空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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交流の場

 春雨達は久しぶりの故郷を満喫。短時間であっても、とても有意義な時間を過ごすことが出来ていた。怒りが溢れている春雨も、失われていた本心からの笑顔を取り戻し、心が癒される。

 白露も海風も、ここに戻ってこれたことを喜び、戦いが終わったら再配属しようという話となった。

 

「あ、そろそろ来ますね」

 

 春雨が直感的に、大塚鎮守府からの艦娘が堀内鎮守府へとやってくることに気付いた。そこから少しして叢雲が感知。そしてすぐに、水平線の向こう側に1つの部隊が現れたことが、目視でもわかるところまで来ていた。

 そのうちの2人は、春雨達も知っている鹿島と雷。残りの4人がまだ顔を合わせたことのない艦娘達。江風や涼風は、大塚鎮守府の侵蝕事件の解決に向かっているため、そこで顔を合わせているものの、関係はそれっきり。その時には多少のケアに参加したものの、そこまで時間も使っていないため、顔見知り程度である。

 

「くくく、来たか!」

 

 この到着に一番喜んでいたのは、武蔵である。改二改装が施されたことにより、最強の座に着いた姉の姿を、今か今かと待ち侘びていた。その力を確かめたくて仕方ないと、艤装まですでに装備して仁王立ち。

 

「はっはは、凄まじいな。ここから見てもわかる。なんだあのデカい艤装は。私のモノよりも派手じゃないか。あれは相当な力を持っているぞ」

 

 遠目でもわかるレベルでその大きな艤装が目に入った。駆逐艦くらいならば両サイドに乗せることが出来てしまいそうな程に巨大な主砲は、本人が言うように武蔵のそれを一回り大きくしたくらいに見えた。それが、艦娘の中で名実ともに最強と名高い存在、大和である。

 それに輪をかけて目立つのが、羽織っているコートのような上着。その大型化した主砲すら呑み込むように広がり、まるで一輪の花のように感じる。それも相まって、あまりにも巨大である。深海棲艦と比べると同じくらいのモノはそれなりにいたりするのだが、艦娘であのサイズは凄まじい。

 

「あー、川内さンと長波がいるな。あン時のメンバーがそのまま来てくれてンのか」

「夕雲もいるからね。あれかな、侵蝕された恨みを晴らすって感じかな」

 

 江風と涼風が反応するのは、その大和の少し前を航行している者達。江風が島風と共に撃破した川内と長波、涼風が鎮守府内を治療して回っている時に真っ先に発見した夕雲。一緒にいる五月雨としても、大和も執務室前の攻防戦で相対した相手であるため、顔見知りを見たときのようなちょっと喜んでいるような表情。

 

 全員が全員、一度侵蝕された経験があり、黒幕に対して因縁がある者達。ある意味、この最終決戦に招かれるべき者達である。

 

「大塚鎮守府より、旗艦大和、並びに随伴艦5名、到着いたしました。本日はよろしくお願いいたします」

 

 工廠に到着するや否や、ビシッと敬礼をして堀内鎮守府に挨拶をする大和。その凛とした姿に、そこにいた者達はおおと感嘆の息を漏らす。

 

「よく来てくれた。歓迎するよ」

「我々も胸を借りるつもりで参りました。決戦として相手取る黒幕との戦い方は、こちらはまるっきり素人ですので、是非ともご教授いただければと」

 

 今回の本題は演習。既に知る者と戦い、互いの力を把握すること。連携にも繋がるため、出来る限りの時間を、有意義に使いたいと考えていた。

 

「それと、もう一つ」

 

 チラリと視線が春雨達の方へと向く。そして、ニコリと笑みを浮かべた。

 

「初めての深海棲艦との共闘です。無論、その心は艦娘であると理解していますが、戦い方は艦娘とは似て非なるモノと聞いていますので、そちらを見せていただきたいですね。決戦では共に肩を並べて同じ結末を求める者ですから」

 

 当然だが、大塚鎮守府に所属する者達は、堀内鎮守府の艦娘と同じで、穏健派の深海棲艦には肯定的。自分達が侵蝕されたという経験もあるためか、善なる者であることはすぐにわかる。

