空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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協力者達

 施設でトレーニングが行なわれている裏側。鎮守府側でも、最終決戦に向けての準備が続いている。龍驤の泥、体組織を研究して、黒幕対策を開発するのとは別に、誰が決戦に出撃するかというのも決めなくてはならない。

 勿論、今回も出し惜しみなんてしていられない。少数精鋭なんて言っていられないだろう。しかし、あまりに大人数で向かった場合は、それはそれで鎮守府の防衛に穴が空いてしまうし、何より今回は戦力を3つに分散させる方向で考えていた。

 

 1つ目は勿論、最終決戦に参加する者。大塚鎮守府へと出向し、そのままその本拠地を襲撃し、この戦いを終わらせるために行動する。ここが主戦力となるのは明らかであり、出来る限りの最高戦力を注ぎ込む。

 2つ目は、施設周辺の哨戒。当然ながら決戦中であっても施設が襲撃される可能性がないとは言えない。ただでさえ、戦力が施設から離れることになるのだから、守るための人員は減る。充分すぎる力を持っているとしても、あちらは未だ何をしてくるかわからない。ならば、守りを固めるのは間違ったことではない。

 3つ目は鎮守府の防衛。今でこそ泥を受け付けないバリア的なモノがあるとはいえ、あちらは艦娘に恨みを持つ者。大塚鎮守府も堀内鎮守府も自分に逆らう者達として、施設と同様に侵蝕を狙ってくる可能性がないとは言えない。そのため、守りも必要になる。

 

「こう考えた場合、決戦に向かってもらうのは当然、対地攻撃が可能な者になる。侵蝕された者に対しての戦闘に参加していて、かつ対地攻撃が可能な者となると……」

「駆逐艦、つまり私達ですね」

 

 提督の言葉に自信を持って答える五月雨。龍驤を筆頭にした侵蝕された者と戦ったことがある者から選出するとなればかなり限られてくるのだが、特に得意であろう者とするならば駆逐艦、さらに限定するならば、山風と江風、そして荒潮。

 小型艦ならばほぼ確実に装備が出来る、対地攻撃の代表格といえるロケットランチャー、WG42(ヴェーゲー)に加え、上陸用舟艇や内火艇が装備出来るのは、この3人のみ。江風は内火艇を装備することは出来ないのだが、山風と荒潮はどちらも可能。ある意味、最も火力が出せる者と言えるだろう。

 

 金剛や比叡のような戦艦も、三式弾による対地攻撃が可能であるため、その火力も相まって有用。空母は対地攻撃よりは、陸上施設型から繰り出されるであろう空爆を抑え込むために必要。

 結局のところ、今までのメンバーが全員採用レベルであるということに他ならない。

 

「山風と荒潮は確定だと思っている。カミ車(特二式内火艇)と八九式、それにWG42(ヴェーゲー)の併用が出来るからね」

「ですね。対地特化出来るのは山風と荒潮ちゃんだけです。次点が江風ですけど」

「ああ、だが対地ばかりではおそらくダメだ。満遍なく、全てに対応出来る方がいい」

 

 五月雨と相談している中、タブレットが鳴り響く。通知先は、大塚鎮守府。決戦が近いということで、部隊のことについての相談は頻繁に行なっているが、今回もおそらくそれだとすぐに取る。

 

『すまない、また例の件だ』

「問題ないよ。こちらもまだ悩んでいるところだからね」

『こちらでは戦力増強の目処が立った。大和を改二とする方針で決まったことを伝えておく』

 

 大塚鎮守府の最大戦力である大和。今までのままでも相当な実力であり、火力は改二改装を受けずとも並以上、トップクラス。大塚鎮守府では、ここぞという時に投入される存在。今回もここぞと言える場面であるため、大和が出撃するのは確定だった。

 その大和が改二改装である。今でさえも鎮守府ではトップと言える力を持っているのに、さらにというのだから恐ろしい。無敵とは言えずとも、敵に同情してしまうほどの火力を手に入れることだろう。

 

「相当な資源がかかるんじゃないかい?」

『勿論。あの大和が改装するんだ。それ相応のコストはかかるが、ここで躊躇うのは合理的ではない。出来る限りを全てやらなければ、黒幕も討つことが出来ないだろう』

「全くもってその通りだ」

 

 大和を改装したことによって得られるその力について聞いていくと、今回の戦いにあまりにも適応出来ていて驚いた。

 

