朝食を終え、当初は農作業や漁の予定だったが、施設の危機が訪れているということで、すぐにトレーニングを始めることとなった。
黒幕の拠点へ向かう者達以外でも、この施設を守るために力を付けたいと思う者は自主参加でいいと決めたところ、まさかの全員参加。この施設に所属するわけでは無く、旅人として居候させてもらっている戦艦棲姫や、その相方として学んでいる空母棲姫も、このトレーニングには参加すると言い出している。
「私もこの場所は大切な場所だもの。旅をしていて、戻ってこれる場所があるというのは、モチベーションに関わるから」
「戦艦が、そう言うのなら、私も、この場所は、守りたい。何より、あの泥が来るのなら、駆除をしたいと、思う」
戦艦棲姫は元より、空母棲姫もやる気満々だった。この施設の中では瑞鳳、黒潮と並んで新人ではあるが、その力は姫級なだけあって、最初から相当なモノであるはず。
自身のトラウマとなっている泥を目の前にしたら錯乱しかねないが、それを抑えるためにも精神的に鍛えておきたいという考えである。そして、身体を鍛えれば心も鍛えられるというのもあった。
「みんなで一緒に遊ぶぴょん?」
「遊ぶというか、力を付けるのよ。もしここが襲われたら、私もMichelleも困っちゃうでしょ? そうならないように、撥ね除けるPowerをつけるの」
「ミシェルもココは大好きぴょん。ジェーナスちゃんがいるし、みんなもいるぴょん。みんな一緒が楽しいから、ミシェルも頑張るぴょん!」
この施設の防衛に関しては、ミシェルも乗り気である。自分の居場所を自分の力で守れること、そしてジェーナスと並び立てることに喜びを感じていた。
最初はその力を使って黒幕の居場所を探し出すという話が出ていたが、あまりにも危険であることと、鎮守府側でもその対策を研究中であるため、ミシェルが戦場に出ることは無くなった。やる気はあったが、ジェーナスがやめてほしいと頼んだことにより、ミシェルも残念に思いながらも素直に従っている。
代わりに施設の防衛という大きな役目を任されることになったため、さらにやる気を出している。戦い方自体をまともに知っているわけでは無くとも、その力によって役に立つことも確実にあるだろう。
「やることは割と簡単よ。スタミナトレーニング、筋力トレーニング、それとスパーリング。最後のは受けたいヤツだけ受ければいいわ。近接戦闘なんて出来るヤツの方が限られているしね」
施設の中でまともに格闘で戦うようなことをするのは、春雨、叢雲、潮の3人くらい。そのため、スパーリングは他の2つ以上に、必要だと思った者だけがやればいいと先に念を押す。
「順序としては、さっき言った順にするわよ。まずはスタミナ、次に筋トレ、最後にスパーリング。叢雲、それでも構わないかしら」
「ええ、問題ない。私にもスタミナだとか筋力だとかは必要だと思うから」
スパーリングを目的としている叢雲も、基礎的な部分を鍛えておこうとちゃんと考えている。スタミナが無ければ近接戦闘を続けることが出来ないし、筋力が無ければダメージを与えることが出来ない。誰も強くなるには大切なことだとしっかり理解していた。鍛えられるところは満遍なく鍛え、最終決戦に臨みたい。
「潮、昨日言った通り、スタミナトレーニングはアンタがメインでやってみなさい」
「はっ、は、はい……や、やってみます」
声が上ずっていたが、やると言ったのだからやろうと、恐怖を感じつつも頷く。勿論、潜水艦姉妹がサポートに入るし、飛行場姫も口を出す予定。
「妹姫、私も参加していいのよね」
「勿論よ。でも、アンタにそういうこと必要?」
「当たり前でしょ。私だって悔しい思いさせられてるんだもの」
戦艦棲姫も、一度侵蝕されているためにトラウマが刻まれている。その時は、自分で出来る限りをやっていたつもりだが、チームワークの前に倒れることになった。注意力が無いとかそういうことは無かったはずなのだが、それでも、視野が狭まっていたのかもしれない。
