空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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頼り頼られて

 鬼ごっこによるスタミナトレーニングが終了し、ここで一度休憩。全員抜けるまでやっていれば自然と時間も経ち、程よく昼食時となる。先に抜けた者達はある程度休息も出来ているため問題ないが、最後まで残っていた者達はまだまだ疲労が取れない。特に、スタミナ不足の古鷹はタッチした時点で疲労を訴えるように崩れ落ち、春雨達が手を貸して何とか施設に戻ることは出来た。

 

「ご、ごめんね……私、本当に体力無くて……」

「仕方ないですよ。そういう身体にされてしまってるんですから」

 

 ダイニングの椅子に座らせられて、ようやく一息吐けた古鷹。ここまで運んでくれた春雨と海風にお礼を言いながらも、自分の体力の無さを呪った。

 この施設の中でも、トップクラスに疲労しやすい身体にされている。全ては魂の混成が原因なのだが、どうしてもこれは払拭することが出来ない。トレーニングで少しずつ解消しようと努力しても、長期戦は出来ないようなもの。

 龍驤戦ではギリギリ保ったが、今度の最終決戦はそれ以上に過酷になることが確約されているようなもの。そんな中で、体力が保つかどうかはわからない。むしろ、保たない可能性の方が高いだろう。

 

「せめて、もう少し保てばいいんだけどね……。これだけ疲れてると食欲すら湧かないんだ……」

 

 不甲斐ないと苦笑する。別に古鷹だけがぐったりしているわけではない。同じようにスタミナ不足のコロラドだって、今は身体を動かしたくないと言わんばかりにじっとしている。

 コロラドが鬼ごっこから抜けた時は、叢雲と同時に攻めた時。口には出していなかったが、互いにどちらが先に抜けるかを競い合っているように見えたため、春雨が上手く動かして同時に抜けるように仕向けていた。

 だが、スタミナ不足かつ元が低速戦艦であるコロラドが、スピード自慢の駆逐艦と並んで動くのはかなり無理をするようで、終わった後に一気に疲労が来た様子。早めに抜けて休憩をしていたものの、簡単には回復しないようである。

 

「そういう子もいると思って、疲れが取れそうなお昼ご飯を作っておいたわぁ。ちょっと匂いが強いけど、効果は抜群だから期待してちょうだいねぇ。食べ始めたらモリモリ入っていくわよぉ」

 

 話しながら配膳する中間棲姫。監督役をしていた飛行場姫と、まだまるで疲れているように見えない潮がそれを手伝い、テーブルの上に並べていく。

 その料理は、疲れ切った身体に染み込むようなスタミナ回復ご飯。ニンニクが利いた焼き物や、酸味で回復を図っている酢の物、そして休息中にも食べられるようにと最初に作られたレモンの蜂蜜漬けなど、仲間達に今一番必要なモノを出している。

 幸いにも、この施設にいる者達は、食事での好き嫌いはない。一番そういうことを言いそうなミシェルも、元は生魚を食べていた駆逐イ級だったからか、なんでも美味しそうに食べる。そのため、好みまで考えずともみんなが喜んで食べていた。

 

「デザートも用意しておいたわぁ。これで頭の回転も良くなるでしょう」

 

 そこに甘味を加えることで、身体だけではなく心の回復も考えている。いつもより少しだけ品数が多いことで喜びもあり、いつも以上にこの食事の時間が賑やかに思えた。

 

 

 

 

 午後からのトレーニング、筋トレは少し休憩した後。食後すぐに動くのは身体のためにはならないということで、しっかり疲れを取った後からやることに。

 これはいつものことではあるのだが、農作業や漁とは違う、()()()()()()()による疲労であるため、すぐには回復しない。おそらく、()()()というのもあるだろう。

 だからか、一部の者は短時間でもと昼寝を始める者すらいた。グッスリ眠るわけではなくとも、それで多少は回復出来る。

 

「私も少し仮眠を取ろうかな……。結局最後まで動き回ってたし」

 