 大和の改装は二種類存在しており、その片方、改二重と呼ばれる重武装タイプは、言ってしまえばまさに器用()()。低速であることが据え置きなだけで、砲撃以外にも対潜、対地、対空と、逆に何が出来ないのだと言われるくらいの超万能航空戦艦へと生まれ変わる。

 そのうちの対地、ここが今回の戦いに関わってくる。堀内提督が山風を部隊に入れることを確定としていた理由を、大和がやってのけてしまうのだ。この戦いに絶対に必要不可欠と断言出来る。

 

『こちらの部隊は、大和を主体としたモノになるだろう。まぁ、ほぼ確実に今の調査隊の面々になるだろうが、当然こちらの鎮守府の防衛も必要になる。近場にあるのが仇となりそうだ』

「ああ、それは僕も思っているよ。正直なところ、今何も起きていないことが逆に怖いくらいだ。こちらよりもより堅牢な防衛が必要になるだろうね」

『鎮守府を守るための何かが開発されたら、優先的にその情報を回してもらえると助かる』

「勿論だとも」

 

 黒幕の拠点に近い位置にある鎮守府というだけで、いつどうなってもおかしくない状況にあるのは確かだ。当然ながら既に多種多様な泥対策は配備されており、泥を感知するメガネや、泥刈機のアップデートも既に対応済み。

 大塚提督の方針もあり、情報さえ貰えれば、鎮守府で全て開発して実装する。今回の泥対策に関しても、作り方を聞いて大塚鎮守府の明石が開発したものだ。四苦八苦しながらも完成品を作り上げる手腕は持っているため、そういうことが可能だった。

 0から1を生み出すのが堀内鎮守府の明石ならば、その1を確実に10に出来るのが大塚鎮守府の明石。ただし、本人はそれがそうなる理由はイマイチわかっていないという実情はあるが。

 

『例のバリアの方は、正しく稼働している。そのおかげで、泥の末端が鎮守府に忍び寄るようなことは無いだろう。しかし、それすら通用しないモノがある可能性は高いのだろう?』

「ああ、いわゆる『本体』は何とも言えない。今も龍驤の身体を使って研究中なんだが、やはりと言っていいのか、構造が今までの泥と若干違うようなんだ」

『だろうな。侵蝕と乗っ取りは別物だ』

 

 これまでの研究で判明したことは、やはり黒幕自身を構成する泥は、今までの侵蝕性の泥とは似て非なるモノであるということ。それがわかったのは、今でも行なわれている龍驤の核への調査である。

 恐ろしいことに、その核だけならば、泥を感知するメガネでは()()()()()()。あくまでも末端を感知することしか出来ないのである。末端が体内に巣食っているからその居場所がわかるというだけで、本人の構成は別モノであるということに他ならない。

 

『そこは申し訳ないがそちらに任せる』

「任せてほしい。なるべく迅速にそちらに提供出来るように努力しよう。研究をしているのは明石だが」

 

 一旦ここで通信終了。大塚提督から齎された情報は、大和を改二改装することにより、強力な戦力として投入すること。それを視野に入れた状態で、堀内鎮守府からも出撃させる艦娘を決定する。

 

 

 

 

 今まで以上に慎重に編成を考えられているが、艦娘達の方はいつ誰がどのように選ばれてもいいように、日々の鍛錬を怠ってはいない。

 特にやる気を出しているのは、今回の事件のせいで姉妹の半分以上を失った白露型。今まででも強大な敵だったのだが、その首魁である黒幕との最終決戦なのだから、鍛錬に気合が入るのもおかしいことではない。

 

「ふむ、いいじゃないか。艤装出力に制限をかけた状態で、この武蔵の砲撃をここまで回避出来るようになるとは上出来だ」

 

 海上では、武蔵による演習が繰り広げられていた。それを受けているのは、江風と荒潮。今武蔵が言った通り、わざと艤装の出力を半分程度に抑え込み、その状態で武蔵に立ち向かうことで、実際の黒幕との実力差を再現していた。

 100%の出力でも苦戦するのに、それを半分に落とすとなると、そうそう上手くいくモノでは無くなる。攻撃するにも回避するにも、先読みや要領の良さがどうしても必要になってくる。

 しかし、それくらいしないと黒幕との戦いは互角にもならないだろうと考えてのことだ。そもそも艤装無しで大井からの砲撃を回避するというかなり無茶な訓練をし続けていただけあり、これはそれの延長線上とも言えた。

