空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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訓練は続く

 スタミナトレーニングとしての鬼ごっこ。真っ先に抜けることになったのは、ちょっとした事故が重なった結果、偶然にもそこに居合わせた伊47となった。潮から抱き締めることになるというアクシデントではあるが、タッチしたのと同じ。

 

「ヨナは一旦外れて、こっちに来ておきなさい。あと、()()()()()()()?」

「うん、大丈夫。ヨナもちょっとは慣れてきてるヨナ〜」

 

 飛行場姫が心配しているのは、伊47の幸せアレルギーだ。このトレーニングに参加しているだけでも、仲間達と共に行動するという幸せを感じ、伊47には()になりかねない。最後の潮からの抱擁なんて、状況が状況とはいえ、アレルギーの発症条件に抵触する可能性は充分にあった。

 だが、今の伊47は顔色も悪くなく、消耗もここまで全力疾走したことによる疲労くらい。しかし、このまま幸せを感じ続けるとそのまま発作を起こしかねないので、ここで一抜け出来たのは伊47のためにもなった。

 

 実際、伊47はここ最近、幸せアレルギーの発症が少しではあるが緩和されている。理由はいろいろと考えられるが、そもそもの施設に所属する者が増えたことによる順応が大きなモノであった。

 本来ならそんなことでアレルギーが緩和されることなんてないのだが、伊47のそれは、体質と言うよりは精神的な部分が大きい。そのおかげか、完治はせずとも症状が軽くなることはある。

 

「それじゃあ、まだまだ時間はたっぷりあるから、続けていくわよ。潮は休憩ほしい?」

「い、いえ……大丈夫、です……。疲れはまだ感じていないので……」

「アタシはアンタが疲れてるところ見たことないんだけどね。じゃあ走って」

 

 コクリと首を縦に振った後、すぐさま走り出した潮。あっという間にその場から離れていく様は、あれだけ走り回って一切の休憩をすることなく再開しているとは到底思えなかった。

 

「うー、いっちばーんはダメだったけど、次こそはあたしが……!」

「気負ってたら2番も難しいかもしれませんよ」

 

 一抜けの座を手に入れることが出来なかった白露が悔しそうに呟くが、春雨があしらうように一言。

 

「むしろ、何番とか関係なく、チームワークを見せないと、潮ちゃんには追いつけませんし、タッチなんてさらに遠いです」

「だよねぇ。さっきみたいなワンマンプレイみたいなのは100%通用しないねありゃ。せめて2人で組むか、それでも足りないくらいか」

「がむしゃらに走っても無理です。誰かと示し合わせなくても、その行動に連携すればいいと思いますよ。白露姉さんはそういうの得意だったでしょう」

 

 少し話している内に10秒経過。作戦を立てる余裕なんて与えられず、2回戦がスタート。

 

「ミシェル、いっきまーす!」

 

 やはりと言っていいのか、まず駆け出したのはミシェルである。先程までと変わらず、潮と同じくらいの速度をしっかり出していき、正規ルートの先頭に立つ。ここは先程と変わらない。

 ミシェルには追いつけないかもしれないが、その保護者としてジェーナスもそちらについていく。先程までの全力疾走で消耗が見え始めているが、まだまだ行けると言わんばかりに縋り付いた。

 

 だが、他の面々は少し考えるようになった。2手に分かれて挟み撃ちにし、あれだけわちゃわちゃして追い詰めたとしても、潮自身もあらゆる手段を使って回避する。ただ避けるだけではなく、ジャンプまで含めた文字通り縦横無尽な動きをしてきた。

 そのため、それを封じる、もしくはそうされてもいいような追い詰め方をする方向にシフトしていきたい。しかし、先程と同じ手段はもう通用しないだろう。何故なら、潮は一度やられたことは忘れないから。

 

「……よし、今度はちょっと作戦を変えてみよう」

 

