春雨達がトレーニングに勤しむ裏側。大本営では、帰投したビスマルクとグラーフ・ツェッペリン、そしてそこに便乗した大将と吹雪が、施設の深海棲艦達の有用性を納得出来るように説いていた。
基本的にはビスマルク達が施設側で手に入れた本人の音声。そして、それを使った山寺提督の話術により、大本営のお偉いさん達は次々と納得していく。
そもそも、前哨戦での行動、春雨の奮闘が心を動かしていただけあり、声まで聞けばもう満場一致となった。監査の結果も、そこにいる全員が良しとし、施設は晴れて100%信用される存在となったのである。
「いやぁ、うまく行ってよかった」
全てが終わった後、山寺提督が安堵の息を吐きながら呟く。これだけ取り揃えて、監査の結果をNGとされたらどうしようかと思っていたと話す。
対する大将は、吹雪に車椅子を押されながらも小さく溜息を吐いた。
「貴方は勝ち目のある戦いしかしないじゃない。今回の件も、口八丁手八丁で丸め込む気満々だったでしょうに」
「これでも俺はいつも全力でいい方向に持っていこうと努力してますよ。その結果が今回のコレです」
勝ち取った勝利に満足しつつ、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンにも労いの言葉をかける。
「2人とも、よくやってくれたよ。あれだけ揃っていれば、誰だって心配は無くなる。特に姉姫の方は、かの有名な中間棲姫だからね。信用させるには骨が折れるかと思っていたが、あの声色で敵対しているだなんて誰も思わないよ」
「そうでしょうね。私達は直に会っているけど、正直さっきまでの連中より信用が出来るくらいよ」
あまり他の者には聞かせられないようなことをビスマルクは口走るが、山寺提督は止めようともしない。むしろ聞かせてやりたいくらいに思っている。
事実、腹の探り合いをふっかけてくるのは人間ばかり。それに比べて、施設の深海棲艦達は、余程のことがない限りは嘘を吐くこともなく本心のみでぶつかってくるため、話していて気持ちがいい。監査としても心配が要らないのはいいことである。
「
「そこは要相談かな。あまり人数が増え過ぎてもよろしくない。それに、ここまで来ても黒幕は未知数なんだ。堀内提督の鎮守府で研究を続けているけど、それだけでは足りない」
ここで既に話をつけていた、堀内鎮守府からの技術提供のことが話題として出てくる。
あちらだけでは見当がつかないということで、山寺鎮守府の技術班も総出で、黒幕への対策──結界突破のためのアイディアを出すことになるだろう。
「まずは敵拠点への到達方法の開発、黒幕自体の能力解析、ここまでやって、ようやく五分五分だろうね。そこに、
「何も言い返せないわね。私達は噂で聞いているのと、あの映像を見ているだけだもの」
「対処法も正確にはわからない。そうなると、我々が迷惑をかける可能性はあるか」
納得するビスマルクと、残念そうに呟くグラーフ・ツェッペリン。最終決戦に素人が飛び込むようなものとなれば、自分達がやられるだけならまだしも、それが侵蝕に繋がり、多大な迷惑に繋がるとなれば、2人は渋々でも参加出来なくても仕方ないと割り切れた。
ここで繋がりを持てたのだから、最後まで付き合いたいという気持ちがあってもおかしくない。しかし、優先順位としてトップなのは、共に戦うことではなく確実に勝利すること。少しでも確率を上げるためならば、一歩でも二歩でも下がる。
悔しくないかと言われれば、勿論悔しいだろう。しかし、実力があっても泥に対する経験が優先されるのならば、より経験をしている者の方が確実。引き際を弁えていた。
「最終的な判断には私も口を出すと思うけれど、声をかける可能性が無いわけではないから、その時はお願いしていいかしら?」
フォローするように大将が2人に話す。しかし期待はするなとだけ忠告はする。
「ええ、それで問題ないわ。最優先は勝利することだもの」
「あの施設が平和になるのならば、我々は高望みなどしない」
勿論、期待などしていない。それでも、協力出来ることはしようと宣言した。
そのままの足で向かったのは、近場である山寺提督の鎮守府。次に行われるのは、技術提供。堀内鎮守府によって開発された、もしくは研究中の対黒幕の技術を、この鎮守府の技術班に読み解いてもらうためである。
ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンはここで別れ、大将と吹雪だけを連れて工廠へ。技術者といえば、やはり工廠にいるものというのは何処の鎮守府でも同じ。
「明石、いるかい」
「はーい、少し奥にいますので少々お待ちをー」
少しバタバタと音がした後、奥からやってきたのは、何処の鎮守府にもいる明石である。工廠を担当する艦娘は基本的には明石であり、事務をメインとする大淀と共にほぼ全ての鎮守府で活動中。山寺鎮守府も例外ではない。
だが、当然ながら艦娘には個体差があり、堀内鎮守府の明石が狂科学者気質なのに対して、大塚鎮守府の明石は比較的真っ当な職人気質。そこそこで特徴が変わってくる。
そして山寺鎮守府の明石はというと、まず外見からして少し違っていた。他の明石とは違ってメガネをかけており、白衣まで常備というどちらかといえば科学者気質。
「はいはい、何でしたか提督」
「さっき少し話したろう。その件だよ」
「別の私が作ったという技術の解析の件ですね」