 

「はぁ、はぁ、これはこれでキツいぜ……」

 

 額から流れ、顎から落ちる汗を拭いながら、江風は少しだけ休憩。疲れてはいるがまだまだやれると、その目に宿る闘志は一切失われていない。

 

「でも、強くなれてるって実感出来るわよね〜」

 

 対する荒潮は江風ほどではなく、いつもの笑顔を絶やさない。疲れていないわけでは無いのだが、短期間で改二改装まで成長した経験があるおかげで、急激な訓練でもそこまで表情に出さないでいた。

 

 勿論2人とも、武蔵からの砲撃をモロに受けているため水浸し。直撃を受けることもあったため、痣まではいかないまでも、普通に打撲のような痛みもあった。

 合間合間に休憩を挟んでいるものの、それでも武蔵を相手にするという圧で、精神的にも疲労を感じる。

 

「最初は無茶無謀な手段だと思っていたが、貴様らには有効な手段みたいだ。私もここまでやるとは思っていなかったぞ」

「こっちは結構絞り出してンだよなぁ。武蔵さン、一応聞きたいンだけど、加減とかしてくれてンのかい?」

「何を言っている。私が加減出来るように見えるか」

 

 自信満々に言われ、考えるまでもなく手加減なんて微塵もしていないとすぐにわかる。徐々に慣らしていくなんてことが出来たなら、始めたばかりの頃に出力の下がり方を確認している時に手を抜いてくれるだろう。最初から全力全開で砲撃を放ち続けている時点で、手加減という言葉を知らないとすら言える。

 荒潮は改二に上がるまでにそれを経験しているため、何も驚くことはなかったのだが、江風は随分と動揺したものである。実戦ではこうはいかないと容赦なく撃ってくる武蔵にギャーギャー言いながら回避を続けた。

 

「私も少し気合が入ってしまっていてな」

「そうなのかい?」

「ああ、協力する鎮守府には大和がいるということでは無いか。次の戦いには当然出てくるはずだ」

 

 大和はご存知の通り武蔵の姉。しかも、今はまだ伝えられていないが、武蔵は姉に改二が実装されたことも知っている。その大和が改装されているかどうかはさておき、大塚鎮守府でも主力戦艦として戦っていると聞いたのだから、共に戦場を駆け抜けることもあるだろうとやる気を出していた。

 無論、堀内提督が武蔵を絶対に編成するとは限らないのだが、編成しない可能性は極めて低い。資源を理由に出し惜しみするなんて選択肢は、とっくに失われているのだ。泥バリアの装置の段階で、その辺りの価値観は若干壊れている。

 

「今ならば、大和と一斉射くらいは出来るだろう。くくく、胸が熱くなるというものだ」

「一斉射?」

「簡単に言えば、私と大和が2人揃って目の前の敵に全力で砲撃を放つというだけだ。だが、破壊力は他の追随を許さん。今回は、それくらいやっても斃せるかわからないような相手だからな」

 

 火力は艦娘最強。あらゆる敵を焼き尽くす、大和型姉妹の全力一斉射。今までは他の戦艦に後れを取っていたところもあるが、これにより名実ともに最強と言える存在となっただろう。

 

「実戦の前に一度大和と会ってみたいものだ。提督に頼んでみるか」

「いいかもしれないわ〜。決戦に出るヒト達で集まって、みんなで打ち合わせとかしておいた方がいいものね〜」

「だな。連携は意思の疎通が必要不可欠だ。ぶっつけ本番で上手くいくようなことなど、まず無いだろう。ただでさえ、まともに顔を合わせたことのないようなヤツとはな」

 

 この武蔵の言葉がきっかけとなり、堀内鎮守府と大塚鎮守府の合同演習がすぐに設定されることになる。共闘するのなら、最初から顔を合わせておくべきであるというのは、誰だって考えること。

 

 

 

 

 そしてそこには、施設からの参戦も考えられていた。初めての深海棲艦の来訪は、決戦の時ではなく、その合同演習となるだろう。

 時間はないが、焦っていては上手くいかない。確実に勝てる見込みを作っていく。

 




大和も武蔵も、一斉射が入る前は高火力だけど資源が……みたいなイメージだったけど、大和改二と同時に一斉射が実装されて、名実ともに最強姉妹として君臨するようになった気がします。ただし資源の吹き飛び方からは目を瞑る。
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