 春雨も少し眠ることで消耗した体力を回復しようと考えた。鬼ごっこを最後まで抜けることなく参加し続け、その時その時で潮にタッチするありとあらゆる手段を立案し、全員の動きをコントロールするかのように状況を進めたことで、心身共に疲労を感じてしまっているからだ。

 とはいえ、それが辛い疲れではない。やり切ったことによる充実感から得られる満たされたような疲れだ。忌々しいわけではなく、心地よさまである。

 

「姉さんは私達のことを思って最後まで残り続けてくれたのですから、仮眠くらいでバチは当たりませんよ。むしろ、次のためにも今だけはゆっくり眠ってください。姉さんが身体を壊したら意味がありませんから」

 

 隣の海風も、春雨の休息には賛成。今はただのトレーニング。しかも自主参加制なのだから、眠り続けて筋トレを休んでしまっても誰も咎めないくらいだ。スタミナトレーニングは疲れ果てていてもやめるとは言わなかったから続いただけ。

 そのため、海風としてはいくらでも休んでくれて構わないと心の底から言えた。眠いのならば眠ればいいと。

 

「うん……それじゃあ少しだけ。海風……ちょっと膝貸してね」

「え」

 

 何かを言う間も無く、春雨はその場で眠るために海風にもたれかかるどころか、膝枕の状態になってすぐさま寝息を立て始めた。

 見た目にはわかりづらかったが、余程消耗していたのだろう。徐々に人数が減っていったとはいえ、最初から最後まで自分以上に仲間のことを考えながら動き続けていたのだ。総合したら、古鷹くらいに疲れ切っていたのかもしれない。

 

 しかし、海風はそれどころではなかった。夜眠る時に抱き枕にさせてもらっているくらいのことをしているにもかかわらず、膝枕というのは今までやったことがなく、ここはダイニングであるため人目もある。別に恥ずかしいとかそういう気持ちは微塵もなく、むしろ愛する姉に頼られているも同然なので、もっとやりたいと思える程である。

 そのせいで、春雨の頭が自分の太腿に当たった時点で奇声を上げかけた。『え』で済んだのを褒めてほしいレベル。

 

「あ、春雨寝ちゃった?」

 

 春雨の獅子奮迅の活躍を早々に抜けたことで見守っていた白露が、少し心配になったのか様子を見に来た。

 同じダイニングにいたためチラチラ目で追っていたのだが、すっと視界から消えたため近付いたら膝枕をしていたという流れ。

 

「え、と、その、はい」

 

 春雨を起こさないように大きな声を出さず、しかし身振り手振りで今の心境を表現していた。頼られている喜びと、ゆっくり休ませるための緊張、そして大きな興奮。海風はその感覚で顔を赤らめ、しかし春雨の眠りを邪魔するわけにはいかないと慎重に慎重を重ねている。

 

「鬼ごっこの時、凄かったもんねぇ」

 

 白露もその辺りは配慮して小声で話す。隣に座ろうともせず、眠っている春雨の顔を見て穏やかな笑みを浮かべた。4人分の気質が全て、春雨の奮闘を称賛している。

 

「はい……無理をしているわけでもなく、それでも仲間のことを一番に考えて、ずっと動き続けていました。私達には見せなくても、姉さんは私達よりも何倍も頭も使っていて。こうなってしまうのも当たり前なんだと思います」

「だねぇ。本来の自分を見つめ直せって言ったのはあたしだけど、それで消耗しすぎるのは予想外だったなぁ」

 

 今までやれていたことを思い出してやってみろと話しただけのつもりが、思っていた以上に出来ており、しかも春雨が得た『辿り着く力』まで組み込んで、さらに成長している。まだそれに身体が追いついていないのだろう。

 これをぶっつけ本番でやっていたらどうなっていたのだと少し怖くなる。黒幕との最終決戦で猛烈に消耗し、戦闘中にまともに動けなくなろうものなら、そのまま死まで見えてきてしまうのだ。ここでこれを知ることが出来たのは運が良かった。