 春雨がその瞳を白く光らせた後、最善の道として選択したのは、またもやショートカットルート。正攻法、潮の走った道をそのまま走ってどうにか出来るものではないため、今回は最初から最短距離を割り出してその道を駆け抜ける。

 今度ばかりは半々ではなく大多数が春雨の選択した道を使うことにした。潮が駆け抜ける道よりも短い距離で無ければ、そもそも追いつくことすら出来ないのだから。それでも全力疾走を続けなければならないので、消耗はやはり激しいものになる。

 

「姉さん、次の作戦はどうするんです? これだとさっきと同じですが」

「ミシェルちゃんのおかげで潮ちゃんは正攻法のルートを使ってくれるから、さっきと同じように追い込むことは出来るけど、問題はそこからだね。四方八方を取り囲んでも避けちゃうから、どうにか隙を作るよ。そこで誰かに捕まえてもらうから」

 

 この言い分では、自分が先に抜けようというつもりは無いようである。他の者達を先に抜けさせることに専念する生粋のサポーター気質。

 スタミナはまだ充分保ちそうであるため、余裕があるのならまず仲間達の動きを観察する。春雨の目的はどちらかと言えばそちらだ。全員に対してサポートが出来るように、その行動の癖を見たい。そのためなら、別にすぐに抜ける必要なんて無いのだ。

 

 先程のタッチする瞬間に光の道が消えたのも、春雨がそう思っているから起きたことなのかもしれない。潮の実力もあるだろうし、別の要因はいくらでも思いつく。だが、もう少しみんなと一緒にこの時間を楽しみたいという気持ちも少なからずあった。それが反映されたかのような道。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()と言わんばかりである。春雨にとっても、仲間達にとっても、その道は最も求めているモノ。

 

「流石は姉さんです。自分を後に回してでもサポートするだなんて、海風は浅慮だったかもしれません。常に仲間のことを思いながら行動出来ることは素晴らしいことだと思います。でも、それだと姉さんはいつ抜けるのですか?」

「その辺りは多少見計らって、自分が厳しくなったらいくよ。今はまだ大丈夫だから」

 

 むしろ、スタミナトレーニングならば自分の限界まで走り回った方がいいと考えていた。ありがたいことに今はまだ限界が見えていないようなのでサポートに徹することが出来る。

 

 そうこうしている内に、再び絶好のチャンス到来。ショートカットをしたことによって潮に最接近する。ここからが本番。

 ここに来るまでにスタミナは持っていかれており、既に数人が脱落している状況。先程よりも取り押さえるのに使える人数は若干減っている。

 

「追いついたよ、潮ちゃん」

「ま、まだ、捕まるわけには、いかないから」

 

 ここからは先程と同じように全力疾走ではなく頭脳戦。牽制のしあいによる別方向のスタミナ消費が始まる。潮はそちら方面でも無尽蔵のスタミナを発揮する。

 

 正面から突っ込むだけでは意味がない。それならば、避けられる位置を固定する。これが常套手段だ。艤装が使えればいくらでもどうとでも出来るのだが、今はあくまでも身体能力一本でこの現状を打破する必要がある。

 先程は無理にタッチしに行って避けられ、そこから一斉にタイミングを見計らって突っ込むという手段を使うことになったが、今回はもう少し搦め手を使う必要があるだろう。それにも消耗したスタミナをより一層使うことになるのだが。

 

「こっち!」

 

 潮の利き手側から攻める春雨。そしてやはり、ここで光の道は途絶えた。まだ自分がタッチするタイミングではないということなのだろうと納得し、次の一手に託す。この行動をするからこそ、仲間達が抜けられるというのなら、春雨は喜んで自分を犠牲にするだろう。命のやりとりをしているわけではないのだから尚更だ。

 

「ま、まだ!」

 

 その手を即座に避ける潮。先程よりも俊敏に、大きく間合いを取ることで、先程のような取り囲まれ方をしないように。速さは今ここにいる者達の中でもトップクラス。その行動を瞬時に判断出来れば、そこに追いつける者は限られてくる。