そういうところを鍛えるためにも参加表明。この施設を守りたいという気持ちだって、他の者と同じだ。
「それじゃあ、私は疲れたみんなを癒すために、いろいろと用意をしておこうかしらねぇ。疲れが取れそうなモノを作っておくわぁ。ありがたいことに、鎮守府のみんなから果物とかもいっぱい貰えてるから、何かしら出来るはずよぉ」
中間棲姫のサポートはそちら側。身を以て鍛え上げるのでは無く、終わった後の精神的な部分。まずは早速レモンの蜂蜜漬けでもとダイニングに向かった。
全員分となると相当な量になるだろうが、全く苦と思っていない。みんなのためにと、ニコニコしながら準備を始めた。
施設一丸となった実力の底上げ。それが今から始まる。
参加者全員がトレーニングウェアに着替えて施設の外に集合。その一番前に飛行場姫が立った。
「それじゃあ早速始めていくわよ。潮、まずスタミナを強化するなら何をするべきだと思う?」
「……走ることと……あと、
「そうね。まぁ後者は出来る子と出来ない子がいるから、前者が基本になるわね。ちなみにアタシは残念ながら陸上施設型っていう都合上、何をやっても泳げないから、やりたいと言われても教えることが出来ない。潜水艦の子に聞いてちょうだい」
つまり、昨日大鳳達がやっていたように、島をランニングして持久力を高めていこうということ。やることは非常に簡単なのだが、次の言葉により、非常に厳しいトレーニングになる。
「潮、
「……えと……それは先導という……ことですか?」
「それもあるけど、ちょっと耳貸して」
潮にコソコソと自分の考えたことを伝える。潮は驚きを隠さず、飛行場姫は少し悪い顔。
そして、伝えられたことを潮に発表させる。
「そ、その、私が……先導しますが、私に追いつけたヒトから、トレーニング終了、だそう、です……」
単純に、潮だけが逃げる鬼ごっこということになるらしい。海上は禁止で陸上のみ。持久力と脚力のみで行われるトレーニング。スタミナに関しては潮が追随を許さないレベルなので、全員をそこに合わせるという方針。他の者ならまだしも、スタミナ不足が露呈している混成組には、超過酷なトレーニングである。
それに、当然ながら飛行場姫がそれを命じるくらいなのだから、まともにスタミナがある者でも、そう簡単にはいかない。それを確信して、この方法を取った。
「範囲は施設の中以外。全部外でやること。トレーニング終了条件は、潮にタッチすることよ。潮が走り出してから10秒後にスタートでいいわね。それじゃあ潮、
「は、はい……それでは……逃げます、ね」
そう言うや否や、潮は全力でそこから逃げ出した。その瞬間、誰もが目を丸くすることになる。あっという間にその場からいなくなったのだ。
潮は飛行場姫の後継者とも言える程に鍛え上げられている。腕力のみならず脚力もだ。自分を守るために鍛えているため、防御性能だけではなく、
その潮を捕まえるのは至難の業。それを教えた飛行場姫ですら、全力で追いかけ回してようやくと言ったところ。
つまり、この施設内を全力で走り回ってスタミナを強化しろと言っている。ただ走るだけでは気が抜ける可能性もあるため、若干競技志向を持たせた結果がコレだ。
トレーニングと思えば苦しくなるかもしれないが、遊び感覚でやれば楽しく出来る。長続きさせるためのコツ。
「はい、10秒経ったわ。全員潮を追いかけて。当たり前だけど、艤装は使っちゃダメよー」
ニッコリ笑って手を叩いた。あの潮を捕まえろということで、一斉に動き出す。速さでどうにもならないなら頭を使ってでもタッチ出来ればいいのだが、そもそも追いつかなければどうにもならないので、まずは全員全力疾走である。
「ぴょん! 潮ちゃんすごい速いぴょーん!」
「Michelle、そんなに速いの!?」
真っ先に突っ込んで行ったのはミシェルである。反応速度もさることながら、初動がかなり速く、一気にその距離を縮めていく。ミシェルがここまで出来るとは思っておらず、ジェーナスも驚きながらそれについていこうと奮闘。