 

「姉さんだったら、これも順応してくれるでしょう。そしてきっと、黒幕との最終決戦ではその力を存分に発揮してくれます。私達を導いてくれる女神ですから」

 

 今の春雨ならば、黒幕にも確実に通用する。そう確信したような声色で話す海風。白露もそうであってほしいと願う。

 

「アンタも少し寝たら? 春雨に追い付かなくちゃなんだから、疲れてるでしょ」

 

 海風だって、鬼ごっこでは春雨をサポートするために最後まで残り続けている。春雨ほどの疲労はなくても、眠ってもいいくらいに疲れはあるはずだ。

 

「いえ、春雨姉さんをその時間に起こすためにも、私はこのまま起きておきます。休憩後まで眠っていたら、春雨姉さんが悲しむでしょうから、キチッと時間に起こさなくちゃですよ。それに、初めて春雨姉さんを膝枕したんです。この太腿に感じる頭の重さや、この寝息を堪能せねばいけませんし。トレーニングウェアは薄着なので、春雨姉さんの息が私に直接かかるんです。それはもう天にも昇る心地で、普段夜に眠っている時よりもレアな体験なおかげで、海風はもう、海風はもう」

「はいはい、やっぱりアンタも寝た方がいいよ。あたしが起こしてあげるから、ちゃんと休みなさい」

 

 疲れで海風はいろいろとまずいことになっていそうなので、白露が強制的に眠らせることにした。本当なら思い切り引っ叩いて強引に意識を飛ばすまで考えたが、流石にそれは可哀想なので、白露が隣で見守ることで寝させることに。

 

 実際、海風も大分疲れてはいたため、落ち着けるタイミングが来た時点でそのまま眠りに落ちた。春雨もそうだが、海風も相当に無理をしていた。春雨に追い付こうと躍起になっているのだから、必要以上に動いている。それを春雨に勘付かれないように隠して。

 勿論、春雨は海風が無理をしているのは察している。それでも、自分のためにこうしてくれているのが嬉しくて、何も言わずにいた。海風の一緒に歩いていきたいという意思も察していたから。

 

「全く、あたしの妹達はどうしてこう、無理をしたがるかな」

 

 2人とも眠りに落ちたところで、白露は独りごちた。

 

 

 

 

 その小さな睡眠は、休憩時間ギリギリまで続いた。しっかり白露が起こし、次のトレーニングを始めるぞと促す。

 

「んん、んぅーっ、なんかすごくスッキリ出来た気がする。ありがとね、海風」

「いえいえ、私も少し眠ってしまいましたが、この幸せな時間を堪能出来ました。姉さんの温もりは女神の抱擁みたいなものです。私には特に落ち着けるものですから、これからもこんな感じで頼ってくれて何も問題はありませんよ。むしろどんどん頼ってください。私の安眠にも繋がりそうですしね」

 

 心身共に疲れが取れているような表情の海風に、春雨も安心。自分が率先して休むことで、海風も休んでくれると思っていたが、見事にその思惑は当たった。

 頼り頼られて生きていくことで、身体だけでなく心も癒やされるということを、改めて実感することが出来たようだ。

 

「それじゃあ、次は筋トレだね。スタミナと違って純粋に力だから、これはこれでまた違うところが疲れそうだね」

「ですね。春雨姉さんも私も、筋力というジャンルだと少々厳しいと思うので、頑張っていきましょう」

「だね。午後も頑張ろう」

 

 

 

 

 こうして2人の絆は育まれ、姉妹愛はより強固なモノとなる。白露も、妹達の成長を嬉しく思いながら見ていた。

 この絆は二度と切れることは無いだろう。一度目のような強引な手段であっても、もうあんな悲惨なことにはならない。

 




春雨と海風の絆はより強く。お互いを頼り合うことで、さらに前にすすんでいきます。春雨の力は、心に影響されるのかもしれません。
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