、自分のことを考え直してみるよ。海風も手伝ってね」

「勿論です。春雨姉さんが望むことは、私が全て叶えます。先程も言った通り、好きに使ってください」

「ありがとう。それと白露姉さん、ありがとうございます。自分を見つめ直す時間を作ってみます」

「おうおう、頑張ってね。何かあったらお姉ちゃんも頼るんだぞ。あたしだけじゃなくて、アンタの仲間はこんなにもいるんだから」

 

 戦場に出る者も、施設を守る者も、こんなにもいる。誰も頼られることを拒むことなんてない。ならば、好きなだけ頼ればいい。

 

 

 

 

 最終決戦までの残された時間、春雨は自分を見つめ直すことで、自分の力についてよく知ろうと専念する。使いこなせない強大すぎる力でも、正しく使えるように。

 




強すぎる力がまともに使えるわけがなく、春雨の力には多数の弱点があります。多すぎると効かない。否定にしか使えない。そもそも自由に発動しない。それを打破した時、春雨は一体どうなってしまうのでしょう。それこそ、摂理を見出す者になるのでは。


今回、365話。話数の通り、毎日更新でちょうど一年となりました。今までで最も長い話となっていますが、まだ黒幕の全容が見えていないという恐ろしい状況。作者も戦々恐々としております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。