 その筆頭である春雨がそこに立っているため、大和は堀内提督に許可を貰い、春雨の方へ。そして、視線を合わせるためにその場で膝をつく。

 大和のその行為を見て、海風は警戒心を高めた。グラーフ・ツェッペリンの()()()()()春雨への行為を、この大和もしないとは限らない。

 

「貴女が春雨ね。話は聞いています。今回はよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。どのように聞いているのかは知りませんが」

「侵蝕され、命を落としそうな艦娘を救うために奔走した映像を、私達も見せてもらいました。それに、そのときの詳細な様子を、現場にいた雷から聞いていますしね」

 

 大和の後ろで雷がサムズアップしていた。あの時にとにかくサポートを続けていた雷が、周囲をよく観察し、その時に起きたことを全て嘘偽りなく伝えたという。

 大本営に提供された映像もあったため、春雨の奮闘は関係者なら誰でも知っていることだった。大塚鎮守府は、この雷の説明も含まれるため、他より少し詳しい。

 

「種族なんて関係ない、同じ明日を見ている者同士、手を取り合いましょう」

「勿論です。貴女方は私達を敵として見ていないんですよね。ならば、手を取り合うのが一番いいですから」

「敵として見るなんてとんでもない」

 

 ニッコリ笑って手を差し出す。春雨もそれに応え、その手を取った。義腕の硬い感覚だろうとも、その温かさは春雨の優しさを直に伝えていると思い、大和はこの深海棲艦達が味方になってくれて本当に良かったと実感する。

 これだけで済んだことに、海風も内心ホッとしていた。当たり前のように手の甲にキスをするような輩が何人もいたら困る。

 

「君達は少し休憩してくれればいい。演習はその後にやろうか。既にやりたくて仕方ないという顔をしている者がいるが」

 

 提督が全て話す前に、ズンズンと前に出てくるのは武蔵である。この時を待っていたと言わんばかりに大和の前に立つと、ニカッと笑って拳を突き出す。

 

「待っていたぞ大和。貴様とまた肩を並べて戦えるのを楽しみにしていた」

 

 実際、大塚鎮守府の大和と大将の武蔵は面識自体は無いのだが、姉妹ということで、お互いが何者かは理解している。

 そんな武蔵の態度に、大和は優しげな笑みを崩すことなく向き直った。

 

「私もよ、武蔵。話には聞いていたけれど、ここで会うのは初めてよね。一緒に、決戦に挑みましょう」

 

 突き出された拳に、大和も拳を突き合わせる。姉妹というより戦友。しかもこの2人に関しては初対面にもかかわらず、ここまでノリが良く意気投合出来るのは、やはり姉妹だからか。

 

「休んだ後でいい、その力を我々に見せてくれ。どれほどのものか、肌で感じてみたいものだ」

「ええ、試運転もしているから、今日の演習では力を十全に発揮することも出来るでしょう。でも、そこまで高望みはしないでね?」

「謙虚だな。だからこそ大和か」

 

 見方によっては一触即発なのだが、仲違いしているわけではなく、単に互いのことを理解しているが故にこういう話し方になるだけ。特に武蔵は好戦的であるため、姉に対してどころか、誰に対してもこういう態度である。

 

「みんな、久しぶり」

 

 一方、随伴艦5人には、古鷹が駆け寄っていた。鹿島と雷とは既に面識があるが、残りの3人とは今の状態では初顔合わせ。話には聞いているし、戦闘中の映像でもその姿を確認しているのだが、直に見るとやはり変わり果てた姿であるとわかる。

 声もその要素も何も変わっていないのに、今の古鷹は深海棲艦。それを嫌と言うほど見せつけてくるのが、その色味。髪の色や肌の色が艦娘とは一線を画しているために、どうしても艦娘ではないと伝わる。

 

 古鷹としては、過去から何も変わっていない体裁で挨拶をしたものの、心の中ではかなり緊張していた。施設で鹿島と雷と再会出来たことで多少は慣れていたものの、その2人とは考え方が違うかもしれない。

 元々の仲間から忌避されるような目で見られたら心が折れかねないが、古鷹自身はそう見られてもおかしくないことをしているのだから仕方ないと、いろいろと腹を括っている。

 

「……いやぁ、映像で見ていて知ってたけど、直に見るとまた違うね」

 

 早速口に出したのは川内。古鷹の姿を頭頂から爪先まで舐めるように眺め、しかし何処か納得したように頷く。

 

「見た目は変わっても、古鷹さんは古鷹さんだ」

「そ、そうかな」

「そりゃあね。大分離れてたけど、組んで戦うことも多かったんだからわかるってもんよ」

 

 他の者達もうんうんと頷く。見た目が変わっても中身は変わっていないと確信している様子。

 

「鹿島は古鷹さんと共闘したんでしょ? どうだったの?」

「凄まじいですよ。今の古鷹さんは戦艦ですし、出来ることが幅広くて。見た目はそのままスペックは戦艦レ級ですから」

「レ級かぁ……とにかくヤバいってことだ。これはまた一緒に戦えるのが楽しみになってきたよ」

 

 能天気に、しかし力強く、川内は意思を示す。古鷹のことを悪くなんて思っていない。仲間なのだから。

 

「古鷹さんも演習に参加するんだろ?」

 

 続いて長波。今の古鷹に大きな興味があるらしく、むしろ川内よりも前に出て古鷹の身体に触れる始末。触れた感覚は艦娘と何も変わらないため、おおと声を上げつつも、古鷹はやっぱり古鷹であると触覚からも理解していく。

 古鷹としては、なんの気兼ねなく触れてこられるのは悪いことではない。深海棲艦だからというだけで近付かれないなんてことがあった方が悲しい。雷が初見で抱き着いてきたくらいなので、触れたくないみたいなことは無いとは思っていたが。

 

「そのつもりだよ。ただ私、物凄くスタミナ不足で……」

「マジかぁ。でも、前哨戦ではしっかり戦えたんだよな?」

「そのあと施設で動けなくなっちゃって」

「そんなにか! うへぇ、じゃあ結構大変だ」

 

 やはり距離感は何も変わっていない。むしろ、鎮守府にいた時よりも距離が近いまである。

 物珍しいモノであるから、それを知りたいという気持ちは強くなってもおかしくない。今の長波はその気があるようだった。

 

「こらこら長波さん、あまり古鷹さんを困らせちゃいけませんよ。そんなにベタベタと」

「あ、悪ぃ悪ぃ、つい。ごめんな古鷹さん、気に障っちゃったか」

「ううん、大丈夫。興味があるのもわかるから。こんなに肌が白くなっちゃってるし」

 

 長波の距離感を夕雲が諌めるものの、その変わりようは夕雲も少しは興味がある様子。

 

「……肌がきめ細かくなってる……それにすごく綺麗な髪質。常々、戦闘中でも思っていましたけど、深海棲艦の身体は綺麗すぎる気がします。ちょっと羨ましいです」

「夕雲姉、ヒトのこと言えんのか」

「おっと失礼。あまりにも古鷹さんが綺麗になっていたので」

 

 深海棲艦化をこのように言われたのは初めてだったため、古鷹は少しだけ頰を赤らめていた。左眼の輝きは少し強くなる程。

 

「スタミナ不足というのなら、節約出来る戦い方というのも考えた方がいいでしょう。こちらでも考えておきましょうか」

「あ、お願いします。自分でもトレーニングでスタミナを鍛えているつもりなんですが、短期間ではなかなか」

「なるほど。ならば、練習巡洋艦としていろいろ考えておきますね」

 

 鹿島としては、古鷹のこの症状を改善するための案を出すという。一度背中を合わせて戦った分、古鷹には親身になるようだ。

 

 

 

 

 一度共に戦っているだけあり、関係は良好。交流戦も、楽しくすることが出来そうである。

 




今回の大和は改二重。装備しているのは三連装砲なので、武蔵よりも巨大な艤装になっています。雷くらいなら普通に乗れそう。
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