 

「と、通り越しちゃいそうだっぴょん!?」

 

 その回避方向に、ミシェルが突撃していた。別に潮のことを見ていたわけではなく、楽しみながら走り込んでいたせいでブレーキが利かず、潮の背後から体当たりをするような状況になっていた。蹴躓いたことによって脚に対してのタックルになっている。

 当たりどころが悪ければ、腰をやってしまいそうな姿勢。いくら潮でも、これを喰らったらダメージを受けてしまう可能性があった。

 

「わっ、ちょ、ごめんね!?」

 

 潮はそれも咄嗟に回避する。ミシェルの声が事前に聞こえたために反応が出来た。軽く跳び越えるようなカタチでステップを踏み、ミシェルの身体を軽々と避けた。

 

「危ない危ない」

 

 そのミシェルは春雨がしっかりとキャッチ。潮に対するタッチにはつかっていないからという屁理屈を用意しつつ、再びヘッドスライディングをするようなことが無いように、義腕を少し伸ばしてミシェルを支えた。

 さっきはやろうと思ってやったことなので受身は完璧だったが、今回は勢い余ったような状態だったため、おそらく顔面から地面に突き刺さっていた。春雨が支えなければ、ミシェルは鼻血を出すくらいの怪我をする羽目になっていただろう。

 

「ありがとぴょん春雨ちゃん!」

「どういたしまして。気をつけてね」

「ぴょーん! 楽しくて周りが見えなくなっちゃうぴょん」

 

 楽しいと言っているのなら、それはそれでいいだろう。終始笑顔を絶やさないミシェルは癒しである。

 

「Michelle、あんまり無茶しちゃダメよー!」

 

 後ろから追いかけていたジェーナスも少し心配そうに叫んでいたが、大丈夫であることを大きく手を振って伝えたことで安心したようである。

 

 そうしている間にも、潮は申し訳なさそうにそこから逃走。トレーニングの最中ではあるため、やらねばならないことを全うする。

 だが、ここで若干迷いを出したことで少し動きが遅くなったため、今がチャンスだと追いついた者達が一斉に襲い掛かる。勿論それは潮の恐怖心を煽ることになり、せっかく落ちていたスピードが一気に上がる。

 

「さっさと捕まりなさいよ!」

「い、いや、嫌ですーっ!」

 

 怒りのままに突っ込む叢雲は、その圧を避けるために驚異のスピードで回避。槍が使えないことに苛立ちつつ、次の攻撃に転じる叢雲だが、やはりいつもの間合いと違うことと、触れることすら出来ない苛立ちで、動きは先鋭化してはいくものの、同じように潮も先鋭化されていくため、簡単にはいかない。

 

 しかし、叢雲がそうやって潮の意識を集中させているおかげで、春雨と海風が背後からの不意打ちを決める。

 

「ごめんね潮ちゃん」

「捕まってください」

 

 叢雲の同時に三方向からのタッチ。だがこれは先程も似たようなことが起きているため、潮は咄嗟に華麗に回避する。ジャンプで跳び越えると伊47と同じようなことが起きかねないので、そこは手を潜り抜けるようにしゃがみ込んで、スルリと抜けた。

 しかし、その時に自分の正面を見ていない。そこに誰がいるかはわからない。

 

「え、ちょっ、ぐえーっ!?」

 

 そして、潮の頭が近くまで来ていた白露の鳩尾に食い込むに至った。

 

「えっ、あ、あっ、ご、ごめんなさいーっ!」

「だ、大丈夫、いっちばーん美味しい思い、出来たから、ね」

 

 震えながらもサムズアップ。タッチしたのと同義となり、白露は二抜けとなる。

 

 

 

 

 春雨の行動は、これも光の道の通りに動いた結果。

 




ぐえーなんて叫べるのはここの白露くらいである。
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