そしてみんながそれを追うカタチで走り出した。立ち止まっているようなものは誰もいない。最後尾にいるのは他の者の動きを観察したい春雨と、付き従う海風、
「ミシェルちゃん、あんなに素早いんだね」
「ですね。それに、楽しんでる感じに見えます」
トレーニングではあるのだが、ほのぼのとした雰囲気に心が和むような感覚を得る。
切羽詰まっていると言われればそうなのだが、施設全体で1つのことをするというのは、春雨がここに所属することになってからは初めてではなかろうか。一緒にご飯を食べる以外に、同じ場所に全員がいるなんてことはなかなか無い。
「艤装使っちゃダメってことは、私は脚の力を使うなってことだよね。そうなると普通かそれ以下になっちゃうけど」
春雨のスピードの根源は、脚の再展開の衝撃を使った跳躍である。艤装を使うなと言われれば、おそらくこれも使ってはいけないことになる。
屁理屈を言ってしまうと、艤装を使わないとそもそも移動が出来ないのが春雨である。この脚に関しても、艤装を使っているのでは無く、自分の身体能力の一種と言い張れるのだが、そこは真面目に、ただ走るだけでどうにかしようとする。
「それは仕方ないですよ。持久力を鍛えるためのことですから。でも、全力疾走しないと追いつくどころかどんどん離れていってしまいますよね」
「だね。でも、それが妹姫様の考えてるトレーニングだからね。走り回れば持久力も高まるよ」
話しながらも、集団からは離れない程度に速度を維持している。スピードだけならば現状ミシェルがトップで、その次が叢雲、そこに追いつきそうなのが常日頃からトレーニングをしている大鳳や、負けず嫌いなコロラド。
そこから少し離れて集団となり、後続として春雨達。少し遅めなのは、元々陸上どころか海上でもあまり活動することが無い潜水艦達。潜水艦姉妹は潮が酷い目に遭わないか少しハラハラしているようだが、伊47はなんだかこんな状況を楽しんでいるようにも見える。
「ヨナちゃん、大丈夫?」
「うん、まだ大丈夫」
春雨の問いかけに、笑顔で答える伊47。いつも水着な分、トレーニングウェア姿は新鮮だし、本人もこんな服を着るのは初めてだと言うほど。そしてそれ自体も楽しくて嬉しいのだと言う。
楽しそうということは、幸せアレルギーに障るのではないかと不安になるものの、伊47はまだ大丈夫だと走り続ける。スタミナの問題はあるとは思うものの、止める気は毛頭無いようだ。
「みんなでこうやって、同じ服着て同じことするのって、楽しいんだね」
「うん、私もそう思う」
「すごく、仲間って感じがして、ヨナ楽しい」
あまり楽しみすぎるとアレルギーが発症してしまうのでそこは程々になるのだが、なかなか出来ない団体行動をすることは、精神的な成長と癒しに繋がる。
「無理はしないでね。妹姫様も、流石にそこまで強要することは無いと思うから」
「うん、引き際はわかってるつもりヨナ。でも、今はもうちょっと楽しみたいヨナ〜」
少しだけ速度を上げる。みんなと一緒に同じように走ることで、この時間を満喫するようだ。
「……うん、私も結構楽しいんだ。潮ちゃんを捕まえられるかはさておき、こうやって施設のみんなが一丸となって同じことをするって、すごく楽しい」
「はい、私も春雨姉さんと同感です。こうやってみんなで一緒に鍛えるって、なんだか久しぶりな感じですもんね」
鎮守府にいた頃は、姉妹や他の仲間達と一緒に訓練をすることもあったが、この施設に来てからは全くそういうことはしなくなっている。だからか、春雨も自然と笑みが溢れていた、
「さ、じゃあ少しだけスピード上げてみよっか」
「はい、早く抜けられそうなら抜けちゃいましょう」
最終決戦までの短い時間ではあるが、こういうカタチででも一致団結出来ていることで、施設内の士気は青天井に上がっていく。
トレーニングウェアはご想像にお任せしますが、参加者はみんな同じモノを着ている感じです。ミシェルから戦艦棲姫まで、みんなお揃い……とはいかなくとも、近しい共通する意匠。