堀内鎮守府の明石ほど
「大将、堀内提督に連絡出来ますかね。どちらかといえばあちらの明石ですが」
「ええ、早いに越したことは無いものね」
吹雪に持たせているタブレットを使い、堀内鎮守府へと連絡。あちらの明石とすぐに取り次いでもらい、明石同士が邂逅することとなる。
『ごめんねちょっとバタバタしてて』
タブレットの画面には、自分と同じ顔の艦娘が見たこともない装置を操作しながら何やら解析していた。その頭の上にはこれまた見たことのない妖精さん──龍驤が乗っており、その操作を補佐しているようにも見えた。
『っと、そちらの技術者も明石なんですね。初めまして、えーと、メガネの私』
「初めまして、裸眼の私。他の明石にも会ったことあるけど、なんというか、
『そうかな?』
話しながらも手は動きっぱなし。装置の中に入っている何かに対して分析をかけているようだが、山寺鎮守府の明石にはその内容がぱっと見ではよくわからなかった。
『あかん、明石、それはさっき見た結果や。もうちょい芯の辺……なんちゅーか、あれや、寄生虫の真ん中を見るべきや』
『もっと真ん中? 細胞分裂のど真ん中だから、染色体の何処かか。こんな小さいところのさらに小さいところってことだね。全体から見るよりピンポイントで見た方がわかること多いか。そうなると……もうちょっと小さめの装置が必要かも。龍驤、その辺作れる?』
『もうやっとる。勝手に開発設備使わせてもらっとるで』
画面の向こう側は鉄火場と言わんばかりに動き回っている。よく見れば、画面の端でチラチラと大淀も手伝いをしているのが見えた。技術面では協力出来ないからと、書類を片っ端から片付け、整理し、新たな道を割り出しているくらい。
さらには、誰も触っていないのにガリガリと動いている設備もあった。それは龍驤が
「これはまた……凄まじいですね」
『なるべく早く黒幕対策をしたいからね。あ、そうそう、そちらのアドレス教えてもらえるかな。研究の結果からアシストしてくれるんでしょ? データ送るから』
「あ、はいはい、すぐに」
同じ明石だからか、すぐに息が合う。データの転送をするために連携して、今までの成果と今やっている技術を貰っていた。
大将と山寺提督は、この光景を見て苦笑するしか無かった。特に山寺提督は、堀内鎮守府の明石のことは多少知っていたが、ここまでの者とは思っていなかった。
「……なるほど、ちゃんと読み解かないとちんぷんかんぷんですねコレ。本来の艦娘の技術から逸脱している部分が多すぎます」
クイッとメガネを上げて、送られてきたデータを熟読していく。その時にはもう周りの音が聞こえていない程に集中していた。アシストをするにしても、まずはその内容を正しく理解しなくては見当違いのことを言うことになりかねない。それは普通に迷惑である。
とはいえ、あまりにも普通ではないこのシステムは、製作者に聞かないとわからないことが多い。特に泥という艦娘にも深海棲艦にも無いようなシステムに関しては、熟読してもわからない可能性がある。それについては、堀内鎮守府の明石に説明を求めることになるだろう。
「明石同士で直接連絡が取れるようにしておくべきかもしれないね。堀内提督、出来るかい」
『端末があれば直通の通信も大丈夫でしょう。それをそちらが許可してくれるのなら』
「問題ないよ。会話の内容は当然記録するし、2人の明石がこの技術を悪用することは無いだろう。うちの明石も平和のために戦っているからね」
独自の通信となると、どうしても軍規やら何やらが関わってくるのだが、提督同士の合意と、明石に対する信用度、そしてここには2人に共通する上司となる大将もいる。
これだけ揃っていれば、全員が納得するカタチで研究を先に進めることが出来るだろう。ここに誰かを出し抜こうなんて考える者はいない。全員が平和のために行動をしているのだから。
『よっしゃ、追加のヤツ作ったで。染色体やったか、それの内部を確認出来るヤツやと思うがどうや』
『えーっと、うん、これなら見れるかも。やってみようやってみよう』
『大淀、すまんのやけど前のヤツどうにかしといてもらえるか。近くにあったら明石が何かやらかす。あと確実に別事に気をやる』
『はいはい、明石はそういうところありますからね。一つのことに集中出来なくなりますから、視界から外さないと』
画面の向こう側は、いつまで経っても燃え上がっているように見えた。これで平常運転だというのなら、逆にこの鎮守府に監査が必要なのでは無いかと感じるほどに。
「あ、そうそう、堀内提督。施設の監査の結果は、大本営も満場一致で合格となった。準備が整えば、すぐにでも彼女らを鎮守府に招待することが出来る」
『本当ですか! ありがとうございます』
「いやいや、俺の仕事はこういうことだからね。後から大塚提督にも伝えておくよ」
堀内提督の声色が明らかに喜び一色となった。施設のことを最も知っているのだが、それでも大本営が認可を出さない可能性も少なからずあったからだ。その心配も払拭されたことで、また1つ気が楽になったようである。
これで、残すところは黒幕対策1本となった。あまり時間はかけていられないが、確実に勝利出来るように、先に進めていきたいところである。
同じ顔の別人がいることは示唆されていましたが、ちゃんとお互いで話をするのは今回が初めて。明石と明石、共に技術者として、黒幕への対策を進